青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

文字の大きさ
39 / 140

第39話 伝えたい事があるの!

しおりを挟む
奇跡的に事故に合わなかったが非常に危険だった。


ベンチに座って大きく息を吸うと自動販売機で飲み物を買った。


そして気持ちを落ち着かせるとミズキを見た。




「ボール捕る時に大きな声出さないでくれよ。」
「ご、ごめんね・・・」
「それでどうしたんだよ?」
「つ、伝えたい事があるの! わ、私とさ・・・そ、その・・・つ、付き合ってくれないかなあって・・・」
「付き合う? だからこうして一緒にランニングしてだなあ。」
「違うの!!」





何処かのアニメキャラじゃないのだから当然祐輝だってわかっていた。


しかしそれでもはぐらかして逃げられるものならと思っていたがそうもいかなそうだ。


ミズキの顔は真っ赤だが目は真剣だった。





「わかったよミズキ。 ありがとうな。」
「え、ええ・・・」
「俺さあ。 どうしても中学生の間にエースと呼ばれる様になってさ。 倒したい化け物がいるんだよ。」
「や、野球の話し?」
「もちろん。 ミズキがそう思ってくれていたのは知ってたよ。 でもさあ。 俺の中学生活は人生で二度とないでしょ? だからどうしても倒したい。 越田って化け物をね。」






可愛らしいミズキよりゴッツイ越田。


祐輝は恋愛より怪童を倒したかった。


恋愛はこの先の人生でもできる。


しかし越田との戦いはこの3年間しかない。


祐輝は恋愛には手を出せなかった。





「で、でも・・・恋愛してても・・・」
「いや。 悪いね。 それはできない・・・」
「どうしてよ・・・」
「歴史が言っている・・・大望を成し遂げるには邪念を断てと。」
「意味わかんないよ・・・」
「ミズキの事を大切に思いながら野球にも集中はできないよ。 どっちかが適当になっちゃう・・・今の俺だと絶対にミズキを適当にしてしまうんだよ・・・」






祐輝は歴史を学ぶ中で気がついていた。


何か大きな事を成し遂げた者ほど。


その目的に向かって純粋に追いかけていた。


金や権力そして快楽に溺れると必ず本来目指している道を見失う。


織田信長の強さは?


坂本龍馬の凄さは?


山本五十六や栗林忠道が何故敵国のアメリカから称賛されたのか?


どの英傑達も異なる時代に生きたが共通する事があった。


邪念に飲まれなかった事だ。


時代の流れに抗って時には打ち勝った。


500年近くの時が経っても我々の暮らすこの日本で英傑とされるのはそれだけの偉業を成し遂げたからだ。


しかし彼らの生きた道がどれだけ苦難の連続で孤独だったか。


現代の日本人はきっとそこまで考えてはいないはずだ。


だが祐輝は違った。


毎日考えていた。


何が人を変えるのか?


怪童になるために佐藤コーチが教えてくれた道標。


野球が好きだから越田は練習をたくさんできた。


だから怪童へと化けた。


とっくに気がついていた。


歴史が大好きだから何処までも詳しく覚えられた。


その思いを野球に向けなくては怪童にはなれない。


だからこそ恋愛なんてできなかった。


ミズキほど可愛い女の子と一緒になれる機会なんてもう二度とないかもしれない。


しかし今はどうしても越田を倒したかった。





「ごめんなミズキ・・・」
「じゃ、じゃあさ。 その越田君を祐輝君が倒したら付き合ってよ・・・」
「考えておくよ。 倒せるかわからないし。 約束はできない。」
「うん・・・それまではこうして仲良くしていてくれる?」
「いいよ。 ランニング相手がいなくなるのは寂しいからね。」
「ふふふ。 グローブ入れるカゴがないと困る?」
「ふふっ。」





祐輝は自動販売機に行くとミズキが好きなコーンスープを買ってきた。


嬉しそうに微笑むミズキを見て祐輝はまた壁にボールを投げ始めた。


怪童を倒すためには甘えてはいられない。


自分の歴史の知識量を誰かと競った時に同級生に負ける気がしないのと同じだ。


越田は野球において中学生に負ける気がしていないはずだ。




「越田・・・」
「祐輝君! 越田君と試合する時教えてよ。」
「わかった。」
「越田君かあ・・・見てみたいなあ・・・」
「ゴリラみたいなやつだよ。」
「えーそっかーふふふ。」




1年生も終盤。


間もなく冬休みだ。


祐輝の成長は続く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...