青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第44話 複雑な家庭環境なんですはい…

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素晴らしい夜を満喫するミズキだが一つ疑問があった。



「ねー祐輝君のパパは?」
「いるけどいない。 上の階で引き籠もってるよ。」
「え・・・」
「ごめんねえミズキちゃん。 うちはちょっと複雑でねえ。」
「い、いえ・・・そ、そのすいませんでした・・・」




少し気まずい空気になったが祐輝は気にする事なくチキンを食べている。


真美が何かフォローしなさいと目で合図しているが特に何も言わない。


千尋も気にせず食べている。


すると。



ガチャッ




「食え。」




ガチャッ




「え、えっと・・・」
「ごめんねえ。 一応あれが祐輝の父です。」
「あ、はは・・・」




突如降りてきた祐一はチキンの山をドサッと机に置くと上の階へと戻っていった。


しかし宴もたけなわでミズキはケーキを食べていたし、祐輝はお腹いっぱい。


その状況でいきなりチキンの山を持ってこられても困るものだ。


何より買ってくるなら一言言うべきだった。


祐一なりのクリスマスプレゼントなのか。


机の上にそびえ立つチキンの山を見て困惑する一同。



「俺もう食えねえよ。」
「もーどうするのよーこんなにたくさん・・・」
「で、でもせっかく頂いたので・・・」
「いいよミズキ。 いつも給食だって食べ切れてないじゃん。」
「で、でも・・・」




まさに最悪の空気。


せっかくのチキンがもったいない。


他に食べたかった人間もいるはずだった。


困った表情でミズキは祐輝を見ている。




「わかった。 公園にいるホームレスにあげに行く。」
「ええ!?」




祐輝には知り合いの様なホームレスがいた。


いつもの壁当てをしている公園にはホームレスがたくさんいた。


祐輝のピッチングを楽しみにしている野球好きなホームレスがいるのだ。




「何か昔は野球やってたとか言ってたな。 俺にはプロになってほしいって。 ラジオで聞いてるから頑張ってくれって言ってくるんだよ。」
「止めなさいよあんた。 ホームレスって知らない人でしょ! 危ないから止めなさい。」
「いやいいよ。 俺1人で行くから。」
「わ、私も行くよ! 家近いし。」




真美は首を振り続けていた。


しかし祐輝は真美の言うことを聞かずに家から出ていった。


そして自転車のカゴにチキンを入れると走り出した。


ミズキを急いで自転車に乗ると祐輝を追いかけた。




「祐輝君優しいねー!」
「どうかな。 正解なのかな。」
「でもお腹空いてるだろうし喜ぶと思うよー!」
「・・・・・・」




祐輝の中で迷いもあった。


応援してくれるから感謝の気持ちではある。


だが自分のお金で買ったわけではない。


祐一が突如持ってきて食べきれないから渡しにいく。


その行動が正解なのか?


中学生の祐輝は考えていた。


公園に着くといつものホームレスが寒そうに凍えている。




「おっちゃん!」
「おーエースピッチャー!」
「まだエースじゃないよ。 それよりチキン食べる?」
「なんだって!? わしにくれるのか!?」
「うん。 食べてくれる?」




ホームレスはチキンを物凄い勢いで食べ始めた。


嬉しそうに食べているが急に下を向いて黙り込んだ。


するとボロボロと泣き始めた。




「うう・・・何処で間違えたんだろうなあ・・・」
「・・・・・・」
「お前さんみたいな子供に飯食わせてもらってよお・・・わしもエースになれたのになあ・・・野球頑張っていたのになあ・・・」
「おっちゃん・・・」
「わしは社会人野球でエースだったんだぞ。 でも一度の怪我と飲酒運転で人生は終わりだ・・・きっと今のお前さんぐらいだろうなあ・・・その子が生きていれば・・・」




ホームレスは一度の怪我で主力から外れ、プロの夢も潰えた。


ヤケクソになった挙げ句飲酒運転をして子供を轢いてしまい10年も刑務所にいた。


人生をやり直すには厳しい経歴だった。


それ以来ホームレスとなり野球少年が良く来るこの公園で未来の芽を見守っていた。


悲しい転落人生。


今では中学生からチキンを貰っている。


祐輝は黙り込んで空を見ていた。



「おっちゃんごめんね・・・」
「いいんだよ。 鶏肉美味かったよ・・・」
「俺頑張るよ。」
「お前さんはここ最近で一番才能がある。 時間だけはあるわしはいつも子供を見てきた。 お前さんのピッチングはもっと化ける。 頑張りなよ。 わしみたいになるんじゃないぞ・・・」



そして祐輝はミズキを家に送ってから1人家に帰った。


自問自答が永遠に続いた。


正しかったのかと・・・
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