上 下
50 / 140

第50話 Bチームの初試合

しおりを挟む
新体制発足から守備練習しか行わずに最初の練習試合が行われた。


相手は同じ新宿のチームで共にキングスに惨敗を続けていた西早稲田ボーイズだ。


さほど強いチームではなかった。


祐輝は先発ピッチャーでマウンドに立った。




「考えてみれば初めての投球だ。 地獄の冬も越えた。 成長したかな。」




振りかぶってゆっくりと足を上げて投げ込んだ。




シュー!!!!!!




「ストライークッ!!」




ボーイズベンチからもどよめきが聞こえる。


祐輝は冬を越えて更に球速が上がっていた。


既に130キロに届きそうだった。


中学生で130キロとは相当早い。


高校生でも130キロ代の球速のピッチャーは大勢いる。


中学生の平均はせいぜい120キロ代だ。


祐輝のストレートはボーイズを驚かせた。


キャッチャーは健太だ。


そして先頭打者を三振に取ると2番打者。


素晴らしいストレートで追い込むとバッターは3球目をなんとかバットに当てた。


内野ゴロになった。


サードを守る1年生の拓哉(たくや)はエラーをした。


祐輝は拓哉に近づいて声をかけた。




「大丈夫だよ。」
「なんか最近ボール捕れる気がしないんです・・・」
「そうなの?」
「はい・・・絶対に強い打球が来るって思うと怖くて・・・」




拓哉に飛んでいった打球は非常に弱い打球だった。


祐輝のストレートの威力が強すぎて相手バッターは遠くへ飛ばせなかった。


しかし拓哉の弱気な表情。


祐輝は拓哉の背中をポンポンと叩くとマウンドに戻った。


そして次のバッターも三振に取ると4番だ。


ボーイズで一番バッティング力のある選手というわけだ。


祐輝はしっかりと投げた。


するとまたしてもバットになんとか当てるとショートゴロとなった。


ショートを守る1年生の大(だい)もエラーをした。


散々守備練習だけを行ってきたのにエラーの連発。


その後も祐輝は三振を取ってベンチに戻った。


鈴木監督は鬼の形相で怒鳴っていた。




「やる気あんのかてめえら!!! 気合いが足らねんだよ!!」




自分の胸を拳で何度も叩きながら選手達に気合いを入れさせる。


しかし1年生の表情は暗く、とても気合いなんて入っていなかった。


結果は惨敗。


同じ新体制のボーイズから1点も取る事ができずに負けた。


ナインズは5点も取られたが全てエラーだった。


祐輝はボーイズ打線をしっかり抑えていた。


激怒する鈴木監督は試合後、守備練習を行った。


選手達は試合の疲れもあり、エラーが連発。


更に激怒した鈴木監督は日が暮れるまでランニングをさせた。


そして練習が終わり、怒りながら帰っていく鈴木監督を見送ると祐輝は深刻な表情をしていた。


拓哉と大やその他の1年生を呼んだ。




「拓哉。 試合中に言ってた事をみんなに話してくれ。」
「なんかさ。 打球が飛んでくるのが怖いんだよね・・・」
「あーわかる。 鈴木監督のノックみたいな打球来たら嫌だなあって・・・」




これはエラー癖という精神的なものだ。


常に捕球困難な打球を打たれてはエラーして怒鳴られる事によってこのエラー癖はついてしまう。


鈴木監督のノックとはその様な過酷な内容だった。


捕れるとは思えないほど強烈な打球を連発して打っていた。


祐輝のピッチャーに対しても何度もライナー性の強い打球を打ち込んで祐輝も捕球できずに体に当たっていた。


それを見ると鈴木監督の口角が上がっていた。


確かに越田の様な強打者は恐ろしいほど強烈な打球が飛んでくる。


佐藤コーチのノックでも何度も飛んできた。


しかし全打球ではなかった。


試合を想定してノックで選手がエラーをするとランナーが1塁に出た事を想定したノックをしていた。


送りバントや犠牲フライといったランナーがいる場合にのみ起きるプレーを佐藤コーチは選手達に想定させた。




「ストレス発散だね。」
「うん・・・監督がバッティングしたいからやってんだ。」
「はあ。 佐藤コーチがいればなあ。 そういえば別のグラウンドで試合しているうちのAチームとボーイズのAチームは10対0でこっちが勝ったらしいよ。」
「そっかあ・・・これからどうなるんだろ・・・」




ナインズBチームには暗雲が漂っていた。
しおりを挟む

処理中です...