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第58話 そして守護者へ
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若い警察官は楽しげに話を始めた。
かつて高校球児だった警察官は懐かしそうに祐輝のグローブをはめると眺めている。
「良いピッチャーだったんだよ。 俺の相棒はね。」
「羨ましいです。」
ついこの間の様に思い出話をする警察官の肌は暗闇で光るライトの反射でも分かるぐらいこんがりと日焼けしていた。
まだ高校球児のあどけなさすらも感じる。
笑顔で話す警察官の話を祐輝は黙って聞いているがよほど楽しい思い出だったのか、警察官は止まらずに話を続けている。
「毎晩の様に部室で騒いでね。 監督に怒鳴られたもんだよ。」
「仲間と野球やるって楽しいですか?」
「最高だよ。 君は違うのかい?」
祐輝は首を静かに縦にうなずかせた。
はっと驚く警察官は心配そうに祐輝を見ているが、何と言葉をかけるべきか悩んで言葉に詰まっている。
警察官の様に楽しく熱い野球人生とは言えなかった。
祐輝の左肩をポンポンと優しく叩くとニコリと笑って警察官は口を開いた。
「野球なんて辞めたくもなるさ。 俺だって何回も挫折しかけたよ。 でもね。 警察官になった今でも思うんだよね。 自分の今があるのはあの大変だけど楽しかった野球人生があったからだってね。」
野球とはただプレーが上手ければいいスポーツではない。
礼儀と感謝の気持ちを徹底的に叩き込まれるスポーツだ。
グラウンドへ一礼して今日もプレーをさせていただきますと礼を尽くしてグラウンドへ入り試合や練習を終えると丁寧に土を整備して使用前の様な綺麗な状態に戻す。
そしてグラウンドを出る時に良いプレーができましたありがとうございましたと感謝の気持ちを込めて一礼してからグラウンドを出る。
常に団体行動を意識して自分一人だけが良ければ満足ではなく、チームの仲間達と目的を達成してこそ喜べるというものだ。
小学生から野球を始めると高校生までにこの辺りの礼儀作法は徹底させられる。
警察官の青年が警察学校で挫折せずに祐輝に職務質問をしているのは野球人なら誰もが経験するこの厳しい指導あっての事だとも言える。
祐輝は警察官の言葉を聞いて悩んでいた気持ちに助け舟を出されたような気分だった。
もう野球なんて辞めてミズキと幸せな中学生活を歩もうか悩んでいた気持ちに警察官は待ったをかけてくれたのだ。
当然、野球を辞めてミズキと青春を堪能するのも人生として間違いではない。
警察官は辞めるなとは言ってはいない。
ただ野球を続けてよかったとだけ言っているのだ。
最終的に決めるのは祐輝だ。
すると警察官の無線が鳴り、少し離れて何かをぶつぶつと話すと敬礼して祐輝にグローブを返した。
「もう行かないと。 頑張ってね! 後悔のないようにね!」
「ありがとうございます。」
そして警察官は自転車を漕いで暗闇の中へ消えていった。
河川敷から駅に向かってトボトボ下を向いて歩く祐輝の頭の中では様々な感情が交差していた。
妄想とも言える未来の自分の姿は2つの人生を思い描いていた。
雑誌やテレビに自分の写真が掲載され、記者から今後のエースとしての生き方を尋ねられている。
もう一つは子供を抱き抱えて楽しげにミズキと会話をしている自分が家でプロ野球を見ている姿だ。
どちらでも幸せな人生に思えた。
祐輝は警察官の言葉が忘れられない。
「はあ・・・」
かつて高校球児だった警察官は懐かしそうに祐輝のグローブをはめると眺めている。
「良いピッチャーだったんだよ。 俺の相棒はね。」
「羨ましいです。」
ついこの間の様に思い出話をする警察官の肌は暗闇で光るライトの反射でも分かるぐらいこんがりと日焼けしていた。
まだ高校球児のあどけなさすらも感じる。
笑顔で話す警察官の話を祐輝は黙って聞いているがよほど楽しい思い出だったのか、警察官は止まらずに話を続けている。
「毎晩の様に部室で騒いでね。 監督に怒鳴られたもんだよ。」
「仲間と野球やるって楽しいですか?」
「最高だよ。 君は違うのかい?」
祐輝は首を静かに縦にうなずかせた。
はっと驚く警察官は心配そうに祐輝を見ているが、何と言葉をかけるべきか悩んで言葉に詰まっている。
警察官の様に楽しく熱い野球人生とは言えなかった。
祐輝の左肩をポンポンと優しく叩くとニコリと笑って警察官は口を開いた。
「野球なんて辞めたくもなるさ。 俺だって何回も挫折しかけたよ。 でもね。 警察官になった今でも思うんだよね。 自分の今があるのはあの大変だけど楽しかった野球人生があったからだってね。」
野球とはただプレーが上手ければいいスポーツではない。
礼儀と感謝の気持ちを徹底的に叩き込まれるスポーツだ。
グラウンドへ一礼して今日もプレーをさせていただきますと礼を尽くしてグラウンドへ入り試合や練習を終えると丁寧に土を整備して使用前の様な綺麗な状態に戻す。
そしてグラウンドを出る時に良いプレーができましたありがとうございましたと感謝の気持ちを込めて一礼してからグラウンドを出る。
常に団体行動を意識して自分一人だけが良ければ満足ではなく、チームの仲間達と目的を達成してこそ喜べるというものだ。
小学生から野球を始めると高校生までにこの辺りの礼儀作法は徹底させられる。
警察官の青年が警察学校で挫折せずに祐輝に職務質問をしているのは野球人なら誰もが経験するこの厳しい指導あっての事だとも言える。
祐輝は警察官の言葉を聞いて悩んでいた気持ちに助け舟を出されたような気分だった。
もう野球なんて辞めてミズキと幸せな中学生活を歩もうか悩んでいた気持ちに警察官は待ったをかけてくれたのだ。
当然、野球を辞めてミズキと青春を堪能するのも人生として間違いではない。
警察官は辞めるなとは言ってはいない。
ただ野球を続けてよかったとだけ言っているのだ。
最終的に決めるのは祐輝だ。
すると警察官の無線が鳴り、少し離れて何かをぶつぶつと話すと敬礼して祐輝にグローブを返した。
「もう行かないと。 頑張ってね! 後悔のないようにね!」
「ありがとうございます。」
そして警察官は自転車を漕いで暗闇の中へ消えていった。
河川敷から駅に向かってトボトボ下を向いて歩く祐輝の頭の中では様々な感情が交差していた。
妄想とも言える未来の自分の姿は2つの人生を思い描いていた。
雑誌やテレビに自分の写真が掲載され、記者から今後のエースとしての生き方を尋ねられている。
もう一つは子供を抱き抱えて楽しげにミズキと会話をしている自分が家でプロ野球を見ている姿だ。
どちらでも幸せな人生に思えた。
祐輝は警察官の言葉が忘れられない。
「はあ・・・」
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