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第68話 夏の終わり
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キングスに敗れたナインズA、Bチームの夏は終わった。
佐藤コーチと雄太が親子で歩んだ野球人生にも終わりが来た。
泣きながらグラウンドを後にする雄太に駆け寄る祐輝は「お疲れ様でした。」と声をかけると肩をポンポンと叩いて「越田に負けんじゃねえぞ。」と返した。
佐藤コーチも目に涙を浮かべてグラウンドから出てくるとナインズの選手全員を集めて最後のミーティングを行った。
「こんな俺に最後までついて来てくれて本当にありがとうな。 お前らに厳しくしていたのはお前らの未来のためだ。 今日までの経験はこれからの野球人生に必ず良い影響を与える。」
いつものドスが効いた低い声ではなく、震えた切ない声だった。
佐藤コーチの愛は時に厳しくもあったが選手達は今日までしっかりと練習してきた。
深々と一礼する佐藤コーチは選手達一人一人と握手をした。
祐輝の手を握って「もっと走ってしっかり飯食え。」と言うとたまらず祐輝も涙が出てきた。
「必ず最高のエースになります。」と返すと佐藤コーチは嬉しそうに微笑み、「みんなで勝つんだぞ。」と言った。
それが祐輝と佐藤コーチの最後の会話だった。
ピッチャーという世界に引き入れてくれた大恩人のために祐輝は最高のエースになるために努力すると誓った。
その日は解散して各々が家に帰っていった。
祐輝はミズキと家に向かって歩いている。
「最高のエースか。」
「あ、あのさ・・・」
「ああっ!! つ、付き合う?」
ミズキは顔を真っ赤にしてモジモジとしている。
約束の夏は終わった。
祐輝は黙り込むと大きく深呼吸して空を見ながら歩いている。
「野球の事ばっかりの俺で本当にいいの?」
「デートもなかなか行けないね。」
「そうだよ。」
「それでもいいよ。 祐輝君の事は小学生の頃から好きだったから・・・」
その日を境に祐輝とミズキは付き合う事になったが、恋人らしい事は特にしなかった。
デートに行く事も初体験をする事もなかった。
今までと変わらず、学校で楽しく話して放課後は壁当てをしてまた話す。
変わった事は手を繋ぐ様になったぐらいだ。
お互いまだ中学生の2人はそれ以上の事は恥ずかしくてできなかった。
ミズキは祐輝の野球を心から応援して、試合の時は学校よりも朝早く起きてグラウンドに駆けつけていた。
手を繋ぐ時とボールを握る右手は絶対に繋がずに祐輝の左手だけを繋いでいた。
それから数ヶ月が経ち、家から出ると白い息が出る季節になると祐輝は自分の最後の夏に向けて過酷な走り込みを行った。
放課後の壁当ては怪我の原因となるため、ランニングで公園まで行くとその後はショートダッシュをして瞬発力を鍛えていた。
40本から50本も走ると座り込んでストレッチを始める。
こんな寒い季節であってもミズキは厚着をして祐輝のトレーニングを見ていた。
「コーンスープ飲む?」
「いいねえ! ふー。 寒いねえ。」
「やべ。 150円しかなかった・・・」
「じゃあ一つだけだねえ。」
祐輝は財布からおこずかいの100円を自動販売機に入れてコーンスープを買うとミズキに渡した。
「祐輝君は飲まないの?」と聞くと祐輝はうなずいてストレッチを続けた。
するとミズキは一口飲むと祐輝に「半分飲んでいいよ。」と渡してきた。
驚いた顔でミズキを見る顔は寒い中で運動をしたとはいえ、随分と赤くなっていた。
「こ、これってあれだ・・・か、間接・・・」
「ふふ。 止めてよ恥ずかしいよお。」
「お、お前が渡して来たから!」
「だって寒いじゃん。 祐輝君も身体を温めないと怪我しちゃうよ。」
ベンチに座る2人はコーンスープを飲んで温まっている。
互いにペッタリとくっついて寒さを和らげている。
『そうだ!』と同時に声を発した2人は顔を見合わせていた。
見合わせたはいいが温まるために近づいた2人の距離はあまりに近く顔が目の前にあった。
赤面する2人は話をする事を忘れて無言で見つめ合っていた。
佐藤コーチと雄太が親子で歩んだ野球人生にも終わりが来た。
泣きながらグラウンドを後にする雄太に駆け寄る祐輝は「お疲れ様でした。」と声をかけると肩をポンポンと叩いて「越田に負けんじゃねえぞ。」と返した。
佐藤コーチも目に涙を浮かべてグラウンドから出てくるとナインズの選手全員を集めて最後のミーティングを行った。
「こんな俺に最後までついて来てくれて本当にありがとうな。 お前らに厳しくしていたのはお前らの未来のためだ。 今日までの経験はこれからの野球人生に必ず良い影響を与える。」
いつものドスが効いた低い声ではなく、震えた切ない声だった。
佐藤コーチの愛は時に厳しくもあったが選手達は今日までしっかりと練習してきた。
深々と一礼する佐藤コーチは選手達一人一人と握手をした。
祐輝の手を握って「もっと走ってしっかり飯食え。」と言うとたまらず祐輝も涙が出てきた。
「必ず最高のエースになります。」と返すと佐藤コーチは嬉しそうに微笑み、「みんなで勝つんだぞ。」と言った。
それが祐輝と佐藤コーチの最後の会話だった。
ピッチャーという世界に引き入れてくれた大恩人のために祐輝は最高のエースになるために努力すると誓った。
その日は解散して各々が家に帰っていった。
祐輝はミズキと家に向かって歩いている。
「最高のエースか。」
「あ、あのさ・・・」
「ああっ!! つ、付き合う?」
ミズキは顔を真っ赤にしてモジモジとしている。
約束の夏は終わった。
祐輝は黙り込むと大きく深呼吸して空を見ながら歩いている。
「野球の事ばっかりの俺で本当にいいの?」
「デートもなかなか行けないね。」
「そうだよ。」
「それでもいいよ。 祐輝君の事は小学生の頃から好きだったから・・・」
その日を境に祐輝とミズキは付き合う事になったが、恋人らしい事は特にしなかった。
デートに行く事も初体験をする事もなかった。
今までと変わらず、学校で楽しく話して放課後は壁当てをしてまた話す。
変わった事は手を繋ぐ様になったぐらいだ。
お互いまだ中学生の2人はそれ以上の事は恥ずかしくてできなかった。
ミズキは祐輝の野球を心から応援して、試合の時は学校よりも朝早く起きてグラウンドに駆けつけていた。
手を繋ぐ時とボールを握る右手は絶対に繋がずに祐輝の左手だけを繋いでいた。
それから数ヶ月が経ち、家から出ると白い息が出る季節になると祐輝は自分の最後の夏に向けて過酷な走り込みを行った。
放課後の壁当ては怪我の原因となるため、ランニングで公園まで行くとその後はショートダッシュをして瞬発力を鍛えていた。
40本から50本も走ると座り込んでストレッチを始める。
こんな寒い季節であってもミズキは厚着をして祐輝のトレーニングを見ていた。
「コーンスープ飲む?」
「いいねえ! ふー。 寒いねえ。」
「やべ。 150円しかなかった・・・」
「じゃあ一つだけだねえ。」
祐輝は財布からおこずかいの100円を自動販売機に入れてコーンスープを買うとミズキに渡した。
「祐輝君は飲まないの?」と聞くと祐輝はうなずいてストレッチを続けた。
するとミズキは一口飲むと祐輝に「半分飲んでいいよ。」と渡してきた。
驚いた顔でミズキを見る顔は寒い中で運動をしたとはいえ、随分と赤くなっていた。
「こ、これってあれだ・・・か、間接・・・」
「ふふ。 止めてよ恥ずかしいよお。」
「お、お前が渡して来たから!」
「だって寒いじゃん。 祐輝君も身体を温めないと怪我しちゃうよ。」
ベンチに座る2人はコーンスープを飲んで温まっている。
互いにペッタリとくっついて寒さを和らげている。
『そうだ!』と同時に声を発した2人は顔を見合わせていた。
見合わせたはいいが温まるために近づいた2人の距離はあまりに近く顔が目の前にあった。
赤面する2人は話をする事を忘れて無言で見つめ合っていた。
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