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第138話 衝撃の出産

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とある日。


祐輝は仕事の出勤が遅く家でゆっくり眠っていた。


毎朝6時には起きているが今日は13時から出勤だ。


心地よくゴミ屋敷と化した部屋の中で眠っていると、リカの悲鳴が聞こえた。


時刻は7時だ。




「うるせえな・・・まだ朝だ・・・」




不機嫌そうにムクッと立ち上がると階段を降りてリカを探していた。


悲鳴が聞こえる部屋の扉を開けてみると、リカがしゃがみこんでいた。


驚いた祐輝は近づくとどうしたのか尋ねた。




「お腹痛いの!!」




その悲鳴にも怒号にも聞こえる声でそう叫ぶとまた叫んでいた。


祐輝は何が起きているのか直ぐに理解した。


子供の出産予定は11月と言っていた。


だが今は10月だ。


リカは定期検診に行かずに勝手に出産予定日を祐輝に話していた。




「お前・・・定期検診の金どこやったんだよ!?」
「うるさい!! もう出ちゃう!!」





リカは叫ぶと下着を脱いでその場にしゃがんでいた。


それから僅か数秒の事だった。


血が吹き出して流れ出る様に子供が出てきた。


子供は泣いているがへその緒が繋がっている。


祐輝は絶句したまま、泣いている子供に毛布をかけた。


我に返った祐輝は直ぐに救急車を呼んだ。


10分後には救急車が到着したが、隊員ですら驚いていた。


直ぐに子供を搬送する準備を始めたが、救急隊はある事を祐輝に問いかけてきた。




「車両にはお母さんかお子さんの1人しか乗れません・・・どっちにしますか? 直ぐにもう1台来ますが。」




この問いに対して祐輝は即答だった。


うなずいた救急隊は子供を抱えて救急車に乗せた。


リカを救急隊に任せて家に置いていくと子供と共に病院へ向かった。


病院へ向かう道中で祐輝は救急隊員に叱られていた。




「どうしてこうなったんや?」
「妻の言っていた出産予定日が嘘でした・・・」
「自分は確認したんか?」
「いや仕事が・・・」




睨みつける隊員は「言い訳すな!!」と声を上げていた。


「後少し遅かったらお子さんが死んどったかもしれんのや!!」と怒りをあらわにする隊員の言葉をただ黙って聞いていた。



彼の怒りは痛いほど理解できた。


本当なら自分だってそうしたかった。


定期検診に付き添って、子供の経過を見ていたかった。


だが、リカは必ず祐輝が仕事の日に行ったと話していた。


祐輝は疑っていたが問い詰めれば「死ぬ」と癇癪(かんしゃく)を起こす。


隊員と目を合わす事もできずに下を向いている祐輝の前で小さな命がこんな状況でも必死に生きようとしていた。


体中に血がついた命は前も見えずに懸命に命の唄を奏でている。


祐輝はたまらず泣いていた。




「生きててよかった・・・」
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