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シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年
第14話 赤き侍の信念
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待てど暮らせど、友奈は霊体にならない。土屋は、理由がわからないまま、戦う仲間の元へ行こうとしている。
全ては、自分の欲求のために友奈を危険に晒した。最初から嫌がっていた彼女に「守る」なんて偉そうなことを言っておいてだ。そんな無様な自分に彼女は「好き」だと伝えた。
「拙者に友奈を妻にする資格なんぞあるものか......この失態は決して許されるものではない......」
土屋は覚悟を決めていた。これより邪悪なる怨霊の軍隊へと討ち入り、自分を愛してくれた女の敵を討つ。例え討ち死にしようと、退くわけにはいかない。
赤鞘から再び刀を抜くと、仲間が戦う死地へと飛び込もうとしていた。その時だ。
肩を触られる感覚を覚え、振り返るとそこには、着物姿の美しい女が立っているではないか。しかし顔はどこか、友奈にも似ている。
「行かないで......みんなも呼び戻して、逃げようよ」
「ゆ、友奈なのか!?」
「え、う、うん? なんか変?」
「そ、その姿は......な、何故着物を着ておるのだ?」
「それね......私もわからないのよ......」
それはあまりに不可解なことであった。怨霊に殺されたはずの、祐輝は消滅したに等しかった。しかし友奈は霊体として、蘇ったのだ。
その上、姿は着物姿となり、かつてより美しさが増していた。着物を着ていることに困惑する土屋は、刀を鞘に戻すと霊馬に友奈を乗せた。
「い、今はこの場を脱するとしよう。 殿を呼びに行くぞ。 拙者にしかと掴まっておれ」
馬上の土屋は、霊馬の腹を蹴ると疾走した。怨霊の軍隊が、土屋に気がつくと長槍を向けた。それをいとも簡単に突破すると、あっという間に厳三郎達の元へ辿り着いた。
「怪我はないか友奈?」
「へ、平気だよ」
「なんじゃその女子おなごは? まさか友奈とは言わんだろうな!?」
「そのまさかでござる殿! もはやこの場に用はござらん! 拙者が先駆けとなって敵を蹴散らしまする」
突撃をする際の一番先頭を走る先駆けを自ら買って出た。背中に友奈を乗せているにも関わらず、霊馬を走らせる土屋は、怨霊からの攻撃をまるで寄せ付けなかった。
鬼神の如き武勇に、怨霊の兵士らも背中を向けて逃げる始末だ。やがて包囲を抜けた赤い侍達は、静かな場所へ移動すると、土屋の背中にしがみついている友奈へ視線が集まった。
「何があったんじゃ? 何故着物を着ておる」
「友奈が背中を射抜かれてしばらくすると、この姿になっておりました......」
「ほう。 珍しいこともあるもんじゃな。 何よりも友奈が無事でよかったわい」
そう話している厳三郎と土屋は、霊馬を休ませると、地面に座り込んだ。配下の侍達と話している友奈を見ながら。
「危うく恩義に報いることができなんだ......」
「そうじゃな」
二人は友奈と出会った日を思い出している。
それは今から何年も前のことだ。皇国武士と呼ばれる狐の神の軍隊が、突如消えてしばらくは、厳三郎達も怨霊とは関わらず、平穏な日々を送っていた。
しかしある日、配下の侍の一人が怨霊に誤って触れたことから、激しい追撃を受けていた。
「と、殿! 拙者が囮おとりになりまする!」
「そんなことは良いから、馬を走らせるのじゃ!」
「随分大変そうだね。 侍さん達」
異様なまでに執着してくる怨霊の追撃は、終りが見えなかった。もはやこれまでと覚悟を決め始めていた彼らの元に、現れたのはまだ中学生ほどの友奈だ。
あどけなさの残る彼女は、淡々と追いかけてくる怨霊の前に立つと、平然と話しを始めたのだ。
「みんなどうしたの? そんなに怒らないでよ」
「だ、騙され......海に沈められた......」
「う、浮気されて......け、結婚式が中止に......」
「みんな可愛そうね。 でも侍を追いかけても、いいことないよ。 大丈夫だからね」
友奈が怨霊に触れると、彼らは決まって涙を流す。そして身の毛もよだつような、冷たい瞳は笑顔に変わり、どこかへ消えていく。
この光景に厳三郎と土屋は、驚愕したが、何よりも彼女に命を救われたのだ。侍達は、その場に両膝をつくと、深々と頭を下げたのだ。
「か、感謝申し上げまする!」
「え、いいよー私は生まれつきこっちの世界が見えちゃうんだよね。 だから可哀想な人をたくさん見てきたよ」
その日を境に、赤き侍達は友奈に付き従った。全ては、一度受けた大恩を返すために。
侍というものは、時に自分の命よりも優先するものがある。それは受けた恩を返すことや、仕える主を守ることだ。侍と名乗るからには、これが当たり前で、名誉なのだ。
自分の命欲しさに恩を仇で返すような真似は、侍とは言えない。厳三郎と土屋は、あの日から若い女に命を預けたのだ。しかし友奈も今となっては、霊体となってしまった。
土屋は、溢れる後悔の念を噛み締めて、次こそは彼女を守ろうと己の刀に誓った。
全ては、自分の欲求のために友奈を危険に晒した。最初から嫌がっていた彼女に「守る」なんて偉そうなことを言っておいてだ。そんな無様な自分に彼女は「好き」だと伝えた。
「拙者に友奈を妻にする資格なんぞあるものか......この失態は決して許されるものではない......」
土屋は覚悟を決めていた。これより邪悪なる怨霊の軍隊へと討ち入り、自分を愛してくれた女の敵を討つ。例え討ち死にしようと、退くわけにはいかない。
赤鞘から再び刀を抜くと、仲間が戦う死地へと飛び込もうとしていた。その時だ。
肩を触られる感覚を覚え、振り返るとそこには、着物姿の美しい女が立っているではないか。しかし顔はどこか、友奈にも似ている。
「行かないで......みんなも呼び戻して、逃げようよ」
「ゆ、友奈なのか!?」
「え、う、うん? なんか変?」
「そ、その姿は......な、何故着物を着ておるのだ?」
「それね......私もわからないのよ......」
それはあまりに不可解なことであった。怨霊に殺されたはずの、祐輝は消滅したに等しかった。しかし友奈は霊体として、蘇ったのだ。
その上、姿は着物姿となり、かつてより美しさが増していた。着物を着ていることに困惑する土屋は、刀を鞘に戻すと霊馬に友奈を乗せた。
「い、今はこの場を脱するとしよう。 殿を呼びに行くぞ。 拙者にしかと掴まっておれ」
馬上の土屋は、霊馬の腹を蹴ると疾走した。怨霊の軍隊が、土屋に気がつくと長槍を向けた。それをいとも簡単に突破すると、あっという間に厳三郎達の元へ辿り着いた。
「怪我はないか友奈?」
「へ、平気だよ」
「なんじゃその女子おなごは? まさか友奈とは言わんだろうな!?」
「そのまさかでござる殿! もはやこの場に用はござらん! 拙者が先駆けとなって敵を蹴散らしまする」
突撃をする際の一番先頭を走る先駆けを自ら買って出た。背中に友奈を乗せているにも関わらず、霊馬を走らせる土屋は、怨霊からの攻撃をまるで寄せ付けなかった。
鬼神の如き武勇に、怨霊の兵士らも背中を向けて逃げる始末だ。やがて包囲を抜けた赤い侍達は、静かな場所へ移動すると、土屋の背中にしがみついている友奈へ視線が集まった。
「何があったんじゃ? 何故着物を着ておる」
「友奈が背中を射抜かれてしばらくすると、この姿になっておりました......」
「ほう。 珍しいこともあるもんじゃな。 何よりも友奈が無事でよかったわい」
そう話している厳三郎と土屋は、霊馬を休ませると、地面に座り込んだ。配下の侍達と話している友奈を見ながら。
「危うく恩義に報いることができなんだ......」
「そうじゃな」
二人は友奈と出会った日を思い出している。
それは今から何年も前のことだ。皇国武士と呼ばれる狐の神の軍隊が、突如消えてしばらくは、厳三郎達も怨霊とは関わらず、平穏な日々を送っていた。
しかしある日、配下の侍の一人が怨霊に誤って触れたことから、激しい追撃を受けていた。
「と、殿! 拙者が囮おとりになりまする!」
「そんなことは良いから、馬を走らせるのじゃ!」
「随分大変そうだね。 侍さん達」
異様なまでに執着してくる怨霊の追撃は、終りが見えなかった。もはやこれまでと覚悟を決め始めていた彼らの元に、現れたのはまだ中学生ほどの友奈だ。
あどけなさの残る彼女は、淡々と追いかけてくる怨霊の前に立つと、平然と話しを始めたのだ。
「みんなどうしたの? そんなに怒らないでよ」
「だ、騙され......海に沈められた......」
「う、浮気されて......け、結婚式が中止に......」
「みんな可愛そうね。 でも侍を追いかけても、いいことないよ。 大丈夫だからね」
友奈が怨霊に触れると、彼らは決まって涙を流す。そして身の毛もよだつような、冷たい瞳は笑顔に変わり、どこかへ消えていく。
この光景に厳三郎と土屋は、驚愕したが、何よりも彼女に命を救われたのだ。侍達は、その場に両膝をつくと、深々と頭を下げたのだ。
「か、感謝申し上げまする!」
「え、いいよー私は生まれつきこっちの世界が見えちゃうんだよね。 だから可哀想な人をたくさん見てきたよ」
その日を境に、赤き侍達は友奈に付き従った。全ては、一度受けた大恩を返すために。
侍というものは、時に自分の命よりも優先するものがある。それは受けた恩を返すことや、仕える主を守ることだ。侍と名乗るからには、これが当たり前で、名誉なのだ。
自分の命欲しさに恩を仇で返すような真似は、侍とは言えない。厳三郎と土屋は、あの日から若い女に命を預けたのだ。しかし友奈も今となっては、霊体となってしまった。
土屋は、溢れる後悔の念を噛み締めて、次こそは彼女を守ろうと己の刀に誓った。
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