天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
13 / 171
シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年

第13話 邪悪な妖

しおりを挟む
 目的達成まで、後少しのところで獲物を逃してしまった怨霊達からは、いつも以上に負の気配が滲み出ていた。意気消沈したまま、逃げた皇国武士とその一団が向かった方角へと進み始めた。
 息苦しいほどの、負の空気が漂う中で、友奈は彼らの異変に気がついた。

「あれ? 軍人?」
「ですな。 怨霊にも兵士がおるのでしょうな」
「でも初めて見たよ?」

 日頃から霊界の街中で、不気味に佇んでいる怨霊。漆黒の鎧兜に身を包んだ者なんて今まで見たことがなかった。
 明らかに日頃とは違う光景に、友奈はさらに気が引けた。彼らに話しかけても、皇国武士を追いかけている理由なんて話してくれるはずがない。

「ねえ怖いよ。 もう放っておこうよ」
「万が一にでも、連中が何かしてきたら拙者共が全て斬り捨てますれば。 ご安心を」

 どうしても謎を解きたい土屋は、友奈の細い背中を押した。恐る恐る近づいていく友奈に気がついた怨霊の兵士が、不気味に佇んで視線を向けている。
 身構える友奈と赤い侍達との間には、重苦しい空気が流れた。やがて友奈が、声を震えさせながら口を開くと怨霊の兵士が近づいてきた。

「生者でありながら、我々が見えるのか?」
「は、はい......あのお。 どうして狐の侍を追いかけているのかなあって」
「命令だからだ。 それ以上は、我々も知らない」
「誰の命令ですか?」

 友奈からの問いに兵士は答えなかった。そして直ぐに立ち去った。顔を見合わせる友奈と土屋達は、兵士が語っていた「命令」という言葉を気にしている。
 その命令は、一体どこの誰が下したのだろうか。消えた狐の軍隊も、その命令が原因でいないのか。謎は解けるどころか、さらに深まった。
 すると黒い馬に乗った指揮官らしき兵士が近づいてくると、強張った表情で馬上から見下ろしている。

「なぜこの世界が見えている?」
「う、生まれつきです......」
「そうか。 生まれつきか」

 指揮官は、何やら深刻な面持ちで隊列へと戻っていった。友奈は、土屋の太い腕を掴むと、声を発した。

「もうこれ以上探るの止めようよ」
「う、ううむ......これ以上は、友奈殿に危険が及ぶかもしれませぬな......無念だが、これ以上深入りするのは止めますか」

 滲み出る悔しさを、押し殺した土屋は、友奈の家へと歩き始めた。
 その時だ。

「え? つ、土屋......」
「は!? な、なんだと!?」
「く、苦しいよ......」

 友奈の背中には、黒い矢が突き刺さっているではないか。目を見開いて、低い声を響かせる土屋は、直ぐに矢が飛んできたであろう怨霊の軍隊の方向を見た。
 するとそこには、弓を手にした悍ましい存在が佇んでいた。人間の倍ほどある大きな体に、鎧兜を身にまとっている。血でも塗ってあるかのような赤い顔に、口からは長い歯が生えている。そして兜の上から突き出ている、角はまさにこの国の神話で語られるそれであった。
 力が抜けて倒れる友奈を抱きしめる土屋は、拳を力強く握りしめていた。

「せ、拙者の責任でござる......連中を詮索したがために......きっと皇国武士もこのように不意打ちにあって......」
「き、決めつけは良くないんでしょ? わ、私も今から霊体になれるから......一緒に探そうよ......」
「そうであったな。 相わかった......苦しいであろう? 拙者がそばにおるぞ。 もう喋らなくて良い......」
「いつも優しいよね土屋......す、好きだよ......」

 友奈は土屋の腕の中で、静かに息絶えた。騒然とする霊界で、響くのは邪悪な存在の笑い声と、土屋の雄叫びだ。
 土屋は、眠るように息を引き取った友奈の体を寝かせると、赤鞘から刀を抜いた。凄まじいほどの剣幕で、睨みつける姿は、まるで赤鬼のようだ。

「お、おのれえ......悪鬼あっきめえ! よくも友奈を! たたっ斬ってくれるわ!」

 怒り狂う土屋が、刀を持って襲いかかろうとしている。しかし悪鬼は、二重音声にも聞こえる不気味な笑い声を響かせたまま、怨霊の軍隊の中へと消えていった。
 すかさず怨霊の軍隊が、槍を構えて近づいてきたではないか。攻撃目標が、逃げた狐の侍から土屋達へと変わった。一歩ずつ近づいてくる邪悪な軍隊は、赤い侍達を、皆殺しにしようとしている。
 その時だ。

「惚れた女子おなごを連れて逃げよ」
「と、殿!」
「わしらに構うでない。 お主は、行け。 友奈を連れて走れ」

 霊馬にまたがって、殺到したのは、厳三郎と仲間達だ。彼らは、怨霊の軍隊へ飛び込むと、劣化の如く斬り進んだ。あまりの激しさに、怨霊達は武器を捨てて逃げ出している。
 しかし霊馬の足を止めず、突き進む厳三郎達は、やがて怨霊の軍隊に飲み込まれるように姿を消した。土屋は、その場で友奈が霊体として浮かび上がってくるのを待っているが、一向に現れなかった。

「な、なんじゃ......拙者がかつて戦場で倒れた時には、直ぐに霊体になったぞ......何をしておる友奈!」

 土屋は叫び続けている。しかし祐輝が霊体になれなかったように、友奈も霊体になることは考えにくいのだ。
 これも今だ解明できない謎の一つだが、そんなことを土屋は知るはずもなく、ただひたすら彼女の名前を呼び続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...