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シーズン1序章 消えた神族と悲劇の少年
第19話 命よりも大事なもの
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朝まで、残り二十五分。徐々に朝日が昇る霊界に轟く、激しい怒号と剣戟の音。第一の人生を終えた者達は、霊界に来ても戦っている。
それは、私利私欲ではなく、自分達が生き残るための戦いだ。意味もなく襲いかかってくる怨霊の軍隊を前に、身を守る他ない。
永遠に続く追撃は、例えるなら、底知れぬ闇を歩き続けているかのような、絶望的な感覚だ。しかしそんな闇に、突如差した希望の光。
「怯むな! 持てる全ての力を振り絞れ! 絶対に諦めるんじゃねえぞ!」
天王と名乗る者からの救出は、まさに一筋の光だ。
もはや、信じて待つことしかできない一同は、最後の力を振り絞った。疲労と恐怖で、視界が狭くなっていく中、度々聞こえてくる虎白の声は、皆を勇気づけた。
「竹子、笹子! 新納の兵を少し下げて銃撃させろ! 土屋と言ったな? お前の騎兵で銃撃が終わる直前に突撃しろ」
気がつけば、冷静沈着に指揮を執りながら、華麗に刀を振るっている。それは、このような状況に慣れているようにも見えた。
虎白の命令に従った一同は、銃撃を繰り返し、刀を振るった。そして銃撃が止む瞬間に、騎兵が突撃をして、怨霊の軍隊へと流れ込んだ。この一連の戦術を繰り返し行った。
「敵も思うように戦えてねえ。 朝まで暴れ続けてやるぞ」
笹子は、感じている。どうして即席の連合軍を、こうも自在に操って戦えるのだろう。大好きな姉上は、一心不乱に戦っているけれど、不思議には思わないのかな。
そう、考えている笹子は、振るっていた刀が止まり、虎白を見ている。
「何やっとる!? 危なかよ! 集中せえ!」
「ごめんね新納! 虎白は、どうしてあんなに冷静なのかなって......」
「そげんことは後で考えればよかよ! この場を脱して甘いお菓子食べるとやろ!?」
新納の声を聞いた笹子は、我に返ったように、刀を振るった。全ては、平穏を手に入れて、新納と甘いお菓子を腹いっぱいになるまで食べるため。
笹子にとって、皇国武士の謎や、怨霊の奇行なんてものは、難しくてわからなかった。ただ、新納とお菓子を食べて暮らせれば十分。小さな体を懸命に動かして、迫る古代ギリシャ兵のような怨霊と戦った。
「ねえ新納! 虎白の戦術は、上手く行ってるね!」
「賢かね! ん!? 遂に動き出すとか......お嬢、ここからが正念場じゃ」
新納の視線の先で、赤い侍達が、いとも簡単に吹き飛んでいる。二重音声にも聞こえる、低い声を轟かせ、人の体ほどある棍棒こんぼうを振り回している。
やがて虎白の戦術は、止められて、反撃が始まった。鬼兵による猛反撃が。
「怖いよお新納......」
「し、心配なか......お嬢は、わしが守る!」
今までの快進撃は、ただの小手調べなんだと言っているかのような、鬼兵による反撃は常軌を逸していた。赤い侍達がまたがる、霊馬の顔を片手で掴むと、軽々と放り投げた。
接近戦で敵わないなら、銃撃ならどうだと、とんがり帽子が一斉に銃撃をしたが、鬼兵の鎧には傷一つ、つかなかった。
「も、もうダメじゃ......」
とんがり帽子達の戦意は消え失せ、今にも逃げ出しそうになっている。
「怯むんじゃねえ! ここで諦めたら、何も残らねえぞ! 希望を持て!」
そんな勇気の出る声が、再び響いた。一同の視線の先では、鬼兵をバサバサと斬り捨てている虎白の姿があった。
彼は銃弾すらも、弾いてしまう鬼兵の頑丈な鎧を、刀で貫いていた。そして、皆に声をかけては、率先して鬼兵を倒して周っている。
「もうすぐ夜明けだ! それまで死ぬな! 全ては、後数分で決まる! それまでお前らの命は俺に預けろって言ったはずだぞ! 俺はまだ倒れてねえ! お前らも倒れるな!」
そんな言葉が、霊界に響き、皆は再び闘志が湧き出た。鬼兵の強さは、常軌を逸している。だが、こちらの鞍馬殿とて異次元の強さではないか。ならば、彼に預けた命、信じて最後まで足掻いてみるか。
赤い侍も、とんがり帽子も、皆が腹の底から咆哮ほうこうを上げた。これが正真正銘、最後の抵抗というわけだ。
「みんな見ろ! 鬼ですら俺達に怯んでいるぞ! 人の強さを思い知らせてやれ!」
戦場の空気は、虎白が支配しているかのようだ。興奮する皆は、存分に刀を振るった。
笹子も負けじと、刀を振るった。その時だ。眼前には、虎白に斬られたのか、肩から腹部付近までの鎧が砕けた鬼兵が立ちはだかった。眼差しは、既に死を覚悟した者のそれで、口から飛び出す牙をギリギリと歯ぎしりさせている。
「ひっ!」
「お嬢今行くど!」
新納は、古代ギリシャ兵のような怨霊と戦っている。彼らが邪魔で、笹子の元へ行けない。
やがて鬼兵は、棍棒を振り上げて、笹子へ勢い良く、振り下ろした。笹子は、目を瞑ることしかできなかった。頭部へ響く衝撃と共に、死んでしまうのだろう。
しかし、笹子の頭部には、衝撃は走らなかった。恐る恐る、目を開けると、そこには新納が立っていた。
「えっ......」
笹子が見た先には、怨霊の兵士が倒れている。新納は、優しく微笑んでいた。
「お、お嬢......し、幸せにな......」
いつも被っていた黒い毛皮が、地面へ落ち、頭部には棍棒が当たっている。それでも新納は、吹き飛ぶことも、倒れるこもなく、その場で立っているのだ。
全ては、愛する笹子を守るために。もう二度と、娘を失わないために。例えそれが永遠の別れになろうとも。
鬼兵が、さらに棍棒を振り上げて、新納を仕留めようとした時だ。虎白が鬼兵を斬り捨てたが、表情は愕然としている。
「ま、間に合わなかったか......」
「新納っ! 嘘だよね! 置いて行かないでよ......嫌だよ虎白助けてあげてよ!」
霊界に響く怒号と、剣戟、そして笹子の号哭が、虚しく皆の耳に残った。
朝まで残り十分。
それは、私利私欲ではなく、自分達が生き残るための戦いだ。意味もなく襲いかかってくる怨霊の軍隊を前に、身を守る他ない。
永遠に続く追撃は、例えるなら、底知れぬ闇を歩き続けているかのような、絶望的な感覚だ。しかしそんな闇に、突如差した希望の光。
「怯むな! 持てる全ての力を振り絞れ! 絶対に諦めるんじゃねえぞ!」
天王と名乗る者からの救出は、まさに一筋の光だ。
もはや、信じて待つことしかできない一同は、最後の力を振り絞った。疲労と恐怖で、視界が狭くなっていく中、度々聞こえてくる虎白の声は、皆を勇気づけた。
「竹子、笹子! 新納の兵を少し下げて銃撃させろ! 土屋と言ったな? お前の騎兵で銃撃が終わる直前に突撃しろ」
気がつけば、冷静沈着に指揮を執りながら、華麗に刀を振るっている。それは、このような状況に慣れているようにも見えた。
虎白の命令に従った一同は、銃撃を繰り返し、刀を振るった。そして銃撃が止む瞬間に、騎兵が突撃をして、怨霊の軍隊へと流れ込んだ。この一連の戦術を繰り返し行った。
「敵も思うように戦えてねえ。 朝まで暴れ続けてやるぞ」
笹子は、感じている。どうして即席の連合軍を、こうも自在に操って戦えるのだろう。大好きな姉上は、一心不乱に戦っているけれど、不思議には思わないのかな。
そう、考えている笹子は、振るっていた刀が止まり、虎白を見ている。
「何やっとる!? 危なかよ! 集中せえ!」
「ごめんね新納! 虎白は、どうしてあんなに冷静なのかなって......」
「そげんことは後で考えればよかよ! この場を脱して甘いお菓子食べるとやろ!?」
新納の声を聞いた笹子は、我に返ったように、刀を振るった。全ては、平穏を手に入れて、新納と甘いお菓子を腹いっぱいになるまで食べるため。
笹子にとって、皇国武士の謎や、怨霊の奇行なんてものは、難しくてわからなかった。ただ、新納とお菓子を食べて暮らせれば十分。小さな体を懸命に動かして、迫る古代ギリシャ兵のような怨霊と戦った。
「ねえ新納! 虎白の戦術は、上手く行ってるね!」
「賢かね! ん!? 遂に動き出すとか......お嬢、ここからが正念場じゃ」
新納の視線の先で、赤い侍達が、いとも簡単に吹き飛んでいる。二重音声にも聞こえる、低い声を轟かせ、人の体ほどある棍棒こんぼうを振り回している。
やがて虎白の戦術は、止められて、反撃が始まった。鬼兵による猛反撃が。
「怖いよお新納......」
「し、心配なか......お嬢は、わしが守る!」
今までの快進撃は、ただの小手調べなんだと言っているかのような、鬼兵による反撃は常軌を逸していた。赤い侍達がまたがる、霊馬の顔を片手で掴むと、軽々と放り投げた。
接近戦で敵わないなら、銃撃ならどうだと、とんがり帽子が一斉に銃撃をしたが、鬼兵の鎧には傷一つ、つかなかった。
「も、もうダメじゃ......」
とんがり帽子達の戦意は消え失せ、今にも逃げ出しそうになっている。
「怯むんじゃねえ! ここで諦めたら、何も残らねえぞ! 希望を持て!」
そんな勇気の出る声が、再び響いた。一同の視線の先では、鬼兵をバサバサと斬り捨てている虎白の姿があった。
彼は銃弾すらも、弾いてしまう鬼兵の頑丈な鎧を、刀で貫いていた。そして、皆に声をかけては、率先して鬼兵を倒して周っている。
「もうすぐ夜明けだ! それまで死ぬな! 全ては、後数分で決まる! それまでお前らの命は俺に預けろって言ったはずだぞ! 俺はまだ倒れてねえ! お前らも倒れるな!」
そんな言葉が、霊界に響き、皆は再び闘志が湧き出た。鬼兵の強さは、常軌を逸している。だが、こちらの鞍馬殿とて異次元の強さではないか。ならば、彼に預けた命、信じて最後まで足掻いてみるか。
赤い侍も、とんがり帽子も、皆が腹の底から咆哮ほうこうを上げた。これが正真正銘、最後の抵抗というわけだ。
「みんな見ろ! 鬼ですら俺達に怯んでいるぞ! 人の強さを思い知らせてやれ!」
戦場の空気は、虎白が支配しているかのようだ。興奮する皆は、存分に刀を振るった。
笹子も負けじと、刀を振るった。その時だ。眼前には、虎白に斬られたのか、肩から腹部付近までの鎧が砕けた鬼兵が立ちはだかった。眼差しは、既に死を覚悟した者のそれで、口から飛び出す牙をギリギリと歯ぎしりさせている。
「ひっ!」
「お嬢今行くど!」
新納は、古代ギリシャ兵のような怨霊と戦っている。彼らが邪魔で、笹子の元へ行けない。
やがて鬼兵は、棍棒を振り上げて、笹子へ勢い良く、振り下ろした。笹子は、目を瞑ることしかできなかった。頭部へ響く衝撃と共に、死んでしまうのだろう。
しかし、笹子の頭部には、衝撃は走らなかった。恐る恐る、目を開けると、そこには新納が立っていた。
「えっ......」
笹子が見た先には、怨霊の兵士が倒れている。新納は、優しく微笑んでいた。
「お、お嬢......し、幸せにな......」
いつも被っていた黒い毛皮が、地面へ落ち、頭部には棍棒が当たっている。それでも新納は、吹き飛ぶことも、倒れるこもなく、その場で立っているのだ。
全ては、愛する笹子を守るために。もう二度と、娘を失わないために。例えそれが永遠の別れになろうとも。
鬼兵が、さらに棍棒を振り上げて、新納を仕留めようとした時だ。虎白が鬼兵を斬り捨てたが、表情は愕然としている。
「ま、間に合わなかったか......」
「新納っ! 嘘だよね! 置いて行かないでよ......嫌だよ虎白助けてあげてよ!」
霊界に響く怒号と、剣戟、そして笹子の号哭が、虚しく皆の耳に残った。
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