天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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シーズン2 犠牲の果ての天上界

第2ー11話 純愛と後悔そして決別

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 腐敗した武家と刺し違え、第一の人生を全うした夜叉子と山賊衆は天上界へ来た。先に逝ってしまった京之介を探すために、天上界のありとあらゆる情報を吸い上げる毎日。

「きっとうちの人ならこの世界でも、弱者を救っているさ」

 夜叉子は、自分の損得を考えずに、人のために働く者の情報を血眼になって探し続けた。時に、そんな情報を手に入れて、足を運んでも人違い。
 だが、夜叉子は諦めなかった。それから数年が経っても、夜叉子は探し続けた。

「近々、大規模な戦争になるらしいですぜお頭」
「なんだいそれ?」
「噂じゃ既に神の軍勢が破られたとか。 そんで、俺達のような山賊衆にも、天上界の山を守る命令が出されたってわけですぜ」

 連日、京之介を探す毎日だった夜叉子の耳に入った大戦争の話し。この戦いを後に世界は「テッド戦役」と呼ぶことになる。
 天上界が焼け野原になれば、京之介を探すどころではない。夜叉子は、縄張りの山々を守ることにした。


 そして来るテッド戦役が訪れた。冥府の王であるハデスと鬼族の首領である酒呑童子が、自ら大軍を率いて現れた。
 多くの神々が倒れ、戦火に巻き込まれる罪なき民や、夜叉子のように駆り出される人間達。
 夜叉子の守る山にも、その魔の手が迫っていた。用意周到に設置した罠にかかっていく冥府の軍勢を自慢の山賊衆で狩っていく。

「妙だね......」
「お頭! 大多数の敵は罠にかかっているんですが、一部の敵だけまるで罠を知っているかのようにすり抜けています」

 その奇妙な部隊は、山頂にいる夜叉子の元まで辿り着いた。やがて激しい乱戦となり、夜叉子も刀を手に取った。

「自分で戦うのは性に合わないね」
「お頭! ぐあっ!」

 子分が斬り裂かれた。夜叉子は咄嗟に斬った者を仕留めようとした。だが、夜叉子の手は止まった。
 敵は容赦なく襲いかかってくるが、夜叉子は受け流すことで精一杯だ。

「きょ、京......」
「よお......久しぶりだな夜叉子......お前まだ山賊なんてやっているのか?」
「ど、どうしてあんたは冥府にいるのさ......」
「俺は殺される時に思ったんだ......人のために体張るんじゃなかったってな。 所詮は偽善だった......俺も私利私欲のために暴れるべきだった」

 眼の前にいるのは、長年探し続けていた京之介だ。しかし彼は、夜叉子の知っている優しい京之介ではなくなっている。
 虚ろな目をして、まぶたにはどす黒いくまがある。話している内容も、かつてのように弱者のために立ち上がる男の言葉とは思えない。

「世界は残酷なんだ夜叉子......知っているか? 後悔して死ぬと、冥府に行くらしいぞ......お前も部下共も天上界にいやがる......俺が死ぬのがそんなに嬉しかったのか!?」

 京之介の拳が、夜叉子の頬に命中した。頬から伝わるのは、激痛よりも、死体のように冷たくなっている愛する者の手の感触だった。
 吹き飛んで倒れ込む夜叉子は、変わり果てた京之介の顔を見つめている。

「そっか......それであんたは......私はね京さん......あんたを愛していたよ。 残酷な世界から救い出してくれたのは、あんただよ京さん......だから今度は、私があんたを救い出してあげる」

 立ち上がった夜叉子は、静かに、まるで京之介の抱きしめるかのように、腹部へ短刀を突き刺した。

「終わらない苦痛からあんたを解放してあげる......聞いているでしょ? 神々の軍は、総反撃を始めた。 ここにも神々の軍勢がもうすぐ来る。 だったらせめて私が殺してあげないと......世界でたった一人愛した人だからね」

 京之介はその場に倒れた。

「や、夜叉子......本当にお前だったのか......」
「え......?」
「冥王ハデスは、世界の残酷さを話してくれた......俺はもうお前に会えないと思い、人間への復讐に走った......目が覚めたよ......孤独という苦痛から解放された......ありがとう。 俺も、愛しているよ夜叉......」

 最後の最後に京之介は、夜叉子の知っている優しい笑顔を見せた。


 それからどれほどの時が経ったのだろうか。夜叉子は、あの日から毎日悩み続けた。京之介を救う方法は他になかったかと。殺さなくても良かったのではないかと。
 三日月を眺める夜叉子は、虎白に向かって自分の後悔の念を語った。

「ふっ。 おかしいね......珍しく酔ったかな。 口が軽くなっているね」
「そうだったのか......お前もあのテッド戦役で。 俺も親友を失ったんだ」

 奇妙な共通点を持つ二人は、互いに見つめ合った。両者の瞳は、月明かりのせいか、儚いほどに輝いている。

「話してくれてありがとうな夜叉子......」
「私がもっと冷静だったら。 私が京さんを連れて逃げれば。 何か変わったのね」

 それは、永遠に絡みつく呪縛となって、今も夜叉子の体と心を犯し続けている。どんな時でも、喪服を着ている夜叉子は、呪縛から解かれるまで喪服を脱ぐことはないだろう。
 虎白は、静かに立ち上がると、夜叉子の背中を静かに撫でた。

「俺の白陸へ来てくれ」
「は? だから......」
「わかっている。 でもお前が誰も信用しないのは、もう後悔したくないからだ。 俺もお前も深い傷を抱えている。 でもな、生きて前に進めば、見えなかった何かが見えるようになる。 お互い支え合って生きようぜ夜叉子」

 夜叉子は、その時になって気がついた。妙に口が軽くなってしまうのも、この虎白の雰囲気や言動が、京之介に似ているからだと。

「ふっ......無理やり似せているだけか......」
「前を見ろ夜叉子。 もうお前は一人じゃない。 俺も、一人じゃねえんだ」
「ねえ」
「ああ」
「身勝手で悪いんだけど、私には妙にあんたが京さんに見えて仕方ないのさ......だからもし、あんたが不愉快に思わないなら......もう一度だけ、最後に、背中を追いかけてもいいかい?」

 静かにうなずいた虎白は、再び岩に座ると、酒を注いだ。優しく微笑み、夜叉子の肩に手を置いた。

「追いかけるんじゃねえ。 一緒に歩むんだよ」

 夜叉子は小さく笑った。


 思い返せばあの日もそうであった。

「た、助けてくれてありがとう京之介......これからついて行ってもいい?」
「ついて行く? 何言っているんだ夜叉子! 肩並べて一緒に歩こうぜ!」

 夜叉子は、白陸へ加わったのだ。次こそ、肩を並べて歩むために。過去の自分と決別するために。
 二人の夜語りは、朝まで続くのだった。
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