天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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シーズン2 犠牲の果ての天上界

第2ー18話 それが背負って生きるということ

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 それは瞬く間に轟いた。

「ツンドラ帝国のジェイコフ将軍が無名の小国にて討ち死に」

 竹子が一瞬で討ち取った将軍は、ツンドラ帝国で有名な将軍だった。過激な愛国心から積極的に敵地へ乗り込む。ジェイコフ将軍が訪れれば、敵国は直ぐに滅びると。
 とにかく人間嫌いなことでも有名で、交渉すらせずに滅ぼすことも珍しくなかった。


 ツンドラ帝国にとっては、宝とも言える将軍というわけだ。その凶報が知らされたのは、竹子が討ち取ってから僅か三時間後。

「な、なんだとお!?」
「ジェイコフ将軍が......僅か一太刀で......」

 ここはツンドラ帝国首都。人呼んで「ノバグラード」だ。
 騒然とする議会で、息を切らして話すのは戦場から辛うじて逃げ帰った兵士。議会の視線は、満身創痍のツンドラ兵に向いている。

「そ、その後......敵の伏兵戦術と罠によって......」

 信じがたい事実だ。議会で文官共が、ザワザワと話している。そんな空間で響いた音に、全員の視線が兵士から音の方へ移った。

「慌てるな」
「へ、陛下!?」

 冷静な表情で玉座から立ち上がった男は、ツンドラ帝国の皇帝にしてメルキータの実の兄。彼の名はノバ。
 将軍討ち死にの凶報に慌てる議会を、音一つで黙らせた現皇帝ノバはメルキータが国を出た根源だ。

「直ぐに大軍を召集しろ。 周辺の属国にも召集をかけて南へ向かわせろ」
「こ、皇女様は?」
「捕獲が不可能だったら殺せ」

 彼の目はまるで氷。発する言葉は、家族へ向けて放つ言葉とは思えない。その冷酷さに恐れる文官共は、感電でもしたかのように背筋を伸ばしている。
 ノバの命令に従う文官共が直ぐに大軍の召集にかかった。

「本当にいいので?」
「当然だ。 舐められたらそれでツンドラは終わりだ。 特に人間にはな」
「そうでしたな。 若様」

 そうノバを呼んだのは、見るからに剛腕と言える大きな身体をした半獣族だ。冷酷なノバもどこか彼にだけは心を許しているようにも見える。

「バイロン」
「ははっ」
「白陸を滅ぼして南の半獣族も支配下に入れるぞ」
「いよいよ南へ進出ですか。 ですが、スタシアの弱小共はいかがしますか? 弱小同士が手を組むこともあり得るかと」
「お前の息子に行かせればいい」

 ノバは話しを終えると、議会の窓を開いた。同時に、吹き込むのは風に乗った息苦しいまでの熱気。
 そして爆音にも聞こえる犬の雄叫び。ノバの氷のような視線の先には、既に広場を埋め尽くすほどのツンドラ兵が集められていた。
 文官が飛び出してから、十分も経っていない。これがツンドラ帝国という北の超大国の国力だ。


 北の超大国でそのような事態になっているとは知らずに、白陸では呑気なまでに夕食を食べ始めている。

「そうかさすが竹子だよな」
「いやあそんなことないよ」

 竹子の手料理を頬張りながら、秦軍の到着を待つ。そんな時に、飛び込んできたのは、秦軍からの伝令兵だ。

「お聞きになりましたか!?」
「何がだ?」
「ツンドラが大軍を召集して、周辺の属国にまでも召集しています!」
「ええっ!?」

 その時、竹子は自分の行動が果たして正しかったのかと考えた。

「当たり前だろ。 何も間違ってねえよ竹子」
「ええ!?」
「攻め込んできたのはツンドラだ。 それを蹴散らしたら激怒するとか、頭おかしいだろ。 そんな馬鹿とは話しても無駄だ」

 料理を流し込むように完食すると、伝令兵と共に城を出ていこうとしている。扉の前で一度立ち止まると、振り返った。表情は既に戦場にいるかのように、瞳孔が開いて凶暴な目をしている。

「みんな準備しろ。 メルキータを呼んでくるよ」

 虎白のいなくなった部屋で、事の重大さを痛感した一同には殺伐とした空気が流れている。竹子は虎白の言葉を聞いてもなお、冷や汗をかいている。
 煙管を吸いながら、天井を眺めている夜叉子は小さく鼻で笑った。

「北側領土の全軍とやり合うのかもね」
「わ、私が将軍を殺してしまったから......」
「じゃあ代わりにあんたが殺されてあげるの?」
「い、いや」
「あんたは当然のことをしたのさ。 私達がやってんのは戦争だよ。 善悪なんてどうだっていいさ。 勝てばいいのよ」

 そう言って夜叉子も虎白の背中を追いかけた。竹子は妹の笹子の顔を見たが、彼女もまた落ち着き払っている。
 目が合うと吹き出しそうにして、綺麗な口を手で抑えた。

「ちょっと!」
「だ、だって姉上、あんなに勇ましかったのに!」
「まさか北の全軍が動き出すなんて思っていなかったの」
「じゃあメルキータ皇女をツンドラに返して謝りますか?」
「そ、それは......」

 次の瞬間には、竹子の手を掴んだ。静かに見つめる妹の視線は、可愛らしさの奥に別のものを感じた。
 今更迷うな。助けを求めるメルキータの姿が、祐輝が死ぬ前に叫んだ時に良く似ていると感じたのでしょう。だから反射的にメルキータを守りたくなってしまった。
 それはきっと虎白も同じで、自分達のために死んでいった者を照らしてしまうのですね。私も同じですよ姉上。だから、生きられなかった彼らのために、しっかりと生きましょう。これから殺す敵とこれから死ぬ味方の分まで。

「さ、笹子......」
「さあ、行きましょう姉上」
「うん。 そうだね......もう決めたもんね」
「さすが姉上! 大好きですよっ!」

 笑顔で飛びついてくる笹子は、あまりに可愛らしい。だが、手を掴んだ時に見せた彼女の瞳は確かにそう言っていた。
 妹を抱きしめると、美人姉妹も部屋から出ていった。目指すは、北のツンドラ帝国。
 既に城の外には秦軍の大軍が迫ってきているのだった。
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