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シーズン3 ツンドラ帝国遠征編
第3−6話 腹の読めない男
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秦軍が属国を取り込んで数日。報復を行うために、ツンドラ帝国軍は大軍を国境へと集結させた。
双方、百万を超える大軍勢が広大な平原で睨み合っている。
そんな緊迫した空気の中で、秦軍の先頭に立っている虎白は、ツンドラ皇女メルキータを隣に立たせた。
「さあてと。 行くかメルキータ皇女」
「え、行くってどこへ?」
「帝都ノバグラードへ行くんだ」
周囲に立っている竹子や嬴政は、また何かしでかすのかと表情を曇らせた。澄ました顔をしている虎白は、メルキータ皇女の肩に手を置いて、鋭い視線を向けた。
「お前が本当に民から愛されているのか確かめるんだ。 俺達が戦って、民は本当はノバのために戦うなんてなると面倒くせえからな」
そう言って、虎白は秦軍の陣地から出ていこうとしている。たまらず竹子が、着物の袖を掴んだ。
「ねえお願いだからもう少し詳しく話してよお......」
「そうだな。 おい嬴政、秦国からさらなる援軍をここへ集めるんだ」
「いきなり追加の部隊なんて集められるわけがないだろうが」
「援軍をここへ集めている。 その情報だけ広まればいい」
嬴政は思った。相変わらず勝手なことばかり言うやつだな。しかしそれでもこいつへ怒りを覚えないのは、昔から結果は良い方へ転ぶからだ。何をしでかすのか、わからないが恐らくツンドラを出し抜く策があるんだな。
静かにうなずいた嬴政は、追加の援軍を派遣するために秦国へ伝令を送った。それは形上の援軍であり、実際にはこの場に秦軍は来ないのだが。
メルキータ皇女を連れて、ツンドラ領内へと潜入した虎白は家臣の莉久のみを連れている。
「おいメルキータ。 お前がここにいることを民に伝えるんだ。 デカい声で、ノバに対する批判の声を上げろ」
目を細める虎白は、メルキータ皇女の細い背中を見ている。もし、民から愛されているのなら、メルキータを見て歓喜するはずだ。そして、皇女の話すことなら素直に聞くはずだと考えた。
「み、皆の者! 私はメルキータ皇女だ!」
その声を聞いて、活気に溢れていた町並みは一瞬にして静まり返った。やがて虎白の不安要素は解消されることになった。
「こ、皇女様ー!」
「心配してましたよ!」
「お疲れでしょう? 食事をどうぞ!」
活気に溢れる町並みで、民はそれぞれの仕事をしている。
しかし、メルキータの声が聞こえると、町の機能が停止した。民が一斉にメルキータの元へと殺到したからだ。
「虎白様。 お次はどのように?」
「待て、ツンドラ兵が騒ぎを沈めに来るはずだ。 彼らの動きを見るぞ」
駆け寄って来るツンドラの民の手を、優しく握るメルキータは笑顔で話している。しばらくの間、歓喜に包まれていると、喧騒と共にツンドラ兵が近づいてきた。
「こ、皇女様!?」
「兵士諸君聞いてくれ! ツンドラは変わらなくてはならない......国の発展のために、民を苦しめる兄上のやり方は間違っている......兵士諸君、お前たちの家族も苦しんでいるのだぞ!」
裏切り者にして、逮捕状まで出ているメルキータ皇女がツンドラ兵の前に立っている。
しかし、彼女を捕まえようとする兵士はいなかった。彼女の言葉を聞いたツンドラ兵は、武器を収めると敬礼をしている。
虎白はその光景を見て動き出した。
「おいメルキータ。 こいつらに秘密を守らせろ。 俺達が来たことをノバに知られないためにな」
「は、はい! この町を管理している将校はいるか?」
「俺です皇女様!」
「いいか、我々がここにいることを絶対に外部へ漏らすな!」
「仰せのままに皇女様」
ツンドラ侵攻への足がかり。それがこの町というわけだ。
しかし虎白はこの時、恐ろしいことを考えて、莉久へと呟いたのだ。
「もしツンドラ軍が情報を漏らせば、ここに援軍が来る。 そうなれば、民は逮捕されるだろうな」
「左様ですな......では、いかがなさるので?」
「次の町でも同じことを繰り返して、ツンドラ軍を分散させる」
莉久は思った。しかしそれでは、ツンドラの民は殺されるのではないか。虎白様は、自分の味方が死なない作戦を考えるお方。敵国の民の命までは、救いきれないというわけか。
お優しいお方だが、時に恐ろしいまでに冷酷なお考えをなさる。
「なんだ莉久? 俺が恐ろしいと?」
「いえ、正しきご判断かと。 されど一つ尋ねてもよろしいか? 虎白様は、ツンドラ軍が情報を漏らさないと信じているのでは?」
「メルキータの器次第だ。 あいつがその程度なら、ツンドラ軍はノバに報告するはずだ。 まあそうなっても俺は知らねえ。 兵力を分散できれば構わねえよ」
ではこのまま、秘密を守り続ければ兵力は分散できないではないか。莉久はそう考えた。
だが虎白は、兵力を分散できない方が都合が良さそうではないか。家臣の莉久でさえ、虎白の考えていることの全ては理解できなかった。
引き続き、メルキータは民や兵士にノバの圧政の実態を語り続けた。虎白は、それを静かに聞きながら、周囲の者達の表情を見ているのだった。
双方、百万を超える大軍勢が広大な平原で睨み合っている。
そんな緊迫した空気の中で、秦軍の先頭に立っている虎白は、ツンドラ皇女メルキータを隣に立たせた。
「さあてと。 行くかメルキータ皇女」
「え、行くってどこへ?」
「帝都ノバグラードへ行くんだ」
周囲に立っている竹子や嬴政は、また何かしでかすのかと表情を曇らせた。澄ました顔をしている虎白は、メルキータ皇女の肩に手を置いて、鋭い視線を向けた。
「お前が本当に民から愛されているのか確かめるんだ。 俺達が戦って、民は本当はノバのために戦うなんてなると面倒くせえからな」
そう言って、虎白は秦軍の陣地から出ていこうとしている。たまらず竹子が、着物の袖を掴んだ。
「ねえお願いだからもう少し詳しく話してよお......」
「そうだな。 おい嬴政、秦国からさらなる援軍をここへ集めるんだ」
「いきなり追加の部隊なんて集められるわけがないだろうが」
「援軍をここへ集めている。 その情報だけ広まればいい」
嬴政は思った。相変わらず勝手なことばかり言うやつだな。しかしそれでもこいつへ怒りを覚えないのは、昔から結果は良い方へ転ぶからだ。何をしでかすのか、わからないが恐らくツンドラを出し抜く策があるんだな。
静かにうなずいた嬴政は、追加の援軍を派遣するために秦国へ伝令を送った。それは形上の援軍であり、実際にはこの場に秦軍は来ないのだが。
メルキータ皇女を連れて、ツンドラ領内へと潜入した虎白は家臣の莉久のみを連れている。
「おいメルキータ。 お前がここにいることを民に伝えるんだ。 デカい声で、ノバに対する批判の声を上げろ」
目を細める虎白は、メルキータ皇女の細い背中を見ている。もし、民から愛されているのなら、メルキータを見て歓喜するはずだ。そして、皇女の話すことなら素直に聞くはずだと考えた。
「み、皆の者! 私はメルキータ皇女だ!」
その声を聞いて、活気に溢れていた町並みは一瞬にして静まり返った。やがて虎白の不安要素は解消されることになった。
「こ、皇女様ー!」
「心配してましたよ!」
「お疲れでしょう? 食事をどうぞ!」
活気に溢れる町並みで、民はそれぞれの仕事をしている。
しかし、メルキータの声が聞こえると、町の機能が停止した。民が一斉にメルキータの元へと殺到したからだ。
「虎白様。 お次はどのように?」
「待て、ツンドラ兵が騒ぎを沈めに来るはずだ。 彼らの動きを見るぞ」
駆け寄って来るツンドラの民の手を、優しく握るメルキータは笑顔で話している。しばらくの間、歓喜に包まれていると、喧騒と共にツンドラ兵が近づいてきた。
「こ、皇女様!?」
「兵士諸君聞いてくれ! ツンドラは変わらなくてはならない......国の発展のために、民を苦しめる兄上のやり方は間違っている......兵士諸君、お前たちの家族も苦しんでいるのだぞ!」
裏切り者にして、逮捕状まで出ているメルキータ皇女がツンドラ兵の前に立っている。
しかし、彼女を捕まえようとする兵士はいなかった。彼女の言葉を聞いたツンドラ兵は、武器を収めると敬礼をしている。
虎白はその光景を見て動き出した。
「おいメルキータ。 こいつらに秘密を守らせろ。 俺達が来たことをノバに知られないためにな」
「は、はい! この町を管理している将校はいるか?」
「俺です皇女様!」
「いいか、我々がここにいることを絶対に外部へ漏らすな!」
「仰せのままに皇女様」
ツンドラ侵攻への足がかり。それがこの町というわけだ。
しかし虎白はこの時、恐ろしいことを考えて、莉久へと呟いたのだ。
「もしツンドラ軍が情報を漏らせば、ここに援軍が来る。 そうなれば、民は逮捕されるだろうな」
「左様ですな......では、いかがなさるので?」
「次の町でも同じことを繰り返して、ツンドラ軍を分散させる」
莉久は思った。しかしそれでは、ツンドラの民は殺されるのではないか。虎白様は、自分の味方が死なない作戦を考えるお方。敵国の民の命までは、救いきれないというわけか。
お優しいお方だが、時に恐ろしいまでに冷酷なお考えをなさる。
「なんだ莉久? 俺が恐ろしいと?」
「いえ、正しきご判断かと。 されど一つ尋ねてもよろしいか? 虎白様は、ツンドラ軍が情報を漏らさないと信じているのでは?」
「メルキータの器次第だ。 あいつがその程度なら、ツンドラ軍はノバに報告するはずだ。 まあそうなっても俺は知らねえ。 兵力を分散できれば構わねえよ」
ではこのまま、秘密を守り続ければ兵力は分散できないではないか。莉久はそう考えた。
だが虎白は、兵力を分散できない方が都合が良さそうではないか。家臣の莉久でさえ、虎白の考えていることの全ては理解できなかった。
引き続き、メルキータは民や兵士にノバの圧政の実態を語り続けた。虎白は、それを静かに聞きながら、周囲の者達の表情を見ているのだった。
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