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シーズン3 ツンドラ帝国遠征編
第3−7話 命の価値は勝利の道
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メルキータ皇女が戻られた。民や兵士は、彼女の姿を見て、声を聞くと歓喜した。彼女が、心底民衆から愛されていることは、証明された。
それを見た虎白は、満足げにツンドラを後にして、秦軍の陣地へと戻った。出迎えた竹子や嬴政は、何をしてきたのだと心配そうに見ている。
「よお嬴政、ツンドラに秦軍の話しは漏れたか?」
「ああ、援軍接近の知らせをあえて敵に聞こえるように騒がせた。 だが援軍なんて来ないぞ」
「よし、ウランヌ女王ちょっと来い」
「は、はい!?」
「お前や他の国の兵士を使って、秦軍の後ろで砂埃を起こせ」
虎白は、ウランヌ女王のくびれた腰に紐を巻き付けた。そして垂れ流されるように伸びている笹の葉が、地面にまでついている。
属国から離反した雪豹の女王は、その時、虎白が何をしたいのか理解した。
「脚力に長けている我ら半獣族の兵士で素早く走り、大軍が迫っているように見せかけるんですね」
「賢いなウランヌ。 そうだ。 そして砂埃を日に日に激しくするために、最初はユーラ軍だけで、一日起きに軍隊を増やせ」
「わかりました。 名案ですね鞍馬様」
そして秦軍の兵士らは、夜間になると松明の量を日に日に増やして、まるで大軍が徐々に到着しているかのように見せかけた。
方やツンドラ国内では、メルキータ皇女が戻ったという知らせが波紋のように広がり、民は暴政からの解放を願い始めたのだ。
侵略軍であったはずの秦軍は、気がつけば解放軍となっていた。
「結局は、捉え方次第なんだ。 上手くやれば、正義の味方で雑にやれば悪者ってだけだ」
虎白は、こうなることを全て知っていたかのように、慌てふためき兵力増強に急ぐツンドラ軍を眺めている。
事態が急速に切迫しているツンドラ帝国では、遂にノバ皇帝の考えに反論して秦国との停戦を口にする者が出始めていた。
「し、しかし陛下! 属国も裏切り、秦軍は日に日に増えているそうです! ここは停戦をして、何か都合の良い条件を......」
「貴様は、国家反逆罪で吊るし首にする」
ノバは焦っていた。考える暇すら与えず、戦闘すらせず、追い込んでくる敵の存在に。
敵国の皇帝は秦国の嬴政だと思っていることが、既にノバの盲点であった。彼は、天上界で行われた秦国の戦闘記録やら嬴政が、秦国を統一した歴史などを読み漁っていたが、どれも現在の秦国の動きとは似ていなかった。
「どう思うバイロン」
「目に見えているのは、紛れもなく秦軍です。 ですが、指揮を執っているのは、始皇帝ではないのかと......優秀な将軍、もしくは別の何者か......」
彼らは知らなかった。この場所に既に到着している秦軍の中で、指揮を執っているのが、ちっぽけな小国である白陸の鞍馬虎白だということを。
考え込むノバは、将軍の討ち死にの凶報が一瞬だけ脳裏に浮かんだ。しかしまさか秦軍まで動かせるとは思っていなかったのだ。
「考えていても謎は解けまい......国境に集まる秦軍に対処するために、スタシア国境で睨み合っている部隊も送れ」
「スタシアはどうなさいます? 秦軍の前線に我が息子も送るのですね?」
「スタシアなんて小さな国は放っておけばいい。 秦軍を撃退した後に、潰してくれる」
ノバは増長している秦軍に対処するために、周辺に存在している全ての部隊を集めた。
日に日に数が増えているツンドラ軍を見た嬴政は、虎白に尋ねた。
「こちらは増えているように見せているだけ。 敵は本当に増えている。 もし攻め込んできたら、太刀打ちできないぞ」
「スタシア国境を睨んでいる部隊までこっちに来たんだろ?」
「ああ、ツンドラの英雄バイロン将軍とか言う男の息子が率いているらしい。 何か作戦はあるんだろうな?」
虎白は笑っていた。地図を見つめている彼の瞳は、恐ろしいまでに瞳孔が開き、自信に満ち溢れていた。
机に置かれる茶を喉を鳴らして飲み干すと、一呼吸置いて立ち上がった。
「なんだ、スタシアのことは舐めてるんだな。 まあだからいい。 俺は今からスタシア軍の精鋭だけを連れてノバグラードに突入する。 お前は、このまま睨み合いを続けてくれ」
「なんだって!? お前まさか!?」
「ああ。 最初から俺は秦軍も死なせる気はねえし、ツンドラ軍の犠牲も最小限にしたかったんだ。 だから一点に集まってくれると助かるんだよ」
少数精鋭だけを率いて、ノバの首を取る。そのためには、彼を守る大軍がどこか別の場所へ集結する必要があった。
虎白はそれを見越して、属国の吸収やメルキータ皇女の生存を見せつけるように行ったのだ。そして前もってメルキータ皇女の生存を知った民は、喜んでノバグラードまでの道を開けてくれるというわけだ。
「これはメルキータの力だ。 あいつが本当に民から愛されていたんだよ」
「こんなことを思いつくのはお前ぐらいだろうな......散々、俺の大軍を用意させたくせに使う気なんてなかったんだな」
「当たり前だ。 借り物を粗末にできねえだろ。 命ある借り物だぜ? 弁償なんてできねえよ」
鞍馬虎白恐るべし。この時、嬴政は彼が無二の親友であることに心底安堵した。万が一に虎白が敵にいれば、知らぬうちに自軍は大損害を受けているのだろうと。
嬴政は微かに冷や汗をかいた。方や澄ました顔で、陣地を出ていく虎白はスタシアのアルデン王に精鋭の準備を行わせた。
それを見た虎白は、満足げにツンドラを後にして、秦軍の陣地へと戻った。出迎えた竹子や嬴政は、何をしてきたのだと心配そうに見ている。
「よお嬴政、ツンドラに秦軍の話しは漏れたか?」
「ああ、援軍接近の知らせをあえて敵に聞こえるように騒がせた。 だが援軍なんて来ないぞ」
「よし、ウランヌ女王ちょっと来い」
「は、はい!?」
「お前や他の国の兵士を使って、秦軍の後ろで砂埃を起こせ」
虎白は、ウランヌ女王のくびれた腰に紐を巻き付けた。そして垂れ流されるように伸びている笹の葉が、地面にまでついている。
属国から離反した雪豹の女王は、その時、虎白が何をしたいのか理解した。
「脚力に長けている我ら半獣族の兵士で素早く走り、大軍が迫っているように見せかけるんですね」
「賢いなウランヌ。 そうだ。 そして砂埃を日に日に激しくするために、最初はユーラ軍だけで、一日起きに軍隊を増やせ」
「わかりました。 名案ですね鞍馬様」
そして秦軍の兵士らは、夜間になると松明の量を日に日に増やして、まるで大軍が徐々に到着しているかのように見せかけた。
方やツンドラ国内では、メルキータ皇女が戻ったという知らせが波紋のように広がり、民は暴政からの解放を願い始めたのだ。
侵略軍であったはずの秦軍は、気がつけば解放軍となっていた。
「結局は、捉え方次第なんだ。 上手くやれば、正義の味方で雑にやれば悪者ってだけだ」
虎白は、こうなることを全て知っていたかのように、慌てふためき兵力増強に急ぐツンドラ軍を眺めている。
事態が急速に切迫しているツンドラ帝国では、遂にノバ皇帝の考えに反論して秦国との停戦を口にする者が出始めていた。
「し、しかし陛下! 属国も裏切り、秦軍は日に日に増えているそうです! ここは停戦をして、何か都合の良い条件を......」
「貴様は、国家反逆罪で吊るし首にする」
ノバは焦っていた。考える暇すら与えず、戦闘すらせず、追い込んでくる敵の存在に。
敵国の皇帝は秦国の嬴政だと思っていることが、既にノバの盲点であった。彼は、天上界で行われた秦国の戦闘記録やら嬴政が、秦国を統一した歴史などを読み漁っていたが、どれも現在の秦国の動きとは似ていなかった。
「どう思うバイロン」
「目に見えているのは、紛れもなく秦軍です。 ですが、指揮を執っているのは、始皇帝ではないのかと......優秀な将軍、もしくは別の何者か......」
彼らは知らなかった。この場所に既に到着している秦軍の中で、指揮を執っているのが、ちっぽけな小国である白陸の鞍馬虎白だということを。
考え込むノバは、将軍の討ち死にの凶報が一瞬だけ脳裏に浮かんだ。しかしまさか秦軍まで動かせるとは思っていなかったのだ。
「考えていても謎は解けまい......国境に集まる秦軍に対処するために、スタシア国境で睨み合っている部隊も送れ」
「スタシアはどうなさいます? 秦軍の前線に我が息子も送るのですね?」
「スタシアなんて小さな国は放っておけばいい。 秦軍を撃退した後に、潰してくれる」
ノバは増長している秦軍に対処するために、周辺に存在している全ての部隊を集めた。
日に日に数が増えているツンドラ軍を見た嬴政は、虎白に尋ねた。
「こちらは増えているように見せているだけ。 敵は本当に増えている。 もし攻め込んできたら、太刀打ちできないぞ」
「スタシア国境を睨んでいる部隊までこっちに来たんだろ?」
「ああ、ツンドラの英雄バイロン将軍とか言う男の息子が率いているらしい。 何か作戦はあるんだろうな?」
虎白は笑っていた。地図を見つめている彼の瞳は、恐ろしいまでに瞳孔が開き、自信に満ち溢れていた。
机に置かれる茶を喉を鳴らして飲み干すと、一呼吸置いて立ち上がった。
「なんだ、スタシアのことは舐めてるんだな。 まあだからいい。 俺は今からスタシア軍の精鋭だけを連れてノバグラードに突入する。 お前は、このまま睨み合いを続けてくれ」
「なんだって!? お前まさか!?」
「ああ。 最初から俺は秦軍も死なせる気はねえし、ツンドラ軍の犠牲も最小限にしたかったんだ。 だから一点に集まってくれると助かるんだよ」
少数精鋭だけを率いて、ノバの首を取る。そのためには、彼を守る大軍がどこか別の場所へ集結する必要があった。
虎白はそれを見越して、属国の吸収やメルキータ皇女の生存を見せつけるように行ったのだ。そして前もってメルキータ皇女の生存を知った民は、喜んでノバグラードまでの道を開けてくれるというわけだ。
「これはメルキータの力だ。 あいつが本当に民から愛されていたんだよ」
「こんなことを思いつくのはお前ぐらいだろうな......散々、俺の大軍を用意させたくせに使う気なんてなかったんだな」
「当たり前だ。 借り物を粗末にできねえだろ。 命ある借り物だぜ? 弁償なんてできねえよ」
鞍馬虎白恐るべし。この時、嬴政は彼が無二の親友であることに心底安堵した。万が一に虎白が敵にいれば、知らぬうちに自軍は大損害を受けているのだろうと。
嬴政は微かに冷や汗をかいた。方や澄ました顔で、陣地を出ていく虎白はスタシアのアルデン王に精鋭の準備を行わせた。
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