天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
50 / 171
シーズン3 ツンドラ帝国遠征編

第3−10話 民衆の大暴動

しおりを挟む
 ノバグラード。かの大帝国の首都にして、ツンドラの最大都市。ここには、数え切れないほどの民衆が暮らし、精鋭ノバガードが何万も配備されていた。
 全ての都市を通過した虎白らは、遂に敵国の心臓部にまで到達したのだった。

「着きましたね虎白殿」
「ノバの宮殿にまで行かねえとな」
「作戦はありますか?」

 アルデン王は心に決めていた。この戦いでは、虎白の作戦に従おうと。彼の戦い方は、奇想天外だ。スタシアにある騎士道精神とはかけ離れているが、彼の戦う理由はスタシアと同じ。
 民が穏やかに暮らせる世の中こそ、真の平和である。

「そうだな作戦か。 あるぞ!」
「本当に多くの作戦を持っていらっしゃいますね虎白殿」

 不敵な笑みを浮かべる虎白は、アルデン王の耳元に口を近づけた。話しを聞き終えたアルデン王は、驚きのあまり目を見開いた。

「ほ、本気ですか?」
「ああ、絶対上手く行くって!」

 アルデン王は思った。もはや虎白殿は、この戦いを楽しんでおられるように見える。ご自身が考える作戦が、見事に成功していく。優越感すら感じているのかもしれない。
 騎士道精神には反するが、敵を欺き、意表を突いて勝利する。この男の恐ろしさはそこにある。しかしこのような戦い方は私にはできない。

「色々考えるところもあるんだろアルデン」
「え!? い、いえ......」
「お前の祖父とも一緒に戦ったんだ。 スタシア王国の騎士道精神に反するんだろ?」
「......反しています。 ですが、承知の上で同盟を結びました。 騎士道精神も大事ですが、何より大事なのは、か弱き民が苦しまない世界です」

 この一点が、アルデン王と虎白を結んだのだ。騎士道を大切にして、敵を欺く行為を恥と思うスタシア王国の伝統は、虎白の戦術とは相容れないものだ。
 しかし恥を忍んでも、貫きたいのは、民が穏やかに暮らせる国家である。アルデン王は、虎白が参戦するよりも前からツンドラと戦っていた。
 圧倒的に兵力で勝るツンドラ軍を前に、騎士道を貫くことは困難であったのだ。

「気にするな。 もしスタシアの民がお前に怒るなら、全ては俺が行った戦術だと直接話してやるから」
「決してそんなことは。 私の国は、私が治めます。 そんなことまで助けていただくわけには」
「いつだったか、お前の祖父も同じようなことを言っていたよ」

 アルデン王の肩をポンポンと叩いた虎白は、ノバ皇帝が身を隠しているであろう宮殿への突入作戦の準備を始めた。


 ノバグラードから少し離れた集落に陣地を作った虎白らは、遂に作戦の準備を整えた。
 緊張した面持ちで、歩いてきたのは、メルキータ皇女だ。

「やはりどうしたって、この戦いで重要なのはお前だ」
「は、はい! 言われた通りに!」
「よしやってやるか!」

 メルキータ皇女は、虎白から作戦を伝えられると、周辺の民を呼び集めた。中には、武装解除したツンドラ兵も大勢いる。
 そしてデモ隊と化したメルキータ一派は、ノバグラードへ進み、帝都で暮らしている民までも吸収して、何万にも膨れ上がっている。
 見かねたノバガードが続々と集まってきて、宮殿への入口を塞いだ。そう、ここまでは虎白の読み通りだ。

「ノバ皇帝の圧政にはもう、うんざりだ!」
「メルキータ皇女様を女帝に即位させろー!」
「お前ら政府のためには、もう働かないぞ!」

 宮殿の前で、大騒ぎするデモ隊は、叫び続け、高々とプラカードを掲げている。ノバガードは、表情こそ変えることはなかったが、命令があればいつでも斬り捨てるといった静かなる殺気を放っている。
 そんな時、ノバガードに届いた知らせは、彼らを苛立たせるものであった。

「おい! このデモ隊は陽動作戦だ! 宮殿の壁を破壊して、敵が入り込んだそうだ!」
「卑怯な作戦ばかりしやがって! おい破壊された壁へ急げ! デモ隊を抑えるのは、僅かな兵士でいい!」

 メルキータ皇女率いるデモ隊は、虎白らが壁を破壊して突入するための囮。それを知ったノバガードは、苛立ちを抑えながら、壁へと大多数の兵士が向かった。
 その時だ。

「今だ! 手薄な敵を斬り捨てて宮殿へ突入しろ! 宮殿内へ入れば、ノバガードは兵力を武器には戦えねえぞ!」

 デモ隊の中から飛び出してきたのは、虎白を含む全ての攻撃隊だ。アルデン王と王立近衛兵、莉久、竹子、笹子、夜叉子もこの場にいる。
 では、壁の破壊とは、何が起きたのか。


 メルキータ皇女に作戦を話している虎白は、壁の破壊の説明をしている。

「いいか。 油、火薬、を集めて燃やす。 ガラス、レンガ、小石などで爆発を凄まじく見せる。 そして砂をかき集めて、爆風に乗せて視界を断つ」
「そして突入ですか?」
「ツンドラ軍を抜けた一般兵達に、突入させて少しだけ騒ぎを起こせ。 ノバガードが気がついたら、直ぐに撤退するんだ。 その時に、道が開いたぞ鞍馬! と、叫ばせろ」

 つまり陽動作戦は、壁の破壊であって、意表を突いてデモ隊がいる正面から突入をしたのだ。
 なぜ、この作戦がこうも上手く行ったのかは、秦軍がツンドラの主力と睨み合っていることにある。
 大軍を集めておいて、戦わず少数の部隊で入ってきた。今回も同じ手口なのだろう。というツンドラ側の先入観があったからだ。今までの虎白なら、デモ隊を使って騒ぎを起こし、壁を破壊して突入してきても不思議ではない。
 だからこそ、あえて正面から突入することに最大の効果があったのだ。

「迅速に突入しろ! 三人一組でノバガードを斬れ! 宮殿内は入り組んでいるから、兵力差は気にしなくて済む」

 デモ隊から抜けて、同行するメルキータ皇女が案内を務める。そして騒いでいたデモ隊は、虎白らが突入すると、我先に帝都から抜け出していったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

処理中です...