天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
49 / 171
シーズン3 ツンドラ帝国遠征編

第3−9話 どうしても負けられない

しおりを挟む
 朝焼けが照らしている。美しいまでの朝焼けの下で、互いの命と名誉をかけて戦うのは、スタシア王立近衛兵とノバガード。
 非常に高度な技術で行われる戦闘の中、双方の近衛兵が戦場に倒れていった。

「アルデン! 何人やられた!?」
「二名ほど......負傷した者は、なおも戦っています!」
「ノバグラードへ入る前に損害が出すぎると不味い!」

 虎白や莉久、竹子といった面々は問題なくノバガードを倒している。しかしスタシア王立近衛兵の中には、ノバガードの異常なまでの闘争心に圧倒されつつある者もいた。
 彼らの異常なまでの闘争心には、生存するという個人的な意思が感じられなかった。ノバのために戦い、死ぬ。それだけを原動力にして動いているかのような、ノバガードは一撃攻撃を当てても、致命傷にならない限り、倒れることはなかった。
 肩に剣がのめり込み、骨がメキメキと音を立てているというのに、眉一つ動かさないノバガードは、歯茎をむき出しにして低い声を出して威嚇している。

「怯むな剣聖の皆よ! ノバの近衛兵、赤き王はここだ! ノバを喜ばせるには、我が首が必要だろう? さあ、かかってくるのだ!」

 アルデン王は捨て身の覚悟で戦っている。
 方や虎白は、先のことを考えていた。こんな化け物みたいな兵士が、ノバグラードには、あとどれほどいる。
 さすがに甘かったか。腐っても代々皇帝をやってきた一族の近衛兵は、生半可じゃねえか。

「私はこの国の未来を思っているんだ! 同胞で殺し合う必要なんてない! どうか私を信じてくれ!」

 そんな時に響いたのは、メルキータ皇女の悲鳴のような声だ。
 彼女は、涙ながらに叫び続けた。ノバガードにも一般兵にも、当然民にも死んでほしくないメルキータの悲痛の叫びは、皮肉なことだが状況を好転するきっかけになった。

「おい兵隊共! お前ら恥ずかしくないのか!? 俺達は皇女様と戦うぞ!」
「そうよ! 畑が荒れた時も政府は何もしてくれなかったけど、皇女様だけは泥だらけになって手伝ってくれたのよ!」

 大好きなメルキータ皇女様が泣いておられる。奮い立ったのは、家に隠れて様子を伺っていた民達だった。
 彼ら彼女らは、農作業をするための鍬くわなどを持って、精鋭ノバガードへ殺到した。

「おい隣町の連中にも知らせに行け! 皇女様が危ないから集まれってな!」

 突然の背後からの強襲は、精鋭ノバガードを持ってしてもどうすることもできなかった。
 背中に飛びかかる民に驚くノバガードは、スタシア王立近衛兵に斬り捨てられていった。
 メルキータの一声で、状況が好転した虎白一向は、ノバガードを撃退して最終目標へと足を進めたのだった。

「皇女様お気をつけてー!」

 泣きながら手を振り返すメルキータを見届けた民衆は、視線を一点に向けた。
 それは、戦うことを拒んだ一般兵部隊の将校にだ。

「お前恥ずかしくないのか!」
「お、俺だって家族が捕らえられているから......」
「だったら家族を救うためにノバグラードへ行けばいいだろう!」

 民衆から石を投げつけられる将校は、どうすることもできない複雑な状況に表情を歪めた。
 方や殺気立つ民衆の声は広がり、虎白らが既に通過した町から鍬くわを持った民兵が続々と集結していた。

「ノバの圧政はもう終わりだー! 皇女様と共にノバグラードを陥落させるぞー!」

 駆けつけた民兵の中には、ツンドラ一般兵も多数混じっていた。
 こうしてツンドラ帝国内では、大規模な反乱が起きたのだ。これを鎮圧しようにも、主力軍は嬴政の秦国と睨み合い、頼みのノバガードは虎白らを迎え撃つことで手一杯となっていた。


 静まり返っている議会で腰掛けているノバ皇帝。
 頬杖をついて、地図だけを見ている彼の瞳は、なおも凍りついている。傍らにはツンドラの英雄、バイロン大将軍が立っている。

「民と予備軍が反乱を起こして、ここへ向かっていると報告が」
「我が精鋭を倒したのは、民や予備軍共ではないはずだ」
「やはり白陸とメルキータ皇女ですかな?」
「どうやら見誤っていた......秦国の強大さにばかり目が行っていたが、白陸という塵ちりのような小国には、危険な者らがいるようだな」

 あの時、竹子という無名の女が将軍を討ち取ったことは偶然ではなかった。逃亡生活をしていたメルキータは秦国へ逃れたのではなかった。
 この戦争の指揮をしているのは、秦国の嬴政ではなかった。そして秦国まで動かし、属国を取り込み、スタシアと同盟を結び、逃げ惑うだけの皇女を民の希望にまで押し上げたのは、全て白陸という吹けば消し飛ぶような小国の皇帝だった。
 鞍馬虎白の仕業だったのだ。ノバは、自分の見通しの甘さを呪い、握りしめている手からは、爪が刺さり血が流れている。

「安心なされ陛下」
「なんだと?」
「陛下はまだ即位して長くありません。 このバイロンは先代から仕えている老将......天上界では見た目は老けませぬが、既に私はいつ死んでも構いませぬ。 陛下を逃がすまで、倒れませぬので、陛下は逃げて我が息子と共にやり直してください」

 ノバは反射的に玉座から立ち上がった。そして反射的に老将の胸ぐらを掴んだ。
 その時、ノバの脳裏には、英雄と称えられた老将との思い出が蘇った。

「僕はツンドラの皇帝になるんだぞ! お前が英雄でも僕にひれ伏すんだ!」
「これこれ......いけませんなあ皇太子殿下......いいですか? お父上は決してそのようなことを言いませぬぞ? 民を愛し、兵士に敬意を払う。 これが正しき皇帝のお姿ですぞ」

 自分の力でやっと歩けるようになった幼きノバは、既に次期皇帝として確立していた。
 そのせいか、自分勝手な振る舞いを幼少期からしていた。見かねたツンドラの英雄は、度々ノバに正しき皇帝の姿を語っていた。
 時には、剣術や体術など皇帝として身を守る術も教えていた。

「はあ......はあ......少しは手を抜けバイロン!」
「体ばかり大きくなって変わりませぬな殿下......戦場で敵兵が手を抜いてくれるのですか? いいえ! 殿下の姿を見れば、手柄と思い血眼になって殺到するでしょう」
「だったら兵隊が守れ! お前が守れ!」
「気合を入れぬか馬鹿者が!」

 皇帝として、軍人として。ノバはバイロンから様々なことを教わった。彼は一歩ずつ次期皇帝として成長していた。
 そんなノバの心を凍りつかせたのは、先代皇帝であるノバの父の急死だ。

「ち、父上ー!」
「い、いいか息子よ......バイロンを頼りにして、メルキータと共に民を愛せ......」
「おい医者! 父上を治せ! 粛清するぞ!」
「やめぬかバカ息子......最期まで父を心配させるな......お前の行く末が心配で............」

 ノバの父は死んだ。民との交流をしていた時に、何者かに狙撃されたのだ。犯人を必死に探したが、見つけることはできなかった。
 そしてその日からノバは、民を信用することができなくなった。
 時は戻り、静まり返る議会でバイロン大将軍の胸ぐらを掴むノバの手は震えていた。

「お、お前が死ねば俺は......孤独だ......」
「皇帝とはそういうもの。 陛下が行っていることは、正しいことです......スタシアや白陸なんて国に邪魔されてはいけません」
「ああ、わかっている。 俺は諦めないぞ......鞍馬が俺を殺せばツンドラを滅ぼせるというのなら、俺が鞍馬を殺して白陸を滅ぼすまでだ」

 その時、バイロンの瞳に映ったノバの姿は、彼が生涯をかけて忠誠を誓った先代の姿に見えていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

処理中です...