天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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シーズン3 ツンドラ帝国遠征編

第3−15話 翻弄された愛と絆

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 竹子の奮闘を知らない虎白は、ノバを追い詰めた。背後からは、戦いを終えた莉久と夜叉子が到着して、ノバは逃げ場を失った。

「もうお前の負けだ」
「ガードはまだいる......」
「そいつらが来る前にお前を倒して、メルキータが女帝に即位して終わりだ」

 そう言いつつも、人質に取られている母をどうするべきか、考えている。強引に動けば、間違いなく母を殺すであろう。
 虎白は、そんなことを考えているが、何よりも気になることがあった。この絶体絶命の状況にして、腕を斬られて出血しているというのに、母は穏やかに微笑んでいるのだ。

「メルキータ......民を愛し、兵士に敬意を......そして大切な仲間を持ちなさい......既にいるようで何よりだけどね」

 母が口を開けば、ノバは殴った。しかし動けば、間違いなく殺される。そんな状況で、気が狂いそうになっているのはメルキータ皇女だ。

「兄上もう止めろ!」
「黙れ! 民衆と遊んでいるだけのお前に何がわかる!」
「知らないよ! 母上を離して! 手当てしないと死んでしまう」

 そう叫んだ。まさに直後のことだ。母は、全身の力を抜いたようにして、地面へ倒れ込んだ。
 ノバの手から離れたのだ。

「アルデン!」

 虎白とアルデンは、その瞬きほどの一瞬の間に母を抱きかかえ、ノバの腹部に刀を突き刺した。

「ぐ、ぐふっ......き、貴様は何もわかっていない......俺を殺せば世界はもっと荒れるぞ......」
「民を苦しめて、属国を脅しているお前がそれを言うか?」
「だ、だから何もわかっていないのだ貴様は......」

 ノバは絶命する前に、血を吐きかけた。純白の顔が赤鬼のように、染まる虎白は刀を抜くと、倒れるノバを見た。
 そして哀れんだ瞳で見つめたまま、刀を鞘へ収めた。

「お前の父親のことはメルキータから聞いたよ......復讐心と疑心に侵され続けたな......お前の民はメルキータと俺が守るからよ」

 この瞬間を持って、ツンドラ帝国は滅亡したのだ。遅れて駆けつけたノバガードは、皇帝の死を目の当たりにして、抜け殻のようにその場へ崩れ落ちた。
 そして生き残ったメルキータだったが。

「母上! ガード早く医者を連れてくるんだ!」
「も、もういいのメルキータ......私も夫の元へ......到達点で夫に叱ってもらうわ......女に手を上げる息子のことを......」
「わ、私だけにしないでください母上! 行かないで!」
「どうか聞いて......」

 力のない母の手が、メルキータの服を引っ張った。耳を近づけると、消えかけた声でもなお、優しく言葉を発した。

「泣かないで......笑ってよ私の愛する娘......」
「う、うう......」
「可愛いわ......メルキータ......最期のお願いよ。 し、し......幸せになって............」

 腕から流れ出た血の量があまりに多かったのだ。直ぐに手当てをすれば、母は愛する娘の未来を見ることができた。
 どれほど無念であろうか。それなのに、母は安堵の笑みを浮かべて、旅立った。
 目指すは、最愛の夫と哀れな息子がいる死者の安息の地。到達点へ。母の亡骸を抱きしめている残された皇女は、喉が破けるほど泣き叫んだ。

「アルデン......」
「もっと早く助けることはできなかったのか......情けない......なんて不甲斐ないんだ」
「お前が統治しろ。 ツンドラ領は今からお前のものだ。 よかったな」

 アルデン王は耳を疑った。今そんなことを言うべきなのか。眼の前でツンドラの皇妃が亡くなったというのに、なんて不謹慎なんだ。
 赤髪から覗かせる瞳は、怒っている。すると、赤き王の胸ぐらを掴んでメルキータから離れた所へ連れて行った。

「なんだ? 敵国の皇妃に同情か?」
「メルキータ殿の母ですよ?」
「ああ、敵の皇女の母だ。 それがどうかしたのか? お前が望んでいたことは、これだぞ? ツンドラの滅亡だ。 まさかお前、戦争を遊びと思ってんじゃねえだろうな?」

 アルデン王は思った。やはりこの男とは、気が合わない。例え敵であっても、死者に敬意を払うのが、スタシアの騎士道だ。殺し終えれば、興味すら湧かないとはなんて冷酷なんだ。
 そう考え、言葉にしようと、下を向いていた顔を上げて前を見た瞬間、激痛と共に吹き飛んだ。

「てめえは王なんだぞ? これで終わったと思っているのか? 本当にメルキータの母への同情があるなら、こんな所で弱音吐いてねえで、国を建て直して葬儀でもしやがれ!」

 虎白からの強烈な拳と言葉は、アルデンにある実感を湧かせた。
 今、この瞬間を持ってツンドラの滅亡、それはスタシア王国が北側領土で最大の国土を手に入れたことになる。
 アルデンはスタシア王どころか、北側領土の王へとなっていくのだ。

「はっ!?」
「気がつくのが遅えんだよ。 俺達は南へ帰る。 だが、この国土を支えるのは、北側領土のお前の仕事だぞ......ツンドラの民をお前が守るんだよ」

 虎白は、それだけ言うとノバガードへ降伏勧告を始めた。そして生き残ったスタシア王立近衛兵に、秦軍への伝令に走らせた。
 ノバ皇帝討ち死に。戦闘終了という知らせを運ぶために。
 
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