55 / 171
シーズン3 ツンドラ帝国遠征編
第3−15話 翻弄された愛と絆
しおりを挟む竹子の奮闘を知らない虎白は、ノバを追い詰めた。背後からは、戦いを終えた莉久と夜叉子が到着して、ノバは逃げ場を失った。
「もうお前の負けだ」
「ガードはまだいる......」
「そいつらが来る前にお前を倒して、メルキータが女帝に即位して終わりだ」
そう言いつつも、人質に取られている母をどうするべきか、考えている。強引に動けば、間違いなく母を殺すであろう。
虎白は、そんなことを考えているが、何よりも気になることがあった。この絶体絶命の状況にして、腕を斬られて出血しているというのに、母は穏やかに微笑んでいるのだ。
「メルキータ......民を愛し、兵士に敬意を......そして大切な仲間を持ちなさい......既にいるようで何よりだけどね」
母が口を開けば、ノバは殴った。しかし動けば、間違いなく殺される。そんな状況で、気が狂いそうになっているのはメルキータ皇女だ。
「兄上もう止めろ!」
「黙れ! 民衆と遊んでいるだけのお前に何がわかる!」
「知らないよ! 母上を離して! 手当てしないと死んでしまう」
そう叫んだ。まさに直後のことだ。母は、全身の力を抜いたようにして、地面へ倒れ込んだ。
ノバの手から離れたのだ。
「アルデン!」
虎白とアルデンは、その瞬きほどの一瞬の間に母を抱きかかえ、ノバの腹部に刀を突き刺した。
「ぐ、ぐふっ......き、貴様は何もわかっていない......俺を殺せば世界はもっと荒れるぞ......」
「民を苦しめて、属国を脅しているお前がそれを言うか?」
「だ、だから何もわかっていないのだ貴様は......」
ノバは絶命する前に、血を吐きかけた。純白の顔が赤鬼のように、染まる虎白は刀を抜くと、倒れるノバを見た。
そして哀れんだ瞳で見つめたまま、刀を鞘へ収めた。
「お前の父親のことはメルキータから聞いたよ......復讐心と疑心に侵され続けたな......お前の民はメルキータと俺が守るからよ」
この瞬間を持って、ツンドラ帝国は滅亡したのだ。遅れて駆けつけたノバガードは、皇帝の死を目の当たりにして、抜け殻のようにその場へ崩れ落ちた。
そして生き残ったメルキータだったが。
「母上! ガード早く医者を連れてくるんだ!」
「も、もういいのメルキータ......私も夫の元へ......到達点で夫に叱ってもらうわ......女に手を上げる息子のことを......」
「わ、私だけにしないでください母上! 行かないで!」
「どうか聞いて......」
力のない母の手が、メルキータの服を引っ張った。耳を近づけると、消えかけた声でもなお、優しく言葉を発した。
「泣かないで......笑ってよ私の愛する娘......」
「う、うう......」
「可愛いわ......メルキータ......最期のお願いよ。 し、し......幸せになって............」
腕から流れ出た血の量があまりに多かったのだ。直ぐに手当てをすれば、母は愛する娘の未来を見ることができた。
どれほど無念であろうか。それなのに、母は安堵の笑みを浮かべて、旅立った。
目指すは、最愛の夫と哀れな息子がいる死者の安息の地。到達点へ。母の亡骸を抱きしめている残された皇女は、喉が破けるほど泣き叫んだ。
「アルデン......」
「もっと早く助けることはできなかったのか......情けない......なんて不甲斐ないんだ」
「お前が統治しろ。 ツンドラ領は今からお前のものだ。 よかったな」
アルデン王は耳を疑った。今そんなことを言うべきなのか。眼の前でツンドラの皇妃が亡くなったというのに、なんて不謹慎なんだ。
赤髪から覗かせる瞳は、怒っている。すると、赤き王の胸ぐらを掴んでメルキータから離れた所へ連れて行った。
「なんだ? 敵国の皇妃に同情か?」
「メルキータ殿の母ですよ?」
「ああ、敵の皇女の母だ。 それがどうかしたのか? お前が望んでいたことは、これだぞ? ツンドラの滅亡だ。 まさかお前、戦争を遊びと思ってんじゃねえだろうな?」
アルデン王は思った。やはりこの男とは、気が合わない。例え敵であっても、死者に敬意を払うのが、スタシアの騎士道だ。殺し終えれば、興味すら湧かないとはなんて冷酷なんだ。
そう考え、言葉にしようと、下を向いていた顔を上げて前を見た瞬間、激痛と共に吹き飛んだ。
「てめえは王なんだぞ? これで終わったと思っているのか? 本当にメルキータの母への同情があるなら、こんな所で弱音吐いてねえで、国を建て直して葬儀でもしやがれ!」
虎白からの強烈な拳と言葉は、アルデンにある実感を湧かせた。
今、この瞬間を持ってツンドラの滅亡、それはスタシア王国が北側領土で最大の国土を手に入れたことになる。
アルデンはスタシア王どころか、北側領土の王へとなっていくのだ。
「はっ!?」
「気がつくのが遅えんだよ。 俺達は南へ帰る。 だが、この国土を支えるのは、北側領土のお前の仕事だぞ......ツンドラの民をお前が守るんだよ」
虎白は、それだけ言うとノバガードへ降伏勧告を始めた。そして生き残ったスタシア王立近衛兵に、秦軍への伝令に走らせた。
ノバ皇帝討ち死に。戦闘終了という知らせを運ぶために。
0
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる