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シーズン3 ツンドラ帝国遠征編
第3−16話 翻弄された愛と絆
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ツンドラ軍が次々に降伏していく。ノバ亡き今、これ以上の戦闘は何の意味もないのだ。
本来ならメルキータ皇女が、民と兵士にこれからの話しをするべきなのだが。
「もう生きていけない......」
抜け殻のようになったメルキータは、母の穏やかな表情を見つめている。冷たくなって動かないが、母の表情には温かみがあった。
メルキータは、母から離れることがどうしてもできなかった。アルデン王は虎白に刺激され、既にツンドラの領土を支配下に置こうと動いている。周囲が慌ただしく動いている中、岩のように固まっているのだ。
「早く動けよ」
「鞍馬殿......私はもうどうしていいか......」
「忘れたのか? 幸せになれって言っていたぞ」
「そんなの無理です......」
落ち着き払った表情をしている。虎白は、冷静な眼差しのまま、メルキータ皇女を立ち上がらせた。そして母の亡骸を丁寧に抱えると、宮殿内へと歩いていった。
「どこへ行くのですか?」
「............」
「ちょっと!」
何も語らない。表情一つ変えることなく、暗い廊下を歩いている。やがて、誰もいない部屋へ入ると、母を丁寧に下ろした。
そして亡骸の手を握って、穏やかな口調で語り始めた。
「どうか到達点までの旅路が穏やかであるように。 あなたが残した娘は、俺が守りましょう。 あの時、ほんの一瞬ですが、俺を見た瞳は嬉しかったです。 優しき母の瞳とは、こうも温かいのだと実感しました......」
虎白はそう語った。母の顔を知らない虎白だが、恐らくメルキータの母のように優しかったのだろう。そうあってほしいと強く思ったのだ。
「いくら泣いてもいい。 だがな、お前は諦めてはならない。 ツンドラのこれからを背負うんだ」
「そこで虎白殿......もしよければ、私達ツンドラをあなたが統治してくれませんか? 民と共に南へ行き、白陸に加えてください」
「それでもお前はツンドラの女帝であれ。 白陸にツンドラを加えることは認めるが、お前が女帝のままというのが、条件だ」
静かにうなずいたメルキータは、こうして白陸へと吸収される形となった。とはいえ、国力を維持したままの吸収であり、メルキータが女帝であることも変わらない。
結果として、白陸は莫大な国力を手に入れたことになる。シクシクと泣きながら、母に別れを告げている女帝をその場に残して、部屋を出ていった。
すると、扉の前に立っていたのはアルデン王ではないか。
「ツンドラは吸収ですか?」
「ああ」
「こうなると分かっていたのですね?」
「まあな」
「あなたは恐ろしいですよ。 最初からツンドラの国力をそのまま、手に入れるつもりだったとは......」
アルデン王は思った。この男は、メルキータ皇女の母が亡くなることを想定していたのか。それとも、想定していなかったが、結果としてメルキータ皇女を抱き込むには、いい材料になったと考えたのか。
それにしても恐ろしい男だ。彼は何が目的で、国力を高めようとしているのか。
「知りたいかアルデン」
「ええ!?」
「第六感という力は、相手の気持ちを察する力なんでな。 細部までは読めないが、ある程度はわかる。 俺が何をしたいのかだろ?」
「え、ええ......」
その時、虎白は遠くの景色を見つめているような視線を向けた。視点こそ、アルデン王を見ているが、彼にはもっと遠くの何かが見えているようだ。
小さくため息をつくと、瞳にアルデン王を捉えた。
「この先、冥府軍が攻め込んでくる。 同じ天上界の者同士で殺し合いなんてしてる意味はない。 そのためには、ツンドラの国力と、ツンドラを倒したという名声が必要だったんでな」
「その名声で、白陸を発展させて国力をさらに高めると?」
「ああ。 全ては戦争のない天上界を創るためだ」
この時、アルデン王が抱いていた疑問が氷のように溶けていった。秦軍という強力な戦力を持ちながらも、決戦を避けた。
かといってツンドラの民や兵士を、大勢殺すような作戦もせず、あえて危険な少数精鋭での作戦を選んだ。
賢い虎白なら、秦軍八十万だけでもツンドラ軍を粉砕する戦術があったのではないか。
全ては、犠牲を減らして冥府軍との決戦に備えるためであったのだ。
「いいかアルデン......これから大勢死ぬんだ......冥府とは話し合いなんてできないんだよ。 国を守るためには、強くなるしかないんだ」
「そこまで考えていたとは......」
「さっきは殴って悪かったな。 お前にも、先の未来を見てほしくてな」
これが虎白がメルキータ皇女を支援した本当の理由だった。微かに笑みを浮かべると、アルデンの肩に手を置いてうなずいた。
そして立ち去っていった。アルデン王は、北側領土を治めるにあたって最大の問題になるのが、ツンドラの民との和解だと思っていた。
だが、虎白が問題ごと南へ連れて行ってくれたのだ。
「完敗ですよ虎白殿......大変お世話になりました。 北側領土は任せてください」
戦いは終わり、気を失っている竹子を抱きかかえて、南へ帰るのだった。
本来ならメルキータ皇女が、民と兵士にこれからの話しをするべきなのだが。
「もう生きていけない......」
抜け殻のようになったメルキータは、母の穏やかな表情を見つめている。冷たくなって動かないが、母の表情には温かみがあった。
メルキータは、母から離れることがどうしてもできなかった。アルデン王は虎白に刺激され、既にツンドラの領土を支配下に置こうと動いている。周囲が慌ただしく動いている中、岩のように固まっているのだ。
「早く動けよ」
「鞍馬殿......私はもうどうしていいか......」
「忘れたのか? 幸せになれって言っていたぞ」
「そんなの無理です......」
落ち着き払った表情をしている。虎白は、冷静な眼差しのまま、メルキータ皇女を立ち上がらせた。そして母の亡骸を丁寧に抱えると、宮殿内へと歩いていった。
「どこへ行くのですか?」
「............」
「ちょっと!」
何も語らない。表情一つ変えることなく、暗い廊下を歩いている。やがて、誰もいない部屋へ入ると、母を丁寧に下ろした。
そして亡骸の手を握って、穏やかな口調で語り始めた。
「どうか到達点までの旅路が穏やかであるように。 あなたが残した娘は、俺が守りましょう。 あの時、ほんの一瞬ですが、俺を見た瞳は嬉しかったです。 優しき母の瞳とは、こうも温かいのだと実感しました......」
虎白はそう語った。母の顔を知らない虎白だが、恐らくメルキータの母のように優しかったのだろう。そうあってほしいと強く思ったのだ。
「いくら泣いてもいい。 だがな、お前は諦めてはならない。 ツンドラのこれからを背負うんだ」
「そこで虎白殿......もしよければ、私達ツンドラをあなたが統治してくれませんか? 民と共に南へ行き、白陸に加えてください」
「それでもお前はツンドラの女帝であれ。 白陸にツンドラを加えることは認めるが、お前が女帝のままというのが、条件だ」
静かにうなずいたメルキータは、こうして白陸へと吸収される形となった。とはいえ、国力を維持したままの吸収であり、メルキータが女帝であることも変わらない。
結果として、白陸は莫大な国力を手に入れたことになる。シクシクと泣きながら、母に別れを告げている女帝をその場に残して、部屋を出ていった。
すると、扉の前に立っていたのはアルデン王ではないか。
「ツンドラは吸収ですか?」
「ああ」
「こうなると分かっていたのですね?」
「まあな」
「あなたは恐ろしいですよ。 最初からツンドラの国力をそのまま、手に入れるつもりだったとは......」
アルデン王は思った。この男は、メルキータ皇女の母が亡くなることを想定していたのか。それとも、想定していなかったが、結果としてメルキータ皇女を抱き込むには、いい材料になったと考えたのか。
それにしても恐ろしい男だ。彼は何が目的で、国力を高めようとしているのか。
「知りたいかアルデン」
「ええ!?」
「第六感という力は、相手の気持ちを察する力なんでな。 細部までは読めないが、ある程度はわかる。 俺が何をしたいのかだろ?」
「え、ええ......」
その時、虎白は遠くの景色を見つめているような視線を向けた。視点こそ、アルデン王を見ているが、彼にはもっと遠くの何かが見えているようだ。
小さくため息をつくと、瞳にアルデン王を捉えた。
「この先、冥府軍が攻め込んでくる。 同じ天上界の者同士で殺し合いなんてしてる意味はない。 そのためには、ツンドラの国力と、ツンドラを倒したという名声が必要だったんでな」
「その名声で、白陸を発展させて国力をさらに高めると?」
「ああ。 全ては戦争のない天上界を創るためだ」
この時、アルデン王が抱いていた疑問が氷のように溶けていった。秦軍という強力な戦力を持ちながらも、決戦を避けた。
かといってツンドラの民や兵士を、大勢殺すような作戦もせず、あえて危険な少数精鋭での作戦を選んだ。
賢い虎白なら、秦軍八十万だけでもツンドラ軍を粉砕する戦術があったのではないか。
全ては、犠牲を減らして冥府軍との決戦に備えるためであったのだ。
「いいかアルデン......これから大勢死ぬんだ......冥府とは話し合いなんてできないんだよ。 国を守るためには、強くなるしかないんだ」
「そこまで考えていたとは......」
「さっきは殴って悪かったな。 お前にも、先の未来を見てほしくてな」
これが虎白がメルキータ皇女を支援した本当の理由だった。微かに笑みを浮かべると、アルデンの肩に手を置いてうなずいた。
そして立ち去っていった。アルデン王は、北側領土を治めるにあたって最大の問題になるのが、ツンドラの民との和解だと思っていた。
だが、虎白が問題ごと南へ連れて行ってくれたのだ。
「完敗ですよ虎白殿......大変お世話になりました。 北側領土は任せてください」
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