天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

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第7−1話 二つの超大国の闇

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 時は流れても空は変わらない。


百年前であろうが、百年後であろうが空は青く美しいだろう。


 時は記憶を刻み、空は過程を全て見ている。


青く美しい空の下で聞こえてくる激しい馬蹄ばていの音と、視界に入るはおびただしい数の騎兵。


 一つの戦いが終わったが、休む暇すらなく人間は戦う。


その理由はなんなのだろうか。


 地位や名声か。


はたまた権力や欲求か。


親子の絆や、育まれつつある愛のためか。


 誰もが自身や仲間を信じて戦っているのだろう。


そこにもはや正義や動機などは関係ないのかもしれない。



「ルーシー大公国万歳ー!!!!」



 激しい馬蹄と共に迫る騎兵らは、そう叫びながら味方であるはずのティーノム帝国兵を蹴散らしている。


やがて眼前に現れた狐の神族の武士らを確認しても、馬足は緩むどころか速度を上げているのだ。


 まるで視界に入る全てが敵と認識しているかの様な、好戦的なルーシー大公国軍は一直線に平原を駆け進んだ。


平原であるはずの緑々しい大地は、ルーシー大公国軍の黄色い旗に埋め尽くされている。



「白斗逃げるぞ!!!!」
「で、ですが父上もう間に合いません!!」
「俺の背中に乗れ」



 そう叫ぶ親子は鞍馬虎白という南側領土の傑物と、彼の義理の息子の白斗だ。


突如として現れたルーシー大公国を前に虎白らはスタシア王国の王都へ退却しようとしている。


 姿を自在に変える事のできる虎白ら狐の神族は、ヒューマノイドの様な姿から一瞬にして四足歩行の狐へと変化すると、白斗を背中に乗せて一目散に走った。


背後から迫る馬蹄を聞いている若き白斗は、父の背中で悔しさを滲ませていた。


「ティーノム帝国を滅ぼせたのに!!!!」
「馬鹿言うな。 一度の戦闘に勝利しただけだ。 今は戻ってアルデンと反撃に出るしかないぞ」



 第七感を余すことなく使用して王都を目指す神族らは、ルーシーの騎兵をあっという間に置き去りにした。


ルーシー軍は発見した集落の全てに火をかけて回った。


 万が一にもスタシアの民が残っていたらどうするつもりなのかと、虎白は眉間にしわを寄せて王都へと帰還を果たした。


 王都には避難してきた領土中から集まった民が、絶望感をあらわにしている。


虎白らはそんな彼らの中を進んだ。


 すると一人の民が、怒りを全面にさらけ出して白斗に向かって酒瓶を投げつけたではないか。


「ティーノム帝国のクズが!!!!」
「白斗それを脱げ」
「あ、ああ、こんなに恨まれているなんて・・・」



 平穏に暮らしていたスタシアの民に、突如訪れた災難。


家を焼かれ、暮らしていた土地を奪われた怒りは凄まじく、ティーノム帝国軍の制服を着たままであった白斗に民らの怒りは集中した。


 一人が酒瓶を投げつけると、次々に物が吹き飛んでくるほどの勢いで飛来した。


虎白の背中でうずくまっている白斗は、想像を越える敵地の民の感情に絶句していた。


 すると虎白は再びヒューマノイドの外見に姿を変えると、飛来する物という物をその体に当てている。


 英雄鞍馬虎白に物を当てたスタシアの民は、言葉を失った。


「こいつは俺の義理の息子だ。 ティーノム帝国を倒すために潜入させていたんだ。 おかげで敵は撤退しただろう」



 かの貴族の軍隊が撤退したのは、虎白の異次元の強さと圧倒的な威圧感を前に恐れをなしたのだ。


 しかしこの場を収めるために、放った嘘は義理の息子を守るためであった。


この嘘で傷つく者は誰一人としていないというわけだ。


 父に守られた若き息子は、呆気にとられながらも虎白の機転に合わせている。


「お、俺は鞍馬白斗である。 皆の苦しみよくわかった。 必ず敵を撃退するので待っていてくれ」


 そう言葉をかけた白斗は高まる心拍数を、必死に抑えた。


安堵の表情を浮かべる民の顔を見て、ぎこちなく微笑んだ若き青年はアルデン王が待つ城へと父と共に向かった。


 やがて城門を越えると、主の帰りを心待ちにしていた莉久と五百の武士が出迎えた。



「虎白様!!」
「おお、莉久。 メアリーと良く戦ったな」
「え、ええまあ。 虎白様、そちらは?」



 見慣れぬ白斗の顔を、注意深く見ている莉久は警戒した様子だ。


 姿勢を正して、礼儀正しく一礼した白斗は自身の名と、虎白との関係を話した。


すると驚きを隠せない莉久は、お決まりの奇声を上げている。


「ふぁ!?」
「お前それなんなんだよ」
「あ、い、いえ息子って竹子との息子ですか!?」



 言葉足らずであった白斗は、義理の息子である事を伝え忘れていた。


明らかに人間の姿をしている白斗を見た莉久は竹子との子供かと勘違いして、奇声を上げていたのだ。


 慌てた白斗が直ぐに訂正して義理の息子である事を伝えると莉久も安堵したのか、何度かうなずいた。


 未曾有の危機をなんとか脱した虎白は莉久との再会を喜んで、肩を組んでいる。


すると慌てた様子の莉久が再び奇声を上げたが、それもいつもの事だと笑いながらアルデン王の城の中へと入っていった。


 城内へと入ると、虎白らの奮戦によって撤退したティーノム主力軍の一報を聞いた方面軍から解放された四聖剣の二人であるシンクとフリーラ将軍が、戦場で見たことをアルデン王に話していた。



「連中は半獣族を持っていたんですって!!」
「こちらには鳥人族が飛来してきたんです我が王よ」



 アルデン王が信頼する四本の聖剣のうち二本が、あっけなく敗北した衝撃は赤き王を困惑させた。


だがこうして王都で再会してみると、さらに困惑する内容をシンクとフリーラは話していたのだ。


 貴族国家にして人間の国であるティーノム帝国軍から投入された半獣族や鳥人の部隊。


本来ならいるはずのない部隊を前に、想定外となったシンクとフリーラは大敗したというわけだ。


 張り詰めた室内で腕を組んでいる虎白が息子の顔を見ると、青ざめた表情をしてうつむいていた。


「ち、父上。 それはきっと従属軍じゅうぞくです」
「傘下の組織って事か?」
「い、いえ・・・行く宛のない半獣族らがここ数年で増えて、ティーノム帝国へ移民として流れてきたんです。 市民権を得るために数年間は兵士か、重労働をしなくてはならないんです」


 それはティーノム帝国の闇とも言える事であった。


高貴な貴族らが優雅に振る舞い、観光名所も多数ある魅力的な国として知られるティーノム帝国は、天上界中から旅人が訪れるほどだ。


 貴族の女は色白の肌にまとう、鮮やかなドレスが美しく、観光客はそれを一目見るために来るとも言われている。


 そんな魅力的な大国の裏では、難民や身分の低い民が踏みにじられていたのだ。


「どうしてここ数年で半獣族が増えたんだ?」
「わかりません。 ただルーシー大公国との同盟が結ばれたのも、ここ数年ですので恐らくは」
「ルーシーが何かしたって事か」



 これは大きな戦いになるなと、赤き王と神族は顔を見合わせている。


そして今後に待ち受ける未曾有の危機を思うと、表情が一気に曇った。


 だが今はとにかく再会できた事に安堵するのだった。
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