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シーズン
第8ー19話 愛する者よどうか泣かないで
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それはいつの日だろうか。
白陸で行われた祭りの日の事だ。
木造りの長椅子に腰掛けて、花火を見上げている虎白の隣には竹子が座ってりんご飴を舐めている。
滑らかに動いている舌で何度も舐め上げる飴が、溶けては小さな口の中に甘味となって広がっていく。
満足気に笑みを浮かべている竹子の隣で、たこ焼きを冷ましながら夜空を彩る花火を眺めている虎白の表情はどこか儚くも見えた。
「どうしたの? たこ焼きもう冷めたんじゃない?」
早く一口もらいたい竹子は、虎白から口に入れてもらえるのを期待している。
しかし浮かない表情で空を見る虎白はどうしたのだろうか。
いよいよ何か思い詰めているのかと、心配した竹子が肩を何度か叩いた。
「ああ、悪い悪い・・・いい夜だな。 俺達は、後どれだけこんな素敵な夜をすごせるのかな」
そう小さく言葉を発した虎白の鋭い瞳には、花火が反射している。
やがて線香花火の様に儚く瞳から輝くものが流れ出ると、ぎこちない笑顔を竹子に見せた。
周囲では甲斐や夜叉子ですら楽しげに祭りを楽しんでいるというのに、虎白は静かに泣いていたのだ。
心配する竹子が腰を浮かして、距離を近づけると体を密着させて背中をさすった。
「世界には死ぬ必要がある者が存在しているのかな・・・大衆は無知が故に操られて、一人のために死んでいく・・・」
それはまるで未来に起きるティーノム帝国とルーシー大公国との戦争を予感していたかの様な言動だった。
当時はまだその様な戦いが始まっていないというのに、虎白は未来に死んでいく大勢の命を考えると悲しみに暮れていたのだ。
竹子はしばらく言葉を返す事なく、静かに背中をさすり続けた。
浴衣からでもわかる細くて綺麗な太ももに手を置いた虎白は、涙を拭うと再びぎこちない笑顔を見せた。
「俺はこの真っ暗な闇から人間を救いたい・・・無知な人間ばかり死んでいくこの世界は間違っているんだ・・・」
事実を知らされず、偽りの真実だけを教え込まれて死んでいく。
まさにルーシーの戦闘民族がそうだ。
平原で大空を見上げる竹子は、祭りの夜を思い出していた。
連合軍の前に迫ってくるルーシー軍は、偽りの正義の被害者達。
馬上で空を見上げる竹子から放たれる攻撃命令を、今かと待っている何万もの将兵の視線が向く中で下唇を噛んで涙を堪えている。
「だからって虎白ばかり苦しむ必要ないよ。 半獣族が捕らえられていた事だって虎白の責任じゃない・・・」
世界の真実を知らずに弱者にばかり死んでほしくない。
それが虎白の本心ではあったが、襲いかかってくるルーシー軍を撃退するためには強力な武力を持って壊滅させる他ない。
馬上から左を見ると、アレクサンドロス大王とマケドニア軍が走り始めた。
右を見ると白陸軍とスタシア軍が攻撃の機会を伺っている。
「心を鬼にしている虎白の苦痛は私が一番よくわかっているよ・・・だから私だってそのためなら鬼にでも魔女にでもなるよ。 全軍、マケドニアを避けて我らに迫る敵を粉砕してください」
竹子の一声で白陸軍は、盾兵を中心にルーシー軍を迎え撃った。
やがて盾に激突する狂戦士達をスタシアの騎士達が、討ち取っていった。
この決戦は開戦前から勝敗は決していたに等しい。
虎白と皇国武士が時間すらも味方につけて、奇襲をしたのだ。
竹子の眼前で血眼になって迫るルーシー軍には既に退路はない。
前に進む他ないルーシー軍を、鉄壁の守りで受け止めてスタシアの聖剣が討ち破れば事は済むというわけだ。
次々に倒れていくルーシー軍を見ている竹子は、ある事に気がついた。
「後方にいるティーノム帝国軍が、虎白達を避けて逃げていく・・・見捨てられてしまったのね。 ルーシー軍は最後まで偽りの正義を信じて戦うなんて・・・」
虎白の奇襲と平原に待ち構える連合軍の勢いを見たティーノム帝国軍は、戦いもせずに退却を始めたのだった。
取り残されたルーシー軍は、一時間も経たずに壊滅した。
生存した負傷兵達は、連合軍の捕虜となり手当てを受けた。
戦闘が終わった戦場で、竹子は虎白と再会した。
周囲にはルーシー軍だけではなく、彼らの決死の抵抗によって命を落とした連合軍の将兵の姿も多く見られた。
「竹子・・・」
「虎白の責任じゃない。 さあフキエグラードを制圧しよ」
「俺のやってる事は正しいのかな・・・いや、せめてお前だけは正しいと言ってくれ!! じゃないと俺・・・」
竹子は静かに虎白を抱きしめた。
しかし正しいとは言わなかった。
正しいのかはわからなかったのだ。
竹子の中で一つだけ確定しているは、どんな結果であろうと虎白と共に歩むという事だ。
この戦いでルーシー軍は最後の主力部隊を失い、残りは首都フキエグラードの部隊だけだ。
マケドニアと秦国は、ティーノム帝国の首都を攻撃するために離脱した。
「大丈夫だよ虎白・・・私がいるからね」
「ありがとうな・・・さあ・・・行こう・・・」
白陸で行われた祭りの日の事だ。
木造りの長椅子に腰掛けて、花火を見上げている虎白の隣には竹子が座ってりんご飴を舐めている。
滑らかに動いている舌で何度も舐め上げる飴が、溶けては小さな口の中に甘味となって広がっていく。
満足気に笑みを浮かべている竹子の隣で、たこ焼きを冷ましながら夜空を彩る花火を眺めている虎白の表情はどこか儚くも見えた。
「どうしたの? たこ焼きもう冷めたんじゃない?」
早く一口もらいたい竹子は、虎白から口に入れてもらえるのを期待している。
しかし浮かない表情で空を見る虎白はどうしたのだろうか。
いよいよ何か思い詰めているのかと、心配した竹子が肩を何度か叩いた。
「ああ、悪い悪い・・・いい夜だな。 俺達は、後どれだけこんな素敵な夜をすごせるのかな」
そう小さく言葉を発した虎白の鋭い瞳には、花火が反射している。
やがて線香花火の様に儚く瞳から輝くものが流れ出ると、ぎこちない笑顔を竹子に見せた。
周囲では甲斐や夜叉子ですら楽しげに祭りを楽しんでいるというのに、虎白は静かに泣いていたのだ。
心配する竹子が腰を浮かして、距離を近づけると体を密着させて背中をさすった。
「世界には死ぬ必要がある者が存在しているのかな・・・大衆は無知が故に操られて、一人のために死んでいく・・・」
それはまるで未来に起きるティーノム帝国とルーシー大公国との戦争を予感していたかの様な言動だった。
当時はまだその様な戦いが始まっていないというのに、虎白は未来に死んでいく大勢の命を考えると悲しみに暮れていたのだ。
竹子はしばらく言葉を返す事なく、静かに背中をさすり続けた。
浴衣からでもわかる細くて綺麗な太ももに手を置いた虎白は、涙を拭うと再びぎこちない笑顔を見せた。
「俺はこの真っ暗な闇から人間を救いたい・・・無知な人間ばかり死んでいくこの世界は間違っているんだ・・・」
事実を知らされず、偽りの真実だけを教え込まれて死んでいく。
まさにルーシーの戦闘民族がそうだ。
平原で大空を見上げる竹子は、祭りの夜を思い出していた。
連合軍の前に迫ってくるルーシー軍は、偽りの正義の被害者達。
馬上で空を見上げる竹子から放たれる攻撃命令を、今かと待っている何万もの将兵の視線が向く中で下唇を噛んで涙を堪えている。
「だからって虎白ばかり苦しむ必要ないよ。 半獣族が捕らえられていた事だって虎白の責任じゃない・・・」
世界の真実を知らずに弱者にばかり死んでほしくない。
それが虎白の本心ではあったが、襲いかかってくるルーシー軍を撃退するためには強力な武力を持って壊滅させる他ない。
馬上から左を見ると、アレクサンドロス大王とマケドニア軍が走り始めた。
右を見ると白陸軍とスタシア軍が攻撃の機会を伺っている。
「心を鬼にしている虎白の苦痛は私が一番よくわかっているよ・・・だから私だってそのためなら鬼にでも魔女にでもなるよ。 全軍、マケドニアを避けて我らに迫る敵を粉砕してください」
竹子の一声で白陸軍は、盾兵を中心にルーシー軍を迎え撃った。
やがて盾に激突する狂戦士達をスタシアの騎士達が、討ち取っていった。
この決戦は開戦前から勝敗は決していたに等しい。
虎白と皇国武士が時間すらも味方につけて、奇襲をしたのだ。
竹子の眼前で血眼になって迫るルーシー軍には既に退路はない。
前に進む他ないルーシー軍を、鉄壁の守りで受け止めてスタシアの聖剣が討ち破れば事は済むというわけだ。
次々に倒れていくルーシー軍を見ている竹子は、ある事に気がついた。
「後方にいるティーノム帝国軍が、虎白達を避けて逃げていく・・・見捨てられてしまったのね。 ルーシー軍は最後まで偽りの正義を信じて戦うなんて・・・」
虎白の奇襲と平原に待ち構える連合軍の勢いを見たティーノム帝国軍は、戦いもせずに退却を始めたのだった。
取り残されたルーシー軍は、一時間も経たずに壊滅した。
生存した負傷兵達は、連合軍の捕虜となり手当てを受けた。
戦闘が終わった戦場で、竹子は虎白と再会した。
周囲にはルーシー軍だけではなく、彼らの決死の抵抗によって命を落とした連合軍の将兵の姿も多く見られた。
「竹子・・・」
「虎白の責任じゃない。 さあフキエグラードを制圧しよ」
「俺のやってる事は正しいのかな・・・いや、せめてお前だけは正しいと言ってくれ!! じゃないと俺・・・」
竹子は静かに虎白を抱きしめた。
しかし正しいとは言わなかった。
正しいのかはわからなかったのだ。
竹子の中で一つだけ確定しているは、どんな結果であろうと虎白と共に歩むという事だ。
この戦いでルーシー軍は最後の主力部隊を失い、残りは首都フキエグラードの部隊だけだ。
マケドニアと秦国は、ティーノム帝国の首都を攻撃するために離脱した。
「大丈夫だよ虎白・・・私がいるからね」
「ありがとうな・・・さあ・・・行こう・・・」
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