天冥聖戦 伝説への軌跡

くらまゆうき

文字の大きさ
129 / 171
シーズン

第8ー18話 時間すらも味方であれ

しおりを挟む
 遠くの空をぼんやりと眺めている。


虎白は、夜間に送り出したエヴァと仲間達が上手く作戦を成功させられたのかと気にしている。


 その結果を知るために空を眺めているのだ。


 広い平原で連合軍が、ルーシー軍を待ち構える中で陣中から大切なエヴァの安否を気にしているその時だ。


 正面からは、ルーシーの旗印が高々と山中の谷間を進んでいるのが見えた。


 その光景は連合軍の全ての者に見えている。


 平原に彼らが出てきて決戦となるのは、残す所僅か数分だろう。


連合軍の全軍に緊張が走る中、虎白だけは変わらず空を眺めていた。


「せめて生きているって事だけでも伝えてくれ・・・」


 そう小さく声を発する中、竹子の主力軍がマケドニア軍やスタシア軍と肩を並べる様に横一列に広がった。


 それでも空だけを見つめているその時だ。


 緑色の狼煙のろしが高々と上がると、更に近くでも同色の狼煙が上がった。


 虎白は狼煙を確認すると、安堵の表情を浮かべた。

 
「よかった・・・エヴァも半獣族も無事だったか・・・」



 これはエヴァの出撃前に手渡した三色の発煙筒が、伝えた結果だ。


緑は成功で、赤は半獣族の救出失敗。


 そして黒の発煙筒は部隊にも損害が出たと知らせる内容だった。


 緑色の発煙筒をエヴァが打ち上げて、等間隔に配備されている白陸兵が虎白へと伝えていった。


 青空に高々と上がる緑煙りょくえんに安堵すると、直ぐさま腰に縄を巻きつけるとユーリやエリアナ、ゾフィアにも巻き付けた。


 一本のとてつもなく長い縄を周囲の皇国武士らにも巻きつけると、一つの束の様に皆が腰に巻いた。


「な、何をしているんだ鞍馬?」
「今から奇襲をするんだ」
「は!? な、なか・・・敵はもうそこまで来ているんだぞ!!」



 既に肉眼で旗印が見える距離にまで迫るルーシー軍を、今から奇襲なんて不可能な事だ。


 仮に向かうとしても、部隊に縄をくくりつける意味がわからないユーリは困惑した表情で虎白を見ている。


 すると大きく深呼吸をした虎白は、自身が持つ神業を解き放った。


「第八感・・・止まった時間の中で俺に間接的にでも触れている者は同じ様に停止した時間の中を動ける・・・昨晩にユーリと酒を飲んだ時に気がついたんだ」



 突然肩を触られた反動で、酒瓶を落としたユーリと瓶を通して触れ合った。


思わず第八感を放った際に、瓶を同時に触ったユーリだけが止まった時間の中で動いていたのだ。


 虎白は縄を経由して、配下の皇国武士達にも第八感の影響を及ぼしたというわけだ。


 止まった時間の中で移動してルーシー軍を奇襲するのだと察したユーリは、驚いた様子で虎白の顔を見ている。


「ただ一つ言っておくが、これには膨大な神通力を消費するんだ・・・奇襲の時には俺はもう使い物にならねえかもしれねえ・・・」
「私は奇襲をする前にどうしても話したい相手がいるんだ・・・」



 それがルニャというわけだ。


ルーシーの二人の英雄が抜けた今、妹の様に可愛がられていたルニャが全軍を率いて決戦の地へと向かっている。


 ユーリは戦う前に彼女と話して、同胞の犠牲を減らそうと考えていたのだ。


 そして停止した時間の中を進み、山中へ入ると見張りのルーシー兵を皇国武士らが淡々と斬り捨てていった。


 やがて虎白は神通力の消耗に耐えられなくなり吐血をすると、ユーリの肩を掴んだ。


「もう限界だ・・・交渉するのはいいが、失敗した時は全員斬るからな。 そうしないと、俺の仲間が斬られるんでな」
「わかっている・・・」



 そして時間が再始動したが、結果は虚しくルニャと同胞達はユーリを殺さんと殺到したのだった。


 突如として現れた皇国武士による奇襲は、ルーシー軍を驚かせた。


 奇襲に驚く戦闘民族らは、押し出される様に平原へと溢れ出たがそこには竹子やアレクサンドロス大王らの連合軍が待ち構えているというわけだ。


 平原に飛び出してきたルーシー軍を前に偉大なる征服王が、剣を天高く突き上げて将兵に語りかけた。


「この戦いで、北側領土に平和が訪れる。 我がアレクサンダーよ!! 戦争がない平和な世界を創造する事に力を貸せ!! この世界こそ、皆がアレクサンダーだ!! 勇者であれー!!!!」



 勇者の言葉が戦場に響き渡ると、大地が割れるほどの将兵の歓声が包んだ。


 そして馬蹄と歩兵の足音が地震の如く音を立て、動揺するルーシー軍へと飛びかかった。


 たちまちのどかな平原は血生臭い戦場へと様変わりした。


 戦争のない天上界を創るため。


 平和には、蔑まれても無視される半獣族がいてはならないのだ。


 事実をひた隠しにして、戦争を自国の民に煽るフキエやスワンという存在はこの先も変わる事なく人を欺く。


 そんな腐りきった世界を変えるために、虎白の夢を叶える仲間達が最後の戦いに挑むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

処理中です...