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5章 王都上空決戦
第77話 感謝
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私はジルディガーを浮遊魔法にて浮かせた状態で運ぶ。
《瞬間移動》にて向かった先は地下牢だ。
兵士に事情を話し、彼に魔法の使用を封じる『魔封じの手枷』をする。
「第三王女リアラ・フィールアとして命令します。この者を絶対に処刑しないこと。そして目覚めた場合は、真っ先に私に報告すること。いいかしら?」
「はっ!リアラ・フィールア王女殿下の御心に従います!」
「くれぐれも、よろしくお願いするわ。」
胴体と首が真っ二つになっているドラゴンの死骸は、私の魔法《異空間収納》に入れている。
《異空間収納》は物を異空間へと送ることが出来る魔法だ。
勿論、魔法が使用可能ならば出し入れ自由。
生物も入れることができ、魔力消費は収納した量に応じて増えてしまう。
《アイテムボックス》という形で異空間収納を誰でも使用可能にした魔法具も存在するが、値段は豪邸が建つ高さだ。
現在、死魔の森にあった魔法具も入れているので、魔力が普段より取られている気がする。
私は続けてミアスの元へと瞬間移動した。
「苦戦しているようね。」
「わっ!?…って、リアラかよ。急に後ろに来るなよな。そっちは終わったのか?」
「見ての通り。手助けは必要かしら?」
「必要ない。……これは殺しても大丈夫…なのか……?」
ミアスの実力ならば、戦闘をすぐに終わらせることなど造作もなかっただろう。
しかしミアスはディルナを手にかけて良いのか迷った様子。
私と違い、彼は王族の護衛として罪人処刑や盗賊討伐などでそのような事を経験している。
王族の護衛をするならば、最悪の場合に備えられる者でなければならないからだ。
とはいえ善人を亡き者にする訳にはいかない。
ミアスはディルナが黒魔法で操られているだけだと気付いたからこそ、私に判断を仰いでいるのだろう。
「……彼女は既に亡き身。眠らせてあげることが、彼女にとって救いになるはずよ…。」
「……分かった。」
ミアスは一瞬俯いてから、素早い動きでディルナの心臓と頭の部分を光の光線で射抜いた。
ディルナは力が抜けたように倒れる。
黒魔法で操られている死体。
故に、心臓も頭も急所とはなり得ない。
だが弱点があった。
それは『魔石』だ。
おそらくジルディガーは、彼女に《魔物化》をかけたのだろう。
見た目を変化させないよう気を付けつつ『生き返らせる』という名目で魔法を使った。
魔物化をかけられた生物には、『魔石』と呼ばれる周囲の魔力を吸収する石が体内に生成される。
そうして得た魔力を動力源とし、理性など無く本能のままに他の生物を襲う。
魔石は全ての魔物の核……心臓なのだ。
無論、ディルナの体内にも魔石が生成されていた。
通常は魔物1体につき1つだが、それでは足りなかったのか心臓と脳の部分の2つに魔石があった。
ミアスは魔石を狙い、光線を放ったという訳だ。
「──すまない。」
そう呟いたミアスに対し、ディルナは優しい笑顔で永遠の眠りについた。
その表情はまるで……
「望まぬ復讐……いえ、感謝の意………かしらね…。」
「ああ……。」
駆けつけた王城護衛の騎士団副団長にその場の後始末を任せ、私とミアスは王城内へと入った。
内部はかなり荒れていた。
戦闘が起こった影響だろう。
しかし荒れていたのは入口付近のみであり、奥に入ると普段と変わらない様子が広がっていた。
2階以降も問題は無さそうだ。
護衛の騎士団と暗部のおかげだろう。
「陛下、リアラ第三王女殿下とミアス様にございます。」
「入室を許可しよう。」
「失礼致します。」
扉の前にて護衛していた騎士団長に通してもらい、私達は国王ヴィライユの書斎へと入った。
書斎にはヴィライユの他に側近のマーリルクが居た。
いつもの変わらない様子に、少しほっとする。
「陛下、ご無事で何よりです。」
「リアラ、ミアス。よく来てくれた。待っていたよ。」
国王というよりも父の顔でそう言ったヴィライユ。
今は4人しか居ないので、父として接して良いとの意図だろう。
私は軽く頷き、話を始めた。
「先ず、死魔の森の調査結果ですが──」
私は死魔の森に設置されていた魔法具や、その場で出会った精霊についてなどを包み隠さず話した。
そしてジルディガーについてと、彼の最後も…。
「それは酷な事を任せてしまったな…。」
「お気になさらずに。私は王族として必要な事をしたまでです。彼には報いだけでは足りませんから…。」
ジルディガー……。
彼は数奇な運命を生きた人だったのだろう。
悲しみや辛さはどれ程のものだったのかは分からない。
王国への憎しみも…。
しかし同情することは出来ない。
私は当事者ではなく、更には王族だ。
彼の側に寄り添うことなど言語道断と言えよう。
誰かが彼と同じ境遇だったのならば、王国へ復讐をしたのかもしれない。
それが今回は彼だったというだけのこと。
だから私は報いと同時に救いも与えた。
抵抗さえしなければ、幸せな夢を見ながら緩やかに死ぬことが出来る…。
「お父様。死傷者はどの程度なのでしょうか?」
「現状、37名だ。重傷者の治療が間に合わない場合は、さらに増えるだろう。建物の下敷きになってしまった民もいるかもしれない。となると……」
「100名以上が亡くなられている可能性があるのですね…。」
「……ああ…。」
暗い顔をするヴィライユとマーリルク。
ドラゴンによって破壊された建物の中に、人が下敷きになってしまっていてもおかしくはない。
それにブレスが直撃していたのならば、跡形も残っていない可能性もある…。
「兄様や姉様方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。傷一つ無い。」
「良かったです…、安心しました。」
家族が無事なのは本当に良かった。
ならば優先すべきは重傷者の手当てだろう。
助けられる命は、少しでも助けるに越したことはない。
「重傷者は何処に集められていますか?」
「教会に運ばれている。謎の女性が強力な結界を張っていると聞いているが…。」
「その女性は先程お話した精霊のリーゼ様です。私は治癒魔法にて重傷者を手当てしてまいります。」
「分かった。疲れているだろうが…、よろしく頼む。」
「はい。」
私はヴィライユに対し、問題無いという意図の笑顔を向け、急いで教会へと向かったのだった。
《瞬間移動》にて向かった先は地下牢だ。
兵士に事情を話し、彼に魔法の使用を封じる『魔封じの手枷』をする。
「第三王女リアラ・フィールアとして命令します。この者を絶対に処刑しないこと。そして目覚めた場合は、真っ先に私に報告すること。いいかしら?」
「はっ!リアラ・フィールア王女殿下の御心に従います!」
「くれぐれも、よろしくお願いするわ。」
胴体と首が真っ二つになっているドラゴンの死骸は、私の魔法《異空間収納》に入れている。
《異空間収納》は物を異空間へと送ることが出来る魔法だ。
勿論、魔法が使用可能ならば出し入れ自由。
生物も入れることができ、魔力消費は収納した量に応じて増えてしまう。
《アイテムボックス》という形で異空間収納を誰でも使用可能にした魔法具も存在するが、値段は豪邸が建つ高さだ。
現在、死魔の森にあった魔法具も入れているので、魔力が普段より取られている気がする。
私は続けてミアスの元へと瞬間移動した。
「苦戦しているようね。」
「わっ!?…って、リアラかよ。急に後ろに来るなよな。そっちは終わったのか?」
「見ての通り。手助けは必要かしら?」
「必要ない。……これは殺しても大丈夫…なのか……?」
ミアスの実力ならば、戦闘をすぐに終わらせることなど造作もなかっただろう。
しかしミアスはディルナを手にかけて良いのか迷った様子。
私と違い、彼は王族の護衛として罪人処刑や盗賊討伐などでそのような事を経験している。
王族の護衛をするならば、最悪の場合に備えられる者でなければならないからだ。
とはいえ善人を亡き者にする訳にはいかない。
ミアスはディルナが黒魔法で操られているだけだと気付いたからこそ、私に判断を仰いでいるのだろう。
「……彼女は既に亡き身。眠らせてあげることが、彼女にとって救いになるはずよ…。」
「……分かった。」
ミアスは一瞬俯いてから、素早い動きでディルナの心臓と頭の部分を光の光線で射抜いた。
ディルナは力が抜けたように倒れる。
黒魔法で操られている死体。
故に、心臓も頭も急所とはなり得ない。
だが弱点があった。
それは『魔石』だ。
おそらくジルディガーは、彼女に《魔物化》をかけたのだろう。
見た目を変化させないよう気を付けつつ『生き返らせる』という名目で魔法を使った。
魔物化をかけられた生物には、『魔石』と呼ばれる周囲の魔力を吸収する石が体内に生成される。
そうして得た魔力を動力源とし、理性など無く本能のままに他の生物を襲う。
魔石は全ての魔物の核……心臓なのだ。
無論、ディルナの体内にも魔石が生成されていた。
通常は魔物1体につき1つだが、それでは足りなかったのか心臓と脳の部分の2つに魔石があった。
ミアスは魔石を狙い、光線を放ったという訳だ。
「──すまない。」
そう呟いたミアスに対し、ディルナは優しい笑顔で永遠の眠りについた。
その表情はまるで……
「望まぬ復讐……いえ、感謝の意………かしらね…。」
「ああ……。」
駆けつけた王城護衛の騎士団副団長にその場の後始末を任せ、私とミアスは王城内へと入った。
内部はかなり荒れていた。
戦闘が起こった影響だろう。
しかし荒れていたのは入口付近のみであり、奥に入ると普段と変わらない様子が広がっていた。
2階以降も問題は無さそうだ。
護衛の騎士団と暗部のおかげだろう。
「陛下、リアラ第三王女殿下とミアス様にございます。」
「入室を許可しよう。」
「失礼致します。」
扉の前にて護衛していた騎士団長に通してもらい、私達は国王ヴィライユの書斎へと入った。
書斎にはヴィライユの他に側近のマーリルクが居た。
いつもの変わらない様子に、少しほっとする。
「陛下、ご無事で何よりです。」
「リアラ、ミアス。よく来てくれた。待っていたよ。」
国王というよりも父の顔でそう言ったヴィライユ。
今は4人しか居ないので、父として接して良いとの意図だろう。
私は軽く頷き、話を始めた。
「先ず、死魔の森の調査結果ですが──」
私は死魔の森に設置されていた魔法具や、その場で出会った精霊についてなどを包み隠さず話した。
そしてジルディガーについてと、彼の最後も…。
「それは酷な事を任せてしまったな…。」
「お気になさらずに。私は王族として必要な事をしたまでです。彼には報いだけでは足りませんから…。」
ジルディガー……。
彼は数奇な運命を生きた人だったのだろう。
悲しみや辛さはどれ程のものだったのかは分からない。
王国への憎しみも…。
しかし同情することは出来ない。
私は当事者ではなく、更には王族だ。
彼の側に寄り添うことなど言語道断と言えよう。
誰かが彼と同じ境遇だったのならば、王国へ復讐をしたのかもしれない。
それが今回は彼だったというだけのこと。
だから私は報いと同時に救いも与えた。
抵抗さえしなければ、幸せな夢を見ながら緩やかに死ぬことが出来る…。
「お父様。死傷者はどの程度なのでしょうか?」
「現状、37名だ。重傷者の治療が間に合わない場合は、さらに増えるだろう。建物の下敷きになってしまった民もいるかもしれない。となると……」
「100名以上が亡くなられている可能性があるのですね…。」
「……ああ…。」
暗い顔をするヴィライユとマーリルク。
ドラゴンによって破壊された建物の中に、人が下敷きになってしまっていてもおかしくはない。
それにブレスが直撃していたのならば、跡形も残っていない可能性もある…。
「兄様や姉様方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。傷一つ無い。」
「良かったです…、安心しました。」
家族が無事なのは本当に良かった。
ならば優先すべきは重傷者の手当てだろう。
助けられる命は、少しでも助けるに越したことはない。
「重傷者は何処に集められていますか?」
「教会に運ばれている。謎の女性が強力な結界を張っていると聞いているが…。」
「その女性は先程お話した精霊のリーゼ様です。私は治癒魔法にて重傷者を手当てしてまいります。」
「分かった。疲れているだろうが…、よろしく頼む。」
「はい。」
私はヴィライユに対し、問題無いという意図の笑顔を向け、急いで教会へと向かったのだった。
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