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──数年後──
「ガイル・トゥリーゼ、《隻眼妃》セスア・シルディンス王妃陛下にお目にかかります。」
「ようこそ来てくれましたね、ガイル男爵。」
現在、私はジェヌア殿下と正式に婚姻を結んでいた。
『殿下』というのは今や正しくないでしょう。
彼は即位し、国王陛下となられているのだから…。
つまり私は王妃の地位に就いている。
『隻眼妃』という二つ名で呼ばれていた。
理由は──
王妃となってからも、私はジェヌア陛下の仕事を手伝っていた。
その中で、私は様々な問題の解決や他国との会談に同席し、成果を残していく内に、知識の豊富さと行動力などが評価されていった。
そして片目が見えないという見目が相まって、気が付けば『隻眼妃』という二つ名で呼ばれていた…。
その名をジェヌア陛下が正式に認めたことにより、他国にまで広まっている。
そして今や、貴族達の領地視察や、その他問題の解決などを任されるようになっていた。
目の前にいる彼の名は、ガイル・トゥリーゼ。
ルーシアの父であり、元伯爵。
『元』というのは、ルーシアが私へ行ったあの一件で爵位が落ちてしまったからである。
「本日はどのようなご用件でしょうか。」
「男爵領に、少し大きめの孤児院を建ててほしいの。お願いできないかしら。」
「孤児院ですか…。理由をお尋ねしても?」
「最近親のいない孤児達が沢山保護されているわ。国王陛下の貧民の子供たちに対する政策によってね。
けれど帰る場所がない彼らを、ずっとこちらで預かっているわけにはいかないのよ。かと言って、既存の孤児院は良い噂を聞かない。だからお願いしたいの。」
「そうなのですね……。承知しました。全面的に協力させていただきます。」
「感謝します、トゥリーゼ男爵。」
トゥリーゼ男爵は、私の頼みをよく聞いてくれていた。
何故そこまでしてくれるのか問うと…
『娘をしっかりと教育出来ず、あのような行為を許してしまった罪滅ぼし……ですね…。王妃陛下に尽くすことが、私自身に出来る最善の償いだと考えています。』
そう言って、私の代わりに今でも様々なことを行ってくれている。
そんな彼の働きぶりには、私も助けられてばかりだった。
「資金はこちらで用意するわね。」
「いえ!資金も含め全てを、私の方でさせていただきます!」
「でも申し訳ないわ…。孤児院はこちらの事情で建てないといけなくなったものだから、今回ばかりは首を縦に振れないわね。資金面は、気にせず任せて頂戴。」
「…承知しました。お願い致します。」
「ええ。」
トゥリーゼ男爵と話を終えた後、私はすぐに国王陛下の書斎へと向かった。
「国王陛下!セスア王妃陛下が入室の許可を求めておられます!」
「通せ。」
「はっ!」
私が書斎へ入ると、ジェヌア陛下と側近・国王補佐のゼーヘルの2人がいた。
仕事の書類が山積みになっている。
私が入っても、手を止めることなく作業をしていた。
「国王陛下……今よろしいでしょうか…?」
「ああ、すまないねセスア。これで……よし!それで、どうしたんだい?」
「実は……」
「今はこの3人しかいないんだ。固くなる必要はないよ。」
「……分かったわ。忙しそうだから、簡潔に言うわね。」
「それはありがたい。」
「貧民政策で保護した子ども達が暮らせる孤児院を、トゥリーゼ男爵領に建てることにしたの。」
「なるほど…。その資金を出してほしいということか。」
「ええ。頼めないかしら。」
「問題ない。それに孤児院というのは良いな。」
貧民の子どもとはいえ平民は平民。
王城近くで保護しているのだが、それをよく思わない貴族もいるのは事実。
女子ならばメイドとして働かせてはという案も出たが、当然賛成する貴族の方が少なかった。
そこで私は、信頼出来る孤児院に預けると良いのではと考えた。
しかし既存の孤児院を調査していくと、全ての孤児院の管理者の立場にある者が不正をしていることが判明した。
国からの支援金を横領していたり、子ども達には1食しか与えていなかったり…。
とても預けられる状態ではなかった。
「もう1つお願いがあるのだけれど…。」
「?」
「孤児院の支援金などで不正を働いている者を、一斉に捕らえたいのよ。」
「ほほう…?」
「子ども達のためにも、国のためにも、これは行う必要があると思うの。どうかしら?」
「…良いだろう。でもそれを行うにはセスア、君の協力が必要になる。」
「協力は惜しみなくするわ。」
◆◇◆◇◆
そうして数週間後、不正を行っていた者達は一斉に捕らえられた。
隻眼妃の偉業が増えた瞬間となったのだった。
そしてそれぞれの孤児院は、セスアが信頼出来る者を新たに管理者の立場に置き、良き孤児院となっていった。
「セスア。協力、感謝するよ。」
「こちらこそ、動いてくれてありがとう。おかげさまで孤児院を復活させられたわ。そう言えば、聞きたいことがあったの。」
「聞きたいこと?」
「ええ。彼女は今どうしているのかと思って…。」
私の問いに、ジェヌア陛下は少し斜め下を向いて苦笑しつつ、
「彼女…ね。彼女は今──
「ガイル・トゥリーゼ、《隻眼妃》セスア・シルディンス王妃陛下にお目にかかります。」
「ようこそ来てくれましたね、ガイル男爵。」
現在、私はジェヌア殿下と正式に婚姻を結んでいた。
『殿下』というのは今や正しくないでしょう。
彼は即位し、国王陛下となられているのだから…。
つまり私は王妃の地位に就いている。
『隻眼妃』という二つ名で呼ばれていた。
理由は──
王妃となってからも、私はジェヌア陛下の仕事を手伝っていた。
その中で、私は様々な問題の解決や他国との会談に同席し、成果を残していく内に、知識の豊富さと行動力などが評価されていった。
そして片目が見えないという見目が相まって、気が付けば『隻眼妃』という二つ名で呼ばれていた…。
その名をジェヌア陛下が正式に認めたことにより、他国にまで広まっている。
そして今や、貴族達の領地視察や、その他問題の解決などを任されるようになっていた。
目の前にいる彼の名は、ガイル・トゥリーゼ。
ルーシアの父であり、元伯爵。
『元』というのは、ルーシアが私へ行ったあの一件で爵位が落ちてしまったからである。
「本日はどのようなご用件でしょうか。」
「男爵領に、少し大きめの孤児院を建ててほしいの。お願いできないかしら。」
「孤児院ですか…。理由をお尋ねしても?」
「最近親のいない孤児達が沢山保護されているわ。国王陛下の貧民の子供たちに対する政策によってね。
けれど帰る場所がない彼らを、ずっとこちらで預かっているわけにはいかないのよ。かと言って、既存の孤児院は良い噂を聞かない。だからお願いしたいの。」
「そうなのですね……。承知しました。全面的に協力させていただきます。」
「感謝します、トゥリーゼ男爵。」
トゥリーゼ男爵は、私の頼みをよく聞いてくれていた。
何故そこまでしてくれるのか問うと…
『娘をしっかりと教育出来ず、あのような行為を許してしまった罪滅ぼし……ですね…。王妃陛下に尽くすことが、私自身に出来る最善の償いだと考えています。』
そう言って、私の代わりに今でも様々なことを行ってくれている。
そんな彼の働きぶりには、私も助けられてばかりだった。
「資金はこちらで用意するわね。」
「いえ!資金も含め全てを、私の方でさせていただきます!」
「でも申し訳ないわ…。孤児院はこちらの事情で建てないといけなくなったものだから、今回ばかりは首を縦に振れないわね。資金面は、気にせず任せて頂戴。」
「…承知しました。お願い致します。」
「ええ。」
トゥリーゼ男爵と話を終えた後、私はすぐに国王陛下の書斎へと向かった。
「国王陛下!セスア王妃陛下が入室の許可を求めておられます!」
「通せ。」
「はっ!」
私が書斎へ入ると、ジェヌア陛下と側近・国王補佐のゼーヘルの2人がいた。
仕事の書類が山積みになっている。
私が入っても、手を止めることなく作業をしていた。
「国王陛下……今よろしいでしょうか…?」
「ああ、すまないねセスア。これで……よし!それで、どうしたんだい?」
「実は……」
「今はこの3人しかいないんだ。固くなる必要はないよ。」
「……分かったわ。忙しそうだから、簡潔に言うわね。」
「それはありがたい。」
「貧民政策で保護した子ども達が暮らせる孤児院を、トゥリーゼ男爵領に建てることにしたの。」
「なるほど…。その資金を出してほしいということか。」
「ええ。頼めないかしら。」
「問題ない。それに孤児院というのは良いな。」
貧民の子どもとはいえ平民は平民。
王城近くで保護しているのだが、それをよく思わない貴族もいるのは事実。
女子ならばメイドとして働かせてはという案も出たが、当然賛成する貴族の方が少なかった。
そこで私は、信頼出来る孤児院に預けると良いのではと考えた。
しかし既存の孤児院を調査していくと、全ての孤児院の管理者の立場にある者が不正をしていることが判明した。
国からの支援金を横領していたり、子ども達には1食しか与えていなかったり…。
とても預けられる状態ではなかった。
「もう1つお願いがあるのだけれど…。」
「?」
「孤児院の支援金などで不正を働いている者を、一斉に捕らえたいのよ。」
「ほほう…?」
「子ども達のためにも、国のためにも、これは行う必要があると思うの。どうかしら?」
「…良いだろう。でもそれを行うにはセスア、君の協力が必要になる。」
「協力は惜しみなくするわ。」
◆◇◆◇◆
そうして数週間後、不正を行っていた者達は一斉に捕らえられた。
隻眼妃の偉業が増えた瞬間となったのだった。
そしてそれぞれの孤児院は、セスアが信頼出来る者を新たに管理者の立場に置き、良き孤児院となっていった。
「セスア。協力、感謝するよ。」
「こちらこそ、動いてくれてありがとう。おかげさまで孤児院を復活させられたわ。そう言えば、聞きたいことがあったの。」
「聞きたいこと?」
「ええ。彼女は今どうしているのかと思って…。」
私の問いに、ジェヌア陛下は少し斜め下を向いて苦笑しつつ、
「彼女…ね。彼女は今──
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