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収穫祭は花より団子? side J
しおりを挟む祭り会場は例年通りの賑わいだ。どこから廻ろうかと考えていると、繋いでいた手が放された。強引に手を引いてしまったから嫌がれたかと思って振り返ると、彼女は笑顔を返してくれた。
怒ったわけじゃないみたいだ。よかった。
「行きたいところはある?」
「後でもいいのだけど、うちの領地のテントに寄ってもいいかしら?」
「もちろん!早速向かおう」
祭りの出店は、許可さえ受ければ誰でも出すことができるけど、広場の中央に行くほど常連のものになる。彼女の伯爵家は歴史が深く、祭りの当初から参加し続けてるから、ほとんど中央に位置していた。
いつも同じ場所なのだろう。彼女は迷うことなく自分の領地のテントに向かっていく。楽しそうにきょろきょろしながら歩く姿は、いつもの学園で見るのと違い、少し子供っぽい。たまに僕の様子を確認するみたいに振り返ってくるのも、可愛い。
「お嬢様!いらしてくれたんですか」
まだ結構な距離があるのに、彼女の領地のテント前に立っていた男が、大きな声で話しかけてきた。彼女は小走りで近いていく。
「もちろんです!毎年楽しみにしてるもの。今年の様子はどうですか?」
そのまま話し始めた。茶色い髪の大柄の男は三十代くらいで平民のようだ。挨拶する必要は無いかな、と待つことにした。
男の声は大きくて離れていてもよく聞こえた。今日着ているニットは新商品なのか。確かに手の込んだ編み目は上質な感じがして良さそうだ。
会話の内容は領地や商品のことだけど、とても親しそうで、彼女の表情もいつもより屈託ない。嫉妬する必要はないのは分かっていても、なんとなく面白くなくて、彼女の背後に近づいた。
「まぁ、それがなくったってお嬢様の幸せは伯爵様たちが守ってくれるでしょうけどねぇ!ははは。…………あれ?そういや今日は……?」
男は機嫌良く笑っていたが、僕に気がつくと言葉を切った。
「あの、今日は、学園のお友達と一緒なの」
お友達……。そうだよね…………。
「はぁ、それはそれは……、お初にお目に掛かります」
男の少し失礼な挨拶に、黙って微笑んだ。
「それでは、明日もまた来ますね」
明日も来るんだ。家族とかな……。
「はい!ぜひ!お待ちしてます!あ、よかったらこれを。お友達とどうぞ!」
男は、手を降ろうと上げかけた彼女の手をむんずと掴んで、手のひらにアメを乗せてきた。領主のご令嬢にそんなことをする男に苛ついたが、当の彼女は気にしないようで、嬉しそうにアメを眺めていた。
「ありがとう。懐かしいわ」
そう言うと振り向いて僕を見上げてきたので、慌てて波立った気持ちを隠す。テントから離れるとき、男が何か呟いてたけど耳には入らなかった。
「お待たせしてごめんなさい。これ、よかったら。うちの領地で昔から作られてるアメなの」
さっき男に渡されたアメを両手に1つずつ持ち、右手に持ってる方を僕に差し出してきた。王都でよく見かける物の倍くらいの大きさがある。舐めきるのが辛そうだ。
「全然待ってないよ。アメは口に入れてる間、他のものを食べられなくなってしまうから、後でゆっくりいただくね」
受け取ってそのままポケットに突っ込んだ。彼女も少し考えてから舐めるのをやめたようだ。
早速、食べ物の屋台のエリアに向かって歩き出した。
それにしても、やっぱりさっきの男との距離の近さが気になってしまった。他の領民とはどうなんだろう。
「領民と仲良しなんだね」
相変わらずきょろきょろしながら歩いている彼女に話しかける。きょとんとした後、領地を思ってか嬉しそうな顔をした。
「そうね。うちは領地の広さだけはあるから、管理するのにもみんなに助けてもらうことが多いの。代々そうしてるから、領民との距離が近いかもしれないわ」
広大な領地を長年管理している貴族だし、領民をうまく使うノウハウがあるのだろう。
「とても大事にしてるんだね。……学園を卒業したら、やっぱり領地に帰るの?」
領地には戻ってほしくないな……。
「ううん。伯爵家は兄が継ぐし、私もいつまでもとは……。それよりも王都で家のためになる人脈を作りたくて。今は王宮事務官を目指してるの」
王都に留まるつもりなんだ。よかった!
「そうなんだ!凄くいいね」
僕がそう言うと、彼女は驚いた顔をした後、困ったように笑った。
「まだまだ女性が少ないから、不安もあるのだけど……」
王宮事務官は難関と聞くし、不安もあるのだろう。ここは彼女を元気づけないと。
「そんなことないよ!君は学園でも優秀だし、きっと叶えられるよ」
王宮事務官ならずっと王都に住むことになるだろうし、近くにいられる。応援したい気持ちを伝えると、彼女は今日一番の笑顔をくれた。~~~可愛い!
「お腹がすいたわ!何を食べようかしら」
彼女にしては大きな声で言った後、恥ずかしそうに首を竦めた。僕はその誘いに乗ることにした。
「よし!今日の目的を果たそう。お腹いっぱい食べよう」
食べ物の屋台の並ぶ一角に入る。貴族のご令嬢の中には嫌がるこも多いけど、彼女は楽しそうに目を輝かせた。大丈夫そうだ。
試しに、肉と野菜の串焼きを買って渡してみた。
受け取った彼女は、暫くじっと串焼きを見ていた。きっと食べ方に戸惑っているんだろう。こうやって食べるんだよ、と教えるためにひと口齧りついた。
「美味しいよ」と言うと、彼女も嬉しそうにお肉に齧りついた。
その後、意外にも彼女はとてもよく食べた。鳥肉の串揚げを美味しそうに食べながら、次の屋台を目で探している。僕のことも気にしてくれて、お互いに気になるものを次々と選んでいった。
この細い身体のどこに入ってくのかな……?お腹の辺りをこっそり見てみたけど、変わりはなかった。
少し不思議な気分になったけど、満足するまで食べることができたからよかった。僕も一応成長期だからね。
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