50 / 58
私の望み通り side A
しおりを挟む今日は久しぶりに彼から来訪伺いの先触れが来た。こういう時ですら事前に約束するのではなくて突然なのね……。
席は中庭に用意するようメイド達にお願いする。こんな日は綺麗な花の咲く屋外がいいわ。窓から外を見るとよく晴れた青空が広がっていた。
私は自分の瞳の色を思わせる群青色のエンパイアラインのドレスを身に着ける。淡い色の花の咲く庭にはあわないかもしれないけど、深い水を思わせるこの色は最近の私の好きな色だ。
中庭に向かうとすでに彼がいた。
青空のもと輝く金色の髪を風に遊ばせながら花に囲まれて座る彼は、まるで美しい絵画のようだ。
久しぶりに会うけど前より輝いて見える。きっと新しい恋がそうさせているのね……。
私に気づくと申し訳なさそうな顔をして立ち上がったので、にっこりと笑う。
「お久しぶりです。来てくださって嬉しいわ。研究はもう終わったのかしら?」
彼は少し驚いた顔をしたけど、私が構わずに椅子に腰を下ろすとあわせて座った。
「研究は、そうだね……。それよりも今日は大事な話があって来たんだ」
言い淀んだあと何かを決意したかのように視線を上げた。青空色の瞳がまっすぐに私を見る。
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
本当に言ったわ……。街で目撃してすぐに来たからもしやとは思ったけど。沈痛な面持ちで目の前に座る男を内心冷ややかに見つめる。
「何故、と伺っても?」
理由を聞かれるとは思ってなかったのか男が目を大きくした。すぐに切なげに目を伏せて話しだす。
「……半年前、君に婚約解消を申し込まれてからずっと歩み寄ろうと努力していたけど、やはり君の大切なものを理解することができないと思ったんだ」
私の強すぎる領地愛について行けないってことね。その点『ピンク』様は貴方の嫌がる柵はなさそうだわ。なるほど。次のあてができたから私はもう要らないのね。マリも言ってた。
……ほんとに屑だわ。
「わかりました。手続きの書類は早急に準備いたします」
思わず事務的な口調になってしまった。立ち上がった私を男が目を丸くして見上げる。無垢な存在を思わせる瞳がキラキラしてる。けれどもう綺麗だとは思わない。
「お見送りいたしますわ。ネオルト男爵令息様」
私の大切な伯爵家から男が出ていくのを見届けないといけない。
門まで案内すると、男が出た途端に門扉を閉じ始める。私は初めて男に向かってカーテシーをした。
「それではごきげんよう」
ガチャリと門扉の閉まる音がやけに耳に響いた。
それから私は一言も発さずに部屋に戻り、ドレスのシワも気にせずにベッドに倒れ込んだ。疲れた。
一年間ずっと身につけていたネックレスを外して、眺める。男の瞳と同じ青色。可愛らしく揺れるそれを見て、冷え切っていた心が揺れる。
――嘘つき。
ブティックで内心オロオロしながら着替えた私を見たときの彼の笑顔が思い浮ぶ。半年前の縋るような潤んだ瞳。王宮パーティーで愛しそうに私を見る笑顔。初めてのエスコートで触れた優しい手。婚約の約束をしたときの泣きそうな彼。
――好きだったのに。
泣くつもりは無いのに涙が勝手にポロポロと出てくる。
教室で真っ先に話しかけてくれるのはいつも彼だった。生徒会で不安な時も大丈夫って笑ってくれた。王宮事務官になるのもずっと応援してくれた。寄り添うようにして雑貨屋さんを眺めて回った。収穫祭で一緒に美味しい串焼きを頬張った。
――嘘つき嘘つき。心変わりしたって言えばいいのに。私より可愛い子を見つけたんだって言えばいいのに。私になんか飽きたって言えばいいのに……!嘘つき!!!
「わああああああああああん」
十数年ぶりに声をだして泣いてしまった。いっぱいいっぱい泣いて、駄目な私なんか溶けてなくなっちゃえばいいのにって思った。
39
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる