永久の独奏曲

不知火黒刃

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1.不幸

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嗚呼...どうして世界はこんなにも色褪せているのだろう。


夕暮れを横目に眺め、男子高校生は溜息をつく。
彼は、掃除を終えた教室で机に伏せながら隣の席に座る幼馴染・姫神 逢に自身が疑問に思った事を聞く。
「あのさぁ、姫神?人生ってなんだと思う?」
「人生?」
「そう。人間なんて最後は誰だって結局は死ぬじゃん?死んだらそれまでの記憶なんて無くなって、何も残らないんだよ。それが分かっててなんで無理矢理長生きしなくちゃ行けないんだ?死んだその先は天国か地獄がある?そんなのはきっと嘘だ。死という人が恐怖する末路に躊躇いを少しでも取り除こうと誰かが作った夢物語なんじゃないかってさ…そんな事考えてたら、人生なんてつまらないと思わない?」

普段は口数は多くない僕だが、姫神の前では喋れてしまう。慣れというのは恐ろしいものだ。

「んー...私はそうは思わないかな。死ぬまでにしてきた努力だったり積み重ねた思い出を死ぬ間際に、あー..本当に楽しい人生だったな。って人生で1番微笑む事が出来るように精一杯生きるんだと私は思うよ。」
そう微笑みながら帰ってきた答え。
やっぱ、姫神は凄い。
こんな話にも付き合ってくれて、聖人みたいな答えを出してくれる。
彼女はそういう人だ。
優しくて人の為に尽くそうと努力する。
頭が良くて笑顔の似合う本当に凄い人。
ただ、姫神も僕みたいに他人と話す事が好きではなくて、本当に信用している人にしか自分を出さない。
そう思うと僕は嬉しくなる。
彼女の中に、僕という存在が居てくれる事に。
姫神は僕の人生を変えてくれた恩人なのだ。
にいる事だって、彼女のおかげだ。普通に学校へ通っておしゃべりして。
という何気ない時間を彼女は僕にくれた。
「ははっ..」
「ど、どうしたの?今の答えおかしかったた?」
慌てる彼女の顔もまた新鮮だ。
「いいや。姫神は昔と変わってないなってさ。」
「褒め言葉として受け取っていいのやら..」
「褒め言葉だよ。あ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろうぜ。」
「そーだね。」

外はすっかり冷えきっていて、制服しか着てなかった僕は思わず震えた。
学校の正門を抜け、緩やかな坂道をゆっくりと降りていく。
左右対称に道に沿って外側に生えている木には葉が1枚も付いていなくて、もうすぐ冬に近づいているという事がわかる。
「はっくしょいっ!」
「大丈夫?良かったら私のコート貸すよ?」
「大丈夫だから。ははっ…そういう気の利いた所も昔と変わらないな。」
すると彼女は首に巻いたマフラーを右手で上に摘み、顔を半分くらいまで隠した。
「昔危なっかしい誰かさんがいたもんだからね…色んな事に気を回しちゃうの。」
誰を指しているのかは自分が1番理解している。
「す…すみませんこれからは善処します…」
「わかればいいよ。それに今君はあの頃とは別人と言っていいぐらい…違う。」
僕と姫神は顔を伏せる。
本当は僕の問題なのに、姫神の顔は今にも泣きそうで僕は心が痛かった。
だけどそれが彼女の優しさ。やっぱり僕は…この人が…姫神が好きだ…。
「姫神……...。ひとついい?」
ずっと伝えたかった事。
僕が今まで打ち明けられなかった思いを。
「へ…?…わかった…いいよ。」
「えっと… えぇと...その...」
「よく聞こえないよー?」
「えぇと…だから!その..…………」
逃げるな。想いを伝えるんだ。今…
「もし良かったら僕と…」
キキキキキキキィ...ドゴォォォォン!!!

「....え..?」








「可哀想にねぇ...まだ若かったのに。」
「ほんとよね...確か、強盗の乗った車に運悪く突き飛ばされたって話だけれど。」
「そうそう..それにその強盗はまだ捕まってないらしいのよ...」
「本当に可哀想ねぇ..あそこにいる男の子は逢さんの彼氏さんなのかしら..さぞお辛いでしょうに...」


「............」
誰もいなくなった霊場で1人、彼女の棺の前に立つ。
顔は酷く窶れていて、目の下のクマがそれを更に不健康そうに見せる。
「姫..神?」
震えるその声は、絶望と、不安で染まっていた。

(姫神...姫神....?冗談、なんだよな?そんな訳....ないよな?)
彼女は答えない。
(やめろよ。早く起きてよ、いつも見せてくれてたあの笑顔をまた見せてくれよ。)
彼女はもういない。
「...精一杯、生きる?積み重ねた...思い出?楽しい...人生だったなって思える人生?」
君は最後に1番微笑む事が出来たかい?
きっと出来なかっただろう。そんな暇なんて、きっとなかったんだから。
「っ....うっ......」
頬を伝う涙は止まることなく流れ続ける。

「僕はまだ君に.....っ!!
何も伝えてないじゃないか...!!」

やがて、僕の中の彼女の笑顔が遠ざかっていく。


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