ダークサイド勇者はもはや勇者なのか?

甘栗

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プロローグ~異世界への切符は槍だった!~

異世界への転送は突然に!

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 その日は朝からずっと、ザァザァと五月雨が降り続いていた。




 タッ タッ タッタと黒板とチョークが擦れる音、コソコソと同級生が話す声、ペラッ ペラッと誰かがノートをめくる音。
 日常的によく聞き、私を睡眠に誘う音に耳を傾けていると、コクリコクリと眠気が襲ってきた。
 だが私は寝ると成績が下がると思ったので、眠気をグッと我慢して、教師の言葉に耳を傾けた。
「終末時計とはなんなのか?
それは読んで字の如く、"終末を告げる時計"だ。
その時計の針が午前零時を指した瞬間……それが世界の終わりなんだ。……理解したか?」
 得意げな声で話していた教師のつまらない話に、何人かが、「はーい」「わかった!」「理解した、理解したー」と応えた。
 そんな声に耳を傾けながら、私は長い欠伸をした。雨はまだ降り続いている。




 私の眠気を誘う授業はまだまだ続いていた。
 睡眠導入音声のような教師の声に私は、かなり頑張って、耳を傾けていた。
「ルートがルートって」
「サインがまじコサイン」
……教師は身振り手振りを激しくつけながら、授業内容を大袈裟に教えていた。
 全然面白くないし、明らかに勉強に関係ない内容だったので、少しの間、自分の妄想の世界に入ることにした。
(あぁ、妖精が現れて、「私達の世界を救ってくれない?」とか言って、俺をドラク〇やファイナ〇ファンタジ〇みたいな世界に連れて行ってくれないかなぁ……
ああ、異世界に行って、ピンチの村を助けたい。
美少女と結婚して、幸せな家庭を築きたい。
どうか、神様、私を異世界に連れて行ってください。)
 そんな水の中の泡沫のように儚い願いを窓の外へ、ぎゅっと両手を組んで願ってみた。
すると、窓の外の雨雲が急に消え、太陽が空に姿を現した。
「よっしゃあ!」「やった!」
 運動部が阿鼻叫喚の如く叫び、抱き合い、ぴょんぴょん跳ねた。
……とても五月蝿い。
 あぁ、願いはやっぱり、何かしら形ある努力をした人間だけに届くのだろうか。
 私はため息をつきながら、消しゴムのカバーを付けたり、外したりして遊んだ。




 家路を歩いていると、私の前に黒猫が横切った。
 また、電柱の電線の上にいる沢山のカラスがガァガァガァガァガァガァと蝉のように五月蝿く鳴き、バサバサと羽を忙しく動かして群れをなし、去っていった。
 挙げ句の果てには、サラリーマンの帰宅ラッシュに紛れ、黒装束の宗教団体みたいな格好の男に痴漢された。
 ちょっと感じてしまった。なお、恋は芽生えない。すぐさま通報すると脅した。すると、男はすたこらと逃げ帰った。ファック!
 兎にも角にも私は、"黒猫""カラス""変態"という不幸3大要素全てに出会ってしまった。
 あぁ、これから私の身にいったい、どのような不幸が訪れるのだろうか。
 一抹の不安を持ちながら、私は家に帰った。




 かなり警戒して歩き、なんとか自分の家の前まで、無事着いた。
 さすがに家の中は安全だろう、と私は安心しきって、ドアノブに右手を当て、ガチャりとドアを開けた。
 するとその瞬間、F1のバイクのような轟音を立てながら、銀の槍が、家の廊下の奥の暗闇から飛んできた。
 私はとっさのことで身体が動かず、それは、私の脳天をぶち抜いた。頭に鈍い痛みが襲う。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

……ああ、俺、死ぬんだ。

 そこで、私の地球での人生は幕を閉じた。
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