白銀の揺れる丘

甘栗

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三 彼が付き合った日

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 アレからまた時が過ぎて、春休みの頃だった。
 あの日の傷は未だ癒えず、彼も私も何も変わっていなかった。
 そんな時、彼からあるラインの通知が来た。

「なんか、付き合わない?、ってAから通知が来たんやけど、どう答えればいい?」

 私は止めて欲しかった。その時の私は、彼が誰かと付き合うことにより、彼の苦しみが増加するのではないかと懸念していた。
 だが私は、付き合わないで!、と打てなかった。
 そんなことを言ったら、まるで私が彼のことを好きだと言っていることと同意義語だと思ったからだ。
 だから私は、お前の好きなようにやれば?、と返信した。
 
 そして彼は、Aと付き合うことになった。

……正直、彼とAを付き合うことの審判トランペッターを下したのは私だ。
 あの時私が止めていれば、彼が毒を飲み、Aが彼を恨み、Bと彼が付き合わない、という私にとっての地獄絵図のような状況は生まれなかったのではないだろうか。
 …そしてあの恐怖の始まりの日がやってきた。
 あの日、彼から一言、彼女とヤった、と聞いた。
 その時はかなり焦ったが、彼が幸せそうな顔をしていたので、私は作り笑顔で良かったね、と言った。
 でも次第に、彼はおかしくなっていた。
 少しずつ、少しずつ、おかしくなっていた。
 私は理解出来なかった。なぜ、彼は少しずつ狂気を纏っていくのだろう。
 なぜ、彼はおかしくなっていっているのだろう。
 …そしてある日、ついにラインで彼から相談を受けた。

「俺が、お前やAを狂わせているのではないか」

「Aは異常にアレを求めてくる」

「俺はお前を傷つけた」

「俺は死んだ方がいい」

「俺が死んだら世界が平和になる」

 言葉が槍のようだった。鋭く尖った槍が、心の臓を貫いて、ソレが何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も彼は私に刺してきた。
 私があの時、彼とAが付き合うことを止めていれば。私が現実と向き合っていれば。私に勇気があれば。後悔先に立たずということわざが頭を駆けずり回った。
 暫く私は、放心状態で、一体彼にどう返信すればいいか皆目検討がつかず、泣きそうだった。
 でも、泣けなかった。
 私の心はそこでポロポロと崩れた。
 やり直したい。出来るならば彼を救ってあげたい。
 必死にそう願ったが、結局ダメだった。
 そして同時に、彼が童貞を失った事実を改めて思い知り、私は彼が好きだったことにやっと気付いた。
 そして私はまたあの時のように、彼に対してポジティブな言葉を言うしか脳がない、ロボットのようなことを無意味に返信した。
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