魔王あきたオレ様が勇者はじめた件について

月桜姫

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トラン国

2.5,

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   魔王ベルゼブブが復活する9日と少し前。トラン国の端にある小さな村の建物に火がともされ、たちまち燃え広がって阿鼻叫喚のひどい騒ぎとなった。





「女が10人、男が2人。あと子供は13人…まずまずの収穫だな」





   ごうごうと燃え盛る村を後にする馬車。荷台に詰め込まれた計25名の人間。馬車を制御している男は一人ほくそ笑み、どれぐらいの金額で売れるかを考えていた。



 

「あ、すみませーん。あの、荷台確認させてもらえますか?」

「…奴隷どもだ」





   そんな男に声をかけたのは青年。この世界の男にしては細く、少し身長が低い。その青年は目深に帽子を被っており表情が全く見えず不気味だが、荷台を一瞬確認しただけで何も言わなかった。





「…あぁ、そういうことですか」

「なんだ?」

「あなた、あの村に火をかけた人ですね?」

「(なんだこいつ、妙に鋭くないか?…いやそもそも、こんなところに間所なんてあったか!?)」





   急にこの青年が怖く見えてきた奴隷商人。すぐに馬を目一杯走らせ、青年を振り切ろうとする。この商人は不法奴隷を売り付ける者で、青年の言うとおり先程村に火をつけた張本人なのだ。






「(こ、ここまで来れば大丈夫か?)」

「いきなり逃げないでくださいよー」






   全力で10分ほど走った。なのに、なぜこいつはついてきている!?そんな考えが浮かび、商人は今一度振り切るべく馬車を加速させた。

   だが青年は馬車の横を滑るように走っている。けれど馬車に掴まっている様子もなく、息切れ一つせず、ずっと商人の横を走りつづける。






「…おっと」

「!?」





   しかし唐突に馬車に手をかけ、少し後ろに引っ張り事も無げに馬車を止めて見せた。商人がいくら馬をムチで叩いても、馬車はピクリとすら動かない。






「(何なんだ、何なんだ、こいつは!?)」

「不思議そうな顔してますね?…あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね」






   慌てに慌てて顔が青白くなってゆく商人をよそに、青年は帽子に手をかけた。そしてその顔があらわになると共に服装が大きく変わる。






「な、仮面?」

「えぇそうです。ではあらためて。義賊レトルトと申します。本日は不法奴隷商人のあなたの荷物を解放しに参りました」

「な…!?」






   真ん中で左右に白黒に塗り分けられた仮面。三日月型に曲がった口もやはり白黒でぬりわけられ、目がないところが一層不気味さを醸し出している。





「では、さっそく」





   ふんわりした栗色の髪の上にのるシルクハットをクルリと回した義賊レトルト。何も起きない、と商人がホッとしたのも束の間、数秒のタイムラグを置いて荷台のドアが開いた。







「…?おかしいですね」

「ハッ!残念だったな。全員眠らせてある上、きっちり鎖で拘束済みだ!」

「…ま、なんとかなるでしょう」






   割と余裕な義賊レトルト。それもそのはず、実はもう一人仲間がいる。その仲間は奴隷達を片っ端から解放し、目覚めさせて行く。





「あ、だめですよ、あなたはここにいるべきです」

「…!?くそ、何だよこの鎖はっ!」






   慌てて商人が動こうとするが、義賊レトルトが何処からともなく鎖を取り出し商人をす巻きにしてしまう。商人には、自分を見下ろす義賊レトルトの仮面の口元がいっそう曲がった気がした。






「おっと、逃げ出しましたね。大丈夫です、あの方達は無事に村に帰りつけますよ。では、僕はこのあたりで失礼させて頂きます。義賊レトルトの名をお忘れなく!」

「あ、あ、…ぁぁ」





   レトルトの肩に黒猫が飛び乗り、シルクハットがクルリと回って姿が消えるのを商人は黙って見ることしかできなかった。

   そしてこの件を期に義賊レトルトの名は瞬く間にトラン国内に響き渡った。この事件で義賊レトルトを目撃した人間は計3名。不法奴隷商人と、


   うさぎの獣人の双子の少女だけだった。


   この少女達は魔王の復活により狂暴化した魔物に追われ、ベゼルに出会うことになるのだが、それはまた後の話である。







++++++++++

こんにちは!
梟林檎@蟹です!



まだまだ物語の準備段階から
抜け出せません( ;∀;)
そろそろストックが危ういので
続きを考えつつ投稿していきたいと思います。
そしてストックの関係で
明日は投稿できないかと…。
そして、
実在する人物・団体とは一切関係ありません。



では、また。
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