竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

29.スズラン

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視点:フィル

「……ふぅ、ここまでくれば大丈夫」

先程から1歩として動いていないのだが、そんな事を気にしていられる状況ではない。もし、コイツが来なければ朔と丸は……そう考えると自分の無力さに腹が立つ。

「とりあえず落ち着いてよ、フィリアス?今日のことはイレギュラー中のイレギュラーなんだから。ボク以外に対処出来ることじゃないんだ」

一応気を使ってくれているのか。咲夜と丸朔の無事を聞けば、大丈夫と即答。パチンと指をならせばとたんにまつげが震えて瞼が持ち上がる。

……これで、どうよ?っていうドヤ顔さえなければ完璧なんだがな。

「あ、れ……?フィル!」

「……ん。……っ、丸君!」

不思議そうな顔のサクヤを思わず抱き締めれば、おずおずと背中に回される左手。右手はいつものように俺の頭を優しく労わるように撫でてくる。

ぼうっとそのあたたかさにひたっていれば、朔に飛びつかれて床に頭をぶつけた丸なんてどうでもよくなってしまう。

「はいはい。バカップルは2つもいらないから」

「え、君誰?」

「見たことない奴だな……というかまず人か?」

「なかなか鋭いねぇ、ハジメ君!」

丸の目は目の前にいる少年に釘付けになっている。俺も初対面の時はまじまじと見てしまった。真っ白な髪と瞳、同じく白い肌。服は神官が着るようなもので、装飾なんてない白。

ここの主であるコイツも真っ白すぎて人から浮いているが、この空間もそうだ。はっきり言って、何も無い。ただ白く、床があるだけ。上も前も後ろも無限に続いていると、前にコイツが言っていた。

「それじゃあ自己紹介!……ボクはスズラン、神様さっ!」

弾けるような笑顔の、スズラン。ただしそれを見る俺達の表情は硬い。2回目なのにインパクトが強すぎる。どうしてスズランはこんな性格なのか。

「神、様……?」 

「うんそう!ボクは、地球のある世界の神様なんだ!」

咲夜の呆然とした声に嬉嬉として食いついたスズランは、本当に必死に自己アピールする。それはもう、必死すぎて哀れんでしまうほどに。ほら丸が可哀想なものを見る目で見ている。

「ちょっと、丸山一!ボクは厨二病でもなければ思い込み少年でもない!フィリアスも!ボクは可哀想じゃないから!」

「フィリ、アス?……どうして、フィルを、名前で呼ぶの?」

「それはボクが神様……ひぃ!ごめんなさい!竜人族の文化忘れてました!」

どこか据わった目で咲夜に見られてヘコヘコと頭を下げる神とは何なのだろう、と思う。切実に。まぁ咲夜は心が広いから直ぐに表情を緩めたが。

「えっとスズラン?ゆあ達が無事なのって君が助けてくれたから……だよね」 

「もちろん。あの道はボクのテリトリーだからね。……でも、何でボクが助けたって?」

「「「だってリュカ(フィル)は基本緊急事態に頼れないタイプだから」」」

……いや流石にそこまで揃って言われると精神的にキツいんだが。しかも朔はともかくとして、丸とサクヤはハッキリこいうことを言うタイプではない。さてはスズランが言わせたな?

「ナ、ナンノコトカナ……?」

そんなやり取りが延々と続き、結局本題に辿り着くまでだいぶ時間を使ってしまったのだった。
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