竜王の番は大変です!

月桜姫

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本編

30.スズランの頼み事

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「それで、なんだけど」

スズランのその一言で明るかった空気がかちりと固まる。流石に切り替えが早く、スズランの雰囲気が変わったことで自然と咲夜達の表情も引き締まる。

「君達に危害を加えているウィリアムのことなんだけどね、あの子どうもきな臭いんだ」

「まぁ、そうだな」

「だから、んー、追うつもりならとりあえず気をつけて」

「元々そのつもりだよー?」

スズランの警告に即答したゆあ。人を狂わせたり悪魔を呼び出したりとウィルに関して油断してはいけないのは、咲夜達が1番わかっている。

「それで?俺達がここにいる意味はまだなんかあるか?」

「ううん、特にないよ。……気になることはあるけど、うーん、それは話さなくてもいいと思う」

「だったら初めから言うな、聞きたくなるから」

何かを言おうとしてやめたスズラン。一の言葉を聞いて少ししゅんとして、別の話題に切り替える。

「ハジメの言う通りだね。……それじゃ、頼み事を一つ」

「ん?」

「もしカスミソウっていうボクと同じ存在に会ったら、絶対封印して欲しいってこと。わかった?」

頼み事、と言いながら命令のようになっているのは仕方がないだろう。それでもスズランの言葉にしっかりと頷いた咲夜達。

「それじゃあ送るよ。どこにおろしたらいい?」

「あー、ラフィリア城門前で」

「わかった。……楽しんで!」

どうやって送るつもりなんだろう、と興味津々の目で見る咲夜達の前でパチンと指を鳴らしたスズラン。たったそれだけで、咲夜達の姿が掻き消えた。

「堕ちた神は邪神となって万物の敵となる……。フィリアス……サクヤ、ユア、ハジメ。くれぐれも気をつけて。どうか彼らの旅路に幸多からんことを」

ぽつりと呟かれた神の祈りはそのまま加護となって咲夜達を守る。スズランが咲夜達4人に全てを任せたのが吉と出るか凶と出るか、今はまだ誰も知らない。

***   ***

「……最古神スズラン。貴方のおかげでたくさんの危機から"世界"は救われてきた……。けれど、そう何度も上手く行くかしら?

絡まった糸は固く結ばれ、もう解けない。スズラン、貴方が下した判断は全て正しかったと言えるの?

……さぁ、世界の終焉へのストーリーはもう既に始まっているのよ」

くすくす、くすくす。

誰でも持っていて、でも誰もたどり着けない場所。ただ黒色が広がるその空間にいる、何か。その何かは女をかたどっていて。いつまでも、その笑い声だけが響いていた。
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