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第1節
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「義清、あれを見ろ。」
正和に指さされた方を見る。高齢の女性が、重たそうな荷物を抱えながらゆっくりと地下鉄の階段を降りていた。足取りはたどたどしく、ただでさえ暗くなっていく下り道では、いつ足を滑らせてもおかしくない。
「放ってはおけないな。」
そう言うと、義清は女性のもとまで駆け降りた。
「お荷物、お持ちしましょうか。」
「あら、じゃあお願いしようかしら。最近どうも膝の調子が悪くって。」
女性は少し申し訳なさそうに言った。
「任せてください。……っと、結構重いですね。普段からこんなに重いものを?」
「ええ、免許を返納してからね。最近はみんないい顔しないでしょうし。」
「まあ、大事故になってからでは遅いですからね。」
女性は額の汗を拭いながら、悲しそうな顔をした。義清は、現代の医学ではその悲しみを取り除くことができないことを理解していた。
「ありがとう、ここまでで大丈夫よ。」
一番下に着くと、女性は言った。
「そうですか?ではお気をつけて。」
義清は荷物を返して、女性を見送った。
「大丈夫だろうか。」
「降りる駅にはここと違ってエレベーターがあるだろうしな。」
「そうか。なら、俺たちにできることはできたな。」
幼少期から人助けが好きだった、というのは語弊がある。ただ、正和と共に行動したことが、結果的に人を助けていただけのことだった。しかし、それらの行動は、特に大人から感謝され、称賛されることが多かった。感謝されるために行動したわけではないが、感謝されるのは悪い気分ではなかった。
「義清君は正義のヒーローだね。」
小学校の先生に言われたことがある。その時、義清は自分が正義の者であることを自覚した。それからは、特に意識して人助けをするようになった。義清にはそれを実行できるだけの勇気と力があった。
正和に指さされた方を見る。高齢の女性が、重たそうな荷物を抱えながらゆっくりと地下鉄の階段を降りていた。足取りはたどたどしく、ただでさえ暗くなっていく下り道では、いつ足を滑らせてもおかしくない。
「放ってはおけないな。」
そう言うと、義清は女性のもとまで駆け降りた。
「お荷物、お持ちしましょうか。」
「あら、じゃあお願いしようかしら。最近どうも膝の調子が悪くって。」
女性は少し申し訳なさそうに言った。
「任せてください。……っと、結構重いですね。普段からこんなに重いものを?」
「ええ、免許を返納してからね。最近はみんないい顔しないでしょうし。」
「まあ、大事故になってからでは遅いですからね。」
女性は額の汗を拭いながら、悲しそうな顔をした。義清は、現代の医学ではその悲しみを取り除くことができないことを理解していた。
「ありがとう、ここまでで大丈夫よ。」
一番下に着くと、女性は言った。
「そうですか?ではお気をつけて。」
義清は荷物を返して、女性を見送った。
「大丈夫だろうか。」
「降りる駅にはここと違ってエレベーターがあるだろうしな。」
「そうか。なら、俺たちにできることはできたな。」
幼少期から人助けが好きだった、というのは語弊がある。ただ、正和と共に行動したことが、結果的に人を助けていただけのことだった。しかし、それらの行動は、特に大人から感謝され、称賛されることが多かった。感謝されるために行動したわけではないが、感謝されるのは悪い気分ではなかった。
「義清君は正義のヒーローだね。」
小学校の先生に言われたことがある。その時、義清は自分が正義の者であることを自覚した。それからは、特に意識して人助けをするようになった。義清にはそれを実行できるだけの勇気と力があった。
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