転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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キャラダイスの町

冒険者ギルドでの出来事

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・アレックスという男
 キャラダイスという町は自然豊かでその豊かな自然にはぐくまれた野生の動物たちも多く生息している。気候も比較的に穏やかであり農作に適していることから暮らしは比較的に裕福な人が多い町だ。
 生活に余裕があるからこそ冒険者ギルドへ気軽にクエストを出すことができる。町の中で生じる力仕事、警らの仕事、野生動物の駆除、初級のダンジョンである名もなき洞窟。冒険者が育ちやすい土壌が整っている理想的な町であり、冒険者として成功したいのであれば少し無理をしてでもキャラダイスから始めた方がいいと言われるほどの場所だ。
 たくさんの冒険者が集まるからこそ、そのギルドを任されるギルド長も冒険者に舐められないためのネームバリューをもった人物が任されていた。その人物はやれ竜を素手で屠った、やれ巨人を一撃で昏倒させた、やれ得物は武器ではなく王宮の柱だったものを振り回しているなんて噂のある人物であり……魔法至上主義の常識を覆し腕っぷしだけで冒険者として有名になった男。名をアレックス……冒険者を引退し、髪どころか髭すらも真っ白になった60を過ぎてもその威圧感は衰えるどころかどんどん増していっている豪傑である。
 そんなアレックスは今現在、とある冒険者が虚偽の報告を行ったらしいということでフロアに出てきていた。
「それで……? 虚偽の報告と思われる依頼の内容は?」
「こちらです」
 アレックスは依頼の報告書は軽くではあるが全て目を通している。しかし、全ての内容を覚えるのは不可能に近い。受付の責任者から改めて報告書を受け取ってしっかりと目を通す。
「ジェイルとジェリカはここにいるか!」
「はいっここに」
「い、いるわ」
 先ほどまで転んでいたジェリカはローブについた埃を払いながら、ジェイルはそれを助けながら返事をする。アレックスは返事をしたジェリカ達の方へと向き直る。アレックスの眼光に射貫かれると2人は緊張でまともに動けなくなる。
「報告書によると……ギルドが紹介した死霊術士が全く役に立つことなく、それどころか独断での行動が多く最終的にはゴブリンの変異種と思われる敵に殺された。依頼は失敗したが、その責任は問題のある死霊術士を紹介したギルドにある。とあるがこれは事実か?」
「あ、いやー……その」
 ジェイルはアレックスの質問にしどろもどろになる。何か声をあげられただけジェイルは立派である。
「じ、事実よ! 死ぬところは確認していなかっただけで……生還できてよかったわね」
 ジェリカはジェイルの上をいく。アレックスの前で意味のある言葉で自分の意見を言うことができるのは称賛に値する。アレックスはその言葉を聞いて、今度はタヌキの獣人であるタンポポに向き直る。
「死霊術士、報告書内容に異議はあるか?」
「ぼ、ボボ……ボクは独断で行動できるほど強くあ、ありません。か、重ねて、変異種のゴブリンについて報告したいことがあります。変異種のゴブリンの色は白く……霊を食べていました。ボクが役に立たなかったのは事実ですが、それは名もなき洞窟の霊が軒並み白いゴブリンに食べられていたせいです」
 死霊術士から霊を取り上げたら戦闘能力はもちろんのこと、索敵能力や探索能力すべてを失ってしまうと言っても過言ではない。
「う、うそをつけ! そんなゴブリン聞いたこともないぞ! こいつは死霊術士なんて嘘をついてギルドから仕事を不正に得た詐欺師だ!」
 ジェイルはタンポポが会議に上がって来たことで叩ける存在が生まれ途端に元気になる。
「そうよ! そのせいでこっちは死ぬ思いをしたんだから責任を取りなさいよ! ギルド長、タンポポを除名処分にすべきよ」
 ジェリカも畳みかけるのならここだとおもったのだろう。これ以上議論させないためにおとしどころを提示して話を終わらせようとする。
「ジェリカにジェイル……変異種のゴブリンの色は白で間違いないんだな?」
「え、は、はい」
「そ、それは……そうよ」
 しかし、アレックスの関心は変異種のゴブリンに移ってしまう。
「……死霊術士の話は真実だろう。そいつらはドラゴンの巣に住みついているゴブリンだ。ここにいる冒険者が束になっても1匹、2匹を殺すことしか出来ないだろうな。すぐにB以上の冒険者に来てもらえるように要請しろ! 名もなき洞窟関連のクエストも全部剥がせ! あの洞窟の周りに行くようなクエストもだ! 死霊術士、お前の名前と冒険者ランクは?」
「し、信じてくれてありがとうございます。名前はた、タンポポです。ランクはEです」
「そうか……タンポポ、良く生き残って帰って来てくれた。あいつはら雑魚には本気を出さず玩具で遊ぶように弄ってくるとはいえ、やすやす逃げ切れるようなもんじゃない。これからも活躍を期待している。まだ何か報告すべきと思うことがあれば遠慮なく言ってくれ……いや、どんな些細なことでもいい。異常事態だ洞窟で合ったことはすべて報告しろ包み隠さず全部だ。あいつらがここにいるのは異常事態なんだ調査する必要がある」
 受付があわただしく、冒険者の応援要請をしたり、ボードに貼ってあるクエストを剥がしたりと忙しくなり始める。アレックスの言葉に焦るのはジェイルとジェリカの2人だ。タンポポが本当に包み隠さず事実を話してしまったら、立場が危うくなってしまう。
「ギルド長! 聞いて下さい! ほ、報告書のとおり、そいつは好き勝手動いていたのよ。思えば、そいつが怪しい動きをしたあとにゴブリンがやってきた気がするわ……き、きっと何か知ってるに違いないわ」
「そ、そうだ! そんなすごいゴブリンから逃げられたのも偶然じゃなく、お前がここに呼び寄せたからじゃないのか!」
 ジェリカの判断は素早く、タンポポに疑いの目を向けるために声をあげる。それに追随するようにジェイルも声をあげる。周りの冒険者も2人の言葉にざわめき始める。死霊術士や死霊魔法使いは……普通の人には見えないものを見て、見えないものと会話をする。詐欺師がよく死霊術士を名乗り人をだますのだ。死霊術士というのは良い印象を持っている人は少ない。だからこそギルドからお墨付きでもない限りパーティを組もうと思う人もいない。
 周りの反応にアレックスはあきれてしまう。しかし、アレックスも気になることはあった……あのゴブリンがこんな弱弱しい獣人を逃がすのだろうか? 目立つ傷といえば指先の切り傷のようなものぐらいだ。
「静まらんか!!!!!! タンポポ、俺がいうことは変わらない。お前が知っていることどんな些細なことも全て話せ。重要かどうかはこっちで判断する」
「わ、わかりました……」
 タンポポは一部始終漏らさずに話していく。霊が全くいなかったこと、やっと見つけた霊は何かに怯えていたこと、その後に白いゴブリンが出たこと……ジェリカの魔法が全く効かなかったこと。囮にされたこと……
 タンポポが話したことは事実だったが、周りの冒険者はタンポポを信じるのが2割、ジェリカたちを信じるのが7割、決めあぐねているのが1割といった状態でタンポポに注がれる視線は冷たいものだった。
「ボクはダメもとで周りにいる霊に助けを求めました……ごめんなさい。正直に言えば、来てもらった霊を囮にしてボクも逃げるつもりでした。そうしたら、霊が来てくれたんです……ボクはその霊にすくわれました」
「いやいや、待て待て、霊じゃどうにもならないはずだ。あいつらは死霊系なら簡単にくっちまうやつだぞ? そんなやつらから助けられる霊なんて……まさか」
「リッチーロードです」
 周りが一瞬静まり返り……大きな笑いに包まれた。そんなことありえないのだ。ありえてはいけないのだ。ジョークであれば大成功なタイミングで放れてた最高のジョークだっただろう。タンポポの話を真剣に聞いていた冒険者も話半分で聞くような心構えができてくる。笑い声が収まらないうちにアレックスが質問を投げかける。
「真面目な話だ。リッチーロードが本当に出たならBランクじゃ足りねぇ。リッチーロードの目的次第では国家の危機にもなりうる。ますますお前が生きてここに立ってるのが信じられなくなる。リッチーロードがお前と契約でもしたっていうのか」
「そ。そうです……」
「あっはっはっはっはっは。なら、ここにもいらっしゃるのかなー? リッチーロードさんどこですかー? 出来れば俺はころさないでくださーい」
 1人のお調子者の冒険者が茶化し、その言葉に周りの冒険者が更に笑い声やヤジを飛ばしていく。緊張の糸がぷっつりと完全に切れてしまった。
「死霊魔法の最高峰を極めた存在がどうしてお前みたいなやつとわざわざ契約をする……でかいことをいってはぐらかそうとするなら、こっちもしっかりと取り調べをしなきゃいけなくなるんだ」
「ほ、本当なんです……え、あれ、あの、ヤクモさん?」
 アレックスが真面目に話しているのにタンポポはよそ見を始める。アレックスは不信感を抱きながらもタンポポの視線の先を追う。今は使われていない暖炉があった。
 ごどんっっっ!!
 暖炉の少し上、煙突の方から大きな音がする。冒険者たちは再び静まり返る……暖炉の中から真っ黒な何かが現れた。その何かには人型であるにもかかわらず、明らかに脚がなかった。それに気が付いたデキる一部の魔法使いたちが詠唱を始める。
「え!? あのあのあのあのあのあのあのぉ!? や、ヤクモさん!?!?」
「おいおい………まじかよ」
 現れたのは間違いなくリッチーロード。ゴーストやガイストといった雑魚ではない……最強の死霊の一角、疑う余地もない。最強の死霊であるはずのリッチーロードがひざを折り、片手をついて頭を下げている。その光景にアレックスをはじめ、そこにいる全ての冒険者はタンポポの言い分を信じるほかなくなってしまった。
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