あの手紙

ちくわ

文字の大きさ
1 / 1

あの手紙

しおりを挟む

『愛と回帰の手紙』

「はぁ、まーた負けたよ。ホント仲間クソだな。」
2019年 11月 御歳28、佐野零人は家に引きこもりゲームばかりしていた。家の電気も付けず、布団に潜りながらただFPSゲームをするだけ。そんな生活をずっと続けていた。
「…そろそろ仕事しないとなぁ…でも外に出たくないし…」
昔からずっといじめられ続け、内気になり、人間不信に陥り、両親も他界。全くもって外に出られなくなったのである。
佐野は伸びきったカップラーメンをすすりながら言葉を零した。そして徐に立ち上がり、窓際に寄った。
「ち、ちょっと外覗いても…大丈夫、だよな?」
佐野はカーテンを開けて外を見た。太陽が眩しく、日差しに照らされた部屋は酷く汚れていた。
「…やっぱり出るのやめようかな。」
そう思った時、佐野はある物が家の前に落ちているのに気がついた。
「…あれ、なんだろう。」
勇気を振り絞り、佐野は外に出た。正確には外に出なければならない使命感と、あれはなんだろう という好奇心から駆り立てられただけだ。
「…なんだ?」
落ちていたのは 手紙 だった。白くて、少し泥を被って茶色い模様が着いてしまったただの手紙だ。
「家の中で読もっと」
そうして佐野は家の中に戻った。
外にいた時間は計15秒位である。
…………
「…なんだ?これ」
手紙を読んだ佐野は困惑した。書いてある内容があまりにも幼稚でふざけていたからである。

『後悔、怒り、怨念、その全てをここに置いていきましょう!今すぐ、そこにある包丁で首を断ち切ってください!』

佐野はただのイタズラだと手紙を捨てようとした。だが佐野は、その手紙に何故か惹かれたのである。
なぜなら手紙には、 3年前に死んでしまった、唯一の
理解者、一ノ瀬 紅葉 の名前が書いてあったからである。
「…これから先生きてても、何かいい事あるのかな。1度きりの人生は失敗に終わったんだから、2度目の人生があったって良いじゃないか。強くてニューゲーム。燃えるな。」
佐野がそう考えるのは本能的な物だった。
「……この包丁で、首を…」
佐野は動揺した。これが嘘だったら、もし1度で断ち切れなかったら、そう考える度に佐野の手は震えた。
「…やるしかない。このまま生きてても無駄だ。」

佐野は思いっきり首を断ち切った。どこかの本で見た
「人は首を切られても少しの間、生きている」というのを思い出した。佐野は 本当に少しの間は生きているんだな と実感した。

段々と落ちてくる瞼、薄れていく意識、その中で佐野は何かの言葉が聞こえた気がした。

「……を助ける………の、……為に…」

言葉はそこで途切れた。

佐野は 一ノ瀬かな と思いながら 絶命した。正確には

"過去に戻った"

「……ん?」
佐野が目を覚ますと、そこはずーっと佐野が暮らしてきた実家だった。佐野は驚きのあまり言葉が出ない。
(あの手紙、本当だったんだ…)
佐野は今の西暦を確認した。
2000年 8月、佐野は19年前、つまり自分が9歳の時にまで戻ってきてたのだ。
「ほら!早く起きなさい零人!学校に遅刻しちゃうわよ!」
「……少しこの味噌汁、薄くないか?」
「あら、ほんと?今度から気をつけるわ」
あぁ、ああぁ。
いつも通りのやり取り、雰囲気、匂い。

「父さん……母さんも…」
佐野は自分の父、母が生きている事を再確認し、歓喜し、そして自分を責めた。 あの時父と母に縋っていなければ、2人とも死ななかったのに と。

「ほら!早く支度しなさい!」
「…はーい」

… 一応年相応っぽく振舞っておこう。

「いってきまーす」
「行ってらっしゃい!」
用意をして、家を出た。いってきます なんて何年ぶりに言ったのだろう。

佐野は登校しながら考えた。戻ってきたのは良いが、自分は何をすれば、何をしなければならないのだと。
一ノ瀬にまた会える と。

「どうせ、またいじめられるんだろうな。」
佐野はそんなことを思っていた。だが、道端で困っているおばあさんを若い男の人が助けているのを見て、ある人達を照らし合わせてしまった。何度も何度も助けてくれた一ノ瀬と、毎回助けてもらったのにも関わらず全く成長しない 哀れな自分とを。

佐野は決意する。

「…一ノ瀬の様に内気にならず、前世のようにならないように……俺の身体や精神を、人生を壊した5つの出来事を全てクリアする。…絶対に人生を変えてみせる、内気な性格もどうにかして治す。強くてニューゲームだ、得意分野だろ。」

佐野は軽い足取りで学校へと向かっていった。

『再開そして再会』

学校に着いた。同い歳位の男の子達が教室で走り回り、女の子達は何かを話している。その中に一ノ瀬も居た。
(こんなに小3の女の子ってませてるのか…)
そんなことを考えながら、佐野は持ち前の記憶力で今から起こる事を思い出していた。
(そう言えば、この時期位だったよな。いじめられ始めたの。なら一番最初の人生崩壊の出来事は…)
そう思った時、後ろからクラスメイトの男の子がぶつかってきた。クラスの番長、宮本だ。
「…いってぇなぁ。」
宮本はそう言うと、俺に必要以上に近づいてきて、思いっきり殴った。佐野は地べたに這いつくばった。
「…おまえがわるいんだぞぉ」
「…ご、ごめん。」
体格差から、何も為す術なく佐野は引き下がってしまった。
(…このままだったら、前世と全く同じだ。まずは一番最初の出来事、いじめの発端を消そう。)
佐野は動こうとその場を立った。その時、ある女の子が話しかけてきた。
「…だいじょうぶ?」
一ノ瀬だ。あの頃と何ら変わりない、優しく喋りかけてくれる、あの。
「…うん!だいじょうぶ!」
佐野は元気に返事をした。
「…やりかえないの?やりかえさないと、また同じことされるよ?」

「…うん、やりかえしてくる。」
そう言って佐野は、勇気をだして、後ろから宮本の後頭部を叩いた。
「いだっ!」
宮本は叫んだ。佐野は背筋が凍る様な感覚に陥っても、自分の言える最大限の言葉を放った。
「…やめてよ、ぼくはわるくない。」
「…お、おぉ。こっちもごめんな。」
内心は安心していた。

佐野は席に戻った。
(1つ目の出来事、こんな終わり方なんだな。)
そう思っていた時、一ノ瀬が近づいてきた。
「…ちゃんとやりかえせるんだね。すごいよ。」
「へへ、ありがとう。」
佐野は色々な思いを込め、本心からその言葉を言った。
それからも一ノ瀬とよくつるむ様になり、内気な性格をアグレッシブな性格に強引に変えた為か、一ノ瀬だけでなく、周りの友人も沢山増えた。もう前世とは全く違う。
「れいと!あのゲームかった??」
「いーや、まだかえてない!」
「おれたち、きょういえであそぶから、れいともこいよ!」
「うん!」

一一一一一一一一一
2001年 3月

「…もうしんきゅーだね。」
「…そうだね。れいととはなればなれになっちゃうのかな、やだ。」
「ぼくもやだ。」
「だよね。」
そんな言葉を一ノ瀬と交わした。そして佐野は4年生に進級した。4年生、5年生、6年生と同じ様に佐野は進級して行った。一ノ瀬とも、周りの友達とも上手く付き合え、そのまま中学に入学した。2つ目の出来事はまたここで発生する。

『理解と権威』

2003年 4月 

「…同じクラスだ!一ノ瀬。」
「…ほんとだ!やったね、零人!」
中学1年生となった佐野は変わらず元気で皆に振舞った。直ぐにクラスメイトと仲良くなれた。一人を除いて。3年間変わらないクラスの代表もやったおかげかクラスで、"悪い所の無い宮本的存在"になれた。そうして中学2年生…

(来た。2つ目の人生崩壊の出来事。あいつのせいで…
俺は…)
佐野の後ろの席には、前世で佐野の事をある事件の犯人扱いをして、一気に地獄へと突き落とし、クラスの象徴へと上り詰めた 横山 が居た。
「…なんだ?」
「いや、別に何も。」
「…こっち見んなよ…」
「…」
佐野は横山とだけはどうしても仲良くなれなかった。
一ノ瀬や皆も仲良くなるのを手伝ってくれてはいるが、全く進展のないまま、 あの時 が来た。

「えー、このクラスの給食費全額が、何者かによって盗まれました。犯人はこの中にいると思います。」
その事件、そして担任の教師が犯人探しを開始した。
(あの時、横山は…)
思い出していた時、横山が言葉を放った。
「…せんせ~、俺見ちゃったんすよォ、こいつが放課後に皆の給食費盗んでるところォ」
…横山はしっかり俺の方に指をさしていた。
「…そうなんですか?佐野君。」
勿論佐野は勇気を出して弁明した。
「…違うに決まってるじゃないですか、第1、僕はお金に困ってませんし、そんなことする理由もありません。」
「…零人君は絶対にそんなことしません。」
一ノ瀬が言葉を足しつけてくれた。
「そうだ!証拠も無いくせに!」
「そう言うってことは、本当はお前が取ったんだろ!」
それにクラスの皆が俺の意見に賛同した。
俺は、全員で同じ言葉を言えば、それが正しいみたくなることや、俺は絶対にやらない、でも横山はやるかもしれない。そんな固定観念に囚われたクラスメイトを見て、俺は微量の恐怖を感じた。
「…ちっ、なんなんだよこいつら、気持ち悪ぃな。」
横山は教室を出ていった。横山の気持ちが痛みほど分かる自分がいる。だが教室から上がる歓声、ざわめき、追討の声。佐野は横山に声をかけることが出来なかった。

給食費は、やはり横山が盗んでいた。理由は詳しく知らないが家が貧乏らしく、お金が必要だったらしい。
そんな理由を聞いてもクラスメイトは批判を続けた。
「…皆、もう横山の陰口や批判を続けるのは辞めないか?」
佐野はどうしてもこの状況が気に入れず、言葉に表してしまった。
「…零人……」
一ノ瀬も少し言葉を零したようだが、よく聞こえなかった。
「そ、そうよね、悪口は良くないもんね!零人の言う通り!」
俺が言えばその意見になる、自分が持つことなんてなかった「権力」が今、自分にあること、すぐにでも今現在の未来を変えられる能力を持ってしまった自分、持たせざるを得なかったクラスメイトに佐野は嫌気がさした。

唯一理解してくれる一ノ瀬を除いて。

横山は学校に来なくなった。何の影響かは知らないが、皆"横山が居た席"に向かって労いの言葉をかけていた。
俺と横山の立場が逆転し、横山が今度は学校に来れなくなり、自分がクラスの象徴へと上り詰めた。
俺は心底横山に同情の意を送った。
「…横山君は確かに悪いことをした。それは拭えないよね。」
一ノ瀬は俺に耳打ちでそう言ってきた。
「…あぁ、全くだ。」
それから月日が経った。

『価値ある選択』

2006年 8月

「…あっついなぁ…」
「…ほんと、あっついねぇ~。」
佐野と一ノ瀬は"月極高校"に入学。高校1年生は周りに知っている人も居たが、比較的あまり目立たない様に、だけど内気にはならない様に暮らしいてた。そして今高校2年生の夏、俺は一ノ瀬へ誰もいない教室で告白し、成功したところだった。本当は屋上が良かったが、カップルっぽい先客が居た為教室に決めた。
「…なんでOKしてくれたんだ??」
「…単純に好きだったから?」
「…うし。」
素直に佐野は喜んだ。前世なら絶対に叶わぬ恋だったから尚更だ。
今なら屋上が空いてるかと見に行くと、二人のカップルが階段を降りてきた。近くで見ると同じクラスな事が分かった。なんだかカップルっぽくないが、気のせいだろうと追求しなかった。そして佐野と一ノ瀬は屋上に行き、小一時間程度時間を潰した。
「……なあ、次から"一ノ瀬"じゃなくて"紅葉"って呼んでもいいか?」
「…良いよ。その代わりに条件がありまーす。」
「条件って?」
「…私にも、零人って呼び捨てで呼ばせて。」
「ははっ笑そんなことか笑、良いよ。」
「……うし。」

そうして8月、零人と紅葉はある光景を目撃する。
クラスメイトの男が隣の席の女の子に何かを投げつけたりしている。
「…あそこ、、止めなきゃ。」
「…絶対ダメ。あの人に目をつけられたら。」
「…分かった。」
あの男と女の子の事はよく知らなかったが、
男名前が田中悠希、生粋のいじめっこ、女の子の名前が佐々木仁子、いじめられっ子と言う事は分かった。

零人と紅葉は見ていることしか出来なかった。中学の、そして今この光景を見ている他のクラスメイトと同じく。

もう内気な性格では無いことから、3つ目の事件は解決する必要がなくなってしまった。
そして2007年 2月、零人は4つ目の出来事について考えていた。

『勇気の底力』

(この時期だよな。俺の母さんと父さんが死んだの。)
零人は内心ドキドキしていた。自分にその未来が変えられるのかどうか。

「うわあ!」
父さんが叫んだ。ぎっくり腰か何かをやったらしい。
「もう…何をやってるんですか…」
「すまない…」
「零人、頼んでも良い?今湿布とか切らしてるから、諸々薬局に行って買ってきて欲しいの。」
「うん、良いよ。」
「ありがとう!じゃ、お願いね!」
そうして零人は家を出た。だがその足は薬局には向かわず、家の近くの物陰へと伸びて行った。
(あの時俺が薬局に行って、帰ってきたらもう父さん、母さんは有名な殺人鬼の被害にあって死んでいた。)ここは行っちゃダメだ。

その時、背後から気配がした。恐る恐る後ろを振り返り、身を引きながら戦闘態勢に入る。が、そこに居たのは紅葉だった。
「…ここで何してるの??」
「…待ってるんだ。」
「……待ってるって、もしかして、殺人鬼とか??」
「え、うん、そうだよ。よくわかったね?」
「零人の考えなんてお見通しだよ。」
「そ、そっか。」
零人は対して疑わなかった。そうして家の方を見ていると、ある怪しい男を紅葉が見つけた。
「…あれ、例の殺人鬼じゃない?」
「…本当だ。」
「……紅葉は帰って良いよ、危ないし。」
「じ、じゃあここで見てるよ!」
「分かった。」
怪しい男の後ろを付ける様に零人は歩いていった。
バレないように、そーっと。
そして家のドアの前に男が立った。そして腰元からバールを取り出し、思いっきりドアを壊して入っていった。
両親は慌てふためいて逃げるように家の角に寄った。
(……絶対助ける。勇気を振り絞って…行くぞ。)
殺人鬼が両親に注目している間に、俺は殺人鬼の背中を思いっきり蹴った。
背筋が凍りつき身体が動かせなくなるくらい気を織った。
そして俺は殺人鬼が倒れてる間にキッチンにある包丁を手に取り、両親に外へ逃げる様誘導した。そして、殺人鬼と対峙した。
「………」
殺人鬼は終始無言で、たまに右手に握るバールを握り直す事しかせず、ただじっと立ちすくんでいた。

内気な性格から強引にアグレッシブな性格に変えたおかげで勇気度などの心の強さだけでなく、身体能力もある程度上がっていた。
宮本の後頭部を思いっきり叩いた時みたいに…横山の意見に弁明した時みたいに…一ノ瀬、いや、紅葉に告白した時みたいに、精一杯の言葉を発した。

「…来るなら来い、殺人鬼。」

殺人鬼は急に動き始め、思いっきりバールを振りかぶり俺に攻撃してきた。
前世でFPSゲームをやりこんだおかげか、攻撃がよく見えた。
上手く殺人鬼の懐に潜り込み、あとは包丁で切りつけ、刺すだけだった。だが零人は躊躇してしまい、浅い傷しか付けられなかった。
「…殺す…殺す…」
ビビりながらも零人は集中していた。今度は自分が死なない為に。

零人が殺人鬼を攻撃しようとした時、急に殺人鬼が倒れた。
警察だ。警察が来た。その他にも、家族や野次馬、そして紅葉が居た。
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
気張りすぎたのか、零人はそこで気を失ってしまった。


起きると、周りに両親が居た。両親は泣きながら俺に心から許しを乞う様に謝り続けていた。
「…父さん母さん、俺は大丈夫だよ。怪我もない。ありがとう。」
両親は泣き崩れた。こんなにも泣いてくれる人を守りきった事に対する優越感と、4つめの出来事を解決した事に対する達成感に満ち溢れていた。
そこに紅葉も居たが、声をかけることは無かった。

そして高校卒業後、様々な困難に立ち向かっては解決し、前世では考えられないほど零人は成長した。1人の人間として。

そして零人と紅葉は22歳になった。

『真実』

2014年 8月 零人と紅葉はまだ、交際を続けていた。
「…今日で丁度8年目だね。」
「…そうだな。」
「仕事の方は大丈夫?」
「ああ、バッチリだ。もう昇進も確定してる。まだ25なのにな笑」
「すごいよ、零人は。」

零人は自分が今何故25歳なのか、何故仕事をしているのか、何故自分が今こんなに幸せなのかについて、忘れていた。が、紅葉の一言で一瞬で全てを思い出した。

「零人、話があるんだけど、いいかな?記念日だから言おうと思った。」
「良いよ、どうしたんだ?」
「実は…」
零人は内心ドキドキしていた。8年目の記念日、そしてこのしどろもどろ感、興奮せざるを得なかった。
だが一瞬にしてその幸福が零になった。

「…私、ホントなら今日、死んでるの。」
零人は全て思い出した。そして、何故今日自分が死ぬのかを紅葉が理解しているのかという事に、震えた。
「…え?なんで…そんな。」
「……やっぱり言わなきゃダメだと思って。」
「…それはわかるけど、なんで紅葉は今日自分が死ぬ事が分かってるんだ?」
「…実はね」

『私、何回も何回もこの人生を繰り返していたの。』

零人は理解出来なかった。何回も?繰り返す?訳が分からない。

「…何回も繰り返していた?どういう事だ?そんなこと……」
零人は"何故自分がここにいるか"の根本を思い出した。首を包丁で断ち切って、ここに来た。タイムスリップした。という事は、紅葉も…

「…25歳になる度、首を断ち切って過去に戻っていたのか?」
「…そうだよ。10回、20回って。」
「なんの為にそんな……」
「…零人の為なの。」
「…俺の為?」
「そう、覚えてないかもしれないけど、私は5歳位の時、木にかかった風船を零人が取ってくれた。私は単純だからそれからすぐに好きになった。けど零人は何処にいるか分からない。だから諦めようとしてた。でも小学3年生の時、零人と同じクラスになって、また好きになったの。ずっと好きだった。」
「……」
記憶力の良い零人も、覚えていなかった。
「…だから零人が28歳、人生の全盛期、そんな時に、家の中にひきこもって、未来が見えない様な生き方をせざるを得なかった事を見過ごせなかった。だから零人が今みたく幸せに生きれるように、私の勝手で行動したの。」
「そうだったのか……」
「1つでもおかしな所があればあの酷く虚しい未来になった。だから、私はずっと首を断ち切ってきたの。何回も何回も。ただの私のエゴで。」

1つ疑問が生じた。
「一番最初にタイムスリップした方法はなんなんだ?」
「……過去を変える前の世界で、私は零人の両親が殺人鬼に殺される所を見てしまったの。その時、私も一緒に…そこで過去に来たの。だから零人はまだ1回しか回帰してないから、私が殺人鬼に殺された記憶もない。」
「…それから、ずっと自害し続けたのか?俺の為だけに。」
「…うん。」
「…俺が引きこもりになったのは、紅葉が死んだ事でなんだ。だから、俺が回帰する以外で、紅葉の助かる術はなかった。」
「…それでも良かったんだよ。零人の為なら。」


全ての辻褄があった。

――――――――――――――――

宮本に殴られた時も…

『やりかえないの?やりかえさないと、また同じことされるよ?』

「…うん、やりかえしてくる。」

横山に犯人に仕立てあげられそうになった時も…

「…違うに決まってるじゃないですか、第1、僕はお金に困ってませんし、そんなことする理由もありません。」

『…零人君は絶対にそんなことしません。』

『…横山君は確かに悪いことをした。それは拭えないよね。』

高校2年生の時、クラスで男が女の子をいじめていた時も…

「…あそこ、、止めなきゃ。」
『…絶対ダメ。あの人に目をつけられたら。』
「…分かった。」

(あの二人は、その後1人は転校し、1人は学校を辞めた。そして、1人は自殺し、1人は終身刑に。)

俺が殺人鬼と対峙した時も…

警察だ。警察が来た。その他にも、家族や野次馬、そして紅葉が居た。

紅葉はきっとあの時、警察を呼んでおいてくれたんだろう。5分もかからず警察が来たのは、今考えれば早すぎることだった。そして俺が起きた時も声をかけなかった。全部俺の為だったんだ。

そして、俺が回帰する素因となった "あの手紙"

『後悔、怒り、怨念、その全てをここに置いていきましょう!今すぐ、そこにある包丁で首を断ち切ってください!』
 
この手紙も、俺をこの現状から救う為に、俺にくれたんだ。なのに俺は25歳から一向に家から出ず、ずっと家に引きこもっていた為、手紙をくれてる事にも気づかなかった。

「俺がもっと早く気づいていれば、紅葉が長く苦しむこともなかったのに。」
「ごめんな。」
「…零人は悪くない。悪いのは零人をいじめる元となった宮本、貶めようとした横山、零人の両親を殺して、零人の前世では私も殺され、零人が引きこもる決め手となった殺人鬼。」
「……」
「だから、零人が解決しようとしていた、5つの出来事も知ってる。」

『私が死なずに零人と共に生きる』

「これで、5つ目の出来事が解決した。だからもう私が死ぬ事もない、零人が前の様に内気で引きこもる心配もない。」

「こんなにも俺に尽くしてくれて、ありがとう、ありがとう…」

零人はその場で泣き崩れた。あの地獄から開放されたからなのか、罪悪感からなのか、零人にも分からない。


『絶望』

あれから10年が経った。俺も紅葉も35歳になり、結婚した。若い頃の出来事や過ちは全て良き思い出となって両者の記憶を馳せている。新しく家を買い、様々な家具やハスの花、アイビーの花等も飾っている。当たり前の様に、紅葉がくれた、"あの手紙"も。

「…あ、やばいどうしよう。銀行行ってない…」
「行ってこようか?」
「いいよいいよ!仕事で疲れてるんだし、私が行って来る!」
「そう?じゃ~お願いしようかなあ~」

「じゃ、行ってくるね」
外出する用意をして、その一言を残し、家を出た。

そして帰ってきた時には、遺体として、帰ってきた。

『希望』

「なんで……なんで…」

交通事故により、紅葉は他界した。当たり所が悪く、即死だったらしい。
葬式にはクラスメイトや家族等も来ていた。

「…紅葉さんを、守りきれませんでした。」

俺は家族に謝った。誠心誠意を込めて。

皆、泣いていた。俺のせいで。俺が守れなかったせいで。

家に帰ってきた。1人で。途方に暮れ、俺は1人で床に座った。
「……」
当たりを見渡しても、誰もいない。紅葉と一緒に買った家具や、ハスの花、アイビーの花、そして"あの手紙"しか。

「手紙……あの、手紙…!」

あの時紅葉が俺にくれた、『誰かを助ける為の手紙』

「紅葉は、この未来も知ってたのかな。こんな未来、誰も幸福にならない。こんな世界、ダメだ。」

額縁から手紙を取り出し、中を読んだ。

『後悔、怒り、怨念、その全てをここに置いていきましょう!今すぐ、そこにある包丁で首を断ち切ってください!』

そこにはしっかりと 一ノ瀬改めて佐野紅葉の名前が記されていた。

「何回でも…20回、30回でも。」

――――――――――――――――

『佐野は思いっきり首を断ち切った。どこかの本で見た
「人は首を切られても少しの間、生きている」というのを思い出した。佐野は 本当に少しの間は生きているんだな と実感した。

段々と落ちてくる瞼、薄れていく意識、その中で佐野は何かの言葉が聞こえた気がした。

「……を助ける………の………為に…」』

――――――――――――――――

『絶対に紅葉を助ける。ただの俺のエゴで、ただの俺の罪滅ぼしの……絶対に…絶対に…紅葉の為に…今度は俺がやる番だ。』
























『愛の手紙』

「これで、何回目だろうか。」
「俺が紅葉を守れば俺が社会的に死ぬ。紅葉が俺を守れば紅葉が精神的死ぬ。」

「…どうすれば良いんだろう。」

24回目、愛する妻がいなくなった家でまた、手紙を見た。

『後悔、怒り、怨念、その全てをここに置いていきましょう!今すぐ、そこにある包丁で首を断ち切ってください!』

「……二人で、首を…」
零人は閃き、また回帰した。
そしてこの時が来た。2人だけの家で、2人だけの空間で。
「…紅葉、話があるんだ。」
「話?話って何?」
あの時、紅葉が俺に言ってくれた様に…

「…紅葉は、ほんとなら今日、死んでるんだ。どれだけ防いでも何かの理由で絶対に死ぬ。」
「…あの時と逆だね。」
「ああ。だから俺に提案があるんだ。」
「…提案?」

『2人で同時に首を断ち切ろう。』

「…2人で、この呪縛から解き放たれよう。」

「……首を断ち切ればタイムスリップする。そしたら、お互いタイムスリップしたことを知ってる。絶対助けられるんだ。」
「…うん。私もそうするのが良いと思う。」
「…今度は失敗しても、1人じゃないしね。」
「零人が居る。紅葉が居る。」
「だから、一緒に行こう。何回でも。」
「行こう。何回でも。」

2人は同時に首を断ち切った。零人は紅葉の首を、紅葉は零人の首を切った。何回も繰り返しているから、2人とも切り方が上手くなってる為、綺麗に切れた。痛みもなく。

切断され、この世界でまだ意識があるうちに、2人は言った。


『愛してる』








しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

萌那
2022.01.27 萌那

いいね!

2022.01.27 ちくわ

ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。