インフレーション・プロトコル

咲花楓

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ドーナツ

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「ねえ、ドーナツってさ。終わらないじゃん。」
「……え?急に何を……」
 曲がり角でぽつんと光る小さなカフェ。皿に乗ったそれを見上げながら目の前の君は言う。
「ほら、ドーナツってさ。穴に沿って回っても、こう穴に入っていってもさ。終わりがないじゃん。こう、ぐるぐる回って。」
「大抵の物はそうだと思うぞ。」
「まあ、そうなんだけどさー。まるで宇宙みたいとか、なんかそんな感じしない?」
 漠然とした言葉に思わず出かかった言葉を飲み込む。
「くだらない事を言ってる暇があったらさっさとその馬鹿な口をドーナツで塞いだらどうだ?」
「はぁ?あんた今私のこと馬鹿って言った?」
 あぁ、面倒だ。不思議な話に付き合わされたと思ったらそれっきり、何か言えばすぐにこうなる。
「わかった、僕が悪かった。」
 浅く残ったコーヒーの苦味を噛み潰しコーヒー代を机に置く。重い脚で立ち上がり出口へと向かう。
 開いた扉から差し込む暖かな光に少しずつ焼かれる。明日は雨、微かな香りが鼻につく。
 トカマク型。円に沿って動くトロイダル方向も、深淵へ堕ちていくポロイダル方向もいずれは元に位置に戻る。そして、それを繰り返す。
 そこに終焉も、果てもない。あるのは悠久の、久遠の空。我々生物が夢見る空想。そんなものにも興味はないと、僕は必死に目を逸らす。車が、人が走り続ける。今この時も地球は回っているし、宇宙は動き続ける。自分自身の行き着く先も知らぬまま、ただ時を眺める。
 そんな流れに逆らうように、バイブするスマホをポケットから取り出した。
「あぁ、いつものカフェで。今、向かっているよ。」
 未だ苦味が残る口で答える。
 伸ばした手で扉を開ける。ベルが鳴る。
「やぁ。いつものは頼んでおいたよ。」
 目の前のテーブルに置かれるドーナツとコーヒー。一口を口に運ぶ僕は、見上げる君を見ていた。
「ねぇ、ドーナツってさ。終わらないじゃん。」
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