インフレーション・プロトコル

咲花楓

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ヘリカル

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 翻した多面体の奥で、世界は今日も廻転を続ける。くるくる回って、ぱん、と弾ける。それを繰り返す。誰も気付かぬまま、誰も知らぬまま。

 ただ一人、僕だけが逆らっていた。落ち続ける世界に対して上がり続けているとでも言うべきか。後戻りなどとうにできなかった因果に、僕は一人でしがみついている。
 コーヒーカップの淵をなぞって気付いた違和感、その円環が教えてくれた世界構造。これ以上、廻り続けるわけにはいかなかった。
 彼女がトカマクを頬張るより先にドアを開ける。見渡す世界は愛も変わらず、ただ僕を中心に回っているようだった。
「始まり」を認識しなければ。ここに来るよりずっと前。僕が家を出た動機、その先に待つ理。全てを僕は知っているはずだ。必死に手繰り寄せるそれは自然と消え去る。何も、思い出せないのだ。
 違う、そんなはずはないと否定しても、あるのは何も思い出せないという事実だけ。他には何も無かった。歩き続ける足は自然と、またあのカフェへ辿り着く。
 閉じ込められた気分だ。どうしてこう、終わらないのか。そんな疑問を今になって抱いたところで、結局どうにもならない。ゆっくりと扉を開け、もう見慣れたあの席へと座った。
 今にも冷や汗が噴き出そうで、身体が異様に震えている。そんな僕を知らない、いつもと変わらないはずの君は柔らかく声を流した。
「あなたは、誰?」
「そんな筈がないだろう、わかるだろ。僕が。」
 腕を掴んで引っ張って寄せる。胸元へ持ってきた手はぴくりとも震えず、ただ淡々と言葉を連ねた。
「あなたは、因果を変えられる?」

「この世の理に、逆らえる?」

 何を言われているかもわからないまま、ただ見つめる彼女の目の奥の宇宙を手に収める。真っ暗で見えようがなくて変えられない世界。そんな自然なものを前に、僕はこれからどうすれば良いのか考えた。

 とっくに気付いていた。ここが世界なんかじゃないこと。円環は常に逆に向かって進んでいることを。

「あなたは、夢を見てるの?」

 その言葉に、僕の目は今度こそ醒めた。
 目覚めた瞬間は、肌を刺すように痛かった。|《》
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