インフレーション・プロトコル

咲花楓

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エントロピー

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 膨れ上がる熱に体を押され、弾けるように夢の世界から放り出される。
 ようやく、あの円環から抜け出せたのだと瞬時に理解した。しかしどこか寂しい。
 ふつうなら憶えていないような浅い眠りの狭間の記憶。僕は確かに、そこに彼女がいたことを思い出す。
「ドーナツがどうとか、あいつらしいな。」
 彼女と再び出逢えた事が、懐かしくて嬉しかった。きっとこころのどこかで、あのドーナツの中に閉じ込められたままでいいと、そうとすら思っていた。
 未だ雨の降りしきる冴えない空を傍観する。世界は絶えず廻り続けている。雲の流れを見つめて、改めてそう感じた。この世界を一方向に歩き続けたところで、終わりはあるのだろうか。
 ふと思い出す、あの世界のこと。目が覚めるあの一瞬だけ、確か見えた世界。トカマクに幽閉された僕と彼女。
 ……いや、きっと、「僕が閉じ込めていた」。彼女だけを救えなかった。
 世界の理は、朽ちることなく増大を続ける。そうやって勾配に従って、減少とカオスは終わりへ向かう。そして始まる、何度だって。
 もう何度も回り続けた、こうして文章のように書き連なる言葉の中にも何度も「廻転」の文字が回る。それでも、ヒトの思考はヘリカル型に従う。何度も考える度に終わりへと近づく。世界とは、宇宙とはそういうふうにできている。

 だからこそ、僕はたった一人で止まったままの君の夢を見ていた。まるで人じゃないみたいだった。あの冷たさ、無機質さ。凍るような虚しさ。
「神様みたいだ」なんて、馬鹿げていた。

「あなたは、因果を変えられる?」
「この世の理に、逆らえる?」
 思い出した言葉が反響する。
 
「できるさ。」
 そんな膨れ上がった言葉にまたも体を押され外へと飛び出す。エントロピーを遊泳するように流されていた。大丈夫。このまま流れていけば、彼女の元にたどり着ける。
 だってこれも、夢なんだから。
 
「やけに頭の冴える夢だな。」
 体を抜け落ちていく雫たちが、僕が夢を見ている何よりの証拠だった。
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