空へ、落ちる

咲花楓

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何気ない、それでいて味気ない日常

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 明るく夜空を照らす、数多の光。
 そらに浮かぶそれは星のように、ただ私たちを照らす。
 憧れも期待も、全てはあそこから始まった。
 ――
「本日のパイロット出動数は……」
 朝。太陽に照らされる地上は光を反射する。それは天然の光であり、生物の祖。不可欠かつ鮮明なそれは今日も私たち人間を生かす。もちろん、それ以外も。
 しかし、それ以上に存在感を放つものがある。上空百五十キロメートル、だったか。宇宙に建設された軌道エレベーターと呼ばれるその巨大な建造物は、宇宙へと進出した者と私たち地上の人間とを繋ぐ一つの橋となった。
 円環上に広がるステーションに、それらを制御するモジュールの数々。それぞれが光を放つそれはまさに、一つの星のようだった。
 人類が宇宙の資源に頼り始めて早二百年、もうあれは私のおばあちゃんの生まれる前からとっくにあったらしい。
 誰にとっても当たり前で、普遍的。そんな日常の一部である。だからこそ、私達はずっと見てきた。
 宇宙という不明瞭なものに恐怖を覚えるか、憧憬を見るかは人の自由だ。
 空を見上げ、その言の葉ひとつひとつを手に取る。
 ただ、私は知りたかった。あの上に、先には、何があるのだろうか。宇宙は、自由なのだろうか。
 それだけを知りたかった。手を伸ばしても、届かない。あの星々を、星空を。追いかけるには、まだ少し遠過ぎた。
 
 怠いくらいの快晴に焼かれる私は、未だ空を眺めていた。
 明るく輝く星の成り代わりを。
 俯く。何も見ないように。夢だなんて、高尚な物でもない。ただその憧れは、憧憬は、きっと何者にも変え難い、だからこそ閉じ込めておくべきくだらないものなのだろう。
 熱を纏ったアスファルトを踏み締める。蝉時雨に包まれる、午前八時。昨日の雨が、まだ葉から滴っていた。ひんやりとしたものを感じる。
 靴に入った砂利が気になる。靴を脱いで外へ落とそうか、しかしそこまで気になる物でもないなと一粒の違和感を靴の隅に追いやる。
 いつもの道を、いつもの雑念混じりに歩く。
 海岸線は、そんな私を潮風でそっと撫でた。慣れ親しんだ潮の香り。それはいつも通り、私を学校へと連れて行く。流れて行く。
 これが、普通なのだと。

「おい、青木。進路は決まったのか?」
 私の前で言葉を漏らすのは担任の廣瀬。おじいちゃん、と言うほどでもないがそれなりに歳はとっている、眼鏡をかけた気の良い男だ。
 彼は知っている。私が進路調査表を出していないことを。
「進学、しないのか?お前の成績ならそれなりのとこに行けるとは思うが……」
 不思議そうに私を見つめる。でも、お前の気持ちを尊重したい、なんてそんなことを言い出しそうだ。
 進路。それは今後の人生のレールであり自分が敷く物。なりたい自分にとっての最重要事項であり、それは人生そのものだと言っても過言じゃないのかもしれない。
 だからこそ嫌なのだ。今後が決まってしまうのが。
 私はただひたすら自由に、奔放に生きたい。自分にすら決められない、そんな人生を。
「自由とは何なのか」みたいな、いつかの授業を思い出す。中学生の頃だったかもしれない。
 よく考えてみれば自由とはよくわからないものだ。何者にも縛られないことか、しかしそれでも結局自分自身に縛られることになる。
 広く哲学的で、それでいて不明瞭。まるで宇宙のようだ。そう、宇宙。
「……先生は、宇宙って自由だと思う?」
 ふと、思い浮かんだそれを口にする。
「宇宙、か……誰にも支配されていない、というイメージはあるだろうが、実際人間はどんどんと進出してる。そこまで自由なものではないとは思うなぁ。」
 2人きりの進路指導室、少し気まずい空気を吸い込む。
「まあ何にせよまだ夏、だが、もう夏だ。少しでもいいから進路はしっかりと考えてこいよ。」
「はーい」
 なんて適当に返事をしてみたところで、先の事を考える気にはなれない。
 別に、自分の将来に望みがないわけじゃない。それでも、何か理解のし難いそれに、真剣に向き合うことができない。
 このままで大丈夫なのか。そんな気持ちは不思議とあまりなかった。

 ただあったのは、漠然とした憧憬、ただそれだけだった。
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