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空へ、落ちる
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「初任務、頑張ってね。地球から応援してるから。」
無機質な通路の脇、パイロットスーツに身を包んだ小柄な少女……いや、梨奈が微笑む。
「うん、ありがと。雫さんこそ、サポートよろしくね。」
「わかってる。」
いつものように調子よく言葉を交わす。
そんな朝。空は段々と明るくなり始めている。
来る朝焼けに備え車椅子のレバーを倒し、彼女に背を向ける。
ふと、バッテリーが残り少ないことを示す赤いランプが付いているのが見えた。
「バッテリー、取り替えなきゃな。」
残りの残量で行けるかは不安だが、とりあえず自室へ戻ることにした。
あの事故の後、幸運なことにISEAは私をオペレーター室へ移動させてくれた。
どうやら同じように事故などでパイロットを続けられなくなった人が何人かいるようで、すぐに馴染むことができた。
思えばもう四年。時間の流れは早いもので、彼女の成長を見届けるのにはあまりにも短すぎた。
私一人だけのエレベーターでボタンを押す。向かっているのは社員寮。
立ち並ぶドア、やがて見えてくる『杠』の文字。顔認証でロックを外し、ドアを開ける。
自動で付く明かりは足元を照らす。まだ肌寒い空気が外へと放出され、それはやがて交じり合う。まるで、私たちの憧れのように。
部屋へと入り、ベッドの横、コンセントに刺さっているバッテリーを取る。車椅子に付いた容量のないバッテリーを取り外し、新しいものに替える。
「よし。」
ランプが青くなった。きっとこれで3日は持つ。
続いて私は光を反射する写真立てにそっと目をやる。薄暗闇の中でも鮮明に輝いていた、いつかの記録。
そこには、笑い合う、私と彼女が写っていた。
二人で集めた思い出。あの時、水族館で初めて撮った二人の写真もある。まだ彼女の表情が硬い。こんなときもあったなあと、昔の事を思い出す。
「ふふっ。」
思い出しては一人、笑う。
この懐かしさも、記憶も全部。あなたが隣にいてくれたからだよ。
「ありがとう。」
握られた手の感触を思い出す。あのときの温かい気持ちのまま、部屋を後にした。
「ドライバ、アクティブ。ホバーエンジンの起動を確認しました。」
「エレベーター、射出システムオンライン。ロックを解除します。」
無線が繋がっていることを示す緑のランプ。あの日私の見た、こちらの景色。今日は快晴、調子は良好だ。
『機体の確認取れました。接続を維持します。』
聞き慣れた声が響く。もう、準備は万全だろう。
マイクの位置を調整し、ボタンを押す。個人無線モードへと切り替えられた端末は、私の声だけを彼女に伝えた。
「梨奈ちゃん、準備はできてる?」
『……正直、まだ怖いです。』
それはそうだ。危険なことだし、何があるかはわからない。
それでもずっと感じていた、初めて会ったあの日からずっと見えていた憧れを信じたい。憧憬を目の当たりにするのに、準備なんてものはいらないと言わんばかりに。
何回転んだって、折れかけたって。ずっと私がいた、あなたがいた。
「大丈夫、梨奈ちゃんなら。」
いつか買ったお揃いのペンダントを握りしめる。手は握れなくても、これでずっと繋がっていられるように。そう、二人で決めたから。
「ちゃんと戻ってきますから、雫さん。」
エンジン音だけが響く。
「だから、待ってて。」
憧れは、もうすぐそこ。あのときの、空へ落ちようとしたあの続きを見せて。
『発射準備完了。青木、行けます!』
「機体番号MB-100014、発射準備!」
ああ、これからあなたの目には何が映るのかな。楽しみだ。
「発射まで、5、4、3、2……」
――
すぐそこに見えるのは、いつかの輝き。
ずっと夢見た瞬間が、見上げてきた空が、すぐそこに。
手を伸ばしても届かなかった、あの青い夏。
偶然出会った彼女。でもきっと、偶然なんかじゃなかったと思う。
私の、あなたの憧れも全部背負うから。
あの日あなたが見た景色を、私にも見せて。
きっと、全部間違っていなかったと。
そう、自分を信じられるように。
「見ていて、雫さん。」
私は、今。
「空へ、落ちる!」
無機質な通路の脇、パイロットスーツに身を包んだ小柄な少女……いや、梨奈が微笑む。
「うん、ありがと。雫さんこそ、サポートよろしくね。」
「わかってる。」
いつものように調子よく言葉を交わす。
そんな朝。空は段々と明るくなり始めている。
来る朝焼けに備え車椅子のレバーを倒し、彼女に背を向ける。
ふと、バッテリーが残り少ないことを示す赤いランプが付いているのが見えた。
「バッテリー、取り替えなきゃな。」
残りの残量で行けるかは不安だが、とりあえず自室へ戻ることにした。
あの事故の後、幸運なことにISEAは私をオペレーター室へ移動させてくれた。
どうやら同じように事故などでパイロットを続けられなくなった人が何人かいるようで、すぐに馴染むことができた。
思えばもう四年。時間の流れは早いもので、彼女の成長を見届けるのにはあまりにも短すぎた。
私一人だけのエレベーターでボタンを押す。向かっているのは社員寮。
立ち並ぶドア、やがて見えてくる『杠』の文字。顔認証でロックを外し、ドアを開ける。
自動で付く明かりは足元を照らす。まだ肌寒い空気が外へと放出され、それはやがて交じり合う。まるで、私たちの憧れのように。
部屋へと入り、ベッドの横、コンセントに刺さっているバッテリーを取る。車椅子に付いた容量のないバッテリーを取り外し、新しいものに替える。
「よし。」
ランプが青くなった。きっとこれで3日は持つ。
続いて私は光を反射する写真立てにそっと目をやる。薄暗闇の中でも鮮明に輝いていた、いつかの記録。
そこには、笑い合う、私と彼女が写っていた。
二人で集めた思い出。あの時、水族館で初めて撮った二人の写真もある。まだ彼女の表情が硬い。こんなときもあったなあと、昔の事を思い出す。
「ふふっ。」
思い出しては一人、笑う。
この懐かしさも、記憶も全部。あなたが隣にいてくれたからだよ。
「ありがとう。」
握られた手の感触を思い出す。あのときの温かい気持ちのまま、部屋を後にした。
「ドライバ、アクティブ。ホバーエンジンの起動を確認しました。」
「エレベーター、射出システムオンライン。ロックを解除します。」
無線が繋がっていることを示す緑のランプ。あの日私の見た、こちらの景色。今日は快晴、調子は良好だ。
『機体の確認取れました。接続を維持します。』
聞き慣れた声が響く。もう、準備は万全だろう。
マイクの位置を調整し、ボタンを押す。個人無線モードへと切り替えられた端末は、私の声だけを彼女に伝えた。
「梨奈ちゃん、準備はできてる?」
『……正直、まだ怖いです。』
それはそうだ。危険なことだし、何があるかはわからない。
それでもずっと感じていた、初めて会ったあの日からずっと見えていた憧れを信じたい。憧憬を目の当たりにするのに、準備なんてものはいらないと言わんばかりに。
何回転んだって、折れかけたって。ずっと私がいた、あなたがいた。
「大丈夫、梨奈ちゃんなら。」
いつか買ったお揃いのペンダントを握りしめる。手は握れなくても、これでずっと繋がっていられるように。そう、二人で決めたから。
「ちゃんと戻ってきますから、雫さん。」
エンジン音だけが響く。
「だから、待ってて。」
憧れは、もうすぐそこ。あのときの、空へ落ちようとしたあの続きを見せて。
『発射準備完了。青木、行けます!』
「機体番号MB-100014、発射準備!」
ああ、これからあなたの目には何が映るのかな。楽しみだ。
「発射まで、5、4、3、2……」
――
すぐそこに見えるのは、いつかの輝き。
ずっと夢見た瞬間が、見上げてきた空が、すぐそこに。
手を伸ばしても届かなかった、あの青い夏。
偶然出会った彼女。でもきっと、偶然なんかじゃなかったと思う。
私の、あなたの憧れも全部背負うから。
あの日あなたが見た景色を、私にも見せて。
きっと、全部間違っていなかったと。
そう、自分を信じられるように。
「見ていて、雫さん。」
私は、今。
「空へ、落ちる!」
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