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毒を纏う女
ビッチだよ??
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こう見えてもシファニアとは付かず離れずそこそこな距離感で、腹違いの姉妹として接してきているつもりだ。
因みにこの子は腹黒ではない。ただ単にビッチなだけなのだ。だから私に対しても冷たく当たるというよりは、私に関心がない。関心があるのは男性の下半身だけだ。
私が継母から地味な嫌がらせをされていても、我関せずだった。そして欲求に素直な子だからこそ、私が作るお菓子が大好きでよく作ってくれ、とねだられている。
シファニアは悪い子ではなく単純なのだ。だから欲に流されやすい。僅か10才でカテキョの先生と…その後は欲求のままに恋人を作り楽しんでいる。
因みに何故、私が10才で~カテキョと~とか細かく知っているかと言えば、その家庭教師本人が私まで誘ってきたからだった。
あのね、私その時12才だよ?勿論10才のシファニアに手を出した、とんでもない変態だから今更だろうけど…シファニアの姉にも普通、声を掛ける?イカレテルネ。
私は勿論そのお誘いを丁重にお断りをした。
そうしたらその家庭教師はシファニアは喜んで誘いに乗った~だの、根っからの淫乱で~とかシファニアの睦事の要らん情報を私に自信満々に語ってきたと言うわけだ。
馬鹿らしい…私はおじ様、と言っても20代だと思う家庭教師に
「私があなたみたいなご年配の方を相手にすると思いますか?年を考えなさいませ」
と言ってやったのだ。そうしたら家庭教師はお父様に言いつけた。
「お宅の娘に誘われた!なんてふしだらな娘だっ!」
的なことを言ったらしい。だが何度も言うが父は常識人だ。私が全くそういうタイプではないことを知っていたし、すぐに私とシファニアに問い質した。
シファニアはケロッとして白状していた。継母は泣いていた。今考えれば、シファニアが身綺麗なままなら王族に嫁がせて…とか考えていたのかもしれない。すべて水の泡だけれど。
家庭教師はすぐに解雇されて、その後手酷い扱いをされたらしい。
継母はずっとネチネチと私に嫌味を言ったりシファニアに取り縋って泣いたりしていた。
甘いよ、お母様?シファニアの性格分かってるでしょ?楽しいことが好きで欲に従順でしょ?しっかり見張っておかなきゃ。
「何故なのっ!?ネシュアリナ!あなたがちゃんと見張っていないからっ!」
ケロッとしているシファニアに言っても聞かないので、そう言ってぶちギレた継母は訳の分からん八つ当たりを私にしてきた。
「見張るも何も…私、その家庭教師に教わって一緒に勉強してませんし」
私がそう答えると継母はまた泣き出した。継母との心の溝は深い……
さて
お越しになられたブランシュアンド殿下をお出迎えし、来客用の部屋にご案内した。
すると殿下が座られた途端、シファニアと何故か一緒にいる継母までもが、私より先に殿下の対面のソファに座ってしまった。
一応、対面は私が座らないといけない位置だと思われます。流石にブランシュアンド殿下は戸惑い、私をチラッと見てきた。私はニッコリと微笑んで一番下座の椅子に腰掛けた。
「本日はブランシュアンド殿下にお逢いできるのをとても楽しみにしておりましたの」
シファニアが真っ先に口を開いた。その間にお茶が運ばれて来る。
本日は茶葉を練り込んだホイップケーキと同じく茶葉入りクッキーを作った。ホイップクリームを作るのが中々難しいけど、うちの領地で何とか量産化に成功している…云わば特産品だ。
殿下はお茶には口を付けたけど、ケーキは食べない。それはそうだ、毒味していないものね。
シファニアは頬を染めながら、殿下に話しかけている。まあ、傍目から見ても可愛いよね。殿下の顔がニヨニヨしているのが分かる。
「まさかお姉様が妃候補になるなんて!驚きましたわ。私も憧れていますもの~」
皆、笑顔でシファニアの話を聞いていた。
「私も婚約していなければ……なんて、浅ましくも思っていますのよ?」
言っちゃった…ブランシュアンド殿下の目が一瞬見開かれた。
「でも…お姉様のお義兄様…でもそれもまた楽しめますし…魅力的ですよね?フフ…」
あ~あ、また言っちゃった。暗に結婚後は私と不倫してくれ、と言っちゃったよ。
「ねぇブランシュアンド殿下…お庭をご案内しますわ。ね、私とご一緒しましょう?」
と、シファニアは断りもなくブランシュアンド殿下の横に移動して来ると許可も得ず隣に座った。
このシファニアの動きに殿下御付きの侍従や女官の方々が緊張したのが分かる。
シファニアはいつも意中の殿方にしているように、相手の太腿に…今回はやんごとなき身分で有らせられまする王子殿下の太腿に手を置いてサワサワと撫でている。
これで上目遣いで見詰めれば、大抵の男は堕ちる。
これで、王太子妃はシファニアかぁ。この国、大丈夫かな…お父様に相談してうちの領地だけでも守らなくちゃ…
「あ~ブランシュアンド殿下、来てましたか?」
そこへ、赤褐色の髪の甘い顔立ちの…シファニアの婚約者、アリーフェ様がドアを開けて入って来られた。私は淑女の礼をしてご挨拶をした。アリーフェ様は王位継承権5位の公爵子息だ。
当然、ブランシュアンド殿下に続いて今、この空間で位の高いお方だ。
「アリーフェ様」
「ネリィ久しぶり」
アリーフェ様は城で宰相補佐のお仕事をされている。彼は頭の切れる有能な方で私は話しやすいし、軽口を叩ける唯一の男友達だと思っている。
女性にだらしないのを除けばだが…
「シファニアも、ご機嫌よう」
アリーフェ様はソファに近付くと、ブランシュアンド殿下の横に座るシファニアに手を差し出した。
シファニアは邪魔された…と感じたのだろう。仏頂面でアリーフェ様に手を差し出した。
シファニアの手に口付けを落とす、アリーフェ様。一枚の絵画みたいだ。
「ああ…折角お逢いできたのですが、仕事を抜けて来ましたのですぐに戻らなくては…」
すぐに帰るなら何故来たの?…と思ったけど、アリーフェ様がシファニアの手を引いたのでシファニアは渋々立ち上がった。
すると継母も一緒に立ち上がると、アリーフェ様の後に続いてしまった。
扉を閉める瞬間、アリーフェ様は振り向いて私にウインクしてきた。
はあ~なるほどね。やっぱり彼は頭が切れる。シファニアがブランシュアンド殿下に迫るのは想定内というところなのね。
上手く引き離してくれた……とは思わないけどね!今回ばかりはね!シファニアが王太子妃になってくれてもいいんだよぉ!
「……」
私とブランシュアンド殿下が残された室内…
ブランシュアンド殿下は固まっているね。シファニアに会えた嬉しさのあまり?それとも殿下には刺激が強すぎた?
「ネシュアリナ…」
「はい」
あら?名前を呼び捨て……こ、これは噂の悪役令嬢の婚約破棄イベントとか!?周りには女官と侍従の方しかいないのがギャラリーに華がないけれど、さあっ!婚約破棄よね?いつでもどうぞ!
「私だってそこまで鈍くない…」
「はっ?はあ…」
何だ、婚約破棄じゃないのかな?
フーッと深く息を吐いてブランシュアンド殿下は頭を抱えた。
「アレは、先程のシファニア嬢にアレは…私を誘っていたのだな?」
「はあ…まあ」
答え辛いなぁ~そうですね!と元気に言い難い。もしかしてカプ厨の夢が破れたのかな…
「ギナリアーダ侯爵家令嬢は妖艶な容姿を持つ。その美貌で男達を手玉に取り、あちらこちらと魅惑の粉を撒きながら、渡りある毒花姫と言われている。そしてその毒花姫には妹がいる。妹は姉とは正反対でとても愛らしく可憐で、誰からも愛される輝花姫と呼ばれている……これは皆が噂する貴女方姉妹の評判だ」
ブランシュアンド殿下は鋭い目で私を見詰めた。
「それは、まことか?」
また答え辛いなぁ~思わず苦笑が漏れる。
「さあ、どうでしょうか…」
「どうしてシファニア嬢は姉であるネシュアリナを差し置いて、あのように振る舞うのだ?」
「さあ…」
「未婚の女性からあのように庭に誘われたのは初めてだ」
「はぁ…」
「毒華姫はシファニアの方だったのか?」
ブランシュアンド殿下は益々目を鋭くする。
「私達が姫を名乗っている訳ではありませんので…」
ブランシュアンド殿下は一つ息を吐くと立ち上がった。ああ、やっと帰られるのか…こりゃ私とは婚約破棄まっしぐらかな~と、ホッとしたのやらと、これからの算段を考えなくちゃという思いとで、殿下が何か言ったのを聞き逃していた。
「……ってみないか?」
「え?」
手を差し出されて殿下の顔をまじまじと見詰めてしまった。
「庭に出てみないか?」
か、帰らないの?
一瞬躊躇ったが、すぐに笑顔を作ると殿下の手を取った。
私は殿下を庭に案内した。家の庭は白とピンク色の薔薇に似たルーゼという花が咲き乱れている。私もかなりお気に入りの庭だ。
「これは見事だな」
「ありがとうございます」
殿下は庭に2、3歩歩み出てから私の方を顧みた。
「貴女の評判は宜しくない…悔しくはないのか?」
殿下は眉を下げて、苦しそうなお顔をされていた。
「私…それほど夜会に出ませんのよ?評判を聞くような機会は殆どありませんわ」
ブランシュアンド殿下は1歩、私に近づいた。まだ苦しそうなお顔をされている。
「普段は何をされているのだ?趣味は?」
ん?何だか職務質問みたいになってきたよ?
「趣味は…料理ですね。使用人のまかない料理は私が作っています。菓子も作ります」
ブランシュアンド殿下はちょっと息を飲んだ。
「料理だと…珍しいな。もしかすると、今日出された菓子は貴女が作ったのか?」
「はい」
殿下は 目を見開いた。
「食べてみたい…」
「え、はい?」
殿下は私の手をエスコートしたまま、庭を横切り渡り廊下に戻ると、再び部屋に戻った。
「あら、ネリィ様」
メイド長のハシアがテーブルの上を片付けようとしていた。
「ハシア、お茶を入れ直してくれる?お菓子は今から頂きます」
「はい、少々お待ち下さいませ」
ハシアは柔らかな笑顔を見せると、茶器を手早く下げて退室した。
それはそうと、シファニアと継母は遅いわね…まだ戻ってないの?
「妹達、遅いですわね…」
私が顔を動かして廊下の方を見ようとした時に、ブラッシュアンド殿下付きの女官と目があった。
何か言いたげだったので、微笑みを浮かべて頷いてみせた。
女官は振り向いた殿下が頷かれたのを見て、話し始めた。
「先程、戻っていらっしゃいましたが、殿下の行方を聞かれてそちらから、直接庭に出られて行かれました」
女官はそちら…と庭に直接出れるテラスの窓を指し示した。
行き違いになったのか…庭に直接出るなんて焦ってるな…もしかして今、殿下を求めて庭を捜索中?
「ネシュアリナ、菓子を食べてみても良いか?」
ん?殿下の方を見たら、顔を輝かせておられる。あら、もしかしてお菓子好きなのかな?丁度、ハシアも戻ってきたので、殿下にケーキをおすすめしてみた。
「はい、生地に茶葉を練り込んでおりますの。こちらは自領の特産のホイップで御座います」
名前にオリジナリティが無いのは勘弁して欲しい。元からある呼び名が一番しっくりくるのだ。
殿下は側面からシフォンケーキを見詰めた後、ゆっくりとフォークを刺し、口に入れた。
何だか緊張するわね…思わず両手を握りしめて殿下のお顔を凝視した。
「……っ、美味しい!茶葉の香りが素晴らしい。この確かホイップだったか?甘く口どけが柔らかく幾らでも食べれるな!」
まあぁ!大絶賛じゃない!
「お口に合いまして、よう御座いましたわ」
作った料理を褒められるのは本当に嬉しい。この家で、私の居場所は調理場しかないし…
ブラッシュアンド殿下に微笑みながら、クッキーも勧めると殿下は何だか慌てたようにクッキーも口に入れられた。
「これも美味しい!ネシュアリナは素晴らしいな!」
やたらと褒めてくれるわね。美味しいからか、頬を染めている殿下を見て益々笑みが深くなる。
殿下はシフォンケーキとクッキーをペロリと食べてしまった。結構な早食いだった。丸飲みしたんじゃないよね?
そこへ…シファニアと継母が息を切らせて庭から客間に入って来た。流石に来客、しかもブラッシュアンド殿下の前で庭から直接入って来るのは無作法だと思うのだけど…
「で、殿下っ…どこに隠れてましたの!?」
シファニアは……殿下を何歳だと思ってるのかな?
因みにこの子は腹黒ではない。ただ単にビッチなだけなのだ。だから私に対しても冷たく当たるというよりは、私に関心がない。関心があるのは男性の下半身だけだ。
私が継母から地味な嫌がらせをされていても、我関せずだった。そして欲求に素直な子だからこそ、私が作るお菓子が大好きでよく作ってくれ、とねだられている。
シファニアは悪い子ではなく単純なのだ。だから欲に流されやすい。僅か10才でカテキョの先生と…その後は欲求のままに恋人を作り楽しんでいる。
因みに何故、私が10才で~カテキョと~とか細かく知っているかと言えば、その家庭教師本人が私まで誘ってきたからだった。
あのね、私その時12才だよ?勿論10才のシファニアに手を出した、とんでもない変態だから今更だろうけど…シファニアの姉にも普通、声を掛ける?イカレテルネ。
私は勿論そのお誘いを丁重にお断りをした。
そうしたらその家庭教師はシファニアは喜んで誘いに乗った~だの、根っからの淫乱で~とかシファニアの睦事の要らん情報を私に自信満々に語ってきたと言うわけだ。
馬鹿らしい…私はおじ様、と言っても20代だと思う家庭教師に
「私があなたみたいなご年配の方を相手にすると思いますか?年を考えなさいませ」
と言ってやったのだ。そうしたら家庭教師はお父様に言いつけた。
「お宅の娘に誘われた!なんてふしだらな娘だっ!」
的なことを言ったらしい。だが何度も言うが父は常識人だ。私が全くそういうタイプではないことを知っていたし、すぐに私とシファニアに問い質した。
シファニアはケロッとして白状していた。継母は泣いていた。今考えれば、シファニアが身綺麗なままなら王族に嫁がせて…とか考えていたのかもしれない。すべて水の泡だけれど。
家庭教師はすぐに解雇されて、その後手酷い扱いをされたらしい。
継母はずっとネチネチと私に嫌味を言ったりシファニアに取り縋って泣いたりしていた。
甘いよ、お母様?シファニアの性格分かってるでしょ?楽しいことが好きで欲に従順でしょ?しっかり見張っておかなきゃ。
「何故なのっ!?ネシュアリナ!あなたがちゃんと見張っていないからっ!」
ケロッとしているシファニアに言っても聞かないので、そう言ってぶちギレた継母は訳の分からん八つ当たりを私にしてきた。
「見張るも何も…私、その家庭教師に教わって一緒に勉強してませんし」
私がそう答えると継母はまた泣き出した。継母との心の溝は深い……
さて
お越しになられたブランシュアンド殿下をお出迎えし、来客用の部屋にご案内した。
すると殿下が座られた途端、シファニアと何故か一緒にいる継母までもが、私より先に殿下の対面のソファに座ってしまった。
一応、対面は私が座らないといけない位置だと思われます。流石にブランシュアンド殿下は戸惑い、私をチラッと見てきた。私はニッコリと微笑んで一番下座の椅子に腰掛けた。
「本日はブランシュアンド殿下にお逢いできるのをとても楽しみにしておりましたの」
シファニアが真っ先に口を開いた。その間にお茶が運ばれて来る。
本日は茶葉を練り込んだホイップケーキと同じく茶葉入りクッキーを作った。ホイップクリームを作るのが中々難しいけど、うちの領地で何とか量産化に成功している…云わば特産品だ。
殿下はお茶には口を付けたけど、ケーキは食べない。それはそうだ、毒味していないものね。
シファニアは頬を染めながら、殿下に話しかけている。まあ、傍目から見ても可愛いよね。殿下の顔がニヨニヨしているのが分かる。
「まさかお姉様が妃候補になるなんて!驚きましたわ。私も憧れていますもの~」
皆、笑顔でシファニアの話を聞いていた。
「私も婚約していなければ……なんて、浅ましくも思っていますのよ?」
言っちゃった…ブランシュアンド殿下の目が一瞬見開かれた。
「でも…お姉様のお義兄様…でもそれもまた楽しめますし…魅力的ですよね?フフ…」
あ~あ、また言っちゃった。暗に結婚後は私と不倫してくれ、と言っちゃったよ。
「ねぇブランシュアンド殿下…お庭をご案内しますわ。ね、私とご一緒しましょう?」
と、シファニアは断りもなくブランシュアンド殿下の横に移動して来ると許可も得ず隣に座った。
このシファニアの動きに殿下御付きの侍従や女官の方々が緊張したのが分かる。
シファニアはいつも意中の殿方にしているように、相手の太腿に…今回はやんごとなき身分で有らせられまする王子殿下の太腿に手を置いてサワサワと撫でている。
これで上目遣いで見詰めれば、大抵の男は堕ちる。
これで、王太子妃はシファニアかぁ。この国、大丈夫かな…お父様に相談してうちの領地だけでも守らなくちゃ…
「あ~ブランシュアンド殿下、来てましたか?」
そこへ、赤褐色の髪の甘い顔立ちの…シファニアの婚約者、アリーフェ様がドアを開けて入って来られた。私は淑女の礼をしてご挨拶をした。アリーフェ様は王位継承権5位の公爵子息だ。
当然、ブランシュアンド殿下に続いて今、この空間で位の高いお方だ。
「アリーフェ様」
「ネリィ久しぶり」
アリーフェ様は城で宰相補佐のお仕事をされている。彼は頭の切れる有能な方で私は話しやすいし、軽口を叩ける唯一の男友達だと思っている。
女性にだらしないのを除けばだが…
「シファニアも、ご機嫌よう」
アリーフェ様はソファに近付くと、ブランシュアンド殿下の横に座るシファニアに手を差し出した。
シファニアは邪魔された…と感じたのだろう。仏頂面でアリーフェ様に手を差し出した。
シファニアの手に口付けを落とす、アリーフェ様。一枚の絵画みたいだ。
「ああ…折角お逢いできたのですが、仕事を抜けて来ましたのですぐに戻らなくては…」
すぐに帰るなら何故来たの?…と思ったけど、アリーフェ様がシファニアの手を引いたのでシファニアは渋々立ち上がった。
すると継母も一緒に立ち上がると、アリーフェ様の後に続いてしまった。
扉を閉める瞬間、アリーフェ様は振り向いて私にウインクしてきた。
はあ~なるほどね。やっぱり彼は頭が切れる。シファニアがブランシュアンド殿下に迫るのは想定内というところなのね。
上手く引き離してくれた……とは思わないけどね!今回ばかりはね!シファニアが王太子妃になってくれてもいいんだよぉ!
「……」
私とブランシュアンド殿下が残された室内…
ブランシュアンド殿下は固まっているね。シファニアに会えた嬉しさのあまり?それとも殿下には刺激が強すぎた?
「ネシュアリナ…」
「はい」
あら?名前を呼び捨て……こ、これは噂の悪役令嬢の婚約破棄イベントとか!?周りには女官と侍従の方しかいないのがギャラリーに華がないけれど、さあっ!婚約破棄よね?いつでもどうぞ!
「私だってそこまで鈍くない…」
「はっ?はあ…」
何だ、婚約破棄じゃないのかな?
フーッと深く息を吐いてブランシュアンド殿下は頭を抱えた。
「アレは、先程のシファニア嬢にアレは…私を誘っていたのだな?」
「はあ…まあ」
答え辛いなぁ~そうですね!と元気に言い難い。もしかしてカプ厨の夢が破れたのかな…
「ギナリアーダ侯爵家令嬢は妖艶な容姿を持つ。その美貌で男達を手玉に取り、あちらこちらと魅惑の粉を撒きながら、渡りある毒花姫と言われている。そしてその毒花姫には妹がいる。妹は姉とは正反対でとても愛らしく可憐で、誰からも愛される輝花姫と呼ばれている……これは皆が噂する貴女方姉妹の評判だ」
ブランシュアンド殿下は鋭い目で私を見詰めた。
「それは、まことか?」
また答え辛いなぁ~思わず苦笑が漏れる。
「さあ、どうでしょうか…」
「どうしてシファニア嬢は姉であるネシュアリナを差し置いて、あのように振る舞うのだ?」
「さあ…」
「未婚の女性からあのように庭に誘われたのは初めてだ」
「はぁ…」
「毒華姫はシファニアの方だったのか?」
ブランシュアンド殿下は益々目を鋭くする。
「私達が姫を名乗っている訳ではありませんので…」
ブランシュアンド殿下は一つ息を吐くと立ち上がった。ああ、やっと帰られるのか…こりゃ私とは婚約破棄まっしぐらかな~と、ホッとしたのやらと、これからの算段を考えなくちゃという思いとで、殿下が何か言ったのを聞き逃していた。
「……ってみないか?」
「え?」
手を差し出されて殿下の顔をまじまじと見詰めてしまった。
「庭に出てみないか?」
か、帰らないの?
一瞬躊躇ったが、すぐに笑顔を作ると殿下の手を取った。
私は殿下を庭に案内した。家の庭は白とピンク色の薔薇に似たルーゼという花が咲き乱れている。私もかなりお気に入りの庭だ。
「これは見事だな」
「ありがとうございます」
殿下は庭に2、3歩歩み出てから私の方を顧みた。
「貴女の評判は宜しくない…悔しくはないのか?」
殿下は眉を下げて、苦しそうなお顔をされていた。
「私…それほど夜会に出ませんのよ?評判を聞くような機会は殆どありませんわ」
ブランシュアンド殿下は1歩、私に近づいた。まだ苦しそうなお顔をされている。
「普段は何をされているのだ?趣味は?」
ん?何だか職務質問みたいになってきたよ?
「趣味は…料理ですね。使用人のまかない料理は私が作っています。菓子も作ります」
ブランシュアンド殿下はちょっと息を飲んだ。
「料理だと…珍しいな。もしかすると、今日出された菓子は貴女が作ったのか?」
「はい」
殿下は 目を見開いた。
「食べてみたい…」
「え、はい?」
殿下は私の手をエスコートしたまま、庭を横切り渡り廊下に戻ると、再び部屋に戻った。
「あら、ネリィ様」
メイド長のハシアがテーブルの上を片付けようとしていた。
「ハシア、お茶を入れ直してくれる?お菓子は今から頂きます」
「はい、少々お待ち下さいませ」
ハシアは柔らかな笑顔を見せると、茶器を手早く下げて退室した。
それはそうと、シファニアと継母は遅いわね…まだ戻ってないの?
「妹達、遅いですわね…」
私が顔を動かして廊下の方を見ようとした時に、ブラッシュアンド殿下付きの女官と目があった。
何か言いたげだったので、微笑みを浮かべて頷いてみせた。
女官は振り向いた殿下が頷かれたのを見て、話し始めた。
「先程、戻っていらっしゃいましたが、殿下の行方を聞かれてそちらから、直接庭に出られて行かれました」
女官はそちら…と庭に直接出れるテラスの窓を指し示した。
行き違いになったのか…庭に直接出るなんて焦ってるな…もしかして今、殿下を求めて庭を捜索中?
「ネシュアリナ、菓子を食べてみても良いか?」
ん?殿下の方を見たら、顔を輝かせておられる。あら、もしかしてお菓子好きなのかな?丁度、ハシアも戻ってきたので、殿下にケーキをおすすめしてみた。
「はい、生地に茶葉を練り込んでおりますの。こちらは自領の特産のホイップで御座います」
名前にオリジナリティが無いのは勘弁して欲しい。元からある呼び名が一番しっくりくるのだ。
殿下は側面からシフォンケーキを見詰めた後、ゆっくりとフォークを刺し、口に入れた。
何だか緊張するわね…思わず両手を握りしめて殿下のお顔を凝視した。
「……っ、美味しい!茶葉の香りが素晴らしい。この確かホイップだったか?甘く口どけが柔らかく幾らでも食べれるな!」
まあぁ!大絶賛じゃない!
「お口に合いまして、よう御座いましたわ」
作った料理を褒められるのは本当に嬉しい。この家で、私の居場所は調理場しかないし…
ブラッシュアンド殿下に微笑みながら、クッキーも勧めると殿下は何だか慌てたようにクッキーも口に入れられた。
「これも美味しい!ネシュアリナは素晴らしいな!」
やたらと褒めてくれるわね。美味しいからか、頬を染めている殿下を見て益々笑みが深くなる。
殿下はシフォンケーキとクッキーをペロリと食べてしまった。結構な早食いだった。丸飲みしたんじゃないよね?
そこへ…シファニアと継母が息を切らせて庭から客間に入って来た。流石に来客、しかもブラッシュアンド殿下の前で庭から直接入って来るのは無作法だと思うのだけど…
「で、殿下っ…どこに隠れてましたの!?」
シファニアは……殿下を何歳だと思ってるのかな?
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