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毒を纏う女
ビッチだよ???
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ブラッシュアンド殿下は戻って来たシファニアに、笑顔を浮かべて大人の対応をしていた…と思う。
ところがシファニアは着乱れているし、走り回ったのか化粧は崩れていたし、途中でボロボロの自分に気が付いたのか、殿下の御前で不敬にも退出してしまった…本当にボロボロだった。
多分、今は鬼の形相で化粧をやり直したり、ドレスを直したりしているんだろう。
そんなシファニアが席を外している間に、ブラッシュアンド殿下は席を立たれた。何故か急いでいるようだった。
殿下、それはわざとだね?
殿下は私の手を取ると…エスコートだと思うのだが、やけに体を近付けて来る。もはや横に並んで歩いている状態だ。
いくらなんでも不敬にならないかな?と、後ろに下がろうとすると腕を引かれて更に体を密着させられた。
「私も、ネリィと呼んでいいかな?」
「は…はぁ」
急に距離感ゼロでグイグイくるな…いや、ブラッシュアンド殿下って私には距離感ゼロだったよな。ほぼ初対面なのに、シファニアへの熱い思いを語っちゃってたりしてたね。
ああそうか…もう私と結婚しちゃって、シファニアとダブル不倫を楽しもうと決断したのかな?
この方も所詮は男か…
「ネリィが時間がある時で構わないが、他の料理も食べたいな。王宮でも作ってくれるよな?」
うん?王宮でも…婚姻した後も食べてみたいのかな?
「はい、許可して頂けるなら」
そう答えると、急に綺麗な殿下の顔が近付いてきて、私の頬に口付けをしてきた。
チュッ……とリップ音が耳元で聞こえて、私の耳元で
「楽しみにしている、ネリィ」
と殿下は囁いてからゆっくり離れた。
リップ音と殿下の低音の美声が私の頭の中を混乱に陥れた。
えっ?何……キス?キスされたの?
ゆっくりと離れていく殿下のお顔を見詰めてしまう。
「…っ!……ネリィそんな目でっ……いい?そんな顔を見せていいのは私だけだよ」
殿下はまた耳元でねっとりと囁いてから優雅に帰って行かれた。
一体何だったの…私が首を捻りながら部屋に戻ると、また息を切らしたシファニアが、凄い形相で立っていた。
「殿下っ!殿下はどこなの!?」
「帰られたわよ?」
「酷いわっ!待ってて下さると…!ネシュアリナお姉様っあなたのせいよぉ!?」
私は泣き崩れたシファニアと私を睨む継母を冷ややかに見た。
「殿下はお忙しいのでしょう?慌てて帰られたもの…」
まあ本音を言えば、慌てて帰られたのはシファニアと会わない為だと思われる。理由は分からんけど…
その日は夕食の後まで泣きじゃくるシファニアと嫌味を言う継母の相手をして疲れた。
「どうして引き留めないの!」
「殿下は急いでいらしたので…」
ババア、何度も言わせるな。
「だったらぁ…ネシュアリナお姉様が殿下を呼び出してよぉ!」
シファニアも無茶を言う…ちょっと殿下来いや!…これは普通の恋人ならアリだけど、王子殿下と侯爵令嬢の間には大きな身分という隔たりがありましてだね?こちらから呼びつける訳にはいかないのだよ。
とか、言っていたら翌日、ブラッシュアンド殿下からお手紙が届いた。
宛名は私だ。何度読んでも私だった。婚約のことなかったことにならないかな…と期待を込めて開封した。
『明日、城に来ないか?会いたい』
「……」
何これ?
私に会ってどうするのよ?ん?待てよ、これ遠回しのシファニアを連れて来いという、お貴族様特有の雅な言い回しなのか?
この世界での貴族の礼儀作法を習ってないからさっぱり分からん。
取り敢えず、これでシファニアの機嫌が戻るかな~とシファニアに明日のことを伝えると、めっちゃ喜んでいた。
シファニアは可愛いのよね、ビッチだけど。私に実害の無い所で是非とも楽しんでもらいたいわ。
翌日
シファニアは今回は清楚なドレスにしている。私が殿下の好みは可愛い路線みたいよ?とアドバイスをしたのだ。
ブラッシュアンド殿下の侍従のすぐ後を歩くシファニアとメイドのヘルナ。そしてその後に侍従のストエイスと私。
侯爵令嬢が立ち位置がおかしいんじゃね?とは思わないで欲しい、ついクセで先頭より少し後ろを歩いてしまうのだ。根っから地味地味なのだ。
「ネシュアリナ様、大丈夫ですか?」
侍従のストエイスが私が滅多に来ない王宮に緊張していると思ったのだろう、そう聞いてくれた。
本当に男前な上にストエイスは優しいわね。私は笑顔になると
「大丈夫よ」
と返しておいた。
それにしても……先程からすれ違う役人や軍人…皆が私を驚いたように見るんだけど…あ、そうかシファニアを見てるのかな?なるほどね、あの子は輝花姫…だったかな?大層な名前だねぇ
私達は案内してくれた侍従の方が「こちらです」と言って室内に声かけをしているのを大人しく待っていた。まあ、若干一名は待ちきれないのか…扉の真ん前まで近付いてワクワクしているようだけど。
某テーマパークの入場待ちじゃないんだから、もう少し後ろに下がろうね…
やがて侍従の方が扉を開けてくれた。
私は腰を落としつつ室内に入ってカーテシーをして扉の脇に控えたのだが…若干一名がご挨拶もしないまま
「ブランシュアンド殿下っ、お会いしたかったですわ!」
と叫んでしまった…もはや野放し状態だった。姉である私が窘めなければいけないので…仕方ない。
「シファニア、ご挨拶がまだですよ」
「あ…はい」
私が声をかけると、シファニアはハッとしたような顔をして、その場でカーテシーをした。まるで彼女が主賓のようである。まあ今更どうでもいいが。
「……ネリィ、よく来てくれたね」
おおっと、どうした?
ブランシュアンド殿下は目の前にいる、シファニアを通り越して後ろにいる私に真っ先に声をかけてきた。仕方がない…皆の注目を浴びながら、にっこりとブランシュアンド殿下に微笑みを返した。
「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
ブランシュアンド殿下は何故か真顔になっていたが、私と目が合うとパッと笑顔になられて、私の前まで優雅に歩いてこられた。
あの…ごめんなさい?私の所に来る前に、あなたの愛するシファニアが居るのだけど…
案の定シファニアは自分が殿下に素通りされたということに、理解が追い付いていないようなキョトンとした表情をしていた。
そう…シファニアは自分至上主義なビッチなだけで、自分とその他くらいにしか周りを認識していないのだ。だから今は自分という存在を丸無視されるという初めての事態に、只々驚いているのだと思われる。
だから何が不敬なのが分からないのだろう…私に向かって
「ネシュアリナお姉様…もう帰られても宜しいわよ?」
と言ってしまったのだ。そう…別にこれはシファニアが嫌味で言っている訳ではないのだ。ここにシファニアを連れて来てくれるという、当初私から聞かされていた目的を果たしたのだから、お姉様はもういいわよ…という意味なのだ。
いつもの私なら、あ~はいはい。じゃあね!と言ってそのまま退散するところだけど…シファニア、ここではマズイよそれ?
そう…ここには恐らく生真面目な、夢見る男…キラキラブランシュアンド殿下が居るのだ…何かヤバイ気がする。
「シファニア嬢…今、なんと言ったかな?」
ありゃ…ブランシュアンド殿下がシファニアに聞き返しちゃったよ?どうすんのこれ…天然ビッチ対カプ厨夢男だよ?絶対お互いの言い分は平行線を辿るのは目に見えてるし…かと言って私が会話に割り込んでは不敬の上塗り…
ああ、お父様と一緒で胃が痛くなってきた…
「え~とお姉様が私を案内してくれたので、もうご用事は済みましたもの」
シファニアはあっけらかん~と答えてしまった。
ヤバイヤバイ…語彙力が下がってヤバイしか思いつかないけど、そんな語彙力の下がった私をブランシュアンド殿下はゆっくりと見てきた。
顔が怖い…瞬きを忘れたのかな?…まっ…睫毛長いですねぇ~アハハ
私は、意を決してブランシュアンド殿下に一歩近づくと少し背伸びして
「どうか私の事はお気遣いなく、愛する方と2人きりになって下さいませ」
と、ブランシュアンド殿下の耳元で囁いた。
ブランシュアンド殿下は目を丸くした。喜んでくれるかな~と思って笑顔で頷くと
「ぐはっ……ぅ」
突然、ブランシュアンド殿下は胸を押さえて前屈みになった。
「殿下!?」
「きゃっ!」
わ…私じゃないわよっ!え?え?狙撃?どこからか、俺の背後に立つな…さんが狙ってきたの?
とうとう殿下は床に膝を付いた。おいおいおいぃぃ!?……と思ったら、キッと私を見上げて
「私を殺す気か!」
と叫んだ。……聞き取った単語に間違いなければ、私は殿下殺人未遂の容疑者になってしまったようだ。気持ちが萎えるというか、勝手に倒れておいて何だそれは?殿下を死んだ魚のような目で見てあげた。
「その…殿下?ネシュアリナ=ギナリアーダ侯爵令嬢が、殿下を殺そうとなさったと?」
侍従の方は戸惑い気味にブランシュアンド殿下にそう聞いている。分かっている…侍従の方以上に、言われた方の私が戸惑っているつもりだ。
その方と軍服を着た格好いいお兄さんが私達の側にやって来て、怪訝な顔で私と殿下を交互に見た。
この軍人の方に捕まえられてしまうのかしら…
するとブランシュアンド殿下は、咳払いをして立ち上がると何故か私に近付き、私の腰に触ろうとした。
私は勿論、体を捻って避けた。痴漢行為を見逃すものか!
かわされた殿下はムッとしたような表情で私を見下ろした…だがしかし私は笑顔で返した。
「殿下、お戯れはどうぞ愛しの方に」
「…っ!」
何故だかブランシュアンド殿下がまた胸を押さえて倒れた。二回お倒れを見てしまったので、初回ほどの驚きはない。それに侍従の方と軍人のお兄さんはお倒れの理由が分かっているようだ。
侍従の方も軍人さんも、スンッ…と表情を失くすと、私達を放置して事務机の前に座り…仕事を再開してしまった。
私の前(床の上)には悶絶するブランシュアンド殿下が転がっている。本当にスナイパーに狙われたとかじゃないのか?
誰も殿下を助け起こさないので仕方なく、容疑者から被疑者に声をかけるという珍妙な現象が起こってしまった。
犯人確保!犯人確保!……ふざけている場合じゃなかった。
「あの…殿下、大丈夫ですか?」
悶絶しているのか…俯いてブツブツ言っている正直キモイ、ブランシュアンド殿下に渋々声をかけた。
急に体が前に引かれた気がした……と思ったら顔に物凄い突風を受ける。目が開けられない!?
な…っな…何が起こっているの!?
そして妙な浮遊感があり、誰かに腰を支えられている感触がして恐々目を開けると…ブランシュアンド殿下のドアップが目の前にありました。どうやらここは裏庭の温室の前のようです。いつの間にこんな所へ?
それでもね?いくら綺麗な顔の男性でも、いきなり目の前にその顔があったら、誰でも驚くよね?悲鳴を上げたけど許されるよね?私の悲鳴で近くにいた衛兵や近衛のお兄様方が大挙として押し寄せて来ても、別に不思議でないよね?
その時に軍人のお兄様方が一斉にブランシュアンド殿下に向かって
「姫の体に触らないで下さい!」
と叫んだのは……流石におかしいよね?……やっぱりどう考えてもブランシュアンド殿下に対する不敬だよね?
おまけにね、殿下がゴリマッチョな軍人のお兄様達に犯人確保!状態にされちゃってるのよ…一体どうなってるの?
ところがシファニアは着乱れているし、走り回ったのか化粧は崩れていたし、途中でボロボロの自分に気が付いたのか、殿下の御前で不敬にも退出してしまった…本当にボロボロだった。
多分、今は鬼の形相で化粧をやり直したり、ドレスを直したりしているんだろう。
そんなシファニアが席を外している間に、ブラッシュアンド殿下は席を立たれた。何故か急いでいるようだった。
殿下、それはわざとだね?
殿下は私の手を取ると…エスコートだと思うのだが、やけに体を近付けて来る。もはや横に並んで歩いている状態だ。
いくらなんでも不敬にならないかな?と、後ろに下がろうとすると腕を引かれて更に体を密着させられた。
「私も、ネリィと呼んでいいかな?」
「は…はぁ」
急に距離感ゼロでグイグイくるな…いや、ブラッシュアンド殿下って私には距離感ゼロだったよな。ほぼ初対面なのに、シファニアへの熱い思いを語っちゃってたりしてたね。
ああそうか…もう私と結婚しちゃって、シファニアとダブル不倫を楽しもうと決断したのかな?
この方も所詮は男か…
「ネリィが時間がある時で構わないが、他の料理も食べたいな。王宮でも作ってくれるよな?」
うん?王宮でも…婚姻した後も食べてみたいのかな?
「はい、許可して頂けるなら」
そう答えると、急に綺麗な殿下の顔が近付いてきて、私の頬に口付けをしてきた。
チュッ……とリップ音が耳元で聞こえて、私の耳元で
「楽しみにしている、ネリィ」
と殿下は囁いてからゆっくり離れた。
リップ音と殿下の低音の美声が私の頭の中を混乱に陥れた。
えっ?何……キス?キスされたの?
ゆっくりと離れていく殿下のお顔を見詰めてしまう。
「…っ!……ネリィそんな目でっ……いい?そんな顔を見せていいのは私だけだよ」
殿下はまた耳元でねっとりと囁いてから優雅に帰って行かれた。
一体何だったの…私が首を捻りながら部屋に戻ると、また息を切らしたシファニアが、凄い形相で立っていた。
「殿下っ!殿下はどこなの!?」
「帰られたわよ?」
「酷いわっ!待ってて下さると…!ネシュアリナお姉様っあなたのせいよぉ!?」
私は泣き崩れたシファニアと私を睨む継母を冷ややかに見た。
「殿下はお忙しいのでしょう?慌てて帰られたもの…」
まあ本音を言えば、慌てて帰られたのはシファニアと会わない為だと思われる。理由は分からんけど…
その日は夕食の後まで泣きじゃくるシファニアと嫌味を言う継母の相手をして疲れた。
「どうして引き留めないの!」
「殿下は急いでいらしたので…」
ババア、何度も言わせるな。
「だったらぁ…ネシュアリナお姉様が殿下を呼び出してよぉ!」
シファニアも無茶を言う…ちょっと殿下来いや!…これは普通の恋人ならアリだけど、王子殿下と侯爵令嬢の間には大きな身分という隔たりがありましてだね?こちらから呼びつける訳にはいかないのだよ。
とか、言っていたら翌日、ブラッシュアンド殿下からお手紙が届いた。
宛名は私だ。何度読んでも私だった。婚約のことなかったことにならないかな…と期待を込めて開封した。
『明日、城に来ないか?会いたい』
「……」
何これ?
私に会ってどうするのよ?ん?待てよ、これ遠回しのシファニアを連れて来いという、お貴族様特有の雅な言い回しなのか?
この世界での貴族の礼儀作法を習ってないからさっぱり分からん。
取り敢えず、これでシファニアの機嫌が戻るかな~とシファニアに明日のことを伝えると、めっちゃ喜んでいた。
シファニアは可愛いのよね、ビッチだけど。私に実害の無い所で是非とも楽しんでもらいたいわ。
翌日
シファニアは今回は清楚なドレスにしている。私が殿下の好みは可愛い路線みたいよ?とアドバイスをしたのだ。
ブラッシュアンド殿下の侍従のすぐ後を歩くシファニアとメイドのヘルナ。そしてその後に侍従のストエイスと私。
侯爵令嬢が立ち位置がおかしいんじゃね?とは思わないで欲しい、ついクセで先頭より少し後ろを歩いてしまうのだ。根っから地味地味なのだ。
「ネシュアリナ様、大丈夫ですか?」
侍従のストエイスが私が滅多に来ない王宮に緊張していると思ったのだろう、そう聞いてくれた。
本当に男前な上にストエイスは優しいわね。私は笑顔になると
「大丈夫よ」
と返しておいた。
それにしても……先程からすれ違う役人や軍人…皆が私を驚いたように見るんだけど…あ、そうかシファニアを見てるのかな?なるほどね、あの子は輝花姫…だったかな?大層な名前だねぇ
私達は案内してくれた侍従の方が「こちらです」と言って室内に声かけをしているのを大人しく待っていた。まあ、若干一名は待ちきれないのか…扉の真ん前まで近付いてワクワクしているようだけど。
某テーマパークの入場待ちじゃないんだから、もう少し後ろに下がろうね…
やがて侍従の方が扉を開けてくれた。
私は腰を落としつつ室内に入ってカーテシーをして扉の脇に控えたのだが…若干一名がご挨拶もしないまま
「ブランシュアンド殿下っ、お会いしたかったですわ!」
と叫んでしまった…もはや野放し状態だった。姉である私が窘めなければいけないので…仕方ない。
「シファニア、ご挨拶がまだですよ」
「あ…はい」
私が声をかけると、シファニアはハッとしたような顔をして、その場でカーテシーをした。まるで彼女が主賓のようである。まあ今更どうでもいいが。
「……ネリィ、よく来てくれたね」
おおっと、どうした?
ブランシュアンド殿下は目の前にいる、シファニアを通り越して後ろにいる私に真っ先に声をかけてきた。仕方がない…皆の注目を浴びながら、にっこりとブランシュアンド殿下に微笑みを返した。
「本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
ブランシュアンド殿下は何故か真顔になっていたが、私と目が合うとパッと笑顔になられて、私の前まで優雅に歩いてこられた。
あの…ごめんなさい?私の所に来る前に、あなたの愛するシファニアが居るのだけど…
案の定シファニアは自分が殿下に素通りされたということに、理解が追い付いていないようなキョトンとした表情をしていた。
そう…シファニアは自分至上主義なビッチなだけで、自分とその他くらいにしか周りを認識していないのだ。だから今は自分という存在を丸無視されるという初めての事態に、只々驚いているのだと思われる。
だから何が不敬なのが分からないのだろう…私に向かって
「ネシュアリナお姉様…もう帰られても宜しいわよ?」
と言ってしまったのだ。そう…別にこれはシファニアが嫌味で言っている訳ではないのだ。ここにシファニアを連れて来てくれるという、当初私から聞かされていた目的を果たしたのだから、お姉様はもういいわよ…という意味なのだ。
いつもの私なら、あ~はいはい。じゃあね!と言ってそのまま退散するところだけど…シファニア、ここではマズイよそれ?
そう…ここには恐らく生真面目な、夢見る男…キラキラブランシュアンド殿下が居るのだ…何かヤバイ気がする。
「シファニア嬢…今、なんと言ったかな?」
ありゃ…ブランシュアンド殿下がシファニアに聞き返しちゃったよ?どうすんのこれ…天然ビッチ対カプ厨夢男だよ?絶対お互いの言い分は平行線を辿るのは目に見えてるし…かと言って私が会話に割り込んでは不敬の上塗り…
ああ、お父様と一緒で胃が痛くなってきた…
「え~とお姉様が私を案内してくれたので、もうご用事は済みましたもの」
シファニアはあっけらかん~と答えてしまった。
ヤバイヤバイ…語彙力が下がってヤバイしか思いつかないけど、そんな語彙力の下がった私をブランシュアンド殿下はゆっくりと見てきた。
顔が怖い…瞬きを忘れたのかな?…まっ…睫毛長いですねぇ~アハハ
私は、意を決してブランシュアンド殿下に一歩近づくと少し背伸びして
「どうか私の事はお気遣いなく、愛する方と2人きりになって下さいませ」
と、ブランシュアンド殿下の耳元で囁いた。
ブランシュアンド殿下は目を丸くした。喜んでくれるかな~と思って笑顔で頷くと
「ぐはっ……ぅ」
突然、ブランシュアンド殿下は胸を押さえて前屈みになった。
「殿下!?」
「きゃっ!」
わ…私じゃないわよっ!え?え?狙撃?どこからか、俺の背後に立つな…さんが狙ってきたの?
とうとう殿下は床に膝を付いた。おいおいおいぃぃ!?……と思ったら、キッと私を見上げて
「私を殺す気か!」
と叫んだ。……聞き取った単語に間違いなければ、私は殿下殺人未遂の容疑者になってしまったようだ。気持ちが萎えるというか、勝手に倒れておいて何だそれは?殿下を死んだ魚のような目で見てあげた。
「その…殿下?ネシュアリナ=ギナリアーダ侯爵令嬢が、殿下を殺そうとなさったと?」
侍従の方は戸惑い気味にブランシュアンド殿下にそう聞いている。分かっている…侍従の方以上に、言われた方の私が戸惑っているつもりだ。
その方と軍服を着た格好いいお兄さんが私達の側にやって来て、怪訝な顔で私と殿下を交互に見た。
この軍人の方に捕まえられてしまうのかしら…
するとブランシュアンド殿下は、咳払いをして立ち上がると何故か私に近付き、私の腰に触ろうとした。
私は勿論、体を捻って避けた。痴漢行為を見逃すものか!
かわされた殿下はムッとしたような表情で私を見下ろした…だがしかし私は笑顔で返した。
「殿下、お戯れはどうぞ愛しの方に」
「…っ!」
何故だかブランシュアンド殿下がまた胸を押さえて倒れた。二回お倒れを見てしまったので、初回ほどの驚きはない。それに侍従の方と軍人のお兄さんはお倒れの理由が分かっているようだ。
侍従の方も軍人さんも、スンッ…と表情を失くすと、私達を放置して事務机の前に座り…仕事を再開してしまった。
私の前(床の上)には悶絶するブランシュアンド殿下が転がっている。本当にスナイパーに狙われたとかじゃないのか?
誰も殿下を助け起こさないので仕方なく、容疑者から被疑者に声をかけるという珍妙な現象が起こってしまった。
犯人確保!犯人確保!……ふざけている場合じゃなかった。
「あの…殿下、大丈夫ですか?」
悶絶しているのか…俯いてブツブツ言っている正直キモイ、ブランシュアンド殿下に渋々声をかけた。
急に体が前に引かれた気がした……と思ったら顔に物凄い突風を受ける。目が開けられない!?
な…っな…何が起こっているの!?
そして妙な浮遊感があり、誰かに腰を支えられている感触がして恐々目を開けると…ブランシュアンド殿下のドアップが目の前にありました。どうやらここは裏庭の温室の前のようです。いつの間にこんな所へ?
それでもね?いくら綺麗な顔の男性でも、いきなり目の前にその顔があったら、誰でも驚くよね?悲鳴を上げたけど許されるよね?私の悲鳴で近くにいた衛兵や近衛のお兄様方が大挙として押し寄せて来ても、別に不思議でないよね?
その時に軍人のお兄様方が一斉にブランシュアンド殿下に向かって
「姫の体に触らないで下さい!」
と叫んだのは……流石におかしいよね?……やっぱりどう考えてもブランシュアンド殿下に対する不敬だよね?
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