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毒を纏う女
今頃?
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婚約破棄を申し入れたアリーフェ様を皆が見詰める。
シファニアと婚約破棄……今頃?いや、ブランシュアンド殿下にシファニアの痴態を知られたから?
今更アリーフェ様がシファニア関連のことでビビるとは思えないけど…私は父を見た。
ああ、お父様…泡吹きそう。
「婚約破棄でございますか…」
「ああ…理由は分かりますよね?」
高位貴族からの申し入れ…シファニアの醜聞に溜まり兼ねたアリーフェ様からの破棄、辻褄は合っている。
アリーフェ様は私を見詰めた後…何だかねっちょりした視線をブランシュアンド殿下に向けてから、小さく息をついてる。
「わ…分かりました」
あ~あ…お父様了承しちゃった。いや、せざるを得ないけど、今日は家に帰ったら大荒れだろうな…
アリーフェ様は「では…」と言って立ち上がられたので、青い顔をしたお父様と一緒に立ち上がって戸口へ向かうとブランシュアンド殿下がすぐに、背中に手を回して支えてくれた。
「ありがとうございます…」
小さくお礼を言いながら顔を上げると、ブランシュアンド殿下がこめかみ辺りに軽く口付けをくれた。
「大丈夫か?」
「はい…」
ほんの少しの触れ合いだったのだが、ホッとした。
この貴賓室の中である意味、一番邪気の無い?人だからか、触れられるとお花畑に癒される気がする。
そして廊下に目を向けると、アリーフェ様が振り向いて、私とブランシュアンド殿下を虚ろな眼差しで見ているのに気が付いた。
何だか気持ち悪い…
「ネリィ、今日は王宮に泊まって行きなさい」
ん?珍しく命令口調なブランシュアンド殿下…再び顔を見上げるとまた耳元に口を寄せて来られて
「少し、話し合いもしたいしね」
と言ってこられた。今日の対シファニア作戦の反省会?かな。確かに大成功では無かったと思うわ。
お父様を見ると、何度か頷いている。
「ああ、構わない。今日は…シファニアも荒れるだろうし…」
まるで不良が家庭内暴力を振るっているかのような表現だ…
マナラとマットスさんに案内されて、王太子妃の居住スペースに案内された。本当にここに泊まってもいいのかしら?淡いピンクとブルーに統一された可愛い色彩の王太子妃専用の居間を抜けると、寝室の方の内装は逆にしっとりした色合いになっていた。
「ふぅ…」
ソファに座らせてもらうと、思わず溜め息が漏れた。マットスさんがお茶の準備をしてくれている間に、マナラがお風呂や着替えの準備をしてくれている。
私はその2人の姿をぼんやりと眺めていた。
◇◇◇
ネリィがマットス達と廊下の奥に移動したのを見送って、ギナリアーダ侯爵にシファニアの調査報告書を渡した。
「実は私の侍従の身内がシファニア嬢と何やらあってな…それでシファニア嬢の身辺を調査したのだ」
「!」
ギナリアーダ侯爵は顔を引きつらせて、私が差し出した調査書を受け取った。
「今この場で目を通して…心に仕舞って置いてもらっても構わない」
ギナリアーダ侯爵は調査書を手に再び貴賓室に戻って、ソファに腰かけて読みだした。
手が震え、顔面蒼白だ。見ていられない…
フト気が付くとアリーフェ=レガレッテがすぐ近くまで来ていた。
先程も思ったが、この数日で随分とやつれたな…
「殿下…あなたは私と同じだと思っていましたが、違うので?」
「同じ…?」
アリーフェ=レガレッテの目は虚ろだ。
「好きなモノを手の届くギリギリの所に置いて、じっくりと鑑賞する…違いますか?」
「…っ!」
思わず息を飲んだ。
鑑賞……以前の自分を言い当てられたようだった。私はシファニアを鑑賞していた。可愛いと思っていた。だが…それは見て愛でるモノであって、アリーフェ=レガレッテの言うように、確かに手の届く範囲に置いて見ておきたかっただけだ。
アリーフェ=レガレッテとシファニア=ギナリアーダの恋愛を…美しい2人が睦み合い、絡み合う。それを想像するだけで心が躍り…気が昂った。
そうかこれは変質的なことだな…アリーフェ=レガレッテも私とは従兄弟同士、血は争えないということか…だが私は王太子殿下の仮面を被って、綺麗な笑顔でアリーフェ=レガレッテに微笑みかけた。
「そうか?だが私は好きなものが手に届く範囲にいるのなら奪い取り、我がモノにしたいと思うがな?」
そう…今は美しい…と、離れた所から鑑賞するなんて気持ちは起こらない。
ネリィ…清く美しい私の唯一。抱き寄せればこの世の至福を感じる我が妃。
アリーフェ=レガレッテは私から離れると数歩後ろに下がった。
何故そんなに下がる…?
「そうですか…貴方は愛でないで懐に入れることにしましたか…私は愛でていたかったのに、あなたに穢された…」
「…っお前っ!?まさか…」
そこで気が付いた。好きなモノを手の届くギリギリの所に置いて、じっくりと鑑賞する…もしかしてそれはシファニア嬢の傍にいたネシュアリナのことか?
血の気が引いた。アリーフェ=レガレッテはシファニア嬢の婚約者という立場を手に入れ、ネリィを手が届く範囲に置いて愛でていたのだ。こいつは私と逆のことをしようとしていたのだ。
「私だけのネリィだったのに…あなたに穢された」
いやいやぁ!流石にその表現は気持ち悪いぞ!
全くもって人の事は言えないが…まだ穢していないので!とも叫べずに、お互い仄暗い変質的な性癖の為…大声で罵ることも出来ず(藪蛇を回避する為)暫くどう出てくるか…睨み合いをしていたが、アリーフェ=レガレッテの方が先に背を向けた。
「ネリィが堕ちてしまったのなら、もう愛でられないのですねぇ…残念だ」
と、気持ちの悪いことを言い残して去って行った。
お前が言うな!と言われそうだが気持ち悪いと言わせてくれ。それに堕ちるって何だ!私の手に入ったなら高みに昇るだろう!全く不敬だな!
このアリーフェ=レガレッテの事をネリィに言おうか…と思ったが、ネリィから道に落ちている屑ゴミを見るような目で見られそうなので…もう少し心の中に仕舞っておくことにしようと思った。
◇◇◇
夕食はまさか国王陛下とご一緒!?…と緊張していたけれど、同席されたのはブランシュアンド殿下だけだった。良かった…まだ夢男の方が緊張しないで済むわ。
それはそうと
ブランシュアンド殿下は食事を頂きながら、ゆっくりとお話を楽しむタイプみたいね。そうそう、マナーの先生が仰っていた通りだわ。もし殿下とお食事をされることがあるのなら殿下の素晴らしいテーブルマナーを学びなさいませ…と。
確かにゆったりとお食事と会話を楽しみながらも…ナイフとフォークの運びも美しい~
「城の食事はどうだった?」
「はいっとても美味しゅうございましたわ。ポワレの隠し味にどんな香料を使っているのかも気になりましたし…デザートの果肉アイス…マリアンデはどこの特産のものかしら…気になります…」
ブランシュアンド殿下は笑顔で聞いて下さっているけど……しまった、つい隠し味や調理方法にばかり興味がいってしまったわ。
「ネリィの食事をここでも味わいたいな~」
そう来ましたか!まあ、フルコースは難しくとも5品くらいは連続で作れましてよ?
「そのうちに~」
とか話しながら、ブランシュアンド殿下の私室にお邪魔した。侍従のスギロさんと女官の方がお部屋を整えている間にマイラ大尉も訪ねてこられた。
「さて…本日のシファニア嬢の件だが…」
皆が一斉にブランシュアンド殿下を見た。何だか会議のようである。
「暗部が調べたシファニア嬢の素行調査の結果は、ギナリアーダ侯爵にもお見せした」
まあ…お父様、ショックで倒れたんじゃないかしら。
「読み終わった後、少し話したが…ギナリアーダ侯爵は大体の所はご存じだったのでは、と思われる。帰り際に卿にネシュアリナに迷惑をかけてすまなかったと…お前が妙な通り名で呼ばれているのに気が付いて、火消しをしたがうまく消せなかった…と、言付かった。」
「通り名…火消し…お父様は毒花姫と輝花姫をご存じだったということですか?」
「ああ、卿に聞いてみた。若い貴族子息や子女の間だけで噂になっていたのを夜会で小耳に挟んだそうだ。慌ててネリィは大人しくて殆ど夜会には参加していない、毒花姫はネリィではない。とだけはその場にいた貴族の皆には説明したらしい…ここで気が付かないか?」
ブランシュアンド殿下がやけにニヤニヤと笑って周りを見回した。
「ギナリアーダ侯爵はその場に居た貴族にだけ訂正をした。つまりはギナリアーダ侯爵が訂正したのは高位貴族だけしかいない夜会の席…ということだ」
スギロさんが、そうか…と呟かれた。
「火消しをしたのが高位貴族だけで、下位貴族には伝わらなかった…それが噂となってネシュアリナ様が毒花姫ではなく、シファニア様が毒花姫…これになって伝わっていった…という訳ですね」
ブランシュアンド殿下は頷かれた。
「人は伝え聞く度に噂に尾ひれを付けて広めてしまう傾向があると思う。今回はたまたま消去法でネシュアリナが毒花姫ではない…では誰が毒花姫か?そこで残るシファニア嬢が毒花姫では?シファニア嬢が毒花姫だ、これに行き着いたということだろう。まあ噂は事実だったわけだし…悪意は無いよね、事実だし」
何回、事実だ!と言うつもりなのだろうか?夢男の夢をぶち破ったビッチへの恨みが強いのかもしれない…
「しかしアリーフェ=レガレッテ様もどうして今頃になって婚約破棄を申されるのでしょうね?それこそ、前からシファニア嬢の御乱行はご存じだったのですよね?」
御乱行…マイラ大尉もビッチに対して個人的な恨みでもあるのか、言葉のチョイスに棘がある。
「ああ…うむ、そうだな…まあ今まで堪えていらしたんだろう。ご自身の婚約者だしね」
そうか?急にしどろもどろになったブランシュアンド殿下に胡乱な目を向ける。だって数日前までは、アリーフェ様はシファニアがビッチ?それが何か?みたいな態度だったじゃない。それなのにここに来ての手のひら返しの婚約破棄。この数日の間に何かあったに違いないじゃない。
「もしかしてザフェリアンド殿下に何か言われたのでしょうか?」
私がそう聞くと、殿下もマイラ大尉もスギロさんも、えぇ~?というような否定的な声音を上げられた。
「それは無い無い~あのザッシュがアリーフェの婚約者がシファニア嬢だと知らないなんてことは絶対にないし、もしザッシュが本気なら、もっと早い段階でアリーフェからシファニア嬢を奪ってるさ」
「はぁ…」
ブランシュアンド殿下は苦笑いを浮かべながら否定している。つまりは第三王子殿下は『好きになったら喰らい付く、俺様のものになれ!』というような強引な王子様な訳だ。
「まあ、アリーフェの方がシファニア嬢に対する興味が薄れたんだろう?アハハ………」
薄ら笑いを浮かべてヘラヘラ笑う、胡散臭いブランシュアンド殿下の笑顔を真顔で見ていると、私以外のマイラ大尉もスギロさんも真顔だった。
「何です?殿下、気味悪いですね……まあ兎も角、懸念事項だったマリフェイト子息の廃嫡の件もどうやら白紙に戻りそうですし、マットスもこのまま侍従を続けられそうではないですか?」
マイラ大尉はスギロさんを見た。スギロさんも頷いている。
そうしてその日の作戦会議は終了した。
明日が憂鬱だ…家に帰ったらひと悶着ありそうな気がする…
シファニアと婚約破棄……今頃?いや、ブランシュアンド殿下にシファニアの痴態を知られたから?
今更アリーフェ様がシファニア関連のことでビビるとは思えないけど…私は父を見た。
ああ、お父様…泡吹きそう。
「婚約破棄でございますか…」
「ああ…理由は分かりますよね?」
高位貴族からの申し入れ…シファニアの醜聞に溜まり兼ねたアリーフェ様からの破棄、辻褄は合っている。
アリーフェ様は私を見詰めた後…何だかねっちょりした視線をブランシュアンド殿下に向けてから、小さく息をついてる。
「わ…分かりました」
あ~あ…お父様了承しちゃった。いや、せざるを得ないけど、今日は家に帰ったら大荒れだろうな…
アリーフェ様は「では…」と言って立ち上がられたので、青い顔をしたお父様と一緒に立ち上がって戸口へ向かうとブランシュアンド殿下がすぐに、背中に手を回して支えてくれた。
「ありがとうございます…」
小さくお礼を言いながら顔を上げると、ブランシュアンド殿下がこめかみ辺りに軽く口付けをくれた。
「大丈夫か?」
「はい…」
ほんの少しの触れ合いだったのだが、ホッとした。
この貴賓室の中である意味、一番邪気の無い?人だからか、触れられるとお花畑に癒される気がする。
そして廊下に目を向けると、アリーフェ様が振り向いて、私とブランシュアンド殿下を虚ろな眼差しで見ているのに気が付いた。
何だか気持ち悪い…
「ネリィ、今日は王宮に泊まって行きなさい」
ん?珍しく命令口調なブランシュアンド殿下…再び顔を見上げるとまた耳元に口を寄せて来られて
「少し、話し合いもしたいしね」
と言ってこられた。今日の対シファニア作戦の反省会?かな。確かに大成功では無かったと思うわ。
お父様を見ると、何度か頷いている。
「ああ、構わない。今日は…シファニアも荒れるだろうし…」
まるで不良が家庭内暴力を振るっているかのような表現だ…
マナラとマットスさんに案内されて、王太子妃の居住スペースに案内された。本当にここに泊まってもいいのかしら?淡いピンクとブルーに統一された可愛い色彩の王太子妃専用の居間を抜けると、寝室の方の内装は逆にしっとりした色合いになっていた。
「ふぅ…」
ソファに座らせてもらうと、思わず溜め息が漏れた。マットスさんがお茶の準備をしてくれている間に、マナラがお風呂や着替えの準備をしてくれている。
私はその2人の姿をぼんやりと眺めていた。
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ネリィがマットス達と廊下の奥に移動したのを見送って、ギナリアーダ侯爵にシファニアの調査報告書を渡した。
「実は私の侍従の身内がシファニア嬢と何やらあってな…それでシファニア嬢の身辺を調査したのだ」
「!」
ギナリアーダ侯爵は顔を引きつらせて、私が差し出した調査書を受け取った。
「今この場で目を通して…心に仕舞って置いてもらっても構わない」
ギナリアーダ侯爵は調査書を手に再び貴賓室に戻って、ソファに腰かけて読みだした。
手が震え、顔面蒼白だ。見ていられない…
フト気が付くとアリーフェ=レガレッテがすぐ近くまで来ていた。
先程も思ったが、この数日で随分とやつれたな…
「殿下…あなたは私と同じだと思っていましたが、違うので?」
「同じ…?」
アリーフェ=レガレッテの目は虚ろだ。
「好きなモノを手の届くギリギリの所に置いて、じっくりと鑑賞する…違いますか?」
「…っ!」
思わず息を飲んだ。
鑑賞……以前の自分を言い当てられたようだった。私はシファニアを鑑賞していた。可愛いと思っていた。だが…それは見て愛でるモノであって、アリーフェ=レガレッテの言うように、確かに手の届く範囲に置いて見ておきたかっただけだ。
アリーフェ=レガレッテとシファニア=ギナリアーダの恋愛を…美しい2人が睦み合い、絡み合う。それを想像するだけで心が躍り…気が昂った。
そうかこれは変質的なことだな…アリーフェ=レガレッテも私とは従兄弟同士、血は争えないということか…だが私は王太子殿下の仮面を被って、綺麗な笑顔でアリーフェ=レガレッテに微笑みかけた。
「そうか?だが私は好きなものが手に届く範囲にいるのなら奪い取り、我がモノにしたいと思うがな?」
そう…今は美しい…と、離れた所から鑑賞するなんて気持ちは起こらない。
ネリィ…清く美しい私の唯一。抱き寄せればこの世の至福を感じる我が妃。
アリーフェ=レガレッテは私から離れると数歩後ろに下がった。
何故そんなに下がる…?
「そうですか…貴方は愛でないで懐に入れることにしましたか…私は愛でていたかったのに、あなたに穢された…」
「…っお前っ!?まさか…」
そこで気が付いた。好きなモノを手の届くギリギリの所に置いて、じっくりと鑑賞する…もしかしてそれはシファニア嬢の傍にいたネシュアリナのことか?
血の気が引いた。アリーフェ=レガレッテはシファニア嬢の婚約者という立場を手に入れ、ネリィを手が届く範囲に置いて愛でていたのだ。こいつは私と逆のことをしようとしていたのだ。
「私だけのネリィだったのに…あなたに穢された」
いやいやぁ!流石にその表現は気持ち悪いぞ!
全くもって人の事は言えないが…まだ穢していないので!とも叫べずに、お互い仄暗い変質的な性癖の為…大声で罵ることも出来ず(藪蛇を回避する為)暫くどう出てくるか…睨み合いをしていたが、アリーフェ=レガレッテの方が先に背を向けた。
「ネリィが堕ちてしまったのなら、もう愛でられないのですねぇ…残念だ」
と、気持ちの悪いことを言い残して去って行った。
お前が言うな!と言われそうだが気持ち悪いと言わせてくれ。それに堕ちるって何だ!私の手に入ったなら高みに昇るだろう!全く不敬だな!
このアリーフェ=レガレッテの事をネリィに言おうか…と思ったが、ネリィから道に落ちている屑ゴミを見るような目で見られそうなので…もう少し心の中に仕舞っておくことにしようと思った。
◇◇◇
夕食はまさか国王陛下とご一緒!?…と緊張していたけれど、同席されたのはブランシュアンド殿下だけだった。良かった…まだ夢男の方が緊張しないで済むわ。
それはそうと
ブランシュアンド殿下は食事を頂きながら、ゆっくりとお話を楽しむタイプみたいね。そうそう、マナーの先生が仰っていた通りだわ。もし殿下とお食事をされることがあるのなら殿下の素晴らしいテーブルマナーを学びなさいませ…と。
確かにゆったりとお食事と会話を楽しみながらも…ナイフとフォークの運びも美しい~
「城の食事はどうだった?」
「はいっとても美味しゅうございましたわ。ポワレの隠し味にどんな香料を使っているのかも気になりましたし…デザートの果肉アイス…マリアンデはどこの特産のものかしら…気になります…」
ブランシュアンド殿下は笑顔で聞いて下さっているけど……しまった、つい隠し味や調理方法にばかり興味がいってしまったわ。
「ネリィの食事をここでも味わいたいな~」
そう来ましたか!まあ、フルコースは難しくとも5品くらいは連続で作れましてよ?
「そのうちに~」
とか話しながら、ブランシュアンド殿下の私室にお邪魔した。侍従のスギロさんと女官の方がお部屋を整えている間にマイラ大尉も訪ねてこられた。
「さて…本日のシファニア嬢の件だが…」
皆が一斉にブランシュアンド殿下を見た。何だか会議のようである。
「暗部が調べたシファニア嬢の素行調査の結果は、ギナリアーダ侯爵にもお見せした」
まあ…お父様、ショックで倒れたんじゃないかしら。
「読み終わった後、少し話したが…ギナリアーダ侯爵は大体の所はご存じだったのでは、と思われる。帰り際に卿にネシュアリナに迷惑をかけてすまなかったと…お前が妙な通り名で呼ばれているのに気が付いて、火消しをしたがうまく消せなかった…と、言付かった。」
「通り名…火消し…お父様は毒花姫と輝花姫をご存じだったということですか?」
「ああ、卿に聞いてみた。若い貴族子息や子女の間だけで噂になっていたのを夜会で小耳に挟んだそうだ。慌ててネリィは大人しくて殆ど夜会には参加していない、毒花姫はネリィではない。とだけはその場にいた貴族の皆には説明したらしい…ここで気が付かないか?」
ブランシュアンド殿下がやけにニヤニヤと笑って周りを見回した。
「ギナリアーダ侯爵はその場に居た貴族にだけ訂正をした。つまりはギナリアーダ侯爵が訂正したのは高位貴族だけしかいない夜会の席…ということだ」
スギロさんが、そうか…と呟かれた。
「火消しをしたのが高位貴族だけで、下位貴族には伝わらなかった…それが噂となってネシュアリナ様が毒花姫ではなく、シファニア様が毒花姫…これになって伝わっていった…という訳ですね」
ブランシュアンド殿下は頷かれた。
「人は伝え聞く度に噂に尾ひれを付けて広めてしまう傾向があると思う。今回はたまたま消去法でネシュアリナが毒花姫ではない…では誰が毒花姫か?そこで残るシファニア嬢が毒花姫では?シファニア嬢が毒花姫だ、これに行き着いたということだろう。まあ噂は事実だったわけだし…悪意は無いよね、事実だし」
何回、事実だ!と言うつもりなのだろうか?夢男の夢をぶち破ったビッチへの恨みが強いのかもしれない…
「しかしアリーフェ=レガレッテ様もどうして今頃になって婚約破棄を申されるのでしょうね?それこそ、前からシファニア嬢の御乱行はご存じだったのですよね?」
御乱行…マイラ大尉もビッチに対して個人的な恨みでもあるのか、言葉のチョイスに棘がある。
「ああ…うむ、そうだな…まあ今まで堪えていらしたんだろう。ご自身の婚約者だしね」
そうか?急にしどろもどろになったブランシュアンド殿下に胡乱な目を向ける。だって数日前までは、アリーフェ様はシファニアがビッチ?それが何か?みたいな態度だったじゃない。それなのにここに来ての手のひら返しの婚約破棄。この数日の間に何かあったに違いないじゃない。
「もしかしてザフェリアンド殿下に何か言われたのでしょうか?」
私がそう聞くと、殿下もマイラ大尉もスギロさんも、えぇ~?というような否定的な声音を上げられた。
「それは無い無い~あのザッシュがアリーフェの婚約者がシファニア嬢だと知らないなんてことは絶対にないし、もしザッシュが本気なら、もっと早い段階でアリーフェからシファニア嬢を奪ってるさ」
「はぁ…」
ブランシュアンド殿下は苦笑いを浮かべながら否定している。つまりは第三王子殿下は『好きになったら喰らい付く、俺様のものになれ!』というような強引な王子様な訳だ。
「まあ、アリーフェの方がシファニア嬢に対する興味が薄れたんだろう?アハハ………」
薄ら笑いを浮かべてヘラヘラ笑う、胡散臭いブランシュアンド殿下の笑顔を真顔で見ていると、私以外のマイラ大尉もスギロさんも真顔だった。
「何です?殿下、気味悪いですね……まあ兎も角、懸念事項だったマリフェイト子息の廃嫡の件もどうやら白紙に戻りそうですし、マットスもこのまま侍従を続けられそうではないですか?」
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