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毒を纏う女
今頃??
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『ギナリアーダ侯爵家ではシファニア様が暴れて嵐が起こっている模様です』
何故だか、覆面を被った忍者か?お前忍者なのか?な、装束のお兄さん?みたいな方に巻物を渡された。ここは王宮の王太子妃の裏庭だ。朝から庭で、〇ジ〇体〇をしていたのに急に忍びが現れてめっちゃ驚いたわ…
「この…お手紙でしょうか?これは私が見れば宜しいの?」
その忍者さん?に尋ねると、無言で頷いている。本当に忍びの方ではないのか?無言で見詰められるので、その場で巻物をシュルン…と広げれば、その『ギナリアーダ侯爵家では…』の一文が書かれていたのである。
う~ん達筆だ。まさかの毛筆?まさかね…この方が書かれたのか?謎は深まるけど、私が巻物を読んでいる間に忍者さんはドロンと消えていた。
もしかしてさっきのあの人が、ベッドの下に潜り込んでウフンアハンな描写を綿密に書き綴った例の調査書を書いた品性を疑ってしまいたくなる諜報部の部隊の方なのか?
しかし…あの忍びの諜報の方が知らせてくれたことが本当ならば…あ~あやっぱり家に帰るの憂鬱…
本音を言えばこのまま王太子妃の部屋で引きこもりをしたいくらいだった。いくら前世で社畜として働いていたとしても、平和な大和民族の端くれ…争いごとには殆ど縁がない。今だって侯爵令嬢だ、怒鳴り合いの喧嘩なんて今世では一度もしたことないくらいなのだ。
気鬱なまま…朝食を頂き、ブランシュアンド殿下がお呼びです…と食後にマナラに言われて執務室にお邪魔した。
平和万歳よ…ああ、帰りたくない。
という私の情けない心情を察してかブランシュアンド殿下が嬉しい提案をしてきてくれたのだ。
「マナラとマットスから要望があってな、少しでも早くネリィとの主従関係に慣れたいとのことで侯爵家に帰ったネリィの世話もさせて貰えないか…とのことなのだ。どうだ?」
まああっ!2人が実家でもお世話してくれるの?心強いし有難いわ!
「宜しいのですか?」
嬉しくなって前のめりにそう答えると、それを見たブランシュアンド殿下はちょっと口を尖らせている。どうしたの?
「なんだか~マットスとマナラとは随分仲良くなったみたいだな…私もそこに混ざりたいな~」
王太子殿下が混ざってどうするのよ…一緒にお花畑で駆け回りたいってか?何となくだけど、マナラの前でお花畑を作ったら彼女に根っこから全ての花を摘み取られてしまいそうな気がするわよ?
取り敢えずは憂鬱な気分になる、実家帰りがマットスとマナラのお陰で気持ちが楽になった。
そう…そうして侯爵家に帰ったのだけれど、忍びのお兄様の報告は正確だったわ…私の想像の斜め上をいっていたけれど…
侯爵家に殿下に用意して頂いた王族専用馬車で戻ると、我が家の侍従のストエイスとメイド長が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ネシュアリナ様」
「ただいま、ストエイス、メイド長…こちら王宮付きの侍従のマットスとメイドのマナラ」
メイド長にしてみれば、王宮にお勤め=エリートの認識だと思うから挨拶をしながら戸惑っていたけれど、ブランシュアンド殿下のお手紙を見せたら、頬を緩ませた。
「まあ、殿下のお気遣いは素晴らしいですわね~それはそうと、お嬢様…今大変なことになっておりまして…」
継母に言われて私に冷たくあたっていた使用人達は基本的に継母付きのメイドなので、私との接点は無い。メイド長も私が生まれる前からこの家で働いているからお父様より威風堂々としている…と思って尊敬している方だ。
「ご報告受けているわ、嵐が起こっている…と」
私が言うと、ストエイスもメイド長も困ったような顔をした。メイド長に促されて玄関を抜けて、居間に入った。
「お部屋にお戻りになる前に、状況をご説明させて下さい」
メイド長の前振りが怖い…
「昨日、旦那様がおかえりになられて…アリーフェ=レガレッテ卿からシファニア様との婚約破棄の申し入れを受けたと…旦那様は了承したとのご報告をされました。そのお話を聞いたシファニア様は取り乱す事も無く…『アリーフェ様と破棄になったのだから、今度はお姉様ね…お姉様もブランシュアンド殿下と破棄になって私と代われるわね』と仰って…奥様はそれを聞かれて癇癪を起されて暴れるし、旦那様は怒って取り乱されるし、シファニア様は今はお部屋にて軟禁状態になってます」
「軟禁!?」
メイド長の話をストエイスが引き継いだ。
「旦那様がご命じになられました。私も奥様から叱責を受けました。夜遊びに出ているシファニア様の様子を報告しなかった…と。確かに見てみぬふりはしていたのは事実ですが…旦那様も奥様も分かっておられたではないですか…」
「ストエイス!」
メイド長がストエイスを叱責したが、ストエイスは小さく息を吐いて肩を竦めただけだった。
「もういいのですよ、私は奥様にシファニア様の報告を怠ったとか難癖をつけられましたし…」
ストエイスはそれだけ言うと、いつものような無表情の仮面を被り、マットスとマナラを使用人の部屋へと案内して行った。
メイド長が困り顔で俯いていると、今度は執事長とお父様が入って来た。
お父様…一日で老け込んでるわ…まだ39才なのに…
「ネシュアリナ…話は聞いているか?」
「お義母様が癇癪を起されて、シファニアを部屋に…」
私がそこまで言うとお父様は手で制された。私の座るソファの前にお父様が座ると、皆がお茶の準備をしてくれる。
「シファニアの評判は随分と悪いようだな…」
「そうですね、私も殿下にお聞きして初めて知りました」
お父様は俯いて頭を抱え込まれた。そりゃ抱え込みたくもなるわね…胃が痛いでしょう、お父様…
「どうやら若い貴族の子息が参加している夜会に頻繁に出没して…その、漁っていたそうなんだ」
「そうですか…」
「どうりで夜に出歩いてばかりだと思った。私にはアリーフェ=レガレッテ卿と会っていると嘘まで言っていた」
「まあ…そんな嘘はいけませんよね」
確かに夜遅いとはいえ、アリーフェ様と…と言われると頭ごなしに怒れない。現にアリーフェ様がマイラ大尉曰く、シファニアの御乱行は黙認されていたみたいだし、お父様も疑ってはいるけれど明言せず…の貴族らしい対応をしてしまっていたと思う。
そんな甘っちょろい対応をしているからこんなことになるのだよ…と怒る訳にもいかず、出来の悪い自分の直属の上司ような…係長(父親)を見詰めてあげた。
そんな時突然、居間に継母が飛び込んできた。ご…御乱心だよね?髪型ボロボロでドレスはヨレヨレだよ?
「夜遊びは…よあそびはぁぁ…!全部あなたがしていることにしたのよ!?なんでそれがあの子の醜聞になっているのよ!?」
「!?」
私に走り寄ってきて、私に取り縋った継母は唾を飛ばしながら叫んだ。
「シファニアがぁ…怒っても諫めても言う事をきかないからぁ!あの子が……男を誘う毒花姫だと言われるからぁ…その話の度に、それは姉のネシュアリナのことだと、あなたの事だとっ…話してっ、話して…シファニアの噂を変えようとしたのに…どうしてなのよぉ!?どうしてあの子はやめないのよっ!あなたのせいよっ!あなたがいるからシファニアが王太子殿下の妃になれないのよっ!」
こんのクソババア…と思ったが、必死の形相で私を詰っている継母を見て哀れになった。
私は前世では結婚もしていなかったし、子持ちでもなかったから共感はしにくいけれど、シファニアみたいな娘がいたのなら…母親はとても大変だろうなと思うと継母に反論するのはためらわれた。
言っても聞かない、本人に悪気はない。恐らく周りの男達がチヤホヤしている…それに気が付いているのかいないのか…白痴なのか。悪知恵が働く子ではないのは知っている。考えが浅いのだ…
「お義母様、いくら私を貶めたってシファニア本人が頑張らなければ本物の輝花姫にはなれませんのよ?」
「!」
継母はわああ…と泣き叫んでソファにうつ伏してしまった。
「シファニアは私がいなくなれば王太子妃になれると思い込んでいるみたいですが、他家にも令嬢は沢山いらっしゃいます。私がいなくなっても、他家のご令嬢が候補に成り代わるだけ…今のシファニアでは到底無理です。お父様…シファニアをここに呼んで下さいませ」
父はオロオロしていた。気持ちはわかるぜ、かかりちょー。
お父様に呼び出されたシファニアは、侯爵家の私兵のおじさん2人にがっちりガードというよりは、逃亡防止?されながら居間に現れた。
シファニアは泣き崩れている継母の横のソファに座ると、継母を激しく揺さぶった。
「お母様、ねえ、お母様…お母様からも言ってよ。アリーフェ様とやっと婚約破棄が出来たのだから私も王太子妃になれるんでしょう?早くお姉様に言ってよ…」
継母は首を横に振ってずっと泣きじゃくっている。そりゃ、泣きたくもなるわ、継母はまだ36才だもんね。異世界じゃお局の域にも達してない中堅女子社員ってところだ。そりゃこんな理解不能な問題児の対応に華麗な対処は出来ないだろう。
「シファニア…あなたがアリーフェ様と婚約破棄になって…仮に私がブランシュアンド殿下と婚約破棄になったとしても…あなたが王太子妃になることはないわ」
シファニアはポカンとしている。
「どうして…え?だって…」
「ブランシュアンド殿下はあなたの素行調査をしているの…あなたが三人…いいえ、それ以上の男性と淫らな行為を楽しんでいることをご存じなの。とてもじゃないけど、それでは王族の籍に入れないわ…それにね、あなたのことは高位貴族のご子息方は結構ご存じだったの」
ビッチとして超有名だった。それに…
「そしてこのまま縁談を待ち続けて…一年経ち二年経ち…あなた今は17才で適齢期よね?二十才を超えたら縁談なんてもっと来なくなるわよ?その間、ずっとあなたの恋人達と遊び惚けるの?あちらだって良家のご子息だし、恐らく婚約者なり奥様なりいらっしゃるわよ。年を取ったあなたよりもっと若い女に鞍替えするわよ?いずれあなたは見向きもされなくなる」
継母の泣き声がさらに大きくなる。
「そして嫁ぐことも出来ずに、ずっと侯爵家に居座るの?この家だっていずれは叔父様の子か…もしくは私と殿下に御子が出来て臣籍降下するかもしれない。王家の御子の甥にずっと寄りかかって生きて行くの?私の子供だもの、あなたを疎んでもしかしたら追い出されるかもしれなくてよ?」
「…っぐぅ…」
お父様が胃を押さえている。ごめんね、胃痛を起させるような話をして…
「シファニア、よく考えてね?今は楽しいかもしれないけど、いつかは終わりはくる。その時あなたはどうするの?」
シファニアはポロポロと涙を零し始めた。
「知らない…知らない…だってシファニアはそのままでいいってリッジが言ってたもの!このまま僕の……を…て楽しそうにしてればいいんだって!…っ!…が…!」
突然にまた卑猥なことを叫び始めたシファニアの叫び声と継母の悲鳴とで、まさに嵐が起こっていた。
しかし……おかしい。シファニアは事あるごとにリッジがどうたら、リッジがこう言った…を連発している。それにこんなに情緒不安定で卑猥なことを連発するなんて……どこかおかしくない?
シファニアは執事と私兵のおじさん達に取り押さえられていた。まさに犯人確保ーー!な体勢だった。シファニアは泣き叫び、リッジに会わせろ!リッジなら私と一緒にイキまくる!とかまだ騒いでいる。
リッジ…ザフェリランド第三王子殿下。
見た目は可愛らしい感じだけど、中身はどす黒い気がする、夢男の天敵(多分)
もしかして、シファニアは何か薬を使われている?
この世界で、精神の崩壊を促す怪しげな薬が流行っている…のは流石に世間知らずの私では分からない。ここは一つ、夢男一号とその仲間達WITH変態忍びの力を借りて、真相を突き止めねばならない…!
「真実はいつも…じっちゃんの名にか……っ!あら、失礼…」
悦に入って某名探偵達の物まねをして、指差した所にちょうど部屋に入って来て修羅場を見て固まっていた、マットスがいた。
あらいやだ、興奮しすぎたわ。そうだ…夢男一号にこのことのご相談の手紙を書いておきましょう。
何故だか、覆面を被った忍者か?お前忍者なのか?な、装束のお兄さん?みたいな方に巻物を渡された。ここは王宮の王太子妃の裏庭だ。朝から庭で、〇ジ〇体〇をしていたのに急に忍びが現れてめっちゃ驚いたわ…
「この…お手紙でしょうか?これは私が見れば宜しいの?」
その忍者さん?に尋ねると、無言で頷いている。本当に忍びの方ではないのか?無言で見詰められるので、その場で巻物をシュルン…と広げれば、その『ギナリアーダ侯爵家では…』の一文が書かれていたのである。
う~ん達筆だ。まさかの毛筆?まさかね…この方が書かれたのか?謎は深まるけど、私が巻物を読んでいる間に忍者さんはドロンと消えていた。
もしかしてさっきのあの人が、ベッドの下に潜り込んでウフンアハンな描写を綿密に書き綴った例の調査書を書いた品性を疑ってしまいたくなる諜報部の部隊の方なのか?
しかし…あの忍びの諜報の方が知らせてくれたことが本当ならば…あ~あやっぱり家に帰るの憂鬱…
本音を言えばこのまま王太子妃の部屋で引きこもりをしたいくらいだった。いくら前世で社畜として働いていたとしても、平和な大和民族の端くれ…争いごとには殆ど縁がない。今だって侯爵令嬢だ、怒鳴り合いの喧嘩なんて今世では一度もしたことないくらいなのだ。
気鬱なまま…朝食を頂き、ブランシュアンド殿下がお呼びです…と食後にマナラに言われて執務室にお邪魔した。
平和万歳よ…ああ、帰りたくない。
という私の情けない心情を察してかブランシュアンド殿下が嬉しい提案をしてきてくれたのだ。
「マナラとマットスから要望があってな、少しでも早くネリィとの主従関係に慣れたいとのことで侯爵家に帰ったネリィの世話もさせて貰えないか…とのことなのだ。どうだ?」
まああっ!2人が実家でもお世話してくれるの?心強いし有難いわ!
「宜しいのですか?」
嬉しくなって前のめりにそう答えると、それを見たブランシュアンド殿下はちょっと口を尖らせている。どうしたの?
「なんだか~マットスとマナラとは随分仲良くなったみたいだな…私もそこに混ざりたいな~」
王太子殿下が混ざってどうするのよ…一緒にお花畑で駆け回りたいってか?何となくだけど、マナラの前でお花畑を作ったら彼女に根っこから全ての花を摘み取られてしまいそうな気がするわよ?
取り敢えずは憂鬱な気分になる、実家帰りがマットスとマナラのお陰で気持ちが楽になった。
そう…そうして侯爵家に帰ったのだけれど、忍びのお兄様の報告は正確だったわ…私の想像の斜め上をいっていたけれど…
侯爵家に殿下に用意して頂いた王族専用馬車で戻ると、我が家の侍従のストエイスとメイド長が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ネシュアリナ様」
「ただいま、ストエイス、メイド長…こちら王宮付きの侍従のマットスとメイドのマナラ」
メイド長にしてみれば、王宮にお勤め=エリートの認識だと思うから挨拶をしながら戸惑っていたけれど、ブランシュアンド殿下のお手紙を見せたら、頬を緩ませた。
「まあ、殿下のお気遣いは素晴らしいですわね~それはそうと、お嬢様…今大変なことになっておりまして…」
継母に言われて私に冷たくあたっていた使用人達は基本的に継母付きのメイドなので、私との接点は無い。メイド長も私が生まれる前からこの家で働いているからお父様より威風堂々としている…と思って尊敬している方だ。
「ご報告受けているわ、嵐が起こっている…と」
私が言うと、ストエイスもメイド長も困ったような顔をした。メイド長に促されて玄関を抜けて、居間に入った。
「お部屋にお戻りになる前に、状況をご説明させて下さい」
メイド長の前振りが怖い…
「昨日、旦那様がおかえりになられて…アリーフェ=レガレッテ卿からシファニア様との婚約破棄の申し入れを受けたと…旦那様は了承したとのご報告をされました。そのお話を聞いたシファニア様は取り乱す事も無く…『アリーフェ様と破棄になったのだから、今度はお姉様ね…お姉様もブランシュアンド殿下と破棄になって私と代われるわね』と仰って…奥様はそれを聞かれて癇癪を起されて暴れるし、旦那様は怒って取り乱されるし、シファニア様は今はお部屋にて軟禁状態になってます」
「軟禁!?」
メイド長の話をストエイスが引き継いだ。
「旦那様がご命じになられました。私も奥様から叱責を受けました。夜遊びに出ているシファニア様の様子を報告しなかった…と。確かに見てみぬふりはしていたのは事実ですが…旦那様も奥様も分かっておられたではないですか…」
「ストエイス!」
メイド長がストエイスを叱責したが、ストエイスは小さく息を吐いて肩を竦めただけだった。
「もういいのですよ、私は奥様にシファニア様の報告を怠ったとか難癖をつけられましたし…」
ストエイスはそれだけ言うと、いつものような無表情の仮面を被り、マットスとマナラを使用人の部屋へと案内して行った。
メイド長が困り顔で俯いていると、今度は執事長とお父様が入って来た。
お父様…一日で老け込んでるわ…まだ39才なのに…
「ネシュアリナ…話は聞いているか?」
「お義母様が癇癪を起されて、シファニアを部屋に…」
私がそこまで言うとお父様は手で制された。私の座るソファの前にお父様が座ると、皆がお茶の準備をしてくれる。
「シファニアの評判は随分と悪いようだな…」
「そうですね、私も殿下にお聞きして初めて知りました」
お父様は俯いて頭を抱え込まれた。そりゃ抱え込みたくもなるわね…胃が痛いでしょう、お父様…
「どうやら若い貴族の子息が参加している夜会に頻繁に出没して…その、漁っていたそうなんだ」
「そうですか…」
「どうりで夜に出歩いてばかりだと思った。私にはアリーフェ=レガレッテ卿と会っていると嘘まで言っていた」
「まあ…そんな嘘はいけませんよね」
確かに夜遅いとはいえ、アリーフェ様と…と言われると頭ごなしに怒れない。現にアリーフェ様がマイラ大尉曰く、シファニアの御乱行は黙認されていたみたいだし、お父様も疑ってはいるけれど明言せず…の貴族らしい対応をしてしまっていたと思う。
そんな甘っちょろい対応をしているからこんなことになるのだよ…と怒る訳にもいかず、出来の悪い自分の直属の上司ような…係長(父親)を見詰めてあげた。
そんな時突然、居間に継母が飛び込んできた。ご…御乱心だよね?髪型ボロボロでドレスはヨレヨレだよ?
「夜遊びは…よあそびはぁぁ…!全部あなたがしていることにしたのよ!?なんでそれがあの子の醜聞になっているのよ!?」
「!?」
私に走り寄ってきて、私に取り縋った継母は唾を飛ばしながら叫んだ。
「シファニアがぁ…怒っても諫めても言う事をきかないからぁ!あの子が……男を誘う毒花姫だと言われるからぁ…その話の度に、それは姉のネシュアリナのことだと、あなたの事だとっ…話してっ、話して…シファニアの噂を変えようとしたのに…どうしてなのよぉ!?どうしてあの子はやめないのよっ!あなたのせいよっ!あなたがいるからシファニアが王太子殿下の妃になれないのよっ!」
こんのクソババア…と思ったが、必死の形相で私を詰っている継母を見て哀れになった。
私は前世では結婚もしていなかったし、子持ちでもなかったから共感はしにくいけれど、シファニアみたいな娘がいたのなら…母親はとても大変だろうなと思うと継母に反論するのはためらわれた。
言っても聞かない、本人に悪気はない。恐らく周りの男達がチヤホヤしている…それに気が付いているのかいないのか…白痴なのか。悪知恵が働く子ではないのは知っている。考えが浅いのだ…
「お義母様、いくら私を貶めたってシファニア本人が頑張らなければ本物の輝花姫にはなれませんのよ?」
「!」
継母はわああ…と泣き叫んでソファにうつ伏してしまった。
「シファニアは私がいなくなれば王太子妃になれると思い込んでいるみたいですが、他家にも令嬢は沢山いらっしゃいます。私がいなくなっても、他家のご令嬢が候補に成り代わるだけ…今のシファニアでは到底無理です。お父様…シファニアをここに呼んで下さいませ」
父はオロオロしていた。気持ちはわかるぜ、かかりちょー。
お父様に呼び出されたシファニアは、侯爵家の私兵のおじさん2人にがっちりガードというよりは、逃亡防止?されながら居間に現れた。
シファニアは泣き崩れている継母の横のソファに座ると、継母を激しく揺さぶった。
「お母様、ねえ、お母様…お母様からも言ってよ。アリーフェ様とやっと婚約破棄が出来たのだから私も王太子妃になれるんでしょう?早くお姉様に言ってよ…」
継母は首を横に振ってずっと泣きじゃくっている。そりゃ、泣きたくもなるわ、継母はまだ36才だもんね。異世界じゃお局の域にも達してない中堅女子社員ってところだ。そりゃこんな理解不能な問題児の対応に華麗な対処は出来ないだろう。
「シファニア…あなたがアリーフェ様と婚約破棄になって…仮に私がブランシュアンド殿下と婚約破棄になったとしても…あなたが王太子妃になることはないわ」
シファニアはポカンとしている。
「どうして…え?だって…」
「ブランシュアンド殿下はあなたの素行調査をしているの…あなたが三人…いいえ、それ以上の男性と淫らな行為を楽しんでいることをご存じなの。とてもじゃないけど、それでは王族の籍に入れないわ…それにね、あなたのことは高位貴族のご子息方は結構ご存じだったの」
ビッチとして超有名だった。それに…
「そしてこのまま縁談を待ち続けて…一年経ち二年経ち…あなた今は17才で適齢期よね?二十才を超えたら縁談なんてもっと来なくなるわよ?その間、ずっとあなたの恋人達と遊び惚けるの?あちらだって良家のご子息だし、恐らく婚約者なり奥様なりいらっしゃるわよ。年を取ったあなたよりもっと若い女に鞍替えするわよ?いずれあなたは見向きもされなくなる」
継母の泣き声がさらに大きくなる。
「そして嫁ぐことも出来ずに、ずっと侯爵家に居座るの?この家だっていずれは叔父様の子か…もしくは私と殿下に御子が出来て臣籍降下するかもしれない。王家の御子の甥にずっと寄りかかって生きて行くの?私の子供だもの、あなたを疎んでもしかしたら追い出されるかもしれなくてよ?」
「…っぐぅ…」
お父様が胃を押さえている。ごめんね、胃痛を起させるような話をして…
「シファニア、よく考えてね?今は楽しいかもしれないけど、いつかは終わりはくる。その時あなたはどうするの?」
シファニアはポロポロと涙を零し始めた。
「知らない…知らない…だってシファニアはそのままでいいってリッジが言ってたもの!このまま僕の……を…て楽しそうにしてればいいんだって!…っ!…が…!」
突然にまた卑猥なことを叫び始めたシファニアの叫び声と継母の悲鳴とで、まさに嵐が起こっていた。
しかし……おかしい。シファニアは事あるごとにリッジがどうたら、リッジがこう言った…を連発している。それにこんなに情緒不安定で卑猥なことを連発するなんて……どこかおかしくない?
シファニアは執事と私兵のおじさん達に取り押さえられていた。まさに犯人確保ーー!な体勢だった。シファニアは泣き叫び、リッジに会わせろ!リッジなら私と一緒にイキまくる!とかまだ騒いでいる。
リッジ…ザフェリランド第三王子殿下。
見た目は可愛らしい感じだけど、中身はどす黒い気がする、夢男の天敵(多分)
もしかして、シファニアは何か薬を使われている?
この世界で、精神の崩壊を促す怪しげな薬が流行っている…のは流石に世間知らずの私では分からない。ここは一つ、夢男一号とその仲間達WITH変態忍びの力を借りて、真相を突き止めねばならない…!
「真実はいつも…じっちゃんの名にか……っ!あら、失礼…」
悦に入って某名探偵達の物まねをして、指差した所にちょうど部屋に入って来て修羅場を見て固まっていた、マットスがいた。
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