毒花姫

浦 かすみ

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毒を纏う女

今頃???

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一度自室に戻り、殿下へのお手紙を書いてマットスに頼むと、再び居間に戻った。お父様はいないけど、まだ泣いている継母がいる。

私は泣きじゃくっている継母の傍に行くと背中を擦った。私には意地悪なババアだけど、今回のことに関しては同情を否めない。多分、シファニアが王太子妃になったら私も国王妃の母親になれるかも…なんて淡い期待を抱いていたのかもしれない。

しかし、国王妃になったところでビッチ魂が静まるかい?

城に上がって、それこそ侍従の若い子とそういうことになってみなさいよ…侯爵家のお取り潰しの憂き目に合いますよ?

「どうしてブランシュアンド殿下はあの子の素行調査をしようだなんて…っうう…」

ちょっと落ち着いてきて、普段の嫌味ババアな継母に戻ってきましたか?調査の件は全部は話せないけど…

「シファニアが殿下のお知り合いの男性とも…まあちょっと関係があったそうなの。ブランシュアンド殿下は気にされて調べたみたいですね」

殿下の名前を出したらババアも相手が悪いと思ったのか、黙り込んだ…そしてまたグズグズと泣き出した。

泣いたってシファニアのビッチは治らないし、それこそあの子自身が一度、痛い目に遭わなければ気が付かないと思うし、それでも分からないかもしれない…とも思う。

そして暫くしてマットスが殿下のお返事を持って帰って来た。

返事には、早急に調べてみる…そしてネリィと離れているのが辛いので、用意が整い次第王宮に速やかに越して来るように…と書いてあった。

どういうことだ?まだ婚約前…というか正式な婚約すらしていないのでは?

手紙を前に唸っていると、お父様が呼んでいるというので執務室にお邪魔した。そう言えばお父様、どこかにお出かけしていたのかしら?

「先程、レガレッテ公爵にお会いして来た。ご子息から『シファニア嬢の不貞にもうこれ以上耐えられない』と言われたと正式に婚約破棄を言い渡された。向こうの勝手な言い分ではシファニアの相次ぐ不貞行為を、涙を呑んで耐えていたがご子息がもう我慢出来ない…無理だと訴えてきた…ということにしたらしい」

お父様の言葉の端々に嫌味が挟まれている。お父様は深く溜め息をつかれた後、私を見た。眉間の皺がすごいわね……

「これでシファニアは醜聞まみれになるな…」

「不貞の噂を押さえることは出来ませんの?」

「相手はレガレッテ公爵家だ…それでなくてもシファニアは毒花姫という噂の下地が出来ている…難しいな」

まさに…アリーフェェ!お前が今頃言うな!状態なのだが、傍目には婚約者に裏切られた悲劇の子息なのだ。そう…お父様の言う通りそれは難しかったのだ。

翌日

王太子妃教育の為に登城の準備をしていると、朝一でブランシュアンド殿下自らお迎えにいらっしゃった。

「おはよう、朝から貴女に会えて嬉しいよ、愛しのネリィ」

「……おはようございます、殿下」

何故来た?しかも…朝から侯爵家の玄関でお花畑を創り出す夢男。

「姫様のお支度がまだで御座います。殿下をお待たせする訳には参りませんので、城に先に戻られては?」

マナラが夢男が創り出したお花畑を芝刈り機(冷笑)で一気に刈り上げた!お花畑を丸裸にされてしまったブランシュアンド殿下は、それでも種(話題)を蒔いた!

「アリーフェ=レガレッテの事で話があるんだ、内密で…」

そう言うと、マナラはピクッと眉を動かして静かに一歩下がった。

何だか私が緊張したわ…無事?にブランシュアンド殿下は侯爵家の玄関に踏みとどまれた。

私は本当に準備がまだだったので、暫くお待たせしたのだが…どうやらその間にお父様と何かお話していたみたい。私を見送ってくれたお父様は、顔色が若干良くなっていた。

「頼んだよ、ネシュアリナ…」

何を頼むというのか…まさか私にシファニアの醜聞を打つ消すような工作をして来いというのだろうか…無茶言うぜ。

馬車の車内はブランシュアンド殿下と2人きりだ。何度も言うが、まだ婚約前だ…2人きりはマズかろう。

「ネリィ…今日は突然に訪ねてすまなかったな…居ても立っても居られなくてな…」

「はぁ…」

「実はアリーフェ=レガレッテの周りにうちの暗部を潜ませていてな…」

いつの間に…!というよりアリーフェ様を見張らなきゃいけない事って何かあったっけ?

「シファニア嬢の醜聞をネシュアリナとの婚姻で収めてやるから…と侯爵家に打診しようとしている…と報告があった」

「なっ!」

つまりは…お前の家は赤っ恥かいただろ?どうだい、妹の醜聞を姉を引き取ってやる代わりにもみ消してやってもいいよ…とか言ってくるつもりなのか!?そうなのか!?

「そんな馬鹿なことを…」

「アリーフェが言い出したことではないようだ。え~とつまりだな…この際だから打ち明けてしまうとアリーフェも以前の私と一緒だったんだ…」

んん?以前の殿下と一緒?

「あ…う…その、私がシファニア嬢のことを近くで見ていたいと思ったように…アリーフェもネシュアリナに対して思っていたというか…」

ひぃいい!?まじですか!?

「キモッ!……失礼、つまりはアリーフェ様も私の事で馬鹿みたいな勘違い妄想を抱いていたという訳ですか…通りで気持ち悪い目で見ていると思ったわ!」

「ぐぅ…うぅ…そ、そうだな…キモチワルイな……」

どうしたの?殿下、またエアー被弾?

「とにかく…だ、アリーフェはネリィが私の妃になってしまって手元から離れてしまったので興味を失くしてしまったようなんだ…」

私はそれを聞いて怖気立って、思わず腕を擦った。

「キモッ…!何が興味ですかっおまけにアリーフェ様の手元に行った記憶も御座いませんよ?勝手な思い込みで処女厨押し付けたられたり、カプ厨の……あら?失礼、興奮して言葉を荒げてしまいましたわ…オホホ」

危ない、危ない…あまりのキモさに異世界語が飛び出してしまったわ。

「コホン…アリーフェ様もそんな気持ち悪い人だったなんて幻滅ですわ。おおっ怖っ…シファニアと、婚姻されていたら事あるごとにそんな妄想の餌食になっていたのでしょうか?ああっやだやだ!」

「うっ…ぐっ……そうだな…キモチワルイな」

夢男が胸を押さえている。ちょっと言い過ぎたかしらね?でも気持ち悪いのは本当だし。ただね、夢男のお花畑はのんびりと鑑賞できるんだけど、アリーフェ様はねっちょりした感じで気味悪いのよね。

さしずめ、毒草畑かしら。

さてそんなエアー被弾を受けているブランシュアンド殿下と共に登城して、本日の授業を受けるために広間に急ぐ。本日は…ダンスのレッスンだ!体を動かすのは得意なので、楽しいのよね~あれ?

「どうして殿下がいらっしゃいますの?」

何故かダンスの先生(女性)の横にキラキラした蒼い人が立っていた。

「ダンスには相手が必要だろ?さあ、輝花姫…お手をどうぞ」

広間の隅にはブランシュアンド殿下付の侍従のスギロさんとマイラ大尉の姿が見える。仕事…サボっているんじゃないのよね?

「殿下、お仕事は?」

「この後詰めて頑張るから…」

とか言い訳を重ねながらダンスの先生の指示通りに基本の型を、リードしてくれるブランシュアンド殿下。背の高さがお互いにバランスが良いのか…腕とか腰の動きがスムーズだわ。そうか…殿下かなり運動神経良いのね。

「殿下、流石ですわ」

「ネリィと共に踊っていられて幸せだな~」

また大広間にも花畑を創る夢男…仕方ない花畑の中で暫く舞っていてあげようかな。

ダンスの授業が終わると流石にブランシュアンド殿下は仕事に戻るようだ。

「ネリィ…今日の予定が終わったら執務室に来てよ。話があるから」

「…はい」

そう言って私の指先に口付けを落として颯爽と仕事に戻って行かれた。

ふぅ…朝から疲れた…

次は座学の授業なのだが、一度王太子妃のお部屋で汗を拭いてから行こうと部屋へと移動していると…前からレガレッテ公爵が歩いて来るではないか。

ああ~そうだったぁ、あの方王弟殿下だった。王族の居住区で会っても仕方ないんだった~

私は廊下の端に寄り、腰を落として公爵が行き過ぎるのを待った。

だが案の定…おっさんは立ち止まりましたよ?ああ、これ嫌味や仄めかしを言ってくるのかな…うざぁ。

「いやはや…ギナリアーダ侯爵家の女性は中々お盛んですなぁ…子女も大変な妹御をお持ちで気苦労が絶えませんね」

でたーーーっ!おっさんのセクハラ&パワハラ!

「恐縮でございます」

「ところで…ネシュアリナ子女はこのような醜聞を受けられては、肩身が狭かろう…この際王太子殿下には私が申し伝えてあげるから、シファニア子女の代わりにあなたをアリーフェが貰い受けてあげてもいいのだよ」

上からーー何様ーー!?まあ一応世に言う殿上人だけどさ。

おっさん、滅びよっ!滅っ滅っ!

私は腰を落とし、顔を上げないで抑揚の無い声で言ってやった。

「ですれば…今話されました言葉を、公爵閣下がブランシュアンド殿下にお伝え下さいませ。殿下が私を恥ずかしい子女だとお考えになられておられるのなら…迷わず私をお切りになると思いますので」

「…っ!」

なぁ~~にを偉そうに言ってやがんだよぉ!?ああん?お前のとこのアリーフェだって、クソ気持ち悪い性癖でぇおまけにシファニア顔負けで女と遊び回ってるじゃないかぁ?

「醜聞まみれの子女を引き取ってやろうというのだぞっ!」

「私は命が惜しいのですわ、アリーフェ様をお慕いしている子女達に恨まれたら堪りませんもの…」

わざと子女達と複数形にしてあげた。このおっさんだって自分の息子がフラフラしている男だと知っているはずだ。そんな男を押し付けられて堪るか!

「……」

「……」

おっさんと顔は見ずに睨み合う。気合いだ、気合いで負ける訳に行かない!社畜魂を燃やせぇぇ!

「あれ?ネシュアリナ嬢」

こ、この声はーーー天の助けぇ!思わず顔を上げた。え?ブランシュアンド殿下じゃない…違う…誰?

私の横に立ったマナラが小声で教えてくれた。

「ノクリッシュレド第二王子殿下でございます」

この人が?

目付きが鋭い以外は全部そっくりそのままブランシュアンド殿下の複写コピーの…

第二王子殿下のノクリッシュレド殿下なの!本当に似ているわっ!でもブランシュアンド殿下よりノクリッシュレド殿下は口が悪いと言っていたわね。(注:マナラ談)

「叔父上、こんな所で何をされているのやら…まさか輝花姫に何か悪さでもしておられるので?どこぞの従兄弟と同じで血は争えませんね」

でたーーっ!マナラの言っていた通りだわ。

「…ぃ!ではなっ!」

おっさん…レガレッテ公爵は逃げた。良かったーと、一瞬思ったけど…これはこれで、私は危険なのではないかしら?

ノクリッシュレド殿下は私の目の前まで来て、横の壁辺りを見て声を上げた。

「シタル、兄上に報告」

「畏まりました」

のわっ!?壁から声がしたと思い後ろを向くと、観葉植物の影に隠れてあの忍びのお兄様が居た。忍びは私に目礼だけすると、一瞬で消えた。

いつの間に忍びがいたのよ…知らなかったわ。

「ネシュアリナ嬢…初めてお話しますよね?」

「…っ!初めてで御座います、ネシュアリナ=ギナリアーダに御座います」

私が、低ーく腰を落とすとクツクツと笑い声が聞こえた。声もね、ブランシュアンド殿下と似ているのね。

「あの夢を見て理想ばかり高い兄上が随分入れ込んでいると聞きましたが…輝花姫ねぇ…」

ブランシュアンド殿下が何気にけちょんけちょんに言われてますわ…まあ嫌味ではないと思うけれど…

「輝花姫とはどなたでしょうか?」

「ん?あなたではない…と?」

私はニッコリと微笑んで見せた。

「はい、只の侯爵令嬢でございますから」

ノクリッシュレド殿下は一瞬キョトンとした顔をしたが、ブランシュアンド殿下と同じ顔でニタァと嫌な笑い顔を見せた。

「その割には百戦錬磨の古株メイド長みたいな貫禄があるけどね~」

なんだその例えはっ!

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