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夢を纏う男
疑惑?
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ノクリッシュレド殿下は口は悪いけど、中身は夢を見ないブランシュアンド殿下みたいな王子殿下だった。例えがおかしいけど、性格は良さそうな方だった。
ノクリッシュレド殿下は軍に属していて、普段は害獣討伐…と言ってもその害獣は大きさが恐竜並みなのだが、異世界人の私の常識の範囲外のその巨大生物達が時々、村や町を襲ったりするのでそれらの駆除を主にしているそうだ。
勿論、国同士の争いが起こったら戦場にも出陣するらしい。
そんな夢を見ない第二王子殿下は、私と一緒に座学の先生がお待ちの客室に移動している。
「討伐から久しぶりに王都に帰って来たら、軍の奴らが兄上がとうとう婚約するとか騒いでるしさ~相手は輝花姫だって皆浮かれてるからどれだけすごいご令嬢なのかと思ったけど、令嬢なんだよね?」
「令嬢ですが、何か?」
「肝が据わってるね…叔父上に一歩も引かない気概っ素晴らしい!軍に欲しいくらいだ」
本気なのか冗談なのか、判別が難しい。顔だけはブランシュアンド殿下にそっくりなので、キラキラしているけど、からかっているのだろうか…
「ほらっ客室に着いたよ、勉強が終わったら兄上の所に行くんだよね?」
「はい、殿下に呼ばれてますので…」
「そうか~じゃあまた後でね!それまで兄上をからかって遊んでよっと~」
ええっ?あっ………あっと言う間に消えた。ノクリッシュレド殿下も忍者なのか?
一瞬『魔法』か?と思ったがこの世界には魔法は存在しない…と思う。
何度か調べたが、創作の物語の中ではそれっぽいモノが存在するようだが、現実世界では存在しない。
しかし存在しない…が、実は異能力と呼ばれる力を持っている方々がいる。
この国の王族筋の方々だ。この異能力は必ず遺伝すると言われていて、逆の見方をすれば異能力を所持している=王家の血を所持している、ことの証明になるのだ。
つまり、万が一メイドや庶民が王や王族のお手付きを受けてご落胤が産まれても「それは私の子ではない!」という言い逃れが出来ないらしい。
異能力は降嫁などで女子が王家を離れても、末端の子々孫々で強大な異能力者が突然現れたりすることもあり、力を王家に集中させたい王族に、昔に嫁いだ王女の曾孫が嫁入り婿入り…ということもあるらしい。異能力は王族の証でありこの国では特別な能力なのだ。
その異能力については人によって様々な能力があるらしい。
今のノクリッシュレド殿下のドロンの消え方を見ると、瞬間移動のような力があるのかもしれない。詳しくは本人に聞くなりして教えてもらえばいいのだが、大抵の王族の方の能力は隠されている。
隠さなければいけない能力なのか…それともたいした力ではないので公表しないのか…私には分からない。
因みに我がギナリアーダ侯爵家は末端ではあるが少し王族の血が入っている。シファニアはどうかは分からないが、お父様と私には魔法っぽい力がある。
あくまでぽいっものであって、自慢出来る程のものではない。あってちょっと便利だな…ぐらいの能力だ。
おっと…いけない歴史の先生をお待たせてしてはいけないわね…私は客間の扉を開けた。
座学の授業が終わって……
ブランシュアンド殿下の執務室にお邪魔をしたら…うん、同じ顔が一斉にこっちを向いた。
蒼い兄弟…ブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下だ。
「やぁやぁ来た来た~」
「お疲れ、ネリィ。叔父上と睨み合いをして一歩も引かない気迫だったって?」
なんだその、勇ましい描写は…蒼い弟がそう言ったんだね?
チラリとノクリッシュレド殿下を見ると、ニコニコしているから悪気は無いのだろうけど、言い方を考えろ!
「その歴戦の猛者のような表現は如何なものかと思いますけど…私これでも令嬢なので…」
嫌味を織り交ぜながらにっこりと微笑みながら、ノクリッシュレド殿下を見ると一瞬目を丸くしてからブランシュアンド殿下の方を見て
「肝が据わり過ぎ、兄上も首根っこを掴まれてるの?」
と聞いている。だからっそんな表現をするなっ!
蒼い兄弟殿下と私は来客用のソファに移動した。ブランシュアンド殿下は何故か私の横に座ってくる。殿下は上座にお願いしますよ?
「ブランシュアンド殿下…王太子殿下はこちらの席ですよ?」
「どうして?ネリィの横の方が内緒話がしやすいよ?」
蒼い弟がいるだろうっ…空気を読め!場を慎め!
「まあ…いいけど~珍しいね、兄上がそんなに女性に引っ付けるなんて…でも、気を付けなよ~さっきも言ったけどネシュアリナ嬢のことを叔父上とアリーフェが狙っているよ」
ノクリッシュレド殿下の言葉に私とブランシュアンド殿下は苦笑いを浮かべた。
「あ~それは無いと思うけど…アリーフェ、あいつは好きな女性のことを鑑賞するのが趣味みたいなのだよ」
「鑑賞?見る方の?え?どういうこと…見るだけなの?」
私とブランシュアンド殿下が頷くとノクリッシュレド殿下は顔を歪ませた。
「変な趣味だね…」
「ぐぅ…そうだな、変な趣味…だな」
胸を押さえているブランシュアンド殿下。なるほど、またエアー被弾したんだね、だって図星だものね。ある意味従兄弟同士で同じ趣味よね…気が合うわね。
「兎に角だ…アリーフェ本人は狙ってこないと思うが…」
「用心に越したことはないよ?兄上から女性に触れるって…余程じゃない?気が付いた他の奴らがネシュアリナ嬢に何か危害を加えるかもしれないよ?」
ん?何か意味不明なことを蒼い弟が言ってますが…
「そこは用心している。それじゃあネリィの妹もシファニア嬢もそうなのかな?現にザフェリランドと…その…え~と触れ合えるみたいだし?」
ブランシュアンド殿下がモゴモゴ言っている言葉を整理すると、殿下は女性とは触れあえない?んん?
「ザフェリランドは純血ではないからだろう…あれは異種だ」
んんん?益々分からない…私が頭を捻っていると、隣に座ったブランシュアンド殿下が、「人払いを…」と言って、室内には私とブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下の三人だけになった。
内緒話なのかしら…
「ネリィは異能力については教えられているかな?」
ブランシュアンド殿下の言葉に頷いた。
「座学の授業で習いました。それにギナリアーダ侯爵家も数代前に王家の血筋を受け継いでおりますので…わずかながら異能力が御座います」
「ネリィは発現しているのか?最近は能力を使えないままの能力者も多いと聞くぞ?」
これまたどういうことだろう?
「発現しないのに異能力者だと分るものなのですか?」
私が聞くと、ノクリッシュレド殿下が答えてくれた。
「まあ…ネシュアリナ嬢ならいいかな~王家の直系は産まれてすぐに、能力判定を受けるんだよ。何故それをするかと言うと…稀に能力無しの子供もいるから…だとか?」
能力無し…つまり…?
気が付いてブランシュアンド殿下の顔を見たら苦笑いを浮かべている。
「まあ稀だけどね?血筋に異能が出ないなんて有り得ないことだからね…まあそれでも疑わしい方々はいるけれど」
「産まれた時の判定の時に誤魔化してしまえば、発現しなかった…で通せるからね。それでもあまりに凡庸な王族だと後々調べられるとは思うけど?」
ブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下から連続で嫌味ともとれる発言が繰り広げられる。
「……その異能力の件と殿下が私に触れることが出来ることと…どういう関係がありますの?」
まあ、話せないこともあるのだろうし…嫌味に関して敢えてそこは突っ込まないで、話を先に進めた。蒼い殿下達は私が話を先に進めたことに気が付いたのだろう…揃って目を細めた後、笑った。
ブランシュアンド殿下はニコニコと…ノクリッシュレド殿下はニヤニヤと…笑顔に性格の差異が出ている。
「私の異能力…というかリッシュもそうだけど、合う合わないの相性があるんだ。体とも違う…内面、人の持つ能力とでも表現しようか、その能力と私達の持つ異能力が合わない人とは反発してしまうのだ」
「反発ですか…」
「そう…う~ん気持ち悪いとでもいうのかな…いやもっと根本的に…なんて言うのかなぁ、アレは?」
「触ろうとすると、本能でダメだ…って感じるよ。これが一番近い感覚じゃない?」
ノクリッシュレド殿下の例えに、ブランシュアンド殿下が、そうだなそれが一番近い…と相槌を打っている。
本能で合わないと感じる…なるほどね。
「じゃあ私は殿下が触れても拒絶が起こらなかったという訳なのですね?」
「そうなんだよ~私の運命だね!」
「……」
またこんな所でお花畑を生やして…
「まあ、後は儀式をすればネリィにも分かるかも…あっそうだ、ネリィの異能力ってどういうのだ?教えにくいものか?」
ギシキ?また聞いたことの無い単語を連発しているけれど、私の異能力?たいしたことはないけれど…
「あまりたいした能力ではありませんのよ?これですわ…」
私は指先に意識を集中した。すると……小さく炎が灯った。
「火がっ!」
「発火能力か!」
「…そんなに大袈裟なものではありません、こうやって指先に火を灯せる程度なのです。大きな火の玉でも作ることが出来たのなら、攻撃として役にたったかもしれませんが、指先くらいが限界でして…」
「いやいや、火と水…この辺りの特殊能力を持っている者は軍でも重宝するよ。やっぱり軍に欲しいな~」
「駄目」
「兄上に聞いてないよぉ~ネシュアリナ嬢に聞いてるんだってば~」
内心…ちょっとひやひやしたが、異能力についてはそこで話が終わったのでホッとした。実はたいして役に立たないけれど、もう一つ異能を所持しているのだ。これは異例中の異例だそうで、大体一人につき一つの異能力が発現すると言われているので、二つは先祖返りと称される。
お父様が私をブランシュアンド殿下の妃候補に推したのもこれがあったからだろうね。時々生まれ落ちる先祖返りの異能力持ちは王家に集められる…まあ今更だし構わないけれど。
「それと、ネリィの心配していたシファニア嬢とザフェリランドの件だけど…慎重に調べを進めているが、きな臭くなってきた」
ブランシュアンド殿下の声が潜められたので、思わず顔を寄せた。
「ザフェリランドが何かした…これが中々証拠が掴めないが、異能力かもしれないのと報告を受けている」
「異能力…精神に異常を起こす能力ですか?」
「ん~それも疑ったがそれならば能力判定の時にもっと分かりそうなものなんだが…」
「あいつは純血じゃないからだろ…」
またノクリッシュレド殿下が言っている…純血?かな、腹違いとはいえ王子殿下なのよね。確かお母様は側妃で公爵家のご出身。そしてブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下のお母様は国王妃で隣国の王女殿下…
「王族の血の縛りを無視してゴリ押しするから、あんな風になるんだよ」
ノクリッシュレド殿下の物言いに益々混乱する…
ブランシュアンド殿下が私の方に体を寄せながら説明してくれる。寄せる必要はないと思うけど…
「先ほども言った相性の合う、合わない…で最終的に伴侶と縁を結ぶ儀式をするのだ。『結魂の儀』と呼んでいるが…本来はお互いの魂を結び付けて婚姻をして、異能力を高め合うというのが目的だがな」
それは座学の授業で聞いたわ。ノクリッシュレド殿下がさらに補足して説明してくれた。
「今は形式的な儀式の意味合いが強いよ、でも王族には相性が合う合わないがあるからね、儀式だけで留めて本当に結魂の儀を行う王族は少なくなってる。うちの親…つまり国王陛下と国王妃は最近じゃ珍しい結魂同士なんだ」
「まあ…じゃあ政略婚ではなくお互いに?」
蒼い兄弟はお互いに見詰め合ってから何故か照れ臭そうにしながら説明してくれた。
「出会いは政略婚の顔合わせの席だけど、お互いに一目惚れ。今時こんなのあるんだねぇ~ところがさ、それに水を差してきたのがうちの国の貴族達…自分の家の娘達を王家に入れたくて側妃にしようと躍起になった。それで最終的に残ったザフェリランドの母親の公爵令嬢が側妃に収まったけれど…ザフェリランドねぇ…確かに異能力者だろうけど…」
ノクリッシュレド殿下の物言いに納得がいった。
ああコレあれだ…恐らくどころか確信に近いくらいにザフェリランド殿下は陛下の子供じゃない…のか。異能力は末端の王族筋の方でも所持している。どこかで種を持って来て植え付けることも可能な訳だ…
恐ろしいね…ザフェリランド殿下が国王陛下の子供では無い!と言い切ってしまうと自国の貴族の反発を食らう。だから王子殿下と認めつつも、実際は…
「まあ薄いがザフェリランドも親戚の子供なのは間違いない。正直アリーフェの方が血が濃いけどな」
いや~異世界の血族争いを垣間見ちゃったよ…怖いわ。
ノクリッシュレド殿下は軍に属していて、普段は害獣討伐…と言ってもその害獣は大きさが恐竜並みなのだが、異世界人の私の常識の範囲外のその巨大生物達が時々、村や町を襲ったりするのでそれらの駆除を主にしているそうだ。
勿論、国同士の争いが起こったら戦場にも出陣するらしい。
そんな夢を見ない第二王子殿下は、私と一緒に座学の先生がお待ちの客室に移動している。
「討伐から久しぶりに王都に帰って来たら、軍の奴らが兄上がとうとう婚約するとか騒いでるしさ~相手は輝花姫だって皆浮かれてるからどれだけすごいご令嬢なのかと思ったけど、令嬢なんだよね?」
「令嬢ですが、何か?」
「肝が据わってるね…叔父上に一歩も引かない気概っ素晴らしい!軍に欲しいくらいだ」
本気なのか冗談なのか、判別が難しい。顔だけはブランシュアンド殿下にそっくりなので、キラキラしているけど、からかっているのだろうか…
「ほらっ客室に着いたよ、勉強が終わったら兄上の所に行くんだよね?」
「はい、殿下に呼ばれてますので…」
「そうか~じゃあまた後でね!それまで兄上をからかって遊んでよっと~」
ええっ?あっ………あっと言う間に消えた。ノクリッシュレド殿下も忍者なのか?
一瞬『魔法』か?と思ったがこの世界には魔法は存在しない…と思う。
何度か調べたが、創作の物語の中ではそれっぽいモノが存在するようだが、現実世界では存在しない。
しかし存在しない…が、実は異能力と呼ばれる力を持っている方々がいる。
この国の王族筋の方々だ。この異能力は必ず遺伝すると言われていて、逆の見方をすれば異能力を所持している=王家の血を所持している、ことの証明になるのだ。
つまり、万が一メイドや庶民が王や王族のお手付きを受けてご落胤が産まれても「それは私の子ではない!」という言い逃れが出来ないらしい。
異能力は降嫁などで女子が王家を離れても、末端の子々孫々で強大な異能力者が突然現れたりすることもあり、力を王家に集中させたい王族に、昔に嫁いだ王女の曾孫が嫁入り婿入り…ということもあるらしい。異能力は王族の証でありこの国では特別な能力なのだ。
その異能力については人によって様々な能力があるらしい。
今のノクリッシュレド殿下のドロンの消え方を見ると、瞬間移動のような力があるのかもしれない。詳しくは本人に聞くなりして教えてもらえばいいのだが、大抵の王族の方の能力は隠されている。
隠さなければいけない能力なのか…それともたいした力ではないので公表しないのか…私には分からない。
因みに我がギナリアーダ侯爵家は末端ではあるが少し王族の血が入っている。シファニアはどうかは分からないが、お父様と私には魔法っぽい力がある。
あくまでぽいっものであって、自慢出来る程のものではない。あってちょっと便利だな…ぐらいの能力だ。
おっと…いけない歴史の先生をお待たせてしてはいけないわね…私は客間の扉を開けた。
座学の授業が終わって……
ブランシュアンド殿下の執務室にお邪魔をしたら…うん、同じ顔が一斉にこっちを向いた。
蒼い兄弟…ブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下だ。
「やぁやぁ来た来た~」
「お疲れ、ネリィ。叔父上と睨み合いをして一歩も引かない気迫だったって?」
なんだその、勇ましい描写は…蒼い弟がそう言ったんだね?
チラリとノクリッシュレド殿下を見ると、ニコニコしているから悪気は無いのだろうけど、言い方を考えろ!
「その歴戦の猛者のような表現は如何なものかと思いますけど…私これでも令嬢なので…」
嫌味を織り交ぜながらにっこりと微笑みながら、ノクリッシュレド殿下を見ると一瞬目を丸くしてからブランシュアンド殿下の方を見て
「肝が据わり過ぎ、兄上も首根っこを掴まれてるの?」
と聞いている。だからっそんな表現をするなっ!
蒼い兄弟殿下と私は来客用のソファに移動した。ブランシュアンド殿下は何故か私の横に座ってくる。殿下は上座にお願いしますよ?
「ブランシュアンド殿下…王太子殿下はこちらの席ですよ?」
「どうして?ネリィの横の方が内緒話がしやすいよ?」
蒼い弟がいるだろうっ…空気を読め!場を慎め!
「まあ…いいけど~珍しいね、兄上がそんなに女性に引っ付けるなんて…でも、気を付けなよ~さっきも言ったけどネシュアリナ嬢のことを叔父上とアリーフェが狙っているよ」
ノクリッシュレド殿下の言葉に私とブランシュアンド殿下は苦笑いを浮かべた。
「あ~それは無いと思うけど…アリーフェ、あいつは好きな女性のことを鑑賞するのが趣味みたいなのだよ」
「鑑賞?見る方の?え?どういうこと…見るだけなの?」
私とブランシュアンド殿下が頷くとノクリッシュレド殿下は顔を歪ませた。
「変な趣味だね…」
「ぐぅ…そうだな、変な趣味…だな」
胸を押さえているブランシュアンド殿下。なるほど、またエアー被弾したんだね、だって図星だものね。ある意味従兄弟同士で同じ趣味よね…気が合うわね。
「兎に角だ…アリーフェ本人は狙ってこないと思うが…」
「用心に越したことはないよ?兄上から女性に触れるって…余程じゃない?気が付いた他の奴らがネシュアリナ嬢に何か危害を加えるかもしれないよ?」
ん?何か意味不明なことを蒼い弟が言ってますが…
「そこは用心している。それじゃあネリィの妹もシファニア嬢もそうなのかな?現にザフェリランドと…その…え~と触れ合えるみたいだし?」
ブランシュアンド殿下がモゴモゴ言っている言葉を整理すると、殿下は女性とは触れあえない?んん?
「ザフェリランドは純血ではないからだろう…あれは異種だ」
んんん?益々分からない…私が頭を捻っていると、隣に座ったブランシュアンド殿下が、「人払いを…」と言って、室内には私とブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下の三人だけになった。
内緒話なのかしら…
「ネリィは異能力については教えられているかな?」
ブランシュアンド殿下の言葉に頷いた。
「座学の授業で習いました。それにギナリアーダ侯爵家も数代前に王家の血筋を受け継いでおりますので…わずかながら異能力が御座います」
「ネリィは発現しているのか?最近は能力を使えないままの能力者も多いと聞くぞ?」
これまたどういうことだろう?
「発現しないのに異能力者だと分るものなのですか?」
私が聞くと、ノクリッシュレド殿下が答えてくれた。
「まあ…ネシュアリナ嬢ならいいかな~王家の直系は産まれてすぐに、能力判定を受けるんだよ。何故それをするかと言うと…稀に能力無しの子供もいるから…だとか?」
能力無し…つまり…?
気が付いてブランシュアンド殿下の顔を見たら苦笑いを浮かべている。
「まあ稀だけどね?血筋に異能が出ないなんて有り得ないことだからね…まあそれでも疑わしい方々はいるけれど」
「産まれた時の判定の時に誤魔化してしまえば、発現しなかった…で通せるからね。それでもあまりに凡庸な王族だと後々調べられるとは思うけど?」
ブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下から連続で嫌味ともとれる発言が繰り広げられる。
「……その異能力の件と殿下が私に触れることが出来ることと…どういう関係がありますの?」
まあ、話せないこともあるのだろうし…嫌味に関して敢えてそこは突っ込まないで、話を先に進めた。蒼い殿下達は私が話を先に進めたことに気が付いたのだろう…揃って目を細めた後、笑った。
ブランシュアンド殿下はニコニコと…ノクリッシュレド殿下はニヤニヤと…笑顔に性格の差異が出ている。
「私の異能力…というかリッシュもそうだけど、合う合わないの相性があるんだ。体とも違う…内面、人の持つ能力とでも表現しようか、その能力と私達の持つ異能力が合わない人とは反発してしまうのだ」
「反発ですか…」
「そう…う~ん気持ち悪いとでもいうのかな…いやもっと根本的に…なんて言うのかなぁ、アレは?」
「触ろうとすると、本能でダメだ…って感じるよ。これが一番近い感覚じゃない?」
ノクリッシュレド殿下の例えに、ブランシュアンド殿下が、そうだなそれが一番近い…と相槌を打っている。
本能で合わないと感じる…なるほどね。
「じゃあ私は殿下が触れても拒絶が起こらなかったという訳なのですね?」
「そうなんだよ~私の運命だね!」
「……」
またこんな所でお花畑を生やして…
「まあ、後は儀式をすればネリィにも分かるかも…あっそうだ、ネリィの異能力ってどういうのだ?教えにくいものか?」
ギシキ?また聞いたことの無い単語を連発しているけれど、私の異能力?たいしたことはないけれど…
「あまりたいした能力ではありませんのよ?これですわ…」
私は指先に意識を集中した。すると……小さく炎が灯った。
「火がっ!」
「発火能力か!」
「…そんなに大袈裟なものではありません、こうやって指先に火を灯せる程度なのです。大きな火の玉でも作ることが出来たのなら、攻撃として役にたったかもしれませんが、指先くらいが限界でして…」
「いやいや、火と水…この辺りの特殊能力を持っている者は軍でも重宝するよ。やっぱり軍に欲しいな~」
「駄目」
「兄上に聞いてないよぉ~ネシュアリナ嬢に聞いてるんだってば~」
内心…ちょっとひやひやしたが、異能力についてはそこで話が終わったのでホッとした。実はたいして役に立たないけれど、もう一つ異能を所持しているのだ。これは異例中の異例だそうで、大体一人につき一つの異能力が発現すると言われているので、二つは先祖返りと称される。
お父様が私をブランシュアンド殿下の妃候補に推したのもこれがあったからだろうね。時々生まれ落ちる先祖返りの異能力持ちは王家に集められる…まあ今更だし構わないけれど。
「それと、ネリィの心配していたシファニア嬢とザフェリランドの件だけど…慎重に調べを進めているが、きな臭くなってきた」
ブランシュアンド殿下の声が潜められたので、思わず顔を寄せた。
「ザフェリランドが何かした…これが中々証拠が掴めないが、異能力かもしれないのと報告を受けている」
「異能力…精神に異常を起こす能力ですか?」
「ん~それも疑ったがそれならば能力判定の時にもっと分かりそうなものなんだが…」
「あいつは純血じゃないからだろ…」
またノクリッシュレド殿下が言っている…純血?かな、腹違いとはいえ王子殿下なのよね。確かお母様は側妃で公爵家のご出身。そしてブランシュアンド殿下とノクリッシュレド殿下のお母様は国王妃で隣国の王女殿下…
「王族の血の縛りを無視してゴリ押しするから、あんな風になるんだよ」
ノクリッシュレド殿下の物言いに益々混乱する…
ブランシュアンド殿下が私の方に体を寄せながら説明してくれる。寄せる必要はないと思うけど…
「先ほども言った相性の合う、合わない…で最終的に伴侶と縁を結ぶ儀式をするのだ。『結魂の儀』と呼んでいるが…本来はお互いの魂を結び付けて婚姻をして、異能力を高め合うというのが目的だがな」
それは座学の授業で聞いたわ。ノクリッシュレド殿下がさらに補足して説明してくれた。
「今は形式的な儀式の意味合いが強いよ、でも王族には相性が合う合わないがあるからね、儀式だけで留めて本当に結魂の儀を行う王族は少なくなってる。うちの親…つまり国王陛下と国王妃は最近じゃ珍しい結魂同士なんだ」
「まあ…じゃあ政略婚ではなくお互いに?」
蒼い兄弟はお互いに見詰め合ってから何故か照れ臭そうにしながら説明してくれた。
「出会いは政略婚の顔合わせの席だけど、お互いに一目惚れ。今時こんなのあるんだねぇ~ところがさ、それに水を差してきたのがうちの国の貴族達…自分の家の娘達を王家に入れたくて側妃にしようと躍起になった。それで最終的に残ったザフェリランドの母親の公爵令嬢が側妃に収まったけれど…ザフェリランドねぇ…確かに異能力者だろうけど…」
ノクリッシュレド殿下の物言いに納得がいった。
ああコレあれだ…恐らくどころか確信に近いくらいにザフェリランド殿下は陛下の子供じゃない…のか。異能力は末端の王族筋の方でも所持している。どこかで種を持って来て植え付けることも可能な訳だ…
恐ろしいね…ザフェリランド殿下が国王陛下の子供では無い!と言い切ってしまうと自国の貴族の反発を食らう。だから王子殿下と認めつつも、実際は…
「まあ薄いがザフェリランドも親戚の子供なのは間違いない。正直アリーフェの方が血が濃いけどな」
いや~異世界の血族争いを垣間見ちゃったよ…怖いわ。
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「君は僕だけのものだ」
いやいやいやいや。私は私のものですよ!
何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。
逃げられるか、私っ!
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
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