矛と盾 ぶらり二人旅

浦 かすみ

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旅路

矛の本気

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萎れたレタスだったシーダは、リコイーダ君とギアラクさんと夕食を食べる頃にはいつものイケメンシーダに戻っていた。

さっきは顔面偏差値が下がったんじゃなくって、魔質が萎れていたから内面から発光するイケメン度が下がってたんだよね?

ん?でも何故魔質が萎れるの…?はっ!もしかして私が一生ついて行くって言った言葉がウザいと感じたとか?

そりゃそうだよね…一生子守だなんて、シーダにしてみればウザいの一言に尽きるのかも…

私ってすっかりイケメン様達に甘えてるよね~。皆さ…心もイケメン様だもんね。そりゃ私みたいな拠り所の無い女が縋り付きたくなるってもんさ…

「はああ…この焼き魚最高っ!この焼き野菜串盛り合わせ美味だねぇ~」

「……ララーナ」

「なぁに?」

リコイーダ君はまたじっとりとした目で私を見ている。

「そのおばちゃん臭い食べ物ばっかり食べるの止めろよ。何かさ、ホラあるじゃん?肉と野菜がちょっとしか盛り付けてない皿とかっ!キラキラした小さいケーキとかっもっと女子っぽいのあるだろぉ!?」

「そんなんじゃ腹は膨れねぇよ」

私が焼き野菜串を口に差し込んだまま、ニヤリと笑うとリコイーダ君は手で顔を覆った。

「高貴な花があああっ俺の花がああぅ…」

リコイーダ君、酔ってるのかな?人の事は散々酔っ払い扱いして、自分が酔っている時は意味不明な事を連発って…。男の子って我儘だな~

「あのね、女の子に何の幻想抱いているのかは分からないけれど…脂っこい食べ物も食べるし、すかしっ屁もするよ」

「…ぃっ!」

「食事中だ、行儀が悪いぞララーナ」

「はぁ~い」

シーダにやんわりと怒られて返事をした。

でも当たり前だよね?例えばどんなに可愛いお姫様だってトイレに行くし、鼻だって噛むよ?

わなわな震えているリコイーダ君を横目で見ながら、魔獣肉の骨付きカルビもどきにかぶりついた。

「ぅんまい!」

今日は呪いの解術も出来たし、良かったな~ちょこっと果実酒をもらったけど、マンゴー?ぽい味で美味しかった。

リコイーダ君とギアラクさんと宿泊部屋の前で、別れて自分の部屋に行こうとしてシーダに手を取られた。

うん?何だろう?

「お前……一生俺について来るのか?」

ひいいいぃぃ…忘れてないけどっ忘れたフリしていたけれどっ今、その話をぶり返すの!?

「あの…そのっ…厚かましくも、言いましたことは…決してシーダの邪魔をするつもりは…」

私の頬にシーダの手が触れた。見上げるとシーダはとんでもない色気の籠った瞳で私を見ていた。

「ララーナ…お前、これから覚悟しとけよ…」

「……っ!」

シーダは私の部屋をドアを開けると、私を部屋に押し込んだ。

「おやすみ」

私はよろめきながら、何とか立っていたが力尽きて床に倒れ込んだ。腰に力が入らない…

「今………間違いなく妊娠させられたよ」

なんだなんだなんだーーー!?今のなんだぁぁ!?覚悟?何の?…ん?ちょっと待て、覚悟しろよ…って脅し文句だよね?

ももももっ…もしかして相当お怒りなんじゃ!?逆さ吊りの刑?いやいや簀巻きの刑?まさか市中引き回しの刑!?

その日の夜は怖くて一睡もできない………ことはなかった。爆睡でした、はい。図太い私です、はい。

シーダの女性関係で悶々とするのとは違って、今回はすっぱりと

「いや~ごめんねぇ?一生ついてくは、流石にきっついよね?分かる分かる~!兎に角、暫くは護衛宜しくね!」

こんな感じで雰囲気が軽くなるように話して、シーダのお怒りをおさめてもらわなければね。

翌朝…

ロールパンにたっぷり果実シロップをかけて、モシャモシャ食べながら…今朝のイケメン様に話しかけるタイミングを計っていた。

しかし今日はリコイーダ君とギアラクさんも同席しているので、そのタイミングが難しい。

「ララーナ、まずはモスビートで診療予定の村に行くか?後でゆっくりとこの辺りを回ればいいし」

シーダがいつもと変わらない微笑みでそう私に提案してくれる。

「は…はい、了解です…」

おかしい…?シーダ様は怒っているにしては魔質が超平常心だし、しかもどちらかというとご機嫌な感じだと思う。(普段のシーダパパ参照)寝ている間にお怒りが解けたのか?

この穏やかな感じが逆に恐ろしい。とか思っていたら…ああっ!早くもギアラクさんとリコイーダ君が先に宿屋を出て行っちゃったよ…ああ…シーダと2人きりになりましたよ?

シーダはテーブルに置いてあるメニュー表を見ている。

「お前…このマルコッタ食べないのか?好きだろう?」

「よくご存じで…。すみませーん、マルコッタ一つ」

今シーダから指摘を受けたマルコッタとはプディングのことだ。しかも結構大きめなのだ。乙女の憧れバケツプリンだよ?今食さないでいつ食すのだ?ウフフ…

早速頼んだバケツプリンを大匙で一掬いして、味わっていると……あれぇ、シーダが肩肘を付いて私を至近距離から見詰めてくるのですが…何でしょうか?

「フフフ…」

「エヘヘ…」

何だか不気味な笑いをされたので、私も負けじと笑い返しておいた。これはこれで怖い。モグモグ…。ジッと至近距離から私を見詰めるシーダ。魔質を視る限り機嫌は悪くない。

「今晩…いいか?忘れるなよ?」

な…んだ?何かの暗号?今晩?え?そう言ってシーダはニヤリと笑って見せてきた。今晩…?もしかして夜中に市中引き回しの刑?こ…怖いっっっ!これは早く謝っておかねばっ。

「ごっゴメンなさいっ!一生ついていくなんて冗談です!二度と言いませんから、許して下さいっ!」

「………」

シーダはスン…と表情を失くした。無表情が余計に怖いよぉぉ。

「だってぇ…一生ついて来られるのは困るって思ってるんですよね?迷惑なんですよね?だ…だから、その…シーダが良いよって思うまでは側で守ってて欲しいかな…なんて…厚かましいけどダメ?」

勢いよく謝罪を叫び出したはいいけれど、無表情のシーダのイケメン迫力に圧されて声が段々小さくなってしまった。チラチラとシーダの顔を仰ぎ見ているとシーダは突然、椅子の背凭れにドカンと凭れかかった後、天井を見上げたまま手で顔を覆っていた。また固まっている…?

「無自覚怖ぇ…一回落としといてすぐに上げてくるなんてどんな手練手管だよっ?!怖ぇぇ…胸痛えぇ…。こんなん無理だろう?!えぇぇ…俺、正気を保てるのか?」

んん?何かブツブツとシーダは呟いているけど、何を言っているんだろう?魔質は……怒りはなさそうだし、ちょっと喜色っぽいのかな?私の謝罪を聞いて喜んでるの?変なの…。

マルコッタを食べ終わると、空を仰ぎ見るシーダからの裁きをジッと待っていた。

シーダは、はあああ…と深い溜め息をついてから、立ち上がると私に手を差し出した。

「行くぞ」

「えっ…はい」

シーダの手を取ってぼんやりしている間に、宿屋から外に出た。外に出た途端一瞬の間にシーダに路地裏に連れて行かれた。

何が起こっているんだろう。

目の前にはシーダの綺麗な顔でもう鼻先が触れる距離にある。ち…近い!?

「いい加減にしろよ…俺も本気出すからな?もう止めても、駄目も聞かないぞ」

グッ…と私の後頭部がシーダの左手で固定されて…視界が肌色に埋め尽くされている。唇に生暖かい感触があり、魔力が唇にじんわりと染みる。

何?何が起こってるの?

唇にザラッとした感触が加わり、ぺちゃぴちゃという水音が聞こえる。わ…私ぃキスされてる!?

その驚きに、声を上げようとしたら更に唇が押付けられて、ニュル…と何かが口内に入り込んできた。舌だ…シーダの舌だ!

「っん…ふぅ…あっ…う…」

シーダの舌が歯を舐めたり私の喉の奥まで絡んできて、私の舌を絡めてこようとして…慌ててしまう。

「シ…まっ…待って」

「待たない。鼻で呼吸しろ、唾液は全部飲み込め」

「んぐ…は…」

言われた通りに鼻呼吸を繰り返して、絡まる舌からシーダの唾液が口内に入って来る。ジュルジュルと啜り上げる音が聞こえるけど、言われた通りに唾液を飲み込んでいると、体が熱くなってきた。

シーダの魔力が唾液と一緒に入ってくるんだけど気持ちいい。もう分かっていたことだけど不快感や嫌悪感は一切無い。勿論唇に触れられて…キスされているのに、嫌だとか怖いなんて思わない。

「チュッ…ジュッ…」

深い…深いところまでシーダの舌が入って唇を吸われて、さっきから腰が抜けてしまったみたいだ。完全にシーダにぶら下がっている状態だけど、シーダが抱き抱えてくれているから、倒れないし…気持ちいい。

ちゅっぽん…と唇が離れる音がして…ああっお互いの唇に唾が糸を引いてぇ…エロイ。いや…エロイって私今、シーダとキスしちゃったよ。

一旦離れたシーダだけど、ニヤリと笑いながらまたキスをしてきた。今度は鼻とかおでことか目頭とか頭にもキスされた。

「いいか?本気出すからな」

本気ってこういうことの本気なの?シーダの顔を覗き込んだ。シーダが私の鼻にシーダの鼻先をくっつけてきた。またイケメン様のドアップだよ。目が潰れる。

「お前は鈍いから、行動で現さないと気が付かないしな。もうちょっと待っておこうかな~とか思ってたけど、俺、待つのは性に合わないから」

あまりの怒涛の展開に顔に熱が籠って、荒い呼吸しか出来ない。シーダがやっと地面に体を降ろしてくれた。まだ足がガクガクしている気がする。

「ここから先はララーナに合わせてじっくりゆっくり進めてやるよ」

「…ゆっくり?」

シーダの唇が優しく私の唇に重ねられた。

「ララーナ好きだ」

「…っ!」

完全に腰が抜けてしまった。シーダは笑いながら体を支えてくれた。

治療を行うプロイテ村に移動中にシーダが横抱き、つまりはお姫様抱っこをしようか?と聞いてきたけど、根性で歩き通した。道中はシーダにおぶわれていたし、歩く時は腰を支えてもらっているし、よく考えればこれも恥ずかしいのでどちらでも一緒だった。

シーダはずっと甘々だった。元から多少の甘やかしは感じていたけれど男女の仲の甘やかしは糖度が全然違った。

モスビート王国の外れのプロイテ村の宿屋でも「ララーナと同室がいい!」と言われたが、なんとか固辞して事なきを得た。

「私に合わせてゆっくり進めてくれるんでしょう!?」

「お前に合わせてたらジジイになっちまうよ」

と切り返された。いきなりで私だって戸惑ってるんだよ…。でもね全然嫌じゃないんだよ?ドキドキするし緊張はするけれど怖い…は少しあるけど、嫌じゃないんだよぉ…

「ゆっくりしてくれるなら…全然嫌じゃないんだよ?」

そう言ってシーダを見上げるとまたシーダがグワッと魔力を上げてきた。

「そういう誘い文句を平気で言うな!慎めっ俺以外を潤んだ目は見るのは禁止だ!」

どういう禁止だよ?涙目になるのが駄目ならあくびも出来ないじゃない…

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