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いつかは共に~SIDEスワイト~
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ラジー…ラジェンタの作って持たせてくれたロールサンドという食べ物はとても美味しかった。
執務室に入るなり、頬張りながら今後の対策を練る。
ルルシーナに俺が接触したことと、文筆家を拘束したことはもう伯爵に伝わっているはずだ。このまま行くと、ルルシーナの純潔を散らしたとか何とかと言いがかりをつけて、ルルシーナを正妃に据えようと躍起になってくるはず…
先ずは、国王陛下とラジーの父のバラクーラ公爵にお会いして…
すぐに侍従に国王陛下とお会いしたいと申しつけて…ルルシーナから届いた手紙の束を取り出した。
文筆家…だからこそこれほどの文才の溢れた『物語』を手紙の中で書き、俺を引き付けることが出来るのか…そうか引き付けるか、ルルシーナもラノディアも表舞台に引きずり出せばいいのだ。
正妃と第二妃…貴族位の長老方はこの2人の存在を知ってさぞや反対するだろうな…フフフ…
「殿下、陛下がすぐに私室に来られるようにとのことに御座います」
侍従の言葉に、すぐに父上の部屋に出向いた。
部屋の中には国王陛下と国王妃(母)とバラクーラ公爵が居た。どういうことだ?
「おお、どうだった?ラジェンタと話が出来たか?」
父上はすでにご存じだったのか。バラクーラ公爵に会釈してから大人達の顔を見た。
「ご存じだったのですね?」
バラクーラ公爵は小さく頷いている。
「実は、リスベル公爵のラノディア嬢が…ノルトレイ侯爵の子息に妊娠させられたと言って…子息に付きまとっていて困っていると侯爵から相談を受けましてな」
「えぇ?」
思わす先程会ったラノディアの姿を思い出していた。
あんな露出の激しいドレスを着ていたのに妊婦なのか?腰も随分締め付けていたみたいだが…妊婦だと分かっていればもっと魔質を探ってやるんだった。妊娠しているか、魔質を視ればすぐ分かるし。
「勿論スイード=ノルトレイ子息には身に覚えの無いことだし、ご自身の婚約者の伯爵家のご令嬢が気に病んでしまい…色々と問題になっていた。そんな所へスワイト殿下とルルシーナ嬢のお話です」
今まで黙ってバラクーラ公爵の話を聞いていた母上が大きな溜め息と共に
「情けない…本当に情けない!」
と俺を見てそう言った…今度は父上が話し出した。父上は若干ニヤついている。
「バラクーラ公爵に聞き、そしてお前の文通相手がルルシーナ=ペスラ伯爵令嬢だと知って、調べたのだ。ペスラ家の令嬢は病弱でとても人前に出れる状態ではないと聞いている。調べると後ろにはリスベル公爵がいた。スワイトがいつ気が付くか…結構楽しみにしていたのに、残念だよ」
「…っ」
そう言えば父上に何度も聞かれていた。ルルシーナとの付き合いを今一度見詰め直せと…ただ単に付き合いを反対をしているのだとばかりと思っていたが、ちゃんと裏を取って調べろ…こういう意味だったのか。
「やっぱりラジェンタがいないとダメなのよ~」
母上が扇子で俺を指しながら、溜め息をついた。母上、本当にごもっともだ。俺は…情けない。
「しかし当の本人のラジェンタが店をやりたいと言うしなぁ~」
バラクーラ公爵は頭を掻いている。そう言えば…
「あの公爵…ラジーはこの一連の騒動は全て知っていたのでしょうか?」
俺がそう聞くと公爵は困ったような顔をしていた。
「ラジーが知っていたのは殿下がルルシーナ嬢に心変わりをした…そのことだけだと思いますよ」
頭を鈍器で殴られたようだ。俺との婚姻はルルシーナが出てきたら簡単に諦められる程度のものだったということか…ずっと小さい頃から一緒に居て…彼女の何もかもを分かっているつもりだった。
ラジェンタの何もかもを侮っていた、すべて俺のせいだ。
「時間はかかりますが、殿下もラジェンタもまだ若い。形はいくらでも変化しますよ?」
何の形とはバラクーラ公爵は名言しなかったが、俺は勝手な解釈で、愛の形だと思うことにした。
俺とラジェンタの愛の形…もしかしたら緩やかだと思っていた形が、途端に激しいものに変化することもあるかもしれない。
「いつかラジェンタと添えるように…私はもっともっと精進してまいりたいと思います。つきましては、正式に各お歴々の皆様を交えて…私が推挙したいと以前お伝えしていた、ルルシーナ=ペスラ伯爵令嬢と第二妃にとリスベル公爵より推挙を受けている、ラノディア=リスベル公爵令嬢が共に妃候補としてふさわしいかどうか、皆様による厳正な審議をお願いしたいと存じます」
俺がそう言うと、父上も母上もバラクーラ公爵までもがニヤリと笑った。悪人顔だ、魔質は濁ってないけれど。
「引っ張り出すのか?」
「病を患っているルルシーナ嬢には荷が重いとは思いますが、厳正なる審議の為です」
俺も父上にニヤリと笑い返した。精々足掻けよ?ペスラ伯爵とリスベル公爵。
直ぐに、ペスラ伯爵とリスベル公爵にご令嬢を俺の一存で妃には推挙出来ないので、審議の上判断したいと申し入れの親書を出すと両家から
『無理だ、娘は人前に出られない病だ。殿下が何とかして下さい』
これはペスラ伯爵。
『娘は人前で話すのは苦手である。ルルシーナ嬢の件を殿下が汲んでくれれば丸く収まる』
これはリスベル公爵。
どちらも馬鹿っぽい返事を返してきた。こんな馬鹿だったのか…と頭の冷えてきた俺は益々自分が恋に恋して浮かれていたことを痛感した。
少し考えればルルシーナの存在は辻褄のおかしい所ばかりだったのに、恋とは恐ろしいなぁ…
すぐに、国王陛下とバラクーラ公爵にご相談してから
『審議に出られないのなら、妃候補は無理だと国王陛下にご報告をする』
と返事を出したら渋々だとは思うが、双方とも出席しますとの返事が返ってきた。
さあ、茶番劇の始まりだ。どう出てくるのか期待している自分がいる。俺も大概性格が歪んでいるな。今じゃすっかりルルシーナへの恋慕も無くなってしまった。
そして今日もイソイソとラジェンタの『小料理屋ラジー』の店に通っている。
「あら?いらっしゃいませ」
ラジェンタの店は昨日開店したばかりだ。店内には……おいっカインダッハ=バラクーラ大尉、ラジェンタの兄の姿があった。
「おかしいな?ラジェンタの行方は知らないと言ってなかったか?」
「はて?そんなことをお伝えしましたか?」
この野郎…ツンと澄ました美形の男はラジェンタと同じく、俺と同い年の腐れ縁の幼馴染だ。
「カインお兄様の所に私の事を聞きに行ったの?」
俺がカウンター席に座ると、ラジェンタが野菜の含め煮を俺の前に置いた。俺はラジェンタが差し出した温布巾で手を拭くと、一つ席を空けて座っているカインダッハを横目で睨んだ。
「知らない…とかぬかしていたが、魔力が揺らいでいたのでバレバレ…」
カインダッハは少し目を見開いて俺を見た。
「揺らいでいたか…ソレはいかんな。鍛錬のし直しだ」
「魔力の揺らぎは走り込んでも鍛えられないよ?魔術を一定の間隔で連続して放出して、それを3日間続けてやったら揺らぎを出さないように出来るかもしれない」
「それをしている途中に死んでしまう、スワイト以外は無理だ」
フフ…カインダッハもここでは昔からの呼び名で呼んでくれるらしい。
「今日は何食べる~?」
「魚、ある?」
「あるよ~。まずは、はい!」
そう言ってラジェンタは甘辛く炊いた肉と芋ショウユ煮という珍しい食べ物を出してくれた。ラジェンタの作る料理は独創的だ。しかも独創的なうえに病みつきになる美味しさだ。
「明日、例の審議の日だな。ペスラ伯爵とリスベル公爵…来るのだろうか?」
カインダッハがそう聞いてきた、ラジェンタも少し顔を上げて俺を見た。少しは俺のことを気にしてくれているのかな…。
「出ざるを得ないよ。自分達で表舞台に出ることを選んでしまったんだからさ、自分達の娘がソレに晒されても毅然としていられるのかが見ものだけど」
「スワイトも大概、底意地悪いな…」
「リスベル公爵には負けるけど…」
カインダッハと果実酒の入ったカップを軽くぶつけて乾杯をした。その後、暫く酒を飲んで料理を摘まみ、閉店まで居座ってしまった。
「明日、審議があるんでしょう?早く帰らないと…」
料理も食べているし、酒も控えめにしていたのでそれほど酔ってはいないが、ラジェンタは心配げな顔をしていた。
ラジェンタは質素なワンピースドレスにエプロンをつけただけの服装だ。長く綺麗なプラチナブロンドの髪を一つに束ねて、化粧はほとんどしていない。
そう…以前のラジェンタはこんな感じの大人しい服装を好んでいたのを思い出した。
「なあ、いつからあんな派手な化粧をするようになったの?」
「派手な…あ、あれね。そうね、スワ君の女性の好みが『派手で色っぽい令嬢』だと噂で聞いてね、それを実践してあげていたの?なかなかの派手さ加減だったでしょう?」
そう言って悪戯っぽく笑って、柑橘の汁の入った水をコップに入れて俺に差し出した。受け取って飲みながら、首を捻る。
「どちらかと言えば好みの真逆だけど…」
「やっぱりそうなんだ!派手な令嬢が好み…この情報をそのまま鵜呑みにして信用してあげたの」
ラジェンタの言い回しに納得した。
「そうか、その情報をそのまま使って、情報に踊らされている令嬢として周りに見せてあげていたのか」
俺がそう言うとラジェンタは、うんうんと頷いて破顔している。そう…昔もこんな顔してよく笑っていたな。
「そうか…随分前から、俺から離れようとしていたんだな…」
俺がそう言うとラジェンタは、眉を下げて困った顔になった。
「今更だけど…スワ君が嫌だとか、そんなことはないのよ?私、このお店したくて…」
「聞いている…ラジーは異世界からの渡り人だってな。別に珍しくはないし、それは構わないんだけど…渡り人だって俺は知らなかったし、やっぱり俺ってラジーにしたらそんな程度の付き合いだったんだと…」
自分で言ってて落ち込んできてしまった。こんなに情けないからラジーにもフラれたのか。
あれ?俺フラれたんだよな?イヤ…俺が先にラジーを踏みにじったんだよな…
どのみち最低な男だ…
「明日で少し決着をつけるよ。そして…俺、ラジーのこと攫いに来れるような男になって戻って来る」
「って、まだ攫いに来るとか言ってるの?あれはものの例えでね~?」
ラジェンターがカウンターを回って俺の座っている椅子の隣に座った。何だか顔が近い…
「私、スワ君には幸せになって欲しいのよ。3才の時に初めて会ってからずっとずーっと見てきたんだからっ絶対に幸せになって欲しいの」
泣きそうになった…涙を見られないように顔を下げたけどラジェンタは気が付いていたのだろう。
「お休み」
ラジェンタはそう言って俺の頭を撫でた。急いで勘定のお金を置いて店を出た。
全速力で走って王城まで帰った。あまりに早く駆け込んだ為に門扉をあけようとしていた門番が俺に弾き飛ばされて、負傷していたのを知らなかった…
執務室に入るなり、頬張りながら今後の対策を練る。
ルルシーナに俺が接触したことと、文筆家を拘束したことはもう伯爵に伝わっているはずだ。このまま行くと、ルルシーナの純潔を散らしたとか何とかと言いがかりをつけて、ルルシーナを正妃に据えようと躍起になってくるはず…
先ずは、国王陛下とラジーの父のバラクーラ公爵にお会いして…
すぐに侍従に国王陛下とお会いしたいと申しつけて…ルルシーナから届いた手紙の束を取り出した。
文筆家…だからこそこれほどの文才の溢れた『物語』を手紙の中で書き、俺を引き付けることが出来るのか…そうか引き付けるか、ルルシーナもラノディアも表舞台に引きずり出せばいいのだ。
正妃と第二妃…貴族位の長老方はこの2人の存在を知ってさぞや反対するだろうな…フフフ…
「殿下、陛下がすぐに私室に来られるようにとのことに御座います」
侍従の言葉に、すぐに父上の部屋に出向いた。
部屋の中には国王陛下と国王妃(母)とバラクーラ公爵が居た。どういうことだ?
「おお、どうだった?ラジェンタと話が出来たか?」
父上はすでにご存じだったのか。バラクーラ公爵に会釈してから大人達の顔を見た。
「ご存じだったのですね?」
バラクーラ公爵は小さく頷いている。
「実は、リスベル公爵のラノディア嬢が…ノルトレイ侯爵の子息に妊娠させられたと言って…子息に付きまとっていて困っていると侯爵から相談を受けましてな」
「えぇ?」
思わす先程会ったラノディアの姿を思い出していた。
あんな露出の激しいドレスを着ていたのに妊婦なのか?腰も随分締め付けていたみたいだが…妊婦だと分かっていればもっと魔質を探ってやるんだった。妊娠しているか、魔質を視ればすぐ分かるし。
「勿論スイード=ノルトレイ子息には身に覚えの無いことだし、ご自身の婚約者の伯爵家のご令嬢が気に病んでしまい…色々と問題になっていた。そんな所へスワイト殿下とルルシーナ嬢のお話です」
今まで黙ってバラクーラ公爵の話を聞いていた母上が大きな溜め息と共に
「情けない…本当に情けない!」
と俺を見てそう言った…今度は父上が話し出した。父上は若干ニヤついている。
「バラクーラ公爵に聞き、そしてお前の文通相手がルルシーナ=ペスラ伯爵令嬢だと知って、調べたのだ。ペスラ家の令嬢は病弱でとても人前に出れる状態ではないと聞いている。調べると後ろにはリスベル公爵がいた。スワイトがいつ気が付くか…結構楽しみにしていたのに、残念だよ」
「…っ」
そう言えば父上に何度も聞かれていた。ルルシーナとの付き合いを今一度見詰め直せと…ただ単に付き合いを反対をしているのだとばかりと思っていたが、ちゃんと裏を取って調べろ…こういう意味だったのか。
「やっぱりラジェンタがいないとダメなのよ~」
母上が扇子で俺を指しながら、溜め息をついた。母上、本当にごもっともだ。俺は…情けない。
「しかし当の本人のラジェンタが店をやりたいと言うしなぁ~」
バラクーラ公爵は頭を掻いている。そう言えば…
「あの公爵…ラジーはこの一連の騒動は全て知っていたのでしょうか?」
俺がそう聞くと公爵は困ったような顔をしていた。
「ラジーが知っていたのは殿下がルルシーナ嬢に心変わりをした…そのことだけだと思いますよ」
頭を鈍器で殴られたようだ。俺との婚姻はルルシーナが出てきたら簡単に諦められる程度のものだったということか…ずっと小さい頃から一緒に居て…彼女の何もかもを分かっているつもりだった。
ラジェンタの何もかもを侮っていた、すべて俺のせいだ。
「時間はかかりますが、殿下もラジェンタもまだ若い。形はいくらでも変化しますよ?」
何の形とはバラクーラ公爵は名言しなかったが、俺は勝手な解釈で、愛の形だと思うことにした。
俺とラジェンタの愛の形…もしかしたら緩やかだと思っていた形が、途端に激しいものに変化することもあるかもしれない。
「いつかラジェンタと添えるように…私はもっともっと精進してまいりたいと思います。つきましては、正式に各お歴々の皆様を交えて…私が推挙したいと以前お伝えしていた、ルルシーナ=ペスラ伯爵令嬢と第二妃にとリスベル公爵より推挙を受けている、ラノディア=リスベル公爵令嬢が共に妃候補としてふさわしいかどうか、皆様による厳正な審議をお願いしたいと存じます」
俺がそう言うと、父上も母上もバラクーラ公爵までもがニヤリと笑った。悪人顔だ、魔質は濁ってないけれど。
「引っ張り出すのか?」
「病を患っているルルシーナ嬢には荷が重いとは思いますが、厳正なる審議の為です」
俺も父上にニヤリと笑い返した。精々足掻けよ?ペスラ伯爵とリスベル公爵。
直ぐに、ペスラ伯爵とリスベル公爵にご令嬢を俺の一存で妃には推挙出来ないので、審議の上判断したいと申し入れの親書を出すと両家から
『無理だ、娘は人前に出られない病だ。殿下が何とかして下さい』
これはペスラ伯爵。
『娘は人前で話すのは苦手である。ルルシーナ嬢の件を殿下が汲んでくれれば丸く収まる』
これはリスベル公爵。
どちらも馬鹿っぽい返事を返してきた。こんな馬鹿だったのか…と頭の冷えてきた俺は益々自分が恋に恋して浮かれていたことを痛感した。
少し考えればルルシーナの存在は辻褄のおかしい所ばかりだったのに、恋とは恐ろしいなぁ…
すぐに、国王陛下とバラクーラ公爵にご相談してから
『審議に出られないのなら、妃候補は無理だと国王陛下にご報告をする』
と返事を出したら渋々だとは思うが、双方とも出席しますとの返事が返ってきた。
さあ、茶番劇の始まりだ。どう出てくるのか期待している自分がいる。俺も大概性格が歪んでいるな。今じゃすっかりルルシーナへの恋慕も無くなってしまった。
そして今日もイソイソとラジェンタの『小料理屋ラジー』の店に通っている。
「あら?いらっしゃいませ」
ラジェンタの店は昨日開店したばかりだ。店内には……おいっカインダッハ=バラクーラ大尉、ラジェンタの兄の姿があった。
「おかしいな?ラジェンタの行方は知らないと言ってなかったか?」
「はて?そんなことをお伝えしましたか?」
この野郎…ツンと澄ました美形の男はラジェンタと同じく、俺と同い年の腐れ縁の幼馴染だ。
「カインお兄様の所に私の事を聞きに行ったの?」
俺がカウンター席に座ると、ラジェンタが野菜の含め煮を俺の前に置いた。俺はラジェンタが差し出した温布巾で手を拭くと、一つ席を空けて座っているカインダッハを横目で睨んだ。
「知らない…とかぬかしていたが、魔力が揺らいでいたのでバレバレ…」
カインダッハは少し目を見開いて俺を見た。
「揺らいでいたか…ソレはいかんな。鍛錬のし直しだ」
「魔力の揺らぎは走り込んでも鍛えられないよ?魔術を一定の間隔で連続して放出して、それを3日間続けてやったら揺らぎを出さないように出来るかもしれない」
「それをしている途中に死んでしまう、スワイト以外は無理だ」
フフ…カインダッハもここでは昔からの呼び名で呼んでくれるらしい。
「今日は何食べる~?」
「魚、ある?」
「あるよ~。まずは、はい!」
そう言ってラジェンタは甘辛く炊いた肉と芋ショウユ煮という珍しい食べ物を出してくれた。ラジェンタの作る料理は独創的だ。しかも独創的なうえに病みつきになる美味しさだ。
「明日、例の審議の日だな。ペスラ伯爵とリスベル公爵…来るのだろうか?」
カインダッハがそう聞いてきた、ラジェンタも少し顔を上げて俺を見た。少しは俺のことを気にしてくれているのかな…。
「出ざるを得ないよ。自分達で表舞台に出ることを選んでしまったんだからさ、自分達の娘がソレに晒されても毅然としていられるのかが見ものだけど」
「スワイトも大概、底意地悪いな…」
「リスベル公爵には負けるけど…」
カインダッハと果実酒の入ったカップを軽くぶつけて乾杯をした。その後、暫く酒を飲んで料理を摘まみ、閉店まで居座ってしまった。
「明日、審議があるんでしょう?早く帰らないと…」
料理も食べているし、酒も控えめにしていたのでそれほど酔ってはいないが、ラジェンタは心配げな顔をしていた。
ラジェンタは質素なワンピースドレスにエプロンをつけただけの服装だ。長く綺麗なプラチナブロンドの髪を一つに束ねて、化粧はほとんどしていない。
そう…以前のラジェンタはこんな感じの大人しい服装を好んでいたのを思い出した。
「なあ、いつからあんな派手な化粧をするようになったの?」
「派手な…あ、あれね。そうね、スワ君の女性の好みが『派手で色っぽい令嬢』だと噂で聞いてね、それを実践してあげていたの?なかなかの派手さ加減だったでしょう?」
そう言って悪戯っぽく笑って、柑橘の汁の入った水をコップに入れて俺に差し出した。受け取って飲みながら、首を捻る。
「どちらかと言えば好みの真逆だけど…」
「やっぱりそうなんだ!派手な令嬢が好み…この情報をそのまま鵜呑みにして信用してあげたの」
ラジェンタの言い回しに納得した。
「そうか、その情報をそのまま使って、情報に踊らされている令嬢として周りに見せてあげていたのか」
俺がそう言うとラジェンタは、うんうんと頷いて破顔している。そう…昔もこんな顔してよく笑っていたな。
「そうか…随分前から、俺から離れようとしていたんだな…」
俺がそう言うとラジェンタは、眉を下げて困った顔になった。
「今更だけど…スワ君が嫌だとか、そんなことはないのよ?私、このお店したくて…」
「聞いている…ラジーは異世界からの渡り人だってな。別に珍しくはないし、それは構わないんだけど…渡り人だって俺は知らなかったし、やっぱり俺ってラジーにしたらそんな程度の付き合いだったんだと…」
自分で言ってて落ち込んできてしまった。こんなに情けないからラジーにもフラれたのか。
あれ?俺フラれたんだよな?イヤ…俺が先にラジーを踏みにじったんだよな…
どのみち最低な男だ…
「明日で少し決着をつけるよ。そして…俺、ラジーのこと攫いに来れるような男になって戻って来る」
「って、まだ攫いに来るとか言ってるの?あれはものの例えでね~?」
ラジェンターがカウンターを回って俺の座っている椅子の隣に座った。何だか顔が近い…
「私、スワ君には幸せになって欲しいのよ。3才の時に初めて会ってからずっとずーっと見てきたんだからっ絶対に幸せになって欲しいの」
泣きそうになった…涙を見られないように顔を下げたけどラジェンタは気が付いていたのだろう。
「お休み」
ラジェンタはそう言って俺の頭を撫でた。急いで勘定のお金を置いて店を出た。
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