あの日咲かせた緋色の花は

棺ノア

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第3章

決別

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「あら~…あの男死んだのね」

まるで興味がない様子でそう言う香織に、芽愚は訝しげな顔を向けた。

「あいつ、好きなんじゃなかったの?」

「あんな中年オヤジ、誰が好きになるってのよ。ただの金づるよ。むこうは本気だったみたいだけどね」

その返事を聞き、芽愚は隠すことなく嫌悪感を表した。いくら気持ち悪い男だとはいえ、人の気持ちを平気で持て遊ぶ人間の心理は理解できなかった。

「迎えに来てあげたのよ。家族ごっこはもう十分でしょう?今日から本当の親である私と暮らすのよ」

「嫌に決まってるでしょ。どの面下げて会いに来たのかしら。私の家族は黒城組の皆よ」

「…あらそう。じゃ、無理矢理連れて帰るしかなさそうね」

ナイフを握りしめ、徐々にスピードを上げて芽愚に近づく。

「死なない程度に生かしてあげるわ」

そして鉄パイプを持つ右腕を切り落とすように思いきりナイフを振った…のだが、先程裕璃に首を斬られて貧血を起こしているのか、出会った直後のような覇気はなく、心なしかよろけているように見えた。芽愚が一歩横に移動するだけで簡単に避けられるほどの攻撃だったが、飽きもせず振り返っては同じように斬りかかってきた。

「メグ姉…!」

「あんたは見てな!これは私の問題だ!!」

腹部を抑え二人を見ていた裕璃は自分も参戦しようと近づいたが、芽愚にしては珍しくきつい言い方で怒鳴られ、肩をびくつかせると大人しく引き下がった。

芽愚は裕璃が近づかないことを確認すると、鉄パイプを香織の横腹めがけて薙ぎ払った。するとそれまで逃げに徹していた芽愚の思わぬ反撃に反応が遅れ、もろに攻撃を受けて倒れ床を滑っていった。

貧血に加え今の一撃で肋骨も折ったのか、息を乱して起き上がらない香織の上で馬乗りになると、腕を拘束した。

「…なんで今更引き取りに来たのよ。私に見向きもしなかったくせに」

無表情で尋ねる芽愚を見つめ、苦しげに顔を歪めながらも鼻で笑った。

「利益のために決まってるじゃない。あなた、何だかんだ一度も私の言う事に逆らったこと無いわよね?私のためなら動いてくれるでしょう?」

最後まで自分のことしか考えない女だ。娘に愛情を持ったことなど無かったのだ。初めから期待もしてはいなかったけれど。

「…そう」

一言だけ返事をし、抑えていた両腕を左手にまとめると、右拳を振るいフックをかました。弱った彼女はすぐに気絶した。

芽愚はトドメを刺そうと銃を取り出したが、少し思索するとホルスターに戻した。
手を伸ばし、香織の頬を包むように持って語りかける。

「母さんには感謝してるわ。だけど私はもう新しい生活を謳歌しているの。邪魔しないで頂戴。残念だったわね、道具にする予定だった娘に殺されるなんて」

「…さよなら、母さん」

そして頭頂と顎を挟むように持つと、思いきり回転させた。


ゴキッッッ


首の骨が折れた音と共に口から泡が溢れる。芽愚はその様子を無感情に眺めていた。





それから芽愚は黒城組の救護班に電話をかけ、移動した後裕璃を治療してもらった。
怪我をしてから時間があき心配したものの、幸いあまり傷が深くなく、出血量も深刻でなかったので数週間寝ていれば回復できるとのことだった。

この一件直後、律紀やライリーは芽愚の精神状態をすごく心配していたが、当の本人が「社会のゴミを始末しただけ」と言って飄々としているので軽く受け流すことにした。

芽愚は内心、少し罪悪感を感じていたのだが、あのまま裕璃に任せていたら最悪裕璃が死んでいたと考えると、やはりあの場で香織を殺すべきだったのだろうと思う。
出会って数年とはいえ、大切な妹である。

食料品店に行き、お見舞い用にフルーツと裕璃の好きなお菓子を買って病棟に向かう。

病室を開けると「あ、メグ姉」と明るい声が聞こえた。

「ユリ、調子はどう?」

「一応ちゃんと塞がってて、様子見ってとこかな。動けないのつまんなかったからメグ姉が来てくれてすごく嬉しい!」

「それは良かったわ。はい、コレ差し入れ」

「わぁあ…!ありがとう!!」

裕璃の満面の笑顔を見て、芽愚もにこりと微笑む。
病室の穏やかな空気につられるように、外では小鳥が元気よく鳴いていた。
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