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第六話 翡翠の間の終幕 〜悪夢ふたたび〜
しおりを挟むあれから一ヶ月後。
再び、距離をおいたはずのアランディルが、先触れをよこしてルクレ邸を訪れた。
心を落ち着けて話す必要があると感じたセリーヌは、家令に、客間は青藍の間に通すように伝えていた。
青藍の間は濃い青を基調として整えられており、冷静になれると判断したからだ。
アランディルの来訪を知るや否や、弟のリオネルも「姉様を一人で会わせるわけにはいかない」と、同席を申し出た。
「久しぶりだね、ルクレ伯爵令嬢」
「本日はいかがなされました? 何か手続きに不備でもございましたか?」
「いや、それは完璧だよ。僕のやることだからね、抜かりなんてあるはずがない」
なぜか得意気に身を乗り出すアランディルに、セリーヌは思わず苦笑しそうになったが、表情には出さず受け流した。
「今日はね、正式な婚約の申し込みに来たんだ。領地にいるルクレ伯爵には、王家より、改めて伝える手はずになっている」
「……!? 候補の座から外したのではありませんでしたの? まさか、改めてということですの?」
突然の言葉に意味を理解しきれず、セリーヌは感情を殺した声で返すのがやっとだった。
(悪夢ですわ。きっぱりとご本人が言い切ったのに、愚かすぎませんこと?)
「いや、君ではない。僕が望んでいるのは、君よりも素晴らしく心も清らかな、真に僕にふさわしいご令嬢だよ」
言われた瞬間、セリーヌもリオネルも言葉を失った。
リオネルに至っては、額に青筋が立ち、アランディルに射るような視線を向けている。
どこの令嬢のことなのか、わざわざ我が家に来てまで言うことなんだろうか? と、お互いに顔を見合わせた瞬間。
「この家には、もう一人ご令嬢がいるだろう」
アランディルの声が誇らしげに青藍の間に響いた。
「彼女こそ僕の運命。僕の女神」
だから何が言いたいんだ? と、セリーヌよりも侍女たちの方がモヤモヤしていた。
「セリーヌを待つ間、話し相手をしてくれた心優しき人」
侍女たちはアランディルを睨み臨戦態勢に入っている。
「あぁ、麗しのエルミージュ」
その言葉を聞いた瞬間、侍女はポットを落としかけ青ざめた。家令は天を仰いだ。
「僕たちが惹かれ合ってしまうのは、もはや自然の摂理だったんだ!」
アランディルは情熱を込めて一気に言い放った。
わざと芝居がかって語ることで、己の思いが強く伝わったと思っていたのは彼だけだった。
アランディルの芝居がかった告白に、心を打たれた者は一人もいなかった。
ルクレ家の使用人たちは動きを止め、固まった。
アランディルの護衛騎士に至っては、「この王子は正気か?」といった目でアランディルを見ている。
なかには、他人事とはいえ、恥ずかしさに耐えきれず、顔を手で覆ってしまう者さえいた。
セリーヌは眉間にシワを寄せ、リオネルは頭を抱えていた。
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