神隠しされた剣聖の申し子

てるいち

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第1章表 神隠し

大和国と山陽国

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 食事を済ませた俺とひいらぎは、食事処で隣に座って俺たちに話しかけてきた男の後を追う。男は軽い性格と表現すれば良いのだろうか。普通に店員に会釈しながら店を後にし、町の北側の方へ歩いていった。

「村を襲った連中の仲間ではなさそうだな」
「うん」
「人影は少し減ったな」

 もともとあまり多くは人間がいないのだろう。一番繁盛している道をそれれば、人影は途端に少なくなる。男を追うこと数分、男は裏道に入り込み、誰かと会話し始めた。俺たちは裏通りの人影のない場所で会話している風を装って聞き耳を立てた。

『何かあったか?』
『変な兄妹のような奴らがいてな。町の東から入ってきているから、方角は間違いないないはずなんや。猪を狩ったと言ってた』
『…それで?』
『もしかしたらあの二槍武人が殺されたかもしれんな』
『まさか…、あいつは外れとはいえ京で略奪をした野郎よ。小さな村一つじゃ防衛すらできねえはず…』
『だが、方角的にあの村近くに潜伏しているのは間違いないねえ。松本様の防衛の布陣を引いたおかげで松本領には直接の影響はなかった。あの村は松本様が問題ないと言っていたが、その通りになったのかもしれんな』

 なっていないな。かなりの被害が出た。死んだ人間は30を超える。それもほとんどが男だった。

『にわかには信じられんな』
『松本様も今回の件は協力的だったしな』
『仕方あるまいて。例の村は重要な拠点よ。封印が解かれれば大和国だけの問題ではないのだ。俺たち山陽国にも影響が出てしまう』

 どうやら西側の言葉を使っていたのは、本当に西側の人間で訳があったらしい。

「山陽国と大和国は戦争中のはずなのに」
「そうなのか?」
「うん。出雲でいつも戦ってる。ずっと決着がつかないんだよ」
「ふむ」

 長期間も戦争をすると次第に惰性な戦争になっていっていると見るべきか。推測の域を出ないな。戦争中の国同士で何でこうも簡単に武士が入ってこれるのか。

「武士が来ているってことは意外と戦争は終わっていたりしてな」
「なんで?」
「なんでって、武士は兵力だろ」
「ああ、そうか。仁がわからないのも無理ないね。大和と山陽が戦争しているのは事実だよ。ただ、今はもう神々と仙人だけで戦っているらしいんだ」
「神々と仙人?」
「そうだよ。最初の頃は総力戦だったんだけど次第に兵糧が足りなくなって、兵糧を必要としない神様と仙人の戦いになったんだ」
「へー」

 神と仙人の戦いか。こちらの世界の神の力は元いた世界の神々の伝承よりもかなり弱いと思われる。伝承なんてもりもりに盛った虚構話だから正しいかどうか知らないが、少なくとも神と呼ばれる部類が超人のような存在と引き分けること自体が、俺にはあまり馴染みがない。神というのは超次元的な存在だと思っていたが、そうでもないのかもしれないな。それとも仙人がアホみたいに強いのかもしれない。
 まだ男たちは会話していた。話はだいぶ変わっている。

『それでよう、その奴隷がえらい可愛い娘でな』
『いくらだったんだ?』
『大判10枚よ』
『たっけえなあ、そら財政赤字の松本様には臨時収益や』
『どこから攫った娘かの』
『どこやろうなあ、ここいらはあまり戦争しておらんはずだが』
『やべ、そろそろ時間や』
『おう、頑張れよ』

 男たちは別れ、それぞれが違う方向へ足を進める。

「どうするの?」
「もう追跡はいいだろう。今日は違うところを見てみよう」
「そうだね…」

 柊は意気消沈状態だ。松本領からは援軍というよりはあの村なら問題がないという変に信頼された結果、防衛部隊を派遣されなかったのかもしれない。性質をほぼすべての村人が解放している村というのは、柊たちや山賊や町の人から聞くにかなり珍しい。なら戦力を割かないのも無理はない。ただ、相手がかなりの手練れだったということが誤算だったのだろう。



 その後、マッピングのために町を回っていた。中央通りをそれて、厳重に隔離された場所に鳥居のようなもんがあり、柊からそれが界門だということを教えてもらった。露天で食べ歩いたりしながら町を散策し、夕刻には宿に戻った。

「気になるのか?」
「え?」

 宿の夕ご飯を食べながら、ふと柊を見るとたまに陰のある表情をするので聞いてみる。

「気にならないわけではないよ。村にいてもやることがないし、領主様にはたぶん
村長が対応してくれるだろうし、…ただ」
「…ただ?」
「何もできない自分が嫌になるの」
「そうか…、そういえば、稽古をつけていなかったな。湯に入る前に少し見てみるか」
「あ、うん。お願いします」

 その後、ご飯を食べる音だけが部屋に流れていた。
 宿から少し離れた位置に空き地のような場所があり、繁華街も静寂になり、盛っているのは遊郭だろう。日が沈み始めた時間帯からが開店らしい。視界が悪くなる時間に稽古というのはいささか間違っているだろうが、柊も乗り気だったので、ひとまず相手をしてみる。手元にあるのは真剣だけ、鞘に入れた状態で軽く打ち合うことにする。

「…なるほどな」

 柊には聞こえない音量で俺は呟く。
 神の加護というのが多少なりともわかってきた。おそらくは剣術の才能か何かだろう。槍使いや妖怪と戦った時も思ったが、刀を握った相手よりまるっきり戦い辛かった。加護による身体能力の差と技術の差でそのまま押し切ったが、刀を握った相手には負ける気が微塵も感じず、自分が高慢にも余裕を持て余して相手取ることができる。今も柊を前にして一切負ける気がしない。足運びの動きすら予見して避けることができる。この薄暗い時間にもかかわらず、俺は鞘をガードにも使わず、柊の攻撃を100回きっかり避け切った。

「はあ、はあ、はあ…」
「光の性質が切れたか」
「こんなに、差が、あるなんて…、うっ、はあ、はあ」

 これが神の加護か。恐ろしい力をもらったものだ。柊は弱くはない。だが、それでも体の動きに無駄があり、いろいろと足りない筋力もある。だが、それらをすべて伝えたところでパンクしてしまうだろう。本人の現状を踏まえて少しずつ成長して行くのに必要な手順を考える。

「柊に何が足りていないか、ある程度わかった。明日の早朝に狩りに行くが、それが終われば軽く技術の指南をしよう」
「あ、ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていい」
「でも、教わる、側だから」
「…柊が気にするなら稽古中は敬語ということにしておくか?」
「そうします」

 ようやく息を落ち着かせた柊が顔を拭う。
 斬られてはいけない。柊は明らかに実践不足だ。実践で、妖と戦った際に腰が引けているのは、必要分以上に回避に比重を割いていた。鎌鼬はかなりの実力をもっていたが、柊は回避に専念し続けていて、さらには符術を使って回避に補正を入れていた。あれでは長期戦になる上に、柊が1人で戦えば、その勝率は著しく低いだろう。
 だが、実践なんてものを経験することなんてほとんどないからな。どうするか。
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