神隠しされた剣聖の申し子

てるいち

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第1章裏 謀略

封山村

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 大和国の重要な拠点の1つに小さな村がある。名前は封山村ふうざんのむら。封山村は村という小さな集団にも関わらず、かなりの戦力を保有する村であった。過去に有名な武士が京から派遣され、村の強化を勤めたこともある。村という単位でありながら、大和国の重要拠点として扱われるのは、この村の近くにとても強力な魔神が封印されているからだった。
 そんな封山村に山賊が攻め込んだ事件は少しずつ世間に知れ渡っていった。普段であれば村の保有する戦力に敵わないと誰もが思っていた。しかし、村の戦力の最高位の男たちが狩猟をしている間に、しかもかつて山陽国に仕えていた強力な逆賊が相手ということで村は半壊した。
 事件が収束した翌日、

えのき、松本様への連絡をして欲しいのじゃ」
「俺が、ですか?」
「うむ、頼めるか?」

 朝から仁と柊が狩猟に行くということで見送った後、榎は村長に呼び出されていた。村の主力は今、村の惨状の片付けをしている。村に男手は足りないが、傷心状態が比較的浅い榎に、村長は領主への緊急の報告を頼むことにした。

「俺がいなくても大丈夫でしょうか?」
「男で1人よりも領主様への連絡の方が優先じゃ」
「…それもそうですね。承りました」

 まだ日が上がるかという時間帯に、榎は領主のいる松本に向かう準備を始める。松本までは早馬で3時間もあれば着き、行って帰ってくるまで6時間、正午には帰ってくる。榎はまだ日が完全に見えないうちに早馬を走らせ松本に向かった。
 榎の出発を見届けた村長は今度は村の主戦力の男に声をかける。

宗治そうじよ、倅の周三しゅうぞうも連れてきてくれんかの」
「…榎か、それともあの子についてかい?」
「両方じゃ」

 村の青年で榎とともに山賊と対峙した周三、そしてその父親の宗治が村長に呼び出される。まだやるべきことが残っているが、悩みの種を放っておくことはしない。あの子というのは自分の名を須之仁と名乗った青年のことである。
 宗治は息子の周三に声をかけ、昨晩と違って静寂な村長宅を訪れる。中に案内され、必要以上に辺りを村長が警戒する。

「爺さんが何を警戒しているかはわからねえな」
「…黙ってついてこい」

 戦闘のあった部屋まで行くと、まだ血生臭さが残っていた。さらに奥にある最奥の部屋まで着くとゆっくりと腰掛ける。村長は2人を座らせ、ゆっくりと口を開いた。

「まずは榎について話しておこう」
「あいつ、朝から姿が見えないな」
「松本様の元へ向かわせた」
「話が早いな」
「此度の報告と兼ねて、できればではあるが、幾年かの徴兵を取りやめてもらえるように軽く交渉してくれとは言っておいた」
「そうか」

 宗治は顎に手を置いて考える。

「榎は…、人払い…か」
「…」
「…そうか、信用ならんか」
「須之仁殿は異様である」
「ああ、それは俺にもわかる」

 宗治はすぐにでも反発しそうな周三を手で制する。周三を睨みつけ、少し黙っていろと目で合図する。

「爺さん考えすぎなんじゃないのか?あの子は俺たちの恩人だろう?」
「それはわかっておる。わかっておるのじゃ、恩人に対し無礼を働くことになるやもしれん。じゃが、この封山村を任されたのは儂じゃ。この村の危険性に対し、なぜ異様な者が現れる?何かの前兆ではなかろうか?…儂は封山村の長として、最大限に警戒しなければならぬのじゃよ。それにそろそろ、封印の強化を取り計らう儀式もある」
「儀式のことについて、俺も結構な歳を食ったが何も聞かされてねえ。それを俺だけじゃなくて周三にも聞かせるのか?」
「儂は周三を信頼しておるからのう」

 周三は宗治の三男である。長男が京に勉学を学びに、次男は徴兵され、三男の周三は村の守備隊に着くことが決まっていた。長にはなれないが、長の右腕のような存在になるように育てられてきた青年である。
 村長の言葉に宗治はため息をひとつだけ吐いた。

「…俺が知っていることは少ない。数年前に儀式を執り行う予定が崩れたとか、それでいろいろ京の方も忙しかったとか。寛二郎かんじろうが帰省してきたときにそんな話を聞いた。といってもあいつも又聞きらしいが」
「それ、俺も覚えてる」

 兄の話に耳を傾けていた周三はそのときの出来事を思い出した。

「そうか、ならば説明しておく。封印強化の儀式は通称憐業れんぎょうの儀と呼ばれる。それは、巫女を生贄として封印を強化する手法じゃ」
「生贄!?」
「そうじゃ、数年前。いや、今から10年くらい前じゃよ。儀式の生贄になるはずの巫女が攫われたのじゃ」

 2人は息を飲んだ。

「それから大慌てで捜索が行われたが、ついに見つかることはなく、新たな巫女を探す必要になった。その失敗から此度の巫女は聖女として扱い、公然にして顔を認知されるようにするとのことじゃ」
「攫ったのは内部犯って可能性か?」
「そうじゃのう、詳しいことは聞いてはおらんが、内部犯である可能性は高いそうじゃ。松本様がそんなことをおっしゃっていた」
「なるほどな。巫女がいるのにまだ儀式を執行わないのは、ここいらに出没した二槍武人にそうぶじんのせいか」
「それもある。万が一にも失敗は避けたいのじゃろう。出雲の戦争も激化している中、神々の護衛は少ないはずじゃ」
「それであの子、仁くんが気になると」
「そうじゃ」

 儀式の失敗は魔神の復活を意味する。そうすれば、被害は甚大ではない。過去の記録からかなりの戦死者を出してようやく封印にこじつけた魔神。封山村はおろか松本領、信濃地方は確実に滅びる。村民の命を預かる者として儀式の失敗だけは避けなければならなかった。

「須之仁殿は出で立ちも奇想天外。陸奥国の関係者とも考えられるが、可能性は低いじゃろう。もちろん武蔵国の者とも考えられん」
「外国の人間に見えると?」
「おそらく一番近い感覚がそれじゃろう」
「言葉ぺらぺらだぞ」
「そうじゃ、本当に異様と表現するしかないのじゃ。できるだけ不確定なものは儂としては排除しておきたい」
「だが、仁くんは明日にでもこの地を出るのだろう?」
「うむ、まあそうなんじゃが…」

 村長は言葉を濁し、次の言葉選びに迷う。

「俺は仁を信用したい」
「気持ちはわかる。俺も仁くんを信じたいとは思っているが、万が一を考えなければならない村長の立場はどう考える?」
「それは…」
「わかるよな。俺だって爺さんだって信じたいんだ。だが、事が事なだけに仁くんを信用することはできないんだ。たとえ命の恩人であっても」
「…」
「それを仁くんも理解しているはずだ。旅だとは言っていたが、これほど早く出発する必要もないはず、俺たちの雰囲気を感じ取ったのかもしれん」
「つまり、意向が変わって村に留まると言った場合のことも考えていると」
「そういうことだ。考えすぎだとは思うが、万が一にも意向が変わる可能性だってある。そのときは辛く当たる必要になる」
「わかった。榎にはできないことだな。そのときは俺がやるよ」
「必要ないとは思うが、そのときは頼む。村も忙しい、終わりでいいか?」

 宗治は村長に問いかける。村長は宗治には少し残って欲しいと言う。周三は立ち上がって、忙しい村の後片付けへと向かった。

「少しだけってことではないのだろう?」
「うむ、もうひとつの万が一というやつじゃよ」
「彼が陸奥国の人間だった場合か」
「うむ」

 魔神の封印は絶対に継続させなければならない。それは各国が同意する事柄ではあるが、一国だけ例外がある。
 それが陸奥国だ。
 今の情勢であっても各国が封印については協力体制を敷く。大和国と戦時中の山陽国の人間ですら、この松本の地まで足を踏み入れ、封印に協力する姿勢を陰ながら見せている。武蔵もまた協力的であり、しかし一方で陸奥国だけが非協力的であった。
 陸奥国は畏れの信仰もあり、魔神も信仰対象である。積極的に封印の解除をしようとはしないが、封印強化の協力もしなかった国だ。信用ができない。それに信濃地方は陸奥国と接している。封印解除の意向があれば、刺客を簡単に送り込める位置にある。

「俺たちに取り入るために俺たちのことを助けた…、か?」
「儂はどんな可能性も考慮に入れなければならん」
「仁くんが敵だった場合か…」
「やれるか?」
「うーん…」

 宗治は考え込む。ほとんど戦闘は見ていないが、聞くところによると速度はあり、あの二槍武人を下す程だ。仁の戦闘力はかなりのものである。

「ま、俺1人で十分だろう?」
「うむ」

 宗治はなんでもないように告げた。
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